episode116 レジスタンスの奮闘
「さて、始めようか?」
「……ああ」
軍の女とリメットはそれぞれ相手に向けて大剣を構える。
「大丈夫ですか!?」
「リメット、大丈夫!?」
ここでその様子を見ていたマイアとアーチェが駆け寄って来る。
「ここはあたしに任せろ! お前達は邪魔が入らないように他の奴らを相手していてくれ」
「分かりました」
「分かったよ」
そして、二人は指示を受けてすぐに動く。
「随分と信頼が厚いみたいだねぇ」
「……まあな」
「まああたしには関係無いけどね!」
大剣を持った女はそう言ってリメットに向かって跳び掛かる。
そして、大剣に闇属性の魔力を込めて大きく振り上げた。
(これは受けない方が良さそうだな)
かなり高威力なことが予想されるので、下手に受けない方が良いだろう。
そう思ったリメットはバックステップでその攻撃を躱した。
すると、軍の女の一撃は空を切って地面を叩いて、リメットが先程までいた場所の石畳が割れて浮き上がった。
(やはり、受けなくて正解だったな)
この威力の攻撃を受けるのは危険なので、リメットの判断は正しかったと言える。
「ほら、行くぞ!」
だが、軍の女の攻撃はまだ終わりではない。彼女はリメットに向けて浮き上がった石畳を大剣の側面で打って飛ばした。
「くっ……」
リメットは大剣でその破片を防ぐ。
「ほらよ!」
「っ!」
見ると、軍の女が目の前にまで迫っていた。
そう、彼女は破片を飛ばすと同時に素早くリメットに接近していたのだ。軍の女は大剣を引いて既に攻撃態勢に入っている。
(……仕方無いか)
あまり攻撃を受けたくはないが、仕方が無いので攻撃を受け止めることにした。
すぐに大剣に魔力を込めて攻撃を受ける態勢を取る。
「甘いな!」
だが、軍の女は大剣では攻撃せずに空いた左手でリメットの顔面を殴り付けた。
彼女は右手だけで大剣を持っているので、左手が空いている。
なので、大剣で攻撃すると見せ掛けてそちらに注意を向けて、左手で攻撃したのだ。
「ぐっ……!?」
その一撃でリメットは態勢を崩して、後方に倒れ掛かる。
「喰らいな!」
そして、そこに大剣での薙ぎ払いが放たれる。
「ぐわっ……」
リメットは態勢を崩していたが、その攻撃を何とか大剣で受けて防いだ。
だが、踏ん張りが効かずに吹き飛ばされてしまう。
「まだまだ行くよ!」
さらに、軍の女は高く跳んで追撃を仕掛けて来る。
(……まずいな)
吹き飛ばされて態勢が整っていないので、このままだと攻撃を受けきることはできない。
着地と同時に素早く態勢を整えられればギリギリ間に合うが、それは少々厳しそうだった。
「……これを使うか」
ここでリメットは軍の女に向かってある物を投げる。
「はっ! そんな物は……っ!?」
すると、そこから強い光が放たれて、軍の女の目を眩ませた。リメットはその隙に距離を取って体勢を立て直す。
そう、リメットが投げたのは閃光手榴弾だった。軍の女は初めて見た道具だったので、それに対応することができなかった。
「全く……面倒なことをしてくれるね」
軍の女も着地したところで大剣を構え直す。
「面倒で悪かったな!」
リメットはそう言って前方に三個の手榴弾を投げて、それと同時に勢い良く駆け出す。
「……ちょっと離れた方が良さそうだねぇ」
軍の女は未知の道具である手榴弾を警戒して距離を取る。
すると、その直後に手榴弾は爆発して砂埃を発生させた。
「さっきのは光魔法の術式だったけど、こっちは火魔法の術式かい?」
軍の女は手榴弾という道具の効果についておおよその見当は付いていた。
この大きさの物なので大した術式は組み込めない上に、使い切りの物なので簡単な術式で組まれていることは分かる。
そのことから、それぞれ光魔法の術式で光を放つだけの道具と火魔法の術式で爆発を起こすだけの道具であると見ていた。
(まああまり警戒する必要は無さそうだねぇ)
そして、その上でこの道具はあまり脅威にはならないという結論を出した。
「さて、次はどう来るのかな? ……っ!」
