episode101 飛空船の修理

「ようやく一息つけるな」

「だね」


 エリサに操縦のやり方を教えてもらった俺が飛空船を操縦して、人気ひとけの無い森の中に着陸した。

 操縦は思っていたよりも簡単で、教えてもらわなくともできたのではないかとさえ思うほど簡単だった。


「それで、この後はどうするつもりなの?」


 アーミラが血の付いていない椅子を選んで、そこに座りながら今後の方針を聞いて来る。


「…………」

「……? どうしたの?」


 と、ここでアーミラは俺が何かを気にした様子で彼女のことを見ていたことに気付いたらしい。


「……いや、何でもない」


 返り血で既に体中が血だらけなのに、今更血の付いていない椅子を選ぶ意味はあるのかと思っただけだ。

 別に大したことではないので、気にしないことにする。


「そうだな……一つ聞くが、アーミラは空間魔法でこの船を収納できるか?」

「アタシには無理かな。アタシは空間魔法の適性が高いわけじゃないし」

「そうか」


 この大きさの物は俺達にも収納できないので、少し方法を考える必要がありそうだ。


「でも、エリサなら収納できると思うよ」

「そうか。……結局、エリサを呼ぶことにはなりそうだな」


 方法を考えてみるものの、空間魔法で収納して運ぶ以外の選択肢は無さそうなので、結局エリサを呼ぶことにはなりそうだ。


「ひとまず、俺はエリサに連絡してみる。その間にシオンは敵の持っていた荷物の整理をしておいてくれ」

「分かったよ」

「アーミラはそこの川で水浴びでもして、返り血を洗い流して来い」

「分かったよ」

「では、各自行動に移ってくれ」


 そして、方針が決まったところで各自行動に移った。シオンは死体を調べ始めて、アーミラは外に出て川に向かう。


「さて、俺も行動に移るか」


 二人が行動に移ったのを確認したところで、俺も行動に移ることにした。端末を操作してエリサに連絡をする。


「今話せるか?」

「ええ、話せるわよ。連絡して来たということは、そちらは片付いたということかしら?」

「ああ。それで、一つ話があるのだが良いか?」


 早速、本題に入ることにする。


「何かしら?」

「奴らの乗っていた飛空船を鹵獲することに成功したのだが、俺達では運べそうになくてな。それで、エリサに空間魔法で収納して運んで欲しいのだが、良いか?」

「そうね……今日はレジスタンスの訓練があるから明日以降になるわね」

「分かった。いつ迎えに行けば良い?」

「そうね……それはこちらから連絡するわ」

「分かった。では、それまでの間は俺達はこちらでできる限りのことをしておく」

「分かったわ」


 そして、話が済んだところで、通信を切った。


「それで、どうだったの?」


 その様子を見ていたシオンがどうだったのかを聞いて来る。


「都合が良いときに向こうから連絡するとのことだ」

「分かったよ」

「俺も整理を手伝うぞ」


 俺の方の用は済んだので、シオンの方を手伝うことにする。


「うん、お願い」


 そして、エリサへの連絡を済ませたところで、シオンと共に暗殺者達が持っていた荷物の整理を進めた。






 それからしばらくしたところで、アーミラが水浴びを終えて戻って来た。


