episode111 隊長格の実力

「とりあえず、適当で良いから暴れ回りなさい」

「「「はい!」」」


 エリサ達は一般区域にある政府の施設を狙って攻撃していた。

 最初に攻撃した門の近くにあった兵舎は壊滅させたので、今は政府の管理する倉庫に攻撃を仕掛けているところだ。


「お前達、反逆者共に好き勝手にさせるな! 援軍が来るまで持ち堪えるぞ!」

「「「はい!」」」


 だが、当然、兵士達が黙っているはずも無い。一般区域にいる兵士には集合が掛けられて、全員がここに集まって来ていた。


「エリサさん、どんどん兵士が集まって来ていますが、大丈夫なのですか?」


 レジスタンスの少女はその様子を見て不安になったのか、エリサにそんなことを尋ねた。


「問題無いわ。むしろ、向こうから集まってくれるのは都合が良いわね」

「そうなのですか?」

「ええ。おかげでこちらから敵を探す手間が省けたわ。ここで殲滅するわよ」

「分かりました」

「私が援護するから安心して戦いなさい。それじゃあ行くわよ」

「「「はい!」」」


 そして、エリサが魔法を放ったのを皮切りにレジスタンス達は総攻撃を仕掛けた。


「させるか! 前衛は全員で奴らの攻撃を受け止めろ!」


 それに対して兵士達は盾を持った前衛で受け止めることでそれに対応しようとした。


「……そんなに集まったら良い的よ?」


 だが、集まった敵は魔法使いにとっては良い的だ。

 エリサが術式を詠唱すると、一直線上に等間隔で並んだ五つの魔法陣が出現した。

 すると、そこに五メートル近い長さのある炎の槍が形成されて、それが敵の集団に向かって高速で飛んで行った。


「ぎゃーー!」

「ぐわーー!」


 魔法で形成された炎の槍は敵の集団の中心に着弾して、大爆発を引き起こした。


「陣形は崩したわ。一気に畳み掛けなさい」

「陣形を崩すどころか、敵の前衛が壊滅しているのですが……」


 エリサの高火力な魔法は敵の陣形を崩すどころか、前衛を壊滅させていた。

 着弾点に近かった者は跡形も無く消し飛ぶか、身体がバラバラになって吹き飛んでいて、そうでない者にもそれなりにダメージを与えていた。


「まあそれならそれで良いじゃない。とにかく、今が好機よ。一気に制圧しなさい」


 そして、レジスタンス達の前衛は一気にそこに突っ込んで、そのままの勢いで後衛にまで突っ込んで攻撃を仕掛けた。


「一旦退いて態勢を立て直せ! 早くしろ……ぐわっ!」


 兵士達は何とか態勢を立て直そうとはするが、ここまで押し込まれているともうどうにもならない。一方的に次々と兵士達が倒されていく。


「ここも問題無く制圧できそうね」


 ここまで来れば制圧は時間の問題だ。エリサは適当に魔法で援護しながら次の動きを考える。


「……そう思ったのだけど、そうも行かなそうね」


 だが、ここで上層区域の方面から他の兵士よりも明らかに強い魔力を持った者が近付いて来ているのを感じ取った。エリサはすぐに術式を詠唱してその敵に備える。


 そして、それから少ししたところで遠くの方から巨大な氷塊が飛んで来た。


「すぐに全員退きなさい!」


 エリサはレジスタンスに指示を出しながら準備しておいた火魔法をその氷塊にぶつけて、それを打ち消した。

 レジスタンス達もエリサの指示を受けてすぐに撤退する。


「ほう? あたしの魔法を打ち消すなんてやるじゃないか」


 多くの兵士を引き連れて現れたのは魔法使いの女だった。

 どうやら、彼女がこの制圧部隊の隊長らしい。


「……彼女はあなた達にどうにかできるような相手では無いわ。手を出さずに下がっていなさい」

「エリサさんはどうするのですか?」

「私が一人で相手するわ」

「あの数をですか!?」


 そう言われたレジスタンスの少女は驚き声を上げる。

 だが、彼女が驚くのも無理は無かった。引き連れている兵士はざっと見ただけでも三百人以上はいる。