軍の女はリメットの次の動きを警戒しようとしたそのとき、砂埃の中から短剣が飛んで来た。
彼女は左足を引いて身体を横に向けることでそれを躱す。
もちろん、これはリメットが投げた物だ。彼女はエリサに訓練を受けた際に小回りがきくとアドバイスを受けて、メインの武器である大剣以外にも短剣を何本か持っている。
「行くぜ!」
そして、高く跳んだリメットは上から攻撃を仕掛けた。
「ほう? 受けて立とうじゃないか!」
軍の女は回避するという選択肢もあったが、ここは敢えて受けて立つことにした。
魔力を込めて両手で大剣を引いて攻撃の構えを取る。
「っっせえぇぇーーい!」
「はああぁぁーーっ!」
そして、それぞれの斬撃がぶつかり合った。
「うあっ……!」
しかし、リメットは競り負けて吹き飛ばされてしまった。上からの斬り下ろしなので勢いはあったが、それでも軍の女の一撃を上回ることはできなかった。
「うぐっ!」
「ぐあっ!?」
そして、吹き飛ばされたリメットはちょうど指揮をしている男のいるところに落下した。
「まだまだ行くよ!」
「っ!」
リメットは後方に跳んで追撃を躱す。
「ぐああぁぁーーー!」
すると、軍の女の攻撃は隣にいた指揮をしていた男に当たって、男は真っ二つに斬り裂かれた。
「……味方を巻き込んでいるぞ?」
軍の女は味方のことを気にせずに攻撃したので、味方を巻き込んでいた。
「しかも、こいつはそれなりの地位の奴なのだろう? 良かったのか?」
さらに、この男は軍の中でもそれなりに地位が高い者なので、このことが知られればただでは済まないはずだ。
「こいつか? こんな雑魚は要らないだろ」
軍の女はそう言って男の死体の上半分を蹴飛ばす。
「まあ勇敢に戦って戦死したってことにしておいてやるよ」
そして、男の死体の下半分を蹴飛ばしながら大剣を構えた。
「…………」
「…………」
リメットも大剣を構えて互いに睨み合って対峙する。
「行くぞ!」
「おらよ!」
そして、大剣での斬り合いが始まった。
「せえいっ!」
リメットは距離を保ちながら斬撃を放って隙を窺う。
「遅いね!」
だが、軍の女はそれに簡単に対応していて、中々隙が見当たらない。
「そっちから来ないのなら、こっちから行くよ!」
ここで軍の女が反撃と言わんばかりに仕掛ける。
「くっ……」
それに対して、リメットは下がりながら距離を取って対応するが、防戦一方だ。このままだと一方的な展開になる。
(何とか良い方法は……あれはどうだ?)
攻撃をいなしながら周囲の状況を探ると、後方に戦闘中の集団がいることに気が付いた。
そのまま後方に跳んでその集団の中に突っ込む。
「おわっ!?」
「何だ何だ!?」
兵士達は突然割り込んで来たリメットに驚いて戸惑いを見せる。
「お前達、下がれ」
ここでリメットはそこで戦っていたレジスタンス達に指示を出す。
「分かりました」
レジスタンス達はその指示を受けて、すぐにその場から退いた。
「逃げたって何にも変わらないよ!」
その直後、軍の女が攻撃しながらそこに飛び込んで来た。
「ぎゃぁぁーー!」
「ぐああぁぁーーっ!」
その攻撃に兵士が巻き込まれて斬り裂かれる。
「さあ、行くよ!」
そして、軍の女は兵士のことを一切気に留めること無く大剣を振り回す。
「ぐはっ……」
「ぐわーー!」
その攻撃に兵士達が次々と巻き込まれて倒れていく。
「場所を変えたって意味は無いよ!」
「それはどうかな?」
ここでリメットは閃光手榴弾を足元に落として起動する。
「同じ手は喰らわないよ!」
そして、そこから強い光が放たれるが、軍の女は左手を閃光手榴弾にかざすようにしてそれを防いだ。
「何だこの光は……ぐわーー!」
「うわぁーーっ! 目があぁぁーー!」
だが、周囲にいた兵士達はそうでは無かった。光を直視してしまった兵士達は目が眩んで混乱する。
「おらよ!」
「ぐわっ!」
リメットは混乱している兵士を軍の女に向けて次々と蹴飛ばしていく。
「それがどうした!」
それに対して、軍の女はそれを次々と斬り捨てていく。
「それで兵士の数を減らす魂胆かい?」
「さあな」
「まあこんな
