episode117 ハインゼルでの決着

 リメット、マイア、アーチェの三人は横に並んで軍の女と対峙する。


「三人ならどうにかなると思っているのかい?」

「……さあな」

「でも、三人の方が……」

「可能性はあります!」


 三人は息の合ったセリフを言うと、一斉に武器を構えた。


「そうかい。それじゃあ試してみることにしてみようかねぇ!」


 そして、軍の女は大剣を振り上げて攻撃を仕掛けて来た。


「マイア、アーチェ!」

「はい!」

「うん!」


 マイアとアーチェは左右に別れてリメットを支援する準備をする。


「おらよ!」

「はっ……」


 リメットは大剣に魔力を込めて振り下ろされた大剣を受け止める。


「ぐっ……」


 だが、体に負担が掛かって傷口に巻かれた包帯に血が滲む。


「そんな体で戦えるのかい?」

「戦えるかじゃない。戦うんだよ!」


 そう言って力強く押し込んで軍の女を弾き飛ばす。


「そっちも動きが鈍っているのではないか?」

「…………」


 リメット達だけでなく、軍の女もダメージを受けて動きが鈍っていた。


「確かに、そうかもしれないが、その程度であたしに勝てると思っているのかい?」

「当然だ!」


 リメットはそう声を上げると、素早く接近して斬り掛かる。


「私も行きます!」

「あたしも行くよ!」


 それと同時にマイアとアーチェも駆け出す。


「えいっ!」

「せいっ!」


 そして、軍の女を挟むようにして攻撃を仕掛けた。


「雑魚は黙ってな!」


 それに対して、軍の女は大剣を引いて迎撃の構えを取った。


「アーチェ!」

「分かってるよ!」


 二人はその攻撃範囲に入らないようにブレーキを掛けて止まり、そこから短剣を投擲する。


「飛ばす斬撃に気を付けろ!」


 ここでリメットが二人に注意を飛ばす。

 軍の女の斬撃は直接は届かないが、彼女は魔力の斬撃を飛ばすこともできる。

 なので、今の二人の位置でも安全とは言えない。


「おらよ!」


 軍の女はその場で一回転して回転斬りを放って、投擲された短剣を弾き飛ばした。

 それと同時に魔力の斬撃を飛ばして、三人を攻撃する。


「おっと……」

「よっと……」

「当たるかよ!」


 それをマイアとアーチェは後方に、リメットは勢いのまま上に跳んで躱す。

 そして、リメットはそのまま落下しながら大剣に魔力を込めて攻撃態勢に入った。


「まだ終わりじゃないよ!」


 だが、軍の女もそれだけでは終わらない。リメットの方を向いて回転斬りを放った勢いのままに大剣を振って斬撃を飛ばす。


「それは読めてるぜ!」


 リメットは後方に勢い良く足を振り上げて前方に一回転してそれを躱す。


「っせえぇぇーーい!」


 そして、そのまま回転の勢いも加えた斬撃を放った。


「遅いな!」


 軍の女は今度は攻撃を受けずに後方に跳んで躱して、それと同時に大剣を後方に引いて次の攻撃の準備をした。

 そして、空を切ったリメットの一撃が石畳を砕く。


「はあぁっ!」


 軍の女はそのままリメットに向けて魔力の斬撃を飛ばす。


「っ!」


 リメットはそれを伏せるようにして躱す。

 そして、すぐに立ち上がって大剣を構え直した。


「…………」

「…………」


 互いに距離を取って仕切り直しとなる。


「中々倒せそうに無いね」

「そうだな」


 少々動きが鈍っているとは言え、軍の女の方が実力が高いのと、リメット達も動きが鈍っているのでそう簡単に倒せそうに無い。


「ここからどうする?」

「向こうの出方を窺うぞ」


 リメット達の目的は時間稼ぎなので、膠着状態になるのは都合が良い。

 なので、基本的には向こうが動くのを待って動くことにする。


「分かりました」

「分かったよ」


 そして、マイアとアーチェは拾った兵士の剣を構えた。


「……そっちから動く気は無いみたいだねぇ」

「…………」


 それに対いてリメット達は無言のままだ。


「それじゃあこんなのはどうだい?」


 軍の女はそう言って外方そっぽを向くと、戦闘している一団を見据えた。

 そして、大剣を引いて攻撃態勢に移ると、そこに向かって跳んだ。


「っ! お前達、避けろ!」


 リメットは叫ぶようにそう言うと素早くそこに接近した。

 そして、軍の女の一撃を大剣で受け止める。


「ぐっ……」


 だが、その攻撃を受け止めきれずに吹き飛ばされてしまった。


 そう、軍の女の狙いはリメット達では無く他のレジスタンスのメンバーだ。

 彼女はリメット達の目的が時間稼ぎであることに気が付いて、方針を変えることにしたのだ。


「お前達、下がれ!」


 リメットは体勢を立て直しながらレジスタンス達に下がるように指示する。


「仲間思いだねぇ。まあこっちとしては都合が良いけど」


 軍の女はそう言って他のレジスタンスのメンバーを狙って攻撃を仕掛ける。


「くっ……」


 リメットは素早く回り込んでその攻撃を受ける。


「どこまで耐えられるか見物だね!」

「がっ……」