 それを一人で相手すると言うのだから、実力者同士の戦いを見たことが無い彼女が驚くのは必然だったとも言える。


「引き連れている兵士は私に言わせてみれば戦力外だから、いないのも同然よ。だから、何の問題も無いわ」


 だが、エリサに言わせてみれば引き連れている兵士は歯牙にも掛けないような存在だ。

 なので、人数差は何の問題にもならない。


「巻き込まれると危ないから、できるだけ離れておきなさい」

「……分かりました。気を付けてくださいね」

「ええ。終わったら連絡するわ」


 そして、レジスタンス達は速やかにこの場から離れて行った。


「まさか、本当にあたし達を一人で相手するつもりかい?」

「ええ、そのつもりよ」

「全く……舐められたもんだね! お前達、あたしの魔法の後に続きな!」

「「「はい!」」」


 そして、隊長の女が術式の詠唱を始める。


「遅いわよ」

「っ!?」


 だが、そこに詠唱はさせないと言わんばかりにエリサの魔法が炸裂した。


「そんなにもたもたと詠唱していると、いつになっても魔法を撃てないわよ?」


 そして、エリサは隊長の女に向けて次々と魔法を放つ。


「ぎゃーー!」

「ぐわーー!」


 隊長の女は何とかそれを躱しているが、周囲にいる兵士はそうでは無かった。エリサの魔法に巻き込まれて次々と倒されていく。


「喰らいな!」


 隊長の女は攻撃を躱しながら何とか術式を詠唱して魔法を放つ。


「あら、その程度なのかしら?」


 しかし、その魔法はあっさりと躱されてしまった。


「やはり、手数で攻めた方が良いか」


 威力が高くても当たらなければ意味は無い。

 なので、ここは詠唱時間の短い簡単な魔法で攻撃することにした。


「これはどうだ?」


 そして、隊長の女は三十個近い魔法陣を展開して、小さな氷塊を大量に飛ばした。


「この国の兵士は大したことが無いようね」


 しかし、今度は火魔法で形成された炎の壁に全て阻まれてしまった。


「まだまだ行くわよ」


 エリサは攻撃のペースをさらに上げる。威力の低い簡単な魔法を常に撃ち続けて弾幕を張りながら、時折そこそこの威力の魔法も混ぜる。


「……大口を叩くだけあって速いな」


 魔法の撃ち合いでは完全に魔法使いとしての圧倒的な実力差が出ていた。詠唱速度はエリサの方が圧倒的に速い上に、魔法の威力もエリサの方が上だった。

 制圧部隊は後衛も攻撃しているが、それでもエリサの弾幕の方が多いほどだ。


「どうしますか、隊長? このままだと前衛は近付けません」


 この弾幕の中だと前衛の兵士は前に出ることができない。


「そうだな……」


 盾を持った前衛に防がせてその後ろから行かせるにしても、固まっていると高火力の魔法で纏めて倒されてしまう。

 なので、ここは何か別の手段を考える必要がありそうだった。


「部隊を分けて建物の陰を利用して回り込め。機を見て一気に仕掛けるぞ」


 隊長の女が思い付いた方法は建物の陰を利用するというものだった。

 周囲には多くの建物があるので、これを利用すれば魔法を防ぐことができるはずだ。


「分かりました。お前達、行くぞ」

「「「はい!」」」


 そして、兵士達はいくつかの部隊に別れて、エリサの周囲にある建物の陰へと移動した。


「……無駄よ」


 だが、そんな甘い考えはあっさりと打ち砕かれることになった。

 エリサが詠唱すると、その周囲に大量の魔法陣が展開された。魔法陣は門を攻撃したときの物と同じで、一直線上に等間隔に三つ並んだ魔法陣が十セットある。


 そして、そこに炎の槍が形成されて周囲の十方向に魔法が放たれた。

 炎の槍は着弾点で大爆発を引き起こし、周囲の建物を破壊した。


「まだ行くわよ!」


 さらに、同じ魔法陣をもう一度展開して、同じように魔法を放った。

 その魔法で残った残骸すら破壊し尽くして、周囲は遮蔽物の無い瓦礫の山と化した。


「これでもう隠れられる物は無いわよ?」