だが、そのとき斬り捨てられた死体が突然爆発した。
魔力強化で全身を強化しているのでこの程度の爆発ではほとんどダメージは入っていないが、想定外の出来事に動揺してしまう。
そう、リメットは兵士を蹴飛ばす際に手榴弾を貼り付けていたのだ。
実はこの手榴弾は粘着爆弾としても使える特殊な構造になっている。
外側の殻の内側には粘着質の表面があり、ボタンを押すと外側の殻が外れて粘着爆弾として使えるようになるのだ。
「っっせえぇぇーーい!」
そして、リメットは動揺した隙を狙って渾身の一撃を叩き込んだ。
「がはっ!?」
攻撃が当たる直前に後方に跳ばれてしまったので直撃とまでは行かなかったが、腹のあたりを斬って大きなダメージを与えた。
攻撃を受けた軍の女はそのまま吹き飛ばされる。
「一気に行くぜ!」
当然、このチャンスを逃したりはしない。リメットはすぐにそこに接近して追撃を仕掛ける。
「させるか!」
だが、それを阻止しようと兵士達が立ちはだかった。
「
リメットはそれを魔力を込めた斬撃で一文字に敵を斬り裂いて道を切り開く。
さらに、これ以上邪魔されないように手榴弾と閃光手榴弾を二、三個ほど周囲に投げる。
「さっきの爆弾だ! 離れろ!」
それを見た兵士達は手榴弾から距離を取って離れた。
「これでもう邪魔者はいないな」
そして、軍の女に向かって高く跳んで攻撃態勢に入った。
「そこだよ!」
だが、軍の女はリメットが大剣を振り上げたタイミングに合わせて闇魔法を放った。
「ぐっ……」
その魔法は大した威力では無かったのであまりダメージは無かったが、態勢を崩されてしまった。
「おらよ!」
さらに、軍の女は大剣に闇属性の魔力を込めて斬撃を飛ばす。
「があっ……」
態勢を崩していたリメットはそれを防ぐことができずに直撃してしまった。
攻撃を受けて上に吹き飛ばされる。
「まだ行くよ!」
すかさず軍の女は大きく跳んでリメットの上を取って、追撃を仕掛ける。
「っ!」
リメットはすぐに空中で体勢を立て直して、攻撃を受ける構えを取る。
「その程度かい!」
「っ!?」
だが、手を蹴られて大剣を弾かれてしまった。
「さあ、喰らいな!」
そして、軍の女は大剣を振り上げて攻撃態勢に入った。
(回避は……無理だな)
何とか回避したいところだが、空中にいるので回避するのは難しい。
なので、短剣を両手に装備して、その短剣に魔力を込めて攻撃を受ける。
「がああぁぁぁーーーっっ!」
だが、それでは攻撃を防ぐことはできなかった。短剣が折れて身体を斬られる。
そして、そのまま地面に強く叩き付けられた。
「がはっ……」
傷口から鮮血が噴き出して、強烈な痛みが走る。
(体は……まだ動くな。まだ終わってはいない。大丈夫だ)
かなりのダメージだが、体はまだ動く。
攻撃を防ぐことはできなかったが、ダメージを軽減することはできたので、何とか致命傷で済んだ。
「さあ、終わりだよ!」
だが、これで終わりではない。軍の女はそのまま落下して攻撃を仕掛けて来る。
「く……」
リメットは何とかそれを避けようとするが、うまく体が動かない。
(動け……こんなところで終わるわけには……)
だが、そんな思いとは裏腹に体はうまく動かない。
そして、そこに軍の女が落下して来て、大剣が振り下ろされた。
「リメット!」
だが、軍の女の大剣が振り下ろされたその瞬間、何者かがそこに飛び込んで来た。
「大丈夫……だった……?」
「アーチェ……!」
飛び込んで来たのはアーチェだった。彼女は左腕でリメットを抱えて掻っ攫うことでリメットのことを助け出していた。
「アーチェ、大丈夫か!?」
「うん……何とか……ね」
「何が何とか、だ! どう見ても重傷だろう!」
アーチェは右腕を斬り落とされた上に脇腹を深く斬られていた。どう見てもあまり大丈夫とは言えない状態だ。
「そんなことをしてる余裕はあるのかい!」
しかし、当然敵は待ってはくれない。そこに素早く接近して斬り掛かって来る。
「させません!」
「おっと……」
だが、マイアが横から斬り掛かってそれを止めに入った。