 リメットは他のレジスタンスのメンバーを狙った攻撃を素早く回り込んで受ける。

 だが、全ての攻撃を大剣で受けることができずに身体を何度も斬り裂かれる。


「リメット!」

「雑魚は黙ってな!」

「うわっ!」


 マイアが軍の女に攻撃を仕掛けるが、あっさりと斬り払われてしまう。


「おらよ!」


 そして、魔力を込めた強力な一撃が放たれた。


「があっ……」


 リメットはレジスタンスのメンバー庇ってその身で攻撃を受けた。

 その身体を深く斬られて仰向けに倒れ込む。


「もう終わりみたいだねぇ」


 軍の女は倒れ込んでいるリメットにゆっくりと歩み寄る。


「ぐ……」


 リメットはすぐに起き上がろうとするが、うまく体が動かない。


「リメット!」


 そこにアーチェが立ちはだかる。


「雑魚は引っ込んでな!」

「うぐっ……」


 軍の女はそれを軽く斬り捨てる。


「アーチェ!」

「う……」


 倒れ込んだアーチェは瀕死ではあるが、まだ息はあるようだった。


「さて、これで……」


 そして、軍の女は改めてリメットの方へと向かう。


「させないよ……!」


 だが、アーチェは左腕で軍の女の足にしがみ付いて、それを阻止しようとする。


「……雑魚のくせにしぶといねぇ」


 邪魔をされた軍の女はため息をつきながら大剣を振り下ろして、アーチェの左腕を斬り落とす。


「があああぁぁぁーーっ!」

「そんなに殺されたいのなら、お望み通りあんたから殺してやるよ!」


 そして、アーチェの方を向いて大剣を振り上げた。


「止めろ!」


 だが、後方からのその一言でその手は止まった。

 そのままゆっくりと声がした方を振り向く。


「はあ……はあ…………」


 リメットは傷だらけの身体に鞭打って立ち上がる。

 そう、その一言を放ったのはリメットだった。


「随分と頑張るねぇ。足元もおぼついていないじゃないか」


 だが、リメットは立ち上がるのがやっとで、大剣を支えにして立ち上がっている状態だ。これ以上戦うことはできない。


「リメット、あたし達のことはもう良いから逃げて!」

「……いや、そうはいかない」


 アーチェが逃げるよう言うが、リメットはそれを拒否する。


「……行くぞ」


 そして、軍の女を見据えながら大剣を構える。


「おや、まだやる気かい? まあ良いや。相手してやるよ!」


 軍の女も大剣を構える。


「っああぁぁーー!」


 互いに大剣を構えたところでリメットは軍の女に斬り掛かる。

 だが、その攻撃はあまりにも弱々しすぎた。大剣を持ち上げるのでやっとなので、ほとんど力が入っていない。


「……話にならないねぇ」


 振り下ろした大剣はあっさりと受け止められて、そのまま弾き飛ばされてしまった。


「っ……」


 そして、リメットは力尽きてその場に倒れ込んだ。


「リメット!」

「リメット……」

「…………」


 マイアとアーチェが声を掛けるが、リメットからの返事は無い。


「雑魚共を見捨てていれば良かったのにねぇ。全く……馬鹿な奴だよ」


 そして、軍の女はリメットにとどめを刺そうと、大剣を振り上げた。


「リメット! ……ぐっ……」


 アーチェはそれを止めようとするが、両腕が無いので立ち上がることすらできない。


「リメット!」


 マイアも動こうとするが、間に合わない。


「……あまり干渉するなとは言われているが、流石に動かせてもらうぞ」

「っ!?」


 だが、ここで上空から何者かが落ちて来て、その攻撃を受け止めた。


 攻撃を受け止めたのは黒いドラゴンだった。その身長は三メートル以上あるが、ドラゴンの基準で言うと小型に分類される大きさだ。

 そう、彼はリュードランだ。彼は念のために決戦に備えて連れて来られていて、上空で待機していたのだ。


「えっ!? ドラゴン!?」

「何でこんなところに!?」


 突然ドラゴンが現れてマイアとアーチェは驚き声を上げる。


「ほう? ドラゴンだと? しかも、話せるほどの知能があるのか」

「まあな。時間に余裕が無さそうなのでな。悪いがすぐに終わらせてもらう」


 リュードランはそう言って軍の女を弾き飛ばす。

 リュードランが使っている武器は大剣だ。身長が三メートル以上あるので彼の基準で言えば剣なのだが、人間の基準で言うと大剣と言って良い大きさだ。


「行くぞ」


 そして、リュードランは剣に光属性の魔力を込めて剣を振り下ろす。


「っ!? 速い!?」


 だが、その攻撃速度が非常に速く、その速度は想像を遥かに超えていた。軍の女は咄嗟に大剣でそれを受ける。


「が……っ……」


 しかし、それでは攻撃を受けきることができずに、軍の女は大剣ごと真っ二つに斬り裂かれた。

 さらに、その斬撃によって魔力の斬撃が飛ばされて、その先にあった城も斬り裂いて真っ二つにした。


「……こんなものか」


 軍の女はリメット達にとっては強敵だったが、リュードランにとってはそうでは無かった。


「……まだ生きているようだな」


 軍の女を片付けたリュードランはリメットの様子を確認して、まだ生きていることを確認する。