「エリサの方はどうだったの?」

「都合が良いときに向こうから連絡するとのことだ」


 シオンに聞かれたときと同じ答えを返す。


「分かったよ。それで、連絡が来るまではどうするの?」

「船内の清掃と修理だな」


 船内は血の海と化しているので清掃する必要があるのと、壁も壊してしまったので直す必要がある。


「と言うことで、二人は船内の清掃を頼む」


 そして、倉庫にあった清掃用具を二人に渡した。


「えー……面倒だしエリュがやってよ」

「アタシもー」


 しかし、二人はそう言って清掃用具を返して来る。


「……俺は錬成魔法で壁を直す。清掃は二人でしてくれ」


 だが、俺は錬成魔法で壁用の素材を作る必要があるので、清掃にまでは手が回らない。そのまま清掃用具を突き返す。


「それとも、二人が壁の建材を作ってくれるのか?」

「エリュが清掃と壁の修理をすれば良いんじゃない?」

「……その間二人は何をするつもりなんだ?」

「ゆっくり休んでおくよ!」

「…………」


 そして、俺はシオンの顔面に向けて無言で膝蹴りを叩き込んだ。

 もちろん、怪我をしないように加減はしている。


「痛ぁ!? 何すんの!?」

「……とにかく、清掃は任せた」


 このままでは埒が明かないので、シオンに清掃用具を無理矢理押し付ける。


「暴力は良くないよ!」


 シオンが訴え掛けて来るが、当然スルーだ。付き合っても仕方無いからな。


「アーミラも頼んだぞ」

「アタシはさっき活躍したし、休んでも良いよね?」

「……アーミラも頼んだぞ」


 もちろん、アーミラにも清掃はやらせるつもりだ。彼女にも清掃用具を無理矢理押し付ける。


「ねえ、アタシの話聞いてた?」

「ああ、聞いていた。その上で清掃を頼むと言っている……って、痛ぁ!?」


 だが、アーミラはここで俺の頭を掴んで来た。


「アタシは仕事したから良・い・よ・ね?」


 そして、俺の目の前にまで顔を寄せて威圧して来るが、ここで退くつもりは無い。こちらも頭を掴み返す。


「ちょっと! 何するの!」

「うぐっ!?」


 だが、アーミラは俺の腕を振り解いて、思いっ切り俺の顔面を殴り付けて来た。


「いって……おい、何故、殴った!」

「だって、アタシの髪掴んだじゃん!」

「それはそちらが先に掴み掛かって来たからで……」

「アンタがアタシの言うことを聞かないからでしょ!」

「……それはこちらのセリフなのだが?」

「そもそも、か弱い少女に掴み掛かるなんて、人としてどうなのよ!」

「……か弱い?」


 どう考えても暗殺者集団をほとんど一人で殲滅した人が言うセリフではない。


「そうだよ、エリュ! 責任取ってエリュが全部やってよね!」


 さらに、ここぞと言わんばかりにシオンが話に加わって来る。


「……むがああぁぁーーっ!」


 そして、二人の我儘にこらえきれずに机に頭突きをかました。それによってその机が砕け散る。


「ちょっとエリュ!? どうしたの!?」

「……今すぐにエリサをここに呼びたい」


 俺にはこれを纏められる気がしない。シオンはともかく、アーミラは無理だ。


(エリサはよくこんなのを纏められるな)