「二人とも今の内に退いてください!」
「待て! そいつはお前達にどうにかできるような相手ではない!」
マイアが軍の女の相手をしようとするが、リメットの言う通り彼女に対処できるような相手ではない。
「倒せなくても時間を稼げればそれで良いです。城に向かった三人の内の誰かが戻って来るまで時間を稼ぎます! だから、二人は下がっていてください!」
だが、軍の女を倒すことはできなくとも、エリュ達が戻って来るまで時間を稼ぐことはできると考えた。
「止めろ、危険だ! そいつはあたしが相手する……ぐっ……」
リメットはそれを止めようとするが、傷口が痛んで動けない。
「無理はしないので大丈夫です」
「……あんたがあたしの相手をするのかい?」
「……そうです」
「雑魚にはあまり興味は無いが……まあ仕方が無いから相手してやるよ!」
そして、マイアと軍の女との戦闘が始まった。
「あたしが相手しないと……ぐっ……」
「大丈夫ですか!?」
リメットの元に心配したレジスタンスのメンバーが駆け寄って来る。
「あたしは大丈夫だ。アーチェを診てやってくれ」
「リメットも重傷ですよ! 二人ともここから少し離れましょう」
そして、リメットとアーチェはレジスタンスのメンバーに連れられてその場から離れた。
ついでに近くに落ちていたリメットの大剣も持って行く。
「とりあえず、これを」
レジスタンスのメンバーの少女は治癒ポーションをリメットとアーチェに振り掛ける。
「……助かる」
「ありがとう」
「回復魔法で治療します。じっとしていてください」
そして、レジスタンスのメンバーの少女はエリサから教えてもらった回復魔法で治療を試みる。
すると、少しだけではあるが傷が塞がった。
「私の回復魔法だとこれが限界です」
「そうか」
「後は普通に治療します」
「頼んだ」
そして、回復魔法での治療が終わったところで、治療用の道具で治療を始める。
「……少しは楽になりましたか?」
「ああ」
包帯を巻かれたリメットはマイアのことを気にしながら一言そう答える。
「アーチェも大丈夫ですか?」
「うん」
「右腕……大丈夫?」
斬り落とされた右腕の方に視線を向けながらそう尋ねる。
「うん、大丈夫だよ。リメットを守れたならこれぐらいは安いものだよ」
「…………」
それに対してリメットは無言のままだ。
「リメットは何も悪くないよ」
「いや、あたしが……」
「うわっ!」
ここでマイアが吹き飛ばされてリメット達の前に転がって来た。
「大丈夫!?」
「はい……何とか……」
マイアは傷口を抑えながら立ち上がる。
「やっぱり雑魚の相手はつまらないねぇ」
そこに軍の女がゆっくりと歩いて来る。
「……マイア、下がれ」
リメットは大剣を持ってマイアの前に出る。
「リメット、その怪我で動いたらダメですよ!」
「……ここでやらなきゃリーダーの名が廃るからな。ここはあたしがやる」
「無理しないでください!」
「こいつはお前達には相手できない。分かっただろう?」
マイアはそれを止めようとするが、リメットは止まらない。
「……分かりました。だったら、私も戦います」
「あたしも戦うよ」
マイアとアーチェはリメットを挟むようにして隣に並んで戦闘に加わる。
「あたしは下がっていろと言ったぞ? お前達では相手できないことが分からないのか!?」
「それはリメットも同じでしょ?」
「…………」
アーチェにそう返されてリメットは言葉に詰まる。
「一人でダメなら三人で戦いましょう。それなら何とかなるかもしれません」
「止めたってあたし達は下がらないよ」
そう言って二人は強い意志を見せる。
「……何を言っても無駄そうだな。分かった。三人で戦おう」
その様子を見て何を言っても折れることは無いと判断したリメットは二人の参戦を許可した。
「二人はあたしの補助に回ってくれ。あたしがメインで動く」
「分かりました」
「分かったよ」
そして、リメット達は三人で軍の女に戦いを挑むことにした。
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