 そして、これでトドメと言わんばかりに同じように魔法陣を展開する。

 だが、今度の魔法陣は五セット分しか無い代わりに三重ではなく五重になっている。


「おい、どうする!? もう隠れられる物が無いぞ!?」

「盾持ちが前に出て防げ! 魔法使いは魔力障壁を張れ!」

「だが、それであの魔法を防げるのか?」


 しかし、この兵士達にあの火力の魔法を防げるのかどうかは微妙なところだった。

 さらに、三重だった魔法陣が五重になっていることから、先程よりも高威力な攻撃が来ることは明らかだった。


「それでもやるしかないだろう! さっさと動け!」


 だが、彼らに他の選択肢は無い。指示通りに盾持ちの前衛が前に出て、魔法使い達は魔力障壁を張る。


「消え去りなさい」


 そして、詠唱を終えたエリサはそこに向けて魔法を放った。

 形成された黒い槍は真っ直ぐと飛んで行き、各部隊の中心付近に着弾した。


 そして、着弾点から火属性と闇属性の複合属性の黒い炎が周囲の瓦礫を舞い上げながら球形に広がって行き、範囲内の全てを焼き尽くして消し去った。


「……ちょっとやりすぎたかしら?」


 着弾点付近を見ると、兵士達も含めて範囲内のものは跡形も無く消滅していた。


「さて、後はあなただけね」


 手下の兵士は全滅したので、残るは先程の魔法を逃れた隊長の女だけだった。

 そして、エリサと隊長の女の一騎打ちが始まろうとしていた。






 戦場から離れたレジスタンス達はエリサの戦闘を遠くから観戦していた。


「すごい量の魔法だね」

「あの人数差なのに押し込んでるな」

「私達とは次元が違う……」


 魔法の撃ち合いを見たレジスタンス達はその圧倒的な格の違いを思い知らされていた。


「今度は建物を壊しちゃったよ!?」

「うーん……すごい威力……」

「と言うか、あの連なる魔法陣は何なんだ?」


 レジスタンスの青年が三つに連なる魔法陣のことを気にしているが、当然それが何なのかは分からなかった。

 と、ここで遮蔽物を破壊したエリサは五つに連なる魔法陣から黒い槍を形成した。


「何あの黒いの!?」

「な……何かすごくやばそう……」

「……そうだな」


 レジスタンス達はその魔法を見て危険なことを本能的に感じ取っていた。

 そして、その直後にエリサの魔法が放たれて、着弾点が黒炎で包まれる。


「な、な、何ーー!?」

「うわーー!? 何かすごいことになってるーー!?」

「何だあの魔法は!?」


 ここまで威力があるとは思っていなかったのか、それを見たレジスタンス達は大騒ぎだ。


「……っていうか、やばくない?」

「何が?」

「いや、上」

「え?」


 レジスタンスの少女はそう言われて上を見てみると、エリサの魔法で舞い上がった瓦礫が降って来ていた。


「魔力障壁を張って防げ! 急げ!」


 すぐにレジスタンスの青年が指示を飛ばす。

 そして、指示を受けてレジスタンス達は魔力障壁を張って瓦礫を防いだ。


「あ……危なかった……」

「何とか防げたね」

「そうだね。……それで、エリサさんは?」


 降り注ぐ瓦礫を何とか凌いだところで戦場の方に視線を戻す。


「残ってるのは隊長の人だけみたいだね」


 戦場を見ると、手下の兵士達は全滅していて、残っているのは隊長の女だけだった。


「私達、離れておいて良かったね」

「そうだね」


 自分達ではこのレベルの戦いに付いて行くことはできないので、一緒にいれば確実に足手纏いになっていた。最早、強さの次元が違いすぎる。


「とりあえず、このままここで見てよっか」

「だね」

「そうだな」


 そして、自分達の出る幕は無いと悟ったレジスタンス達は観戦に戻った。






「さて、後はあなただけね」


 手下の兵士が全滅して隊長の女だけが残される。


「…………」


 隊長の女は何かを考えているのか、無言のままだ。


(今のは……まさか複合術式か?)