 エリサがいかに重要な役目を果たしていたかがよく分かる。


「エリュ、大丈夫?」

「……誰のせいだと思っている?」


 そして、シオンに横目で鋭い視線を向ける。


「……エリュ、怒ってる?」

「……逆に聞くが、そうでないと思うか?」


 その質問には答えるまでも無い。流石に言わなくとも分かるはずだ。


「エリュ、ごめんって! そんなに怒らないで!」

「だったら、初めから素直に言うことを聞け!」


 後から謝って言うことを聞くぐらいなら、初めから言うことを聞いてくれ。


「では、俺は修理用の木材を採りに行って来る。水はキーラに取りに行かせるので、それまでに準備を整えておいてくれ」

「分かったよ」

「アーミラも頼んだぞ」

「えー……」


 アーミラは露骨に嫌な顔をしていて、清掃に参加する気は無さそうだった。


「……シオン、アーミラにも清掃に参加するように言っておいてくれ」

「ボクが?」

「別に清掃を一人でやりたいと言うのであれば構わないが?」

「……分かったよ」


 そう言われて、シオンは渋々それに了承した。

 そして、船内の清掃を二人に任せたところで、木材を採りに外へと向かった。






「全く……人を纏めるのは楽ではないな」


 まさか、こんなところで苦労することになるとは思っていなかったな。

 まあ苦労はしたが、何とか二人を清掃に参加させることができたので、今回はこれで良しとする。


「キーラもそう思わないか?」

「キィ?」


 キーラにそう尋ねてみるが、その意味が分からなかったらしく、鳴き声と共に首を傾げるだけだった。


「……まあキーラに分かるわけがないか」


 こんなことを魔物に相談しても仕方が無いので、さっさと目的を果たしに行くことにした。


「キーラは川で水を汲んできてくれるか?」


 キーラに大きな容器をいくつか渡して、川に行くように指示する。


「キィッ!」

「それと、水が無くなったら補充も頼む」

「キィッ!」


 そして、指示を受けたキーラは素直に川へと向かった。


「……キーラは素直で助かるな」


 先程の二人とは違って、素直に言うことを聞いてくれるのは非常に助かるな。


「さて、俺も目的を果たすとするか」


 そして、キーラが川に向かったことを確認したところで、木材にするのに良さそうな木を探すことにした。






「……この木が良さそうだな」


 探し始めて数分したところで、木材にするのにちょうど良さそうな木を見付けた。早速、伐採に入ることにする。


「はっ……」


 そして、居合斬りで使えそうな木を次々と斬っていき、不要な枝を斬り落としてから空間魔法で収納していった。


「さて、こんなところか」


 これぐらいあれば壁の修理には十分なはずだ。

 そして、素材を確保したところで船に戻ることにした。






 船に戻ると、シオンとアーミラが船内の清掃をしていた。


「そちらは順調か?」

「うん」

「まあね」


 二人とも真面目に清掃をしているようなので、任せても大丈夫そうだ。


「とりあえず、水はキーラに取って来てもらうと良い。それと、休憩は適度に取れよ」

「分かったよ。エリュはどうするの?」

「採って来た木を加工して、修理に必要な建材を作る。二人は清掃を続けてくれ」

「おっけー」

「分かったよ」


 そして、錬成魔法を使うためにスペースがある倉庫へと向かった。






「やはり、ここが良さそうだな」


 倉庫にはあまり荷物が無く、それなりにスペースがあるので、錬成魔法をするのにはここが良さそうだった。


「……さて、これを使うか」


 そして、ここでルミナからもらっていたある道具を使った。

 すると、錬成魔法を使うのに必要な簡易的な施設が目の前に展開された。


 この道具は空間魔法を使った道具で、使うと錬成魔法をするのに必要な施設が展開されるという物だ。これがあれば外出先でも錬成魔法を使うことができる。

 簡易的な施設なので難易度の高い錬成はできないが、今回は簡単な錬成なので問題は無い。


「さて、早速作業に入るか」