「えっと……あなたは?」

「エリサの連れだ」


 マイアの質問にリュードランはただ一言そう答える。


「三人とも治療してやろう。とりあえず、こちらに来てくれ」


 そして、リュードランが手をかざすと、そこの空間が裂けて、空間魔法で作った別次元の空間への入口が現れた。


「この三人の中で動けるのはお前だけのようだな」


 リメットは意識が無く、アーチェは両腕を斬り落とされているので、三人の中でまともに動けるのはマイアだけだ。


「そうですね」

「なら、腕を持って入ってくれるか?」


 もちろん、腕というのはアーチェの斬り落とされた両腕のことだ。


「分かりました」


 マイアは指示通りにアーチェの斬り落とされた両腕を拾い上げる。


「では、こちらに来てくれ」


 リュードランはリメットとアーチェを担ぎ上げると、そのまま別次元の空間に入って行った。


「……信用して任せるしか無さそうですね」


 自分達ではこれ以上の治療はできないので、治療は彼に一任することにした。

 そして、マイアもそれに続いて別次元の空間に入った。






 城内の残った敵をアーミラに任せた俺達はレジスタンス達に合流しに外に向かった。


「敵は大分片付いているようだな」

「だね」


 状況を確認してみると、大分敵は片付いていて、レジスタンスがかなり優位な状況だった。


「リメット達の姿が見当たらないな」


 しかし、メインの戦力であるリメット、マイア、アーチェの三人の姿が見当たらなかった。


「少し良いか?」


 ひとまず、三人のことをレジスタンスのメンバーに聞いてみることにする。


「何でしょうか?」

「リメット達はどうした?」

「リーダー達は黒いドラゴンに連れられて、空間の裂け目のようなところに入って行きました」

「そうか」


 どうやら、リュードランが三人を連れて行ったらしい。


「三人に何かあったのか?」

「かなりの大怪我をして、治療すると言って連れて行かれました」

「なるほどな」


 それで治療のために連れて行ったのか。


「それで、どうするの?」


 シオンがこの後の方針を聞いて来る。


「三人の様子を見に行きたいところだが、俺達ではその空間に入れないからな……」


 三人の様子を見に行きたいのはやまやまだが、俺達ではその空間を探り出すことができない。


「それなら、私が探してあげるわ」

「……む?」


 声がした方を見てみると、そこにはエリサがいた。

 どうやら、話をしている間にここに来ていたようだ。


「そうか。ならば、頼めるか?」

「ええ。少し待ってくれるかしら?」

「ああ」


 そして、エリサは魔力領域を展開してその場所を探り始める。


「……あったわ」


 その空間の入口がある場所はすぐに見付かった。

 早速、その場所に行って手をかざすと空間が裂けて入口が現れた。


「それじゃあ入りましょうか」

「ああ」

「だね」


 そして、エリサと共にその空間に入った。






 その空間に入ってみると、リュードランが三人の治療をしているところだった。


「エリュさんにシオンさん、エリサさんですか」


 俺達が入って来たことに気付いたマイアが手で胸を隠しながらこちらを振り向く。

 彼女は治療のためか服は脱がされていて、ショーツ一枚だけの状態だった。他の二人も同様だ。


「こちらに来ているということは、そちらは片付いたのですか?」

「ああ」

「ええ、そうよ」


 まだ城内には敵が残っているが、アーミラに任せておけば大丈夫だろうしな。こちらは問題無い。


「……かなり危険な状態のようだな」


 三人の様子を確認してみると、三人とも怪我の状態が酷く、特にリメットとアーチェはかなり危険な状態だった。


「ああ。エリサも手伝ってくれるか?」

「分かったわ」


 そして、エリサも治療に加わる。


「俺も加わろうか?」

「いえ、エリュは良いわ。三人とも女性だしね」

「……それもそうか」


 まあ三人とも今身に着けているのはショーツ一枚だけで、あまり見られたくは無いだろうからな。ここは他の者に任せることにする。

 リュードランは良いのかと思うが、彼は治療には欠かせないので仕方が無いだろう。


 まあそもそもの話をすると、彼はドラゴンだからな。性別はオスらしいが、人間ではないのであまり気にする必要は無いだろう。


「それで、俺達は何をすれば良いんだ?」

「あなた達にはアーミラと一緒に逃げたザードを片付けてもらうわ」

「ザードを?」


 確か、ザードは王の側近の人物だったな。

 ひとまず、その詳細を聞いてみる。


「ええ。襲撃直後に飛空船に乗って逃げたみたいだから、片付けておいて欲しいのよ」


 どうやら、彼は襲撃直後に逃げてしまったらしい。

 言われてみれば、城で殺した重要人物達の中にザードはいなかったな。


「分かった。シオン、行くぞ」

「うん」


 そして、三人の治療をリュードランとエリサに任せて、俺達はアーミラと合流しに向かった。

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