episode102 レジスタンスへの提案

 翌日、エリサは昨日と同様にレジスタンス達の訓練をしていた。


「訓練は順調なようだな」

「みたいだね」


 俺達はその様子を少し離れたところに設置したベンチに座って眺める。

 昨日エリサが言っていたように訓練は順調なようで、今のところは特に詰まった様子は見られない。


「あれ? 何かみんながこっちに来るよ」

「どうやら、休憩のようだな」

「みたいだね」


 どうやら、休憩の時間になったらしく、全員が訓練を止めてこちらの方に歩いて来た。


「お疲れー」

「飲み物はその箱の中にある。自由に取ってくれ」


 俺達は休憩しに来たレジスタンスのメンバーに飲み物を配る。


「エリサもいるか?」


 エリサにも忘れずに飲み物を渡す。


「私はまだ良いわ」

「そうか」

「じゃああたしがもらっておくね」

「あ、おい!」


 そして、飲み物を箱に戻そうとしたが、アーチェにそれを横から掻っ攫われてしまった。


「あれ? ダメだった?」

「いや、別にその飲み物を飲むのは構わないが、いきなり取るのは止めてくれないか?」

「そうだよアーチェ。普通に取れば良いのに、何でそんな取り方をするの?」


 そこにマイアが来て、アーチェを睨みながら注意するように言う。


「何でって言われても……何と無くかな?」


 しかし、アーチェに反省の様子は見られない。


「ったく、アーチェは相変わらずだな」


 そこにリメットがやって来る。


「リメットか。そちらも順調か?」

「まあな」

「リメットとあたし達は別メニューだよね」

「そうなのか?」

「ええ。魔力のコントロールの基礎練習が必要無さそうなメンバーは別メニューにしているわ」


 まあ少なくともこの三人に魔力のコントロールの基礎練習は必要無さそうだったしな。

 事前に言っていた通りにそれぞれの実力に合わせて内容を調整しているらしい。


「……なあ、エリュ、エリサ、少し話があるのだが良いか?」


 と、ここでリメットが真剣な表情をしながらそんなことを聞いて来た。


「何だ?」

「何かしら?」

「少しこっちに来てくれるか?」


 そう言って少し離れたところにある一本の木の辺りを親指で指差す。

 どうやら、内密に話したいことがあるようだ。


「分かった」

「分かったわ」


 そして、三人だけでリメットに指定された場所に移動した。


「とりあえる、座ると良いわ」


 木陰に移動したところで、エリサが空間魔法でベンチを取り出してその場に置く。


「分かった」

「ああ」


 そして、俺とエリサはリメットを挟むようにして両端に座った。


「……飲み物はいるか?」

「ああ、頼む」


 ひとまず、持って来ておいた飲み物をリメットに渡す。


「それで、話とは何なんだ?」


 席に着いたところで、早速、話に入る。


「……単刀直入に聞こう。お前達は一体何者なんだ?」


 そして、何の話をして来るのかと思ったら、そんな質問をして来た。

 確かに、これ以上に無い単刀直入な質問だな。


「別に何者でも無い。ただの旅人だ。最初にも言ったが、大した者ではない」

「あたしが聞きたいことはそういうことではない。ちゃんと答えてくれ」

「……別に嘘ではないのだがな」


 別にこれは嘘では無い。俺達はどこの組織にも所属していない、気の向くままに動くただの旅人だ。

 だが、彼女が聞きたいことがそんなことでは無いことぐらいは分かっている。


「まあそうだな……この国が今の体制だと都合が悪い人物、とでも言っておけば良いか?」

「…………」


 質問に答えるが、満足の行く答えではなかったのか、その表情は険しいままだ。


「……それで、あたし達を利用してこの国の体制を崩そうということか?」

「まあそういうことになるな」


 恐らく、彼女は俺達にその正体を見抜かれていることに気付いているはずだ。

 最早、隠しても意味は無いので、ここは包み隠さずに話すことにする。


「……あっさり認めるんだな」

「まあな。どうせ気付いていたのだろう?」

「薄々はな」

「まあ別に互いに利があることだし悪くは無いだろう。あまり気を悪くしないでくれ」

「……ああ」


 本人はそう言っているが、その声色で分かる。これは少しだけではあるが怒っているな。


「まあそう怒らないでくれ。それで、今後はどうするつもりなんだ?」

「特に対応を変えるつもりは無い。今後とも今まで通りでいてくれ」


 そのことを理解した上で今後も取引をしてくれるというのは助かるな。こちらとしてもやりやすい。


「そうか。必要とあらば協力するぞ?」

「そうだな……武器のことに関してだが、また頼んでも良いか?」

「ああ、構わないぞ。どんな武器が欲しいんだ?」

「今回買うのはあたしに合った武器だ」

「ほう? 今回は性能が良い物にするのか」


 今までは質より量を求めていたが、趣向を変えて来たな。

 ひとまず、その理由を聞いてみる。


「エリサに自分に見合った武器に変えた方が良いと言われたからな」

「なるほどな」


 まあそれならば納得だな。

 リメットは魔力のコントロールが十分できていて、その段階にまで達しているからな。エリサなら自分に合った武器を使うことを勧めるはずだ。


「それでエリサ、彼女に合いそうな武器に見当は付けているのか?」

「ええ。彼女に合いそうなのはこれね」


 そう言うと、エリサは空間魔法で一本の大剣を取り出す。


「む? これは確か……」


 だが、その大剣には見覚えがあった。

 そう、これは暗殺者集団のメンバーの一人が持っていた物だ。奴らの荷物を整理していたときに見たので間違い無い。