 空間魔法で収納しておいた木を取り出して、釜に魔法水をそそぐ。


「まずは樹皮を取り除くか」


 木材として使うのはもちろん幹の部分で、樹皮の部分は不要だ。

 なので、まずは樹皮の部分を取り除くことにする。


 俺は採って来た木を釜に入れて、魔力を流して樹皮と幹を分離する。

 そして、分離が終わったところで固めておいた樹皮を取り除いた。


「これは……流石に使い道は無いか」


 流石にこの樹皮に使い道は無さそうなので、これは後で捨てておくことにする。


「さて、大きさは……」


 ここで端末のメモ機能を使って、事前にメモしておいた寸法を確認する。

 当然ではあるが、釜の大きさ的に最初から一枚の板にすることはできない。

 なので、何枚かの板を繋ぎ合わせて一枚の板にするつもりだ。寸法をメモしておいたのはそのためだ。


 そして、寸法を確認したところで、魔力を流して変形させていく。


「こんなところか」


 それが終わったところで釜から完成品を取り出す。


「寸法は……問題無いな」


 寸法を確認したが、問題無くできていた。


「後は防腐加工なんかの処理をすれば完成だな」


 このままだと建材として使うには問題があるので、少し処理を施す必要がある。

 ひとまず、板を釜に戻してからそこに専用の薬品を入れる。この薬品は木材加工の専用の薬品で、これを錬成魔法を使って馴染ませるだけで必要な加工を行える。


 そして、魔力を込めて木の板に薬品を馴染ませていく。


「こんなものか」


 加工が終わったところで取り出して出来を確認する。


「ふむ……問題無さそうだな」


 確認してみたが、加工は問題無くできていた。


「さて、後はこのまま作っていくだけだが……少し時間が掛かりそうだな」


 後はこれを繰り返していくだけだが、そこそこ量があるので少し時間が掛かりそうだ。


「まあやるしかないか」


 とは言え、清掃を二人に任せた以上俺がやるしかない。

 そして、その後は黙々と壁の建材用の板の作製を続けたのだった。






 俺は壁の建材用の板の作製が終わったところで、二人の様子を見に来た。


「だいぶ綺麗になったな」


 二人の清掃のおかげで船内はだいぶ綺麗になっていた。まだ汚れは残っているが、これならもうすぐ終わりそうだ。


「でしょ? エリュの方はもうできたの?」

「ああ。もういつでも壁の修理に移れるぞ」


 こちらは必要な物を全て作り終わっていて、準備万端だ。


「じゃあもう少し待ってて。こっちもすぐ終わらせるから」

「いや、俺も手伝うぞ」

「良いの?」

「ああ。どうせ手が空いているからな」

「分かったよ。それじゃあお願い」

「ああ」


 そして、俺も二人の清掃に加わって仕上げに入った。






 清掃が終わった後は休憩も兼ねて船内が乾くのを待った。


「そろそろ良さそうだな」

「だね」


 清掃で濡れていた船内はもう乾き切っていて、もう次の工程に移っても良さそうな状態だった。


「では、メモを確認しながら壁の修理を進めてくれ。くれぐれも間違えたりはするなよ?」

「分かったよ」

「アタシは?」

「アーミラは休んでおいてくれ。錬成魔法は使ったことが無いのだろう?」


 休憩中にアーミラは錬成魔法を使ったことがあるのかどうかを聞いておいたが、残念ながら彼女は錬成魔法を使ったことが無いとのことだった。

 錬成魔法を使ったことが無い彼女は壁の修理には参加できないので、このまま休んでおいてもらう。


「分かったよ」


 そして、アーミラは休憩するために空いている倉庫へと向かった。


「さて、そろそろ始めるか。修理に必要な建材はここに置いておくぞ」


 早速、空間魔法で収納しておいた建材を取り出す。


「ボクは後ろ側から修理するね」

「分かった。では、俺は前方から修理する」


 そして、二手に別れて壁の修理に取り掛かった。

 使う板を間違えないように注意しながら置いて、それを錬成魔法を使って接合していく。変形させる錬成魔法を使って接合するだけなので、修理自体は簡単だ。


(これも少々時間が掛かりそうだな)


