episode115 ガーグノットの実力者達

「さて、それじゃあ始めよっか」


 アーミラは連絡を終えたところで、風魔法を纏って高速で敵に接近する。


「っ!?」


 この中で一番強いと思われる剣を持った男に攻撃するが、ギリギリで反応して防がれてしまった。


「ふーん……ちょっとぐらいなら相手になりそうかな」


 アーミラはそう言って大きく後方に跳んで、元の位置に戻る。

 そして、空間魔法で爪を取り出して装備した。


「……気を抜くな。奴はかなり強いぞ」

「……みたいですね」

「では、行くぞ!」


 兵士の編成は剣持ちの前衛一人と槍持ちの前衛一人と魔法使い一人だ。前衛の二人がアーミラに接近して、魔法使いは魔法を準備する。


「はっ!」

「ていっ!」


 前衛の二人は間合いを保ちつつ攻撃する。

 アーミラは爪なのでリーチが短い。

 なので、兵士達はリーチを活かして一方的に攻撃できる間合いを保ちながら攻撃する。


「うーん……やっぱり大したこと無いかも」


 しかし、それらの攻撃は全て見切られて受け流されてしまっている。


「行くぞ!」


 ここで魔法使いの男の魔法の準備が完了した。それに合わせて前衛の二人が後方に跳んで道を空ける。

 そして、射線が通ったところで、アーミラに向けて雷魔法が放たれた。


「よっと……」


 しかし、その魔法はあっさりと躱されてしまった。


「……あれを躱すとはな」


 先程放った雷魔法は非常に速度が速いので、見てから避けるのは困難だ。

 だが、アーミラはその魔法を見てから躱していた。


「大した魔法じゃないねー」


 そして、そんなことを言って余裕を見せる。


「……魔法は手数を重視してくれ。奴に当てなくても良い。とにかく、奴の動きを制限しろ」

「分かった」


 下手に魔法を撃っても当たりそうに無いので、魔法は牽制で使うことにした。

 そして、先程と同じように前衛の二人が仕掛ける。


「魔法っていうのは、こうするんだよ!」


 ここでアーミラはそう言って右手を真っ直ぐと前に突き出す。

 すると、その手の平に魔法陣が出現して、そこから直径二十センチメートルほどの太さの黒いビームのようなものが放たれた。


「っ!?」


 剣を持った兵士の男はそれをしゃがむようにして回避する。

 すると、アーミラの放った闇魔法はその後ろにあった柱に当たって、その柱は砕けて崩壊した。


「おりゃっ!」


 だが、狙われなかった槍を持った兵士の勢いは止められていない。そのままアーミラに向けて風魔法で風を纏った突きを放つ。


「よっと!」


 アーミラは左足を軸にして右足を引くことで身体ごと右を向いてそれを躱して、そのまま右手で槍の柄を掴んだ。


「……む?」


 槍持ちの男は槍を引き戻そうとするが、アーミラの力が強く、びくともしない。


「えいっ!」


 そして、アーミラは空いている左手で頭部を狙って攻撃した。


「くっ……」


 男は咄嗟に槍を手放して、バックステップでそれを躱す。


「甘いよ!」


 だが、アーミラの攻撃はそれだけでは終わらない。

 突き出した左手に装備した爪の先端に魔法陣が展開されて、そこから先程使ったものと同じ魔法が放たれる。


「ぐっ……」


 男は横に跳ぶことで直撃は回避したが、魔法が腕を掠めた。


「まだ行くよー」

「っ!」


 だが、アーミラの攻撃はこれだけでは終わらない。

