episode112 動き出すレジスタンス本隊

 陽動部隊が戦闘をしていた頃、俺は順調に仕込みを進めていた。


「まあこんなところか」


 仕込みはもうこれで十分だろう。俺のもう一つの目的である偵察を続ける。


(ひとまず、軍の様子を探るか)


 俺が一番すべきことは軍の動きを探ることだ。上空からヴァージェスが監視しているとは言え、それだけでは確認できないこともあるからな。

 なので、俺は城の方に行って様子を確認してみることにした。


(ついでに街の様子も探るか)


 城は近いので大して情報は得られないだろうが、一応話を聞きながら城に向かうことにする。


「聞きましたか? 一般区域と工業区域でレジスタンスが暴れているそうですよ」

「大丈夫なのでしょうか?」

「制圧部隊が向かったそうですし、すぐに騒ぎは収まるでしょう」

「そうですね。レジスタンスは所詮は下民の集まり。軍に敵うはずがありません」


 貴族達は軍が負けるとは思っていないのか、かなり楽観的に見ているようだった。


「さて、城に着いたな」


 話を聞き取りながら歩いていると、すぐに城に着いた。


(あれは……追加の制圧部隊か?)


 城を見ると、そこから何百人もの兵士が出て来ていた。

 恐らく、追加の制圧部隊を送るところなのだろう。


「……む?」


 と、ここで端末に連絡が入った。確認すると連絡はエリサからのものだった。

 ひとまず、目立たない路地裏に入って城の様子を見ながら通信を繋ぐ。


「何だ?」

「今話せるかしら?」

「ああ、大丈夫だ。そちらは順調か?」

「陽動組の方はどちらも全部片付いたわ。そちらはどう?」

「仕込みに関してはもう終わった」


 俺の目的の一つである仕込みに関してはもうこれで十分だ。


「それと、城から大量の兵士が出て来ている。恐らく、追加の制圧部隊だな」

「規模はどのぐらいなのかしら?」

「現段階で確認できただけでも五百人以上はいる。だが、まだ城から出て来ているので、全体の数はまだ分からないな」


 正確に数えてはいないが、五百人以上いるのは間違い無い。

 だが、城からはまだ兵士が出て来ているので、その規模がどのぐらいなのかはまだ分からない。


「そう。分かったわ。その部隊が陽動部隊と接触したら動いてもらうから、いつでも動けるように準備しておいてくれるかしら?」

「分かった」

「とりあえず、部隊の規模が分かったらすぐに報告してくれるかしら?」

「ああ。すぐに連絡する」


 そして、話が済んだところで通信を切った。


「……いよいよか」


 次はいよいよ本陣である城への攻撃だ。これで今回の作戦の目的にして反乱の最終目標である現政府の打倒が果たされる。

 少しずつではあるが着実に決戦の時は近付いていた。


「とりあえず、監視を続けるか」


 そして、俺は制圧部隊の戦力を報告しなければならないので、城から出て来る兵士の監視に戻った。






 陽動部隊から連絡を受けて本隊が動き出そうとしていた。


「さて、いよいよあたし達の出番だな」

「そうですね」

「確か、ヴァージェスっていう人が騒ぎを起こしたら突入だったよね?」

「そだよー」


 アーチェの質問にアーミラが気楽そうに答える。


「アーミラは何だか余裕そうだね」

「まあ簡単に片付きそうだからね」


 戦闘能力の高いアーミラは強者の余裕というものなのか、緊張した様子は全く見られない。


「余裕があるのは良いが、足を掬われるなよ?」

「大丈夫だって!」

「だと良いのだがな……」


 自信満々なアーミラを見て逆に不安になるリメットだったが、何を言っても無駄そうなので、これ以上は触れないことにした。


「……む? 何だあれは?」


 と、ここでリメットは上空に巨大な何かがあることに気が付いた。


「あれは……ヴァージェスの魔法陣だね」


 それを見たアーミラが迷うこと無くそう答える。


「魔法陣って……あんなに大きいのが!?」


 こんなに巨大な魔法陣を見たことが無いマイアは驚いた様子で声を上げる。


「そろそろ来るよ」


 そして、アーミラがそう言ったところで上層区域全体に流星のように魔法弾が降り注いだ。

 魔法弾は着弾点で爆発を引き起こして、次々と建物を破壊していく。


「これは……想像以上だな」

「私達とは次元が違う……」

「大惨事って感じだね……」


 瓦礫の山と化した街を見たレジスタンス達は気後れしている。


「そう? 戦争ってこんなものじゃない?」


 それとは対極的にアーミラは特に気にした様子は無い。


「……それもそうなのかもしれないな」


 リメットはそう聞いて少しだけ納得した様子を見せる。


「って言うか、早く行かなくても良いの? 街が混乱してる内に行った方が良いと思うけど?」