 複合術式というは複数の魔法陣を使って組み上げられた一つの術式のことだ。通常の術式よりも遥かに難易度が高く、より高い技量が求められるが、通常の魔法陣では組めないような高度な術式を組むことができる。


 ちなみに、隊長の女も複合術式を扱ったことは無く、聞いたことがあると言った程度の物だ。


(やはり、こいつが例の術者か?)


 隊長の女はエリサがローハイトで上空から魔法を放った例の術者だと考えていた。

 これだけの技量があればあれだけの広範囲を攻撃することも可能だろうし、実際エリサであれば可能だ。


「そちらから来ないのなら、こちらから行くわよ?」


 隊長の女は色々と考えているようだが、エリサにとってはそんなことは関係無い。簡単な魔法を放って牽制しながら風魔法を使って駆けて、隊長の女に高速で接近する。


「っ!?」


 魔法使いが接近して来るとは思っていなかったのか、隊長の女は少し動揺した様子で魔力障壁を張った。

 そして、エリサは隊長の女の一メートルほど手前で魔法陣を展開したかと思うと、突如としてその姿が掻き消えた。


「何っ!?」


 隊長の女は驚き声を上げるが、動揺はしつつも後方からその魔力を感じ取っていた。

 そう、エリサは空間魔法で転移して後方に回り込んでいたのだ。そのまま炎を纏った拳で殴り掛かる。


「そんな攻撃は……っ!」


 前方に張った魔力障壁を解いて後方に魔力障壁を張ろうとしたが、前方の魔法陣が起動していることに気が付いた。


 そう、エリサが隊長の女の前に展開した魔法陣は空間転移のための物では無い。

 エリサは略式詠唱で空間転移の魔法を発動させたので、この魔法陣は攻撃するための物だ。


 しかも、この魔法陣は魔力を流してから一秒後に術式が発動するように組まれていた。

 もちろん、その目的は前後からの同時攻撃を仕掛けるためだ。同時攻撃を仕掛けることによって魔力障壁に込める魔力を分散させて、その強度を下げることができる。


 魔力障壁の強度は術式の構成内容によって変わるが、一般的な無属性の魔力障壁は形成した障壁に魔力を込めることでも強度を上げることができる。

 なので、こうして二方向から攻撃することによって込める魔力を分散させて、その強度を落とすことができるのだ。


「チッ……仕方無いか」


 隊長の女は前方の魔力障壁を維持したまま後方にも魔力障壁を張って、両方に魔力を込める。


「がっ!?」


 だが、その瞬間隊長の女は何故か上から衝撃を受けた。

 何かと思って一瞬視線をそちらに向けると、それは闇魔法によるものだった。

 彼女は気付いていなかったが、実は二か所からの同時攻撃ではなく三か所からの同時攻撃だった。


 エリサは魔力領域を展開しているので、その範囲内であればどの地点からでも魔法を発動させることができる。

 なので、最初の魔法陣を展開すると同時に、上にももう一つ魔法陣を展開していたのだ。


「まああなたはこの程度だったということね」

「っ!?」


 さらに、魔力障壁が破られてエリサの炎を纏った拳と最初に放った火魔法が直撃する。

 エリサが最初に使った火魔法は炎を圧縮することで火力を上げるというもので、攻撃範囲を狭めることで火力に特化させた魔法だった。

 なので、中途半端な魔力障壁では防ぐことができなかった。


 また、エリサは前後を挟むようにして攻撃しているが、火魔法の範囲を前方一メートルになるように術式を調ので自身が巻き込まれることは無い。

 この魔法は本来はもう少し攻撃範囲が広いのだが、術式の内容を少し調整することで自身が巻き込まれないようにしたのだ。


「ぐ……ぁ……」


 圧縮された紅蓮の炎が隊長の女を焼き尽くす。

 そして、炎が消えた後に残されたのは真っ黒に黒焦げた焼死体だけだった。


「案の定大したことは無かったわね。ひとまず、レジスタンスのところに戻りましょうか」


 そして、制圧部隊が片付いたところで連絡をして、そのままレジスタンスの元に戻った。

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