「ええ、彼らが持っていた物よ」

「そうか」

「彼ら?」


 そう聞いたリメットが首を傾げる。


「ああ、昨日ちょっとな」

「何かあったのか?」

「例の暗殺者集団がアインセルに向かって来ているという情報を入手してな。それで、昨日奴らを迎え撃って殲滅したのだが、これはそのときに手に入れた物だ」

「奴らを殲滅したのか?」

「ああ。まあ俺はほとんど何もしなかったがな」


 ほとんどアーミラ一人で片付けてしまったからな。俺とシオンが出る幕も無かった。


「奴らはかなりの実力者だと聞いたが、それを殲滅したと言うのか?」

「ああ。まあほとんどアーミラが一人で片付けたからな」

「……それをたった一人でか?」


 どうやら、俺達だけで奴らを殲滅したということを信じられていないらしい。


「ああ。言っておくが、アーミラは俺達の中で一番強いぞ?」


 俺達と言うのは、もちろんこちらに来ているメンバーの中での話だ。


「そうだったのか」

「さて、その話はそこまでにして、とりあえずこの大剣を試してみてはどうかしら?」


 ここでエリサが話を切って、持っていた大剣を差し出す。


「そうだな」

「自由に振り回してもらって構わないわ。壊れることは無いはずよ」

「分かった」


 リメットはエリサから大剣を受け取ると、魔力を込めて振り回して使用感を確かめる。


「どうだ?」

「確かに、今まで使っていた物とは全然違うな」

「これで分かったと思うけど、武器は実力に見合った物を使うべきよ」

「どうやら、そのようだな」


 エリサの言う通り、実力に見合った武器を使うことは重要だ。そうしなければ本来の実力を発揮できないこともあるからな。


「それで、この大剣はいくらなんだ?」


 そして、俺にその値段を聞いて来る。


「……エリサ、どのぐらいなんだ?」


 だが、俺には値段が分からないので、エリサに聞いてみることにする。


「大体五百万セルトぐらいね」

「……そんなにするのか」

「まあこれでも安い方ね」


 確かに、五百万であれば安い方だ。高い物は億単位の値段になるからな。


「まあ今回はサービスしておいてあげるわ。遠慮無く受け取りなさい」

「受け取れって……タダで良いってことか?」

「ええ、そうよ」

「良いのか? 五百万もするのだろう?」

「私達にとってはすぐに稼げる額だから問題無いわ。まあ私達からの後援だと思って受け取りなさい」

「……分かった。では、ありがたく受け取っておこう」


 リメットは少々納得していないようだったが、そのまま渡された大剣を受け取った。


「ところで、戦力を集めているのは良いが、今の政府を打ち倒せる算段はあるのか? どう考えても戦力不足のように思えるが?」


 戦力は順調に蓄えられているようだが、それでも今の政府を打ち倒せるほどの戦力があるとは思えない。

 少なくとも、正面衝突になるとレジスタンス側に勝ち目は無い。


「まあそれはまだ考えているところだ」

「そうか。……そのことで後で話をしてみないか?」

「話を?」

「ああ。何か協力できることがあるかもしれないからな」


 レジスタンスの情報を得られればこちらも動きやすいし、向こうに合わせて動くこともできるからな。是非とも話をしたいところだ。


「そうだな……まあ考えておこう。後で連絡する」

「分かった。別に急がなくて良い。ゆっくり考えて決めてくれ」


 この提案を受けるということは、俺達のことを完全に信用するということだ。そう簡単には決められないことだろう。

 なので、ここはじっくりと考えた上で決めてもらうことにする。


「ああ、そうさせてもらう」

「さて、そろそろ訓練に戻るわよ」

「分かった。と言うことで、あたしは訓練に戻るぜ」

「分かった」


 そして、リメットはエリサに連れられて訓練に戻って行った。






「夕方だね」

「そうだな」


 レジスタンス達が訓練をしている隣で基礎訓練をしていると、気付けば夕方になっていた。


「レジスタンス達の訓練も終わったようだな」

「だね」


 見ると、レジスタンス達の訓練がちょうど終わったところのようだった。それぞれベンチに座って飲み物を飲みながら休んでいる。


「俺達もここで切り上げるか」

「だね」


 俺達も今日のところはここで切り上げることにした。武器を片付けてベンチに座って休憩を取る。


「お疲れ様」


 そして、ベンチに座って休憩に入ったところでエリサが飲み物を渡して来た。


「助かる」

「ありがとー」


 礼を言いつつ飲み物を受け取って、そのまま口を付ける。


「お前達も訓練をしていたようだな」


 と、そこにリメットが飲み物を片手にやって来て声を掛けて来る。


「まあな」

「基礎訓練は欠かさないからね」

「そうなのか」

「それで、何の用だ?」


 彼女はただ歓談しに来たわけではないはずだ。早速、その用件を尋ねてみる。


「ああ。明日この時間にここに来てくれないか?」


 リメットはアインセルの街の地図を取り出して、場所と時間を指定して来る。


「……決めたようだな」


 どうやら、俺達と話をすることにしたらしい。


「ああ。待っているぞ。分かっているとは思うが、気付かれないように気を付けてくれ」

「分かった」

「では、また明日会おう」


 そして、リメットはそれだけ言い残すと、他のレジスタンスのメンバーの元へと向かった。


「それじゃあ街に戻りましょうか」

「ああ」

「だね」


 そして、その後は後片付けを済ませてからレジスタンス達と共に街に戻った。

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