 動く様子の無いレジスタンス達を見たシオンが急かすように言う。


「確かに、急ぐ必要があるな。お前達、行くぞ!」

「「「はい!」」」


 そして、レジスタンス達が検問をスルーして一斉に上層区域に流れ込んでいく。

 検問の兵士はいるのだが、彼らは上層区域への攻撃で混乱していて、それどころでは無かった。


「おい、そこのお前達! ここから先は上層区域だぞ! 止まれ!」


 ここで検問の兵士の一人がそのことに気付いて止めようとする。


「邪魔だよ!」

「ぐわーー!」

「ぎゃーー!」


 しかし、アーミラの闇魔法によって検問所ごと消し飛ばされてしまった。


「ここで部隊を分けるぞ。事前に決めた通りに別れて、担当する場所に向かってくれ」

「「「はい!」」」


 そして、レジスタンス達は上層区域への攻撃を始めた。






「……始まったな」


 城の近くで待機していた俺はのんびりと街の様子を眺めていた。

 俺の役目はここで城の様子を確認することだ。なので、少々暇と言えば暇だ。


「……さて、城の様子を探るか」


 城から兵士が出て来そうに無いので、音で中の様子を探ってみることにした。

 そして、城壁のすぐ近くにまで行って聞き耳を立ててみると、中から慌ただしい兵士達の声が聞こえて来た。


「城の被害状況を調査しろ! 急げ!」

「街の方にも甚大な被害が出ているようですが、どうしますか?」

「街の方は後だ。まずは城の方を優先しろ。では、行動に移れ!」

「「「はい!」」」


 どうやら、今は城の被害状況を確認しているところのようだ。

 上層区域全体を攻撃したが、それには当然、城も含まれている。

 なので、城にもかなりの被害が出ているはずだ。


「ところで、レジスタンスへの対処はどうするのですか?」

「状況がある程度分かるまでは下手に動かずに城の守りを固める。街に繰り出した兵士達には戻って来るように伝えておけ」


 この状況で下手に動いても状況が悪化するだけだろうからな。状況を把握した上で動きを決めるというのは妥当な判断だろう。

 まあこちらもそうして来ると読んだ上で戦力を分散させてから上層区域を攻撃したのだがな。


「分かりました」


 そして、そこで兵士達はそれぞれ行動に移ったらしく、話し声は聞こえなくなった。


「しばらく兵士は出て来そうに無いな」


 状況を把握するために情報収集をしているようなので、しばらくは城から兵士が出て来ることは無さそうだった。


「後は合流を待つだけだな」


 とりあえず、俺はもうレジスタンスの合流を待つだけなので、少し離れたところで待機しておくことにした。






 その頃、城では緊急の会議が開かれていた。


「……集まったか」


 会議室には緊急の召集を受けてこの街の主要な人物が集まっていた。


「ザードはいないのか?」


 しかし、その主要な人物の一人である王族の側近であるザードが来ていなかった。


「はい。いつの間にかいなくなっていまして、現在捜索していますがまだ見付かっていません」


 そう、側近であるザードがいつの間にか城内からいなくなっていたのだ。

 実はザードは襲撃の報告が来たところで国を捨てて国外への逃亡を図っていたのだが、彼らはそのことを知る由も無かった。


「まあいない者は仕方が無い。さっさと会議を始めるぞ」


 だが、いない以上は仕方が無いので、このまま会議を始めることにした。


「それで、状況は?」

「まず一般区域と工業区域に送った制圧部隊ですが、両方とも全滅したようです」

「二度目に送った部隊もか?」

「はい。敵にかなりの実力者がいるらしく、あっさりと全滅したとのことです」

「部隊の隊長はBランククラスの実力はあるぞ? それがあっさりと全滅したのか?」

「報告によるとそのようです」


 監視の兵士からの報告によると、制圧部隊は為す術無く一方的にやられたとのことだった。


「襲撃者はAランククラスの実力があると見て間違い無さそうですな」

「同意見だ」


 会議の参加者達は襲撃者はAランククラスの実力があると見ていた。


「制圧部隊を殲滅した者の特徴は?」

「一般区域の方は黒い外套を纏った魔法使いの少女、工業区域の方は剣士の男だそうです」


 監視の兵士から報告があったので、制圧部隊を殲滅した者の容姿は分かっていた。


「その者に関しての詳しい情報は?」

「それが、監視の兵士からの連絡が途絶えたのでそれ以上のことは分かりません」


 しかし、その報告以来、連絡が途絶えてしまったので、それ以上の情報は得られていなかった。


「それで、先程の上空からの攻撃に関してだが……」

「ローハイトを上空から攻撃した例の術者と見て間違い無いでしょうな」


 これに関しては議論の余地も無く、全員がその認識で一致した。


「その攻撃による被害は?」

