第3章閑話 神域にて佇む者3

 ガーグノットでの争乱の様子を眺めていたマキナは、その結末を見届けたところで地上を映した魔力空間をそっと閉じた。


「今回はそれなりに大きな出来事でしたね。少なくとも、二人にとってはこちらの世界に来てから最も大きな出来事だったと言って良いでしょう」


 別に国が内乱によって滅ぶことは過去にも時折見られた出来事なので、歴史的に見ればそこまで珍しいことでは無いが、それなりに大きな出来事であることに間違いは無い。

 少なくとも、エリュ達にとってはこちらに来て体験した出来事の中で最も大きな出来事になったはずだ。


「立場が違えばそれだけで意思は異なります。そして、意思が異なれば対立しそこには必然的に争いが生まれます。ですので、意思ある者が存在する限り争いが絶えることは無いでしょう。今までも、そしてこれからも」


 意思ある者同士が接触すると意思の違いというものは必ず発生する。

 同じ意思を持つ者同士で集まって徒党を組み派閥が生まれ、異なる意思を持つ者とは対立する。いつの時代も変わることの無い条理だ。

 故に争いも必ず発生する。


「神々でさえも対立し争いになったのですから、数も多くより複雑な環境に置かれている地上の者に争わないよう求めるのは無理な話でしょう」


 争いが起こるのは必然、故にそれを止めることは不可能なので、争わないように求めたところで意味は無い。

 世界では常々争いが起こっていて、表向きは平和に見えてもその陰では様々なものが蠢いている。


 結局のところ、真の意味での平和はどこにも存在しない。


「そう、神々でさえも争ったのですから」


 かつての神々の争乱。静観派と再誕派とで別れて、それぞれの意志がぶつかりあったあの戦い。

 それは彼女にとっての遠い昔の記憶。地上の者にとっての伝承として語られる事実かどうかも分からないおとぎ話。


「……まあその話は今は良いでしょう。今回の争いは虐げられた者が反旗を翻したという分かりやすい構図でしたね」


 今回の内乱は搾取を続けていた上流階級の者に対しての不満が爆発して、反乱が起きたというよくある構図のものだった。


「そして、その反乱もエリサ達の協力によって無事に成功しました。彼女達の協力が無ければ失敗に終わっていた可能性が高かったでしょう」


 レジスタンスによる反乱が成功したのはエリサ達の協力によるものが大きかった。

 彼女達の協力によって実行時期は大幅に早まり、最大の問題点であった戦力的な問題も簡単に解決することができた。


「彼女達の戦力は強大なものです。その気になれば今回のように国すら落とすことができるのですから」


 今回の一件はほとんどエリサ達の力によって成し遂げられたと言っても過言ではない。

 極論を言うと、レジスタンスのメンバーがいなくとも問題無くガーグノットを落とすことは可能だった。


「強大な力でも使い方次第で良い方向にも悪い方向にも転がる可能性があります。しかし、それ故にそのような大きな力は恐れられて忌み排斥されるか、悪意のある者に利用されることがほとんどです」


 強大な力はそれだけで脅威になり得るので、矛先が自分に向けられることを恐れて排斥されることは多い。

 また、手中に収めることができればそれだけで大きな力が手に入るので、それを利用しようとする者が現れることも少なくはない。


「本人に害意が無いのであれば少なくとも悪い方向に転がることはありませんが、他者にとってそれは関係の無い話です。悪い方向に転がった際の損害は計り知れませんし、影響力が大きい以上野放しにはさせてくれません」


 結局のところは本人の意思次第なのだが、他者にとっては敵に回ると危険な存在なので、例え本人に害意が無かろうとも放置されることは無い。


「強者はその力故に自由に振る舞うことができますが、その力故に周囲から自由を奪われます。だからこそ、強者は目立たずに静かに暮らしたいと考えるのかもしれませんね」


 絶対的な力があれば周囲のことなど気にせずに自由に活動することができるかもしれないが、周囲の者がそれをただ黙って見ているだけで済ませるようなことは無い。

 害意のある行動を取った場合は当然だが、そのような意思が無い場合でも脅威であるとして抑圧しようと動いて来る。


 そう、最早、存在そのものが脅威なのだ。

 もちろん、絶対的な力があればそれを跳ね退けることも可能なので自由に振る舞えるだろうが、そこに真の意味の自由は無い。


「今回は彼女達は協力しただけで、反乱を成し遂げたのはあくまでレジスタンスです。少なくとも、表向きにはそうなるので、目論見通り彼女達の存在があまり表に出ることは無いでしょう」


 戦力的にはエリサ達がメインではあったが、反乱を行ったのはレジスタンスだ。

 なので、彼女達支援者の存在自体は確認されても、そんなに目立つことはない。


「ガーグノットを落とすだけであれば彼女達だけで実行可能でしたが、それだと目立ってしまいますからね。利害関係が一致しているレジスタンスを利用して目立つことを避けたようですね」


 そう、エリサ達がレジスタンスに協力したのはレジスタンスを隠れ簑にすることで自分達の存在を隠すためだった。

 エリサ達がガーグノットを潰す上で問題になったのは直接、自分達が動くと目立ってしまうという点だ。


 そこで、レジスタンスを主役にすることで自分達が目立つことを避けた。

 今まで放置していたのは潰すメリットがあまり無く、放置していても問題が無かったということもあるが、直接動いて潰すと脅威と見なされて平穏が崩される可能性があったからだ。

 だが、今回はレジスタンスの動きを捉えて味方に付けることに成功したので、レジスタンスのサポートという形で動くことにしたのだ。


「強者故に居場所の無かった者、表には出られない者、忌み嫌われる種族であるが故に追われた者、そしてこの世界に転生して間もない者。それぞれに事情がありその内容も違いますが、こうして彼らは集まっています」


 出身も事情も異なる彼らが集まったのは偶然か必然か。それは誰にも分からないが、そこには表側から弾き出された者達が集まっているという事実があった。


「彼らはどこへ向かい何を為すのでしょうか。私は管理者としてただそれを見守るだけです」


 そして、マキナは最後にそれだけ言うと、世界の監視に戻った。

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