 簡単な作業ではあるが、これも少々時間が掛かりそうだ。

 そして、その後はシオンと共に黙々と作業を続けたのだった。






「ふぅ……終わったな」

「だね」


 それからしばらくしたところで作業が終わって、壁の修理が完了した。


「これでようやく休めるね」

「そうだな」


 そして、休憩室の椅子に座って一息つく。


「あ、できてるじゃん!」


 と、そこでアーミラが部屋に入って来た。


「どうだ?」

「まあ良いんじゃない?」

「そうか……む?」


 と、そのとき端末に着信が入った。

 確認すると、それはエリサからのものだった。ひとまず、エリサとの通信を繋ぐ。


「何だ?」

「そろそろ迎えに来てくれるかしら?」

「分かった。今から迎えに行く。俺とアーミラはこちらに残ってシオンに迎えに行かせるが、それで良いな?」

「ええ、それで良いわよ。街の外で待っているわ」

「ああ」


 そして、必要最低限の話だけをしてから通信を切った。


「シオン、聞いていたな?」

「うん。ボクが迎えに行けば良いんだよね?」

「ああ。頼んだぞ」


 別に俺が行っても良かったのだが、ここはシオンに行かせることにする。


「それじゃあ行って来るね」


 シオンは駆け足で甲板へと向かう。


「キーラ、行くよ!」

「キィッ!」


 そして、そこにいたキーラに乗って勢い良く飛び立って行った。


「それじゃあアタシはこのまま休憩室で休んでおくね」

「いや、その前に少し手伝ってくれるか?」

「手伝うって、何を?」

「夕食の準備だ」


 アーミラに手伝ってもらうのは夕食の準備だ。

 二人がこちらに着く時間は夕食にはちょうど良い時間だ。

 なので、今日の夕食は保存食ではなく、普通に料理を作るつもりだ。


「それは良いけど、エリュって料理できるの?」

「まあ多少はな」


 ルミナの店では時折ミィナやリーサの手伝いをしているからな。簡単な料理ぐらいなら作れる。


「そうなんだ」

「では、キッチンに向かうか」

「分かったよ」


 そして、二人で船内にあるキッチンに向かって、夕食の準備をした。






「……来たな」


 甲板で周囲の警戒をしながら待っていると、シオンが戻って来た。


「帰ったか」

「ただいま、エリュ。わざわざここで待っててくれたの?」

「いや、ここで待っていたのは周囲の警戒も兼ねてだ。森には魔物もいるみたいだからな」


 大した魔物ではないが、森には魔物もいる。

 なので、周囲の警戒を怠るわけにはいかない。


「そうなんだ」

「それで、これが奪い取った飛空船のようね」


 そう言うと、エリサは船の外観を細かく見て回る。


「ああ」

「とりあえず、船内も色々と見てみるわね」

「分かった。俺はその間に夕食の準備を済ませておく」

「あら? わざわざ作ってくれたのかしら?」

「まあな。とりあえず、終わったら休憩室に来てくれ。そこで夕食にする」

「分かったわ。終わり次第すぐに行くわ」


 そして、エリサはそれだけ言い残すと、船内に向かった。


「さて、俺達は夕食の準備をするか」

「だね」


 そして、シオンと共にキッチンに向かって、夕食の準備をした。






 夕食の準備を終えて休憩室で待っていると、エリサが船内の状態を見終わって部屋に入って来た。


「来たな。とりあえず、座ってくれ」

「ええ」


 そして、エリサが席に着いたところで、夕食を摂り始めた。


「意外にも料理を作れたのね」

「まあな」

「ルミナさんの店にいるときは大体いつも手伝ってるからね」

「そうだったのね」


 それを聞いて、納得したように軽く頷く。


「それで、船の状態を見ていたようだが、どうだったんだ?」

「船の性能としてはそれなりね。買おうと思ったらそれなりの額になると思うから、恐らく領主が提供していたのでしょうね」


 まあ確かに、領主ならこのぐらいは簡単に用意できるだろうからな。

 それに、この暗殺者集団は主力となる部隊だっただろうからな。色々と支援していてもおかしくは無い。


「と言うことは、売ったらそれなりの値段になるってことだよね?」

「まあそうなるわね。問題は買ってくれる人がいるかどうかだけど」


 確かに、買ってくれる人がいなければ売ることはできない。それは当然のことだ。


「どこか適当な商会に売れば良いのではないか?」


 だが、個人で買う者がいないのであれば、商会に売れば良いだけの話だ。


「出所不明の飛空船を買ってくれる商会があるのであれば、それが良いかもしれないわね」

「……それもそうだな」


 エリサの言う通りに、正規の商会が出所不明の物を取引してくれるのかどうかと言えば怪しいところだ。


「と言うか、売ることは確定なのか」

「そうね。私達にはもっと良い移動手段があるから、正直、飛空船は必要無いわね」

「それもそうだな」


 実際、魔物に乗って移動した方が早いしな。エリサの言うことは尤もだ。


「まあ売り先は事が済んでから探すわね」

「ああ。悪いな、手間を取らせて」

「どうせ盗賊団から手に入れた物の売り先も探す必要があったし、大して手間は変わらないわ」


 そう言えば、そんな物もあったな。完全に忘れていた。


「そうか。ところで、レジスタンス達の訓練は順調か?」

「ええ。この調子なら一週間もあればある程度実戦での活用もできるようになるわね」


 一週間でその段階まで行けるのであれば十分だ。決起にも間に合うはずだ。


「一週間でそこまでできるようになるの? ボク達は一か月も掛ったけど?」

「あなた達の場合は実戦での活用という段階を超えて、完璧な魔力のコントロールができるまで修行したからよ」

「なるほどね」


 まあ俺達もある程度魔力のコントロールができるようになる程度であれば、初日の段階でできるようにはなっていたしな。


「さて、必要な話はこのぐらいか」

「そうね」

「とりあえず、食べ終わった者から食器をキッチンに持って来てくれ。洗い物が片付き次第出発するぞ」

「はーい」

「分かったよ」


 そして、その後は全員の食事が終わって洗い物が片付いたところで、エリサが空間魔法で飛空船を収納して、キーラに乗ってアインセルの街まで戻った。

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