「被害は上層区域全域に及んでいます」

「他の区域への被害は無かったのか?」

「はい。例の術者による攻撃を受けたのは上層区域のみのようです」

「ローハイトのときもそうだったが、明らかに上流階級の者を標的にしているな」


 レジスタンスの標的はあくまで支配者層だ。

 なので、政府の施設や貴族などの支配者層の者しか攻撃していない。


「さて、その上でどうするかだが、皆意見はあるか?」


 そして、それぞれが意見を出し合う。


「やはり、城で迎え撃つべきだな」

「全員で動いて脱出を図るべきでは無いのか?」

「ここは目立たないように少数で動いて脱出をすべきだな」


 しかし、意見がバラバラで中々話は纏まらない。


「……俺が意見を纏めるが良いな?」


 このままでは話が付かないので、軍の隊長が意見を纏めることにした。


「まず、城で迎え撃つのは難しいのではないか? 認めたくはないが、向こうの方が戦力が高いので押し切られるぞ」

「向こうの方が戦力が高い? 奴らは寄せ集めの集団だぞ! そんなことがあるはずが無かろう!」

「Bランククラスの実力がある隊長を簡単に倒すことのできる奴が二人に、あの規模の魔法を使える奴がいるのだぞ? そうなると、Aランククラスの実力者が少なくとも三人はいることになる。……これで分かったか?」

「…………」


 レジスタンス側にはAランククラスの実力者が三人はいることになるが、この街にはそれに対抗できるほどの戦力は無い。


「と言うことで、戦うという選択肢は無い」

「つまり、この街を脱出すると?」

「ああ。この街を何とかして脱出するしかない」


 議論の結果、街を脱出するという方針に決定した。


「それで、どう脱出するのですか?」

「脱出するメンバー全員で集まって飛空船で脱出する」

「大人数で動けば目立ちますが、それで良いのですか?」

「どちらにせよ飛空船を使う時点で目立つからな。それなら戦力を分散させずに集めておいた方が良い」

「それもそうですな。では、早速……」


 だが、話が纏まって行動に移ろうとしたそのとき、外の方から大きな爆音がした。


「何だ!?」

「何が起こった!?」


 何が起こったのかが分からずに会議室にいた面々が騒ぎ始める。

 そして、それから少ししたところで会議室に一人の兵士が駆け込んで来た。


「何があった?」

「報告します。先程の爆発で城壁が破壊されました」

「何だと!?」


 報告を受けて外を確認すると、城壁が破壊されてどこからでも城に攻撃ができる状態になっていた。


「城にいる兵士は全員で城の守りを固めろ! 急げ!」

「分かりました」


 指示を受けた兵士はすぐに部屋を出て指示を伝えに行く。


「俺達もすぐに行くぞ」

「そうですな」

「急ぎましょうか」


 そして、会議室の面々も脱出のために動き出した。






「……来たか」


 城の近くで待っていると、レジスタンスの本隊が合流して来た。


「エリュー、待った?」


 合流したところでシオンがそんなことを聞いてくる。


「まあな」


 こちらはすることが無くて暇なぐらいだったからな。少々待つことにはなった。


「それで、仕込みとやらは終わったのか?」


 そして、リメットが仕込みについてのことを聞いて来る。

 仕込みのために先にこちらで動いていたことは伝えていたが、その内容に関しては伝えていなかったからな。その内容が気になるのだろう。


「ああ」

「仕込みって言うけど、何をしたの?」


 アーチェが仕込みの内容を聞いて来る。


「それはすぐに分かる。皆準備は良いか?」

「ああ。あたしは大丈夫だ。お前達も準備は良いか?」

「「「はい!」」」


 レジスタンス達も準備は万端なようだ。


「では、行くぞ?」


 そして、レジスタンス達の準備が整っているのを確認したところで、仕込んでおいた術式を起動した。

 すると、城壁全体が爆発して音を立てて崩壊した。


「何か爆発したー!?」

「すごい火力だな」

「ああ。まさかここまでの火力があるとはな」


 仕掛けた俺が言うのも何だが、ここまでの火力があるとは思わなかったな。


「……エリュが仕掛けたんじゃなかったの?」

「確かに、仕掛けたのは俺だが、術式を組んだのは俺ではない」


 この術式はヴァージェスの組んだ術式で、俺はそのままそれを仕掛けただけだ。

 この術式は大気中などの周囲の魔力を集めてその魔力で起動することができるらしく、遠距離からでも起動できるようになっている。


「そうなのか」

「では、敵が混乱している内に行くぞ」

「そうだな」


 そして、城壁が無くなって簡単に入れるようになった城に攻撃を仕掛けた。

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