 アーミラは左手で魔法を放つと同時に右手に持った槍を大きく引いて投げようと構えていた。


「そんなものは……っ!?」


 槍使いの男はそれを躱すために動こうとしたが、何故か体が動かなかった。

 ここで床を見ると、いつの間にか魔法陣が展開されていた。

 この魔法陣は動きを封じるための物だったのだが、気付くのが遅すぎた。その直後に魔力を込めた槍が放たれる。


 投げられた槍は目にも留まらぬ速度で飛んで行き、槍使いの男の頭部を消し飛ばした。

 さらに、投げられた槍は柱や壁すらをも貫いて、そのまま城の外にまで飛んで行った。


「うーん……ちょっとやりすぎたかな?」


 アーミラは呟くようにそう言うが、その声色から反省の様子は窺えない。


「俺もいるぞ?」


 ここで体勢を立て直した剣士の男が攻撃を仕掛けて来る。


「これも喰らえ!」


 さらに、それと同時に魔法使いの男の魔法も放たれる。

 魔法使いの男が放った雷魔法はアーミラの周辺に降り注ぎ、その動きを制限した。

 まあ実際のところはアーミラはここから抜け出そうと思えば簡単に抜け出せるのだが、そうはせずにそのまま受けて立つ。


「行くぞ!」


 剣士の男は火魔法で剣に炎を纏わせて斬撃を放つ。

 その動きは先程よりも遥かに早く、目にも留まらぬ速度で斬撃を放つ。


「はっ!」


 一方的に攻撃できる距離を保ちながら流れるような動きで斬撃を放つが、アーミラはそれを爪で受け流していく。


(……全く隙が無いな)


 これだけの手数で攻撃しているにも関わらず、アーミラには全く隙が見当たらなかった。

 それは即ち、それだけ実力に差があるということだった。


「援護しろ!」


 ここで剣士の男はそう言って天井にまで跳び上がる。

 そして、剣に魔力を集約させると、天井を蹴って高速で落下しながらアーミラに斬り掛かった。


「援護する!」


 さらに、それと同時に魔法使いの男の雷魔法も放たれる。


「これでどうかな?」


 アーミラがそう言うと、床から赤く細い何かが大量に出現して、金網のような物が形成された。

 もちろん、これはアーミラが自身の血で形成した物だ。その網で魔法使いの男の放った雷魔法を防ぐ。

 さらに、それと同時に剣士の男に対して闇魔法を放つ。


「それは読めているぞ!」


 剣士の男は火魔法で軽い爆発を起こすことで軌道を変えて、それを躱す。


「はっ!」


 そして、着地と同時にアーミラに向けて跳び掛かる。


「よっと……」


 それに対して、アーミラは足を振り上げてその斬撃を足で直接受けた。


「何っ!?」


 渾身の一撃を受け止められると思っていなかったのか、剣士の男は驚いた様子を見せる。

 とは言え、驚くのも無理は無い。アーミラは見た目では防具を装備しておらず、特に足はタイツしか着けていないので、普通は斬撃を受け止められるはずが無い。


 彼女の身に着けている服は魔法装備なので斬撃にも耐性はあるが、それだけではあれだけ魔力の込められた斬撃を受け止めることはできない。


(これは……あの網のような物と同じ物か?)


 見ると、アーミラの足の剣を受け止めた部分には何か赤い物が纏われていた。


 そう、アーミラは足に自身の血を纏うことで斬撃を受け止めていた。固体化した血は魔力を込めれば強度を上げることができるので、魔力を集約することで斬撃を受け止めていたのだ。


「やっと本気出した感じ?」

「そっちは随分余裕だな!」


 そして、互いに距離を取って仕切り直しとなった。


「はっ!」


 だが、剣士の男はすぐに接近して攻撃を仕掛けた。先程と同じように一方的に攻撃できる距離を保ちながら斬撃を放つ。


「何回やっても同じだよ!」


 しかし、先程と同じように簡単に防がれてしまっている。


「それはどうかな?」

「おっと……」


 そのときアーミラの後方から魔法が放たれた。

 アーミラは後方に魔力障壁を張ってそれを防ぐ。

 先程までは二人とも同じ方向にいたが、今は二人でアーミラを挟んでいる状態なので先程よりも優位に戦える。


「行くぞ!」


 そして、剣士の男は魔法使いの男と共に攻撃を仕掛ける。


「はっ!」

「喰らえ!」


 剣士の男は炎を纏った剣で斬撃を放ち、魔法使いの男は剣士の男に当てないように気を付けながら雷魔法を放つ。


「効かないよ!」


 それに対してアーミラは斬撃を爪で弾いて、魔法使いの男の雷魔法を魔力障壁で防いでいく。


「これでどうだ!」


 ここで魔法使いの男は詠唱時間の長い威力の高い魔法を使うことにした。

 展開された魔法陣は三メートル近い大きさで、その大きさからも強力な魔法であることが窺える。


「時間は稼ぐ」


 剣士の男は魔法使いの男の方に注意を向けさせないために攻撃し続ける。


「消し飛べ!」


 そして、魔法使いの男は魔法の詠唱が終わったところで、魔法陣を起動させた。


「それじゃあアタシも!」


 アーミラはそう言って右手を魔法使いの男の方に向けると、彼に対抗するように魔法を放った。

 そう、彼女は剣士の男の攻撃をいなしながら略式詠唱で術式を詠唱していたのだ。


「……離脱する」


 ここで剣士の男は魔法に巻き込まれないようにその場から離れた。


「消し飛べ!」

「いっけーー!」


 そして、それぞれの魔法が放たれた。

 魔法使いの男が放ったのは雷魔法だ。魔法陣全体から真っ直ぐと雷が放たれて、ビームのようになっている。


 それに対して、アーミラは火属性と闇属性の複合属性の魔法だ。手の平から一本の細く黒い何かが放たれて、その周りに螺旋状の黒い炎が渦巻いている。


「そんな魔法で張り合えるとでも思っているのか?」


 魔法使いの男が放った魔法の方が威力が高いことは誰の目から見ても明らかだった。

 このまま互いの魔法がぶつかり合えば威力の低いアーミラの魔法は打ち消されてしまう。


「火力が高ければ良いってわけじゃないよ!」


 だが、アーミラの魔法が一方的に打ち消されることは無かった。

 彼女の魔法は魔法使いの雷魔法の中心を貫いて、その魔法を分散させた。


「何っ!? ……ぐわああぁぁーーー!」


 そして、アーミラの魔法はそのまま真っ直ぐと飛んで行き、魔法使いの男を貫いた。

 死体となった魔法使いの男がゆっくりと前方に倒れる。


「後はアンタだけだね」


 そう言って残った剣士の男の方を向いて構える。


「…………」


 しかし、剣士の男は何かを考えているのか無言のままだ。


「あれ? もうやる気が無い感じ? まあいっか。大したことが無いことは分かったし、もう終わらせるよ!」


 そう言うと素早く剣士の男に接近して、魔力を込めた突きを放つ。


「っ!」


 剣士の男は何とか反応してそれを躱す。

 すると、アーミラの放った突きはその後ろにあった柱に当たって、柱は砕けて崩れ落ちた。


「遅いよ!」


 当然、その程度で彼女の攻撃は終わらない。すぐに左手を剣士の男に向けて魔法を放つ。


「その程度……っ!?」


 剣士の男はそれを避けようとしたが、何故かその場から動くことができなかった。

 見ると、足には赤い鞭のような物が巻き付いていた。


 そう、アーミラは初撃と同時に剣士の男に自身の血を纏わせていたのだ。


「チッ……仕方無いか」


 剣士の男は仕方無く剣に魔力を集約させてその魔法を受ける。


「これで終わりだよ!」


 続けてアーミラは魔法陣を展開して、再び魔法による攻撃を仕掛ける。

 さらに、魔法陣を展開した瞬間にその姿が一瞬にしてかき消えた。


「っ! 後ろか!」


 もちろん、アーミラが使ったのは空間魔法だ。

 アーミラは空間魔法で後ろに転移して、爪によるものと魔法によるものとで前後から同時に攻撃を仕掛ける。


「このぐらいでは終わらんぞ!」


 剣士の男はまだ終わらせはしないと言わんばかりにアーミラに向けて斬撃を放つ。


「……終わりだよ」


 それに対してアーミラは冷たくそう言うと、爪に魔力を集約させてその一撃を放った。


「っ!?」


 すると、その一撃であっさりと剣が折れた。


「まあまあ楽しめたかな。それじゃあねー」


 そして、そこに爪による一撃と先程展開しておいた魔法が炸裂する。


「ぐ……ぁ……」


 爪で斬り裂かれたところに火属性と闇属性の複合属性の魔法による爆発が炸裂したので、剣士の男の身体はバラバラになって吹き飛ばされた。


「やっぱり、大したこと無かったなー」


 これでも彼らはガーグノットの兵士の中ではトップクラスの実力を持っていたのだが、それでもアーミラの相手にはならなかった。


「……さて、エリュとシオンは……外に向かってるのかな?」


 魔力領域を広範囲に展開して周囲の状況を探ってみると、エリュとシオンが外に向かっていることが分かった。


「じゃあアタシは城内の敵を片付けようかな」


 そして、アーミラは城内に残った敵の殲滅に向かった。

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