episode100 暗殺者集団への強襲
翌日、シオンとアーミラを連れてローハイトの方に向かっていた。
と言うのも、アデュークからソドマニア家に付いている例の暗殺者集団に動きがあったと連絡があったからだ。
ちなみに、レジスタンス達の訓練はエリサが担当することとなった。
結局、訓練は彼女一人で大丈夫そうだったからな。監督を彼女に一任して俺達はこちらの方を片付けに来たのだ。
「確か、飛空船に乗って来てるんだよね?」
「ああ」
アデュークからの情報によると、暗殺者集団は飛空船に乗ってアインセルに向かって来ているとのことだった。
どうやら、俺達がアインセルに来ていることを掴んで、奴らを送り込んで来たらしい。
ちなみに、飛空船というのはその名の通り空を飛ぶ船で、普通の船に空を飛ぶための機構が付いているような感じの物だ。
「飛空船は墜としちゃって良いんだよね?」
「ああ」
飛空船には奴らの関係者しか乗っていないらしいからな。墜としてしまっても問題無い。
「だが、折角なのでできれば飛空船をそのまま頂きたいな」
墜としてしまっても良いのだが、折角の機会なので飛空船を奪い取ってしまいたいところだ。
「奪い取って何に使うつもりなの?」
「特に用途は考えていない。だが、持っておいて損は無いだろう。必要無いのであれば売れば良いしな」
用途が無くとも売ればそれなりの値段になるはずだからな。奪っておいて損は無いはずだ。
「それもそうだね。できるだけ壊さないように気を付けるよ」
「ああ、そうしてくれ」
アーミラが本気を出すと飛空船ぐらいは簡単に墜ちるだろうからな。彼女にはできるだけ加減してもらう必要がある。
「ところで、高度はこのぐらいで大丈夫なのか?」
「うん。この高度なら飛空船の高度よりも遥かに高いから、向こうには気付かれないと思うよ」
「分かった。……さて、向こうの出発した時間から考えると、そろそろこの辺りに来るはずだが……あれか?」
望遠鏡で下の方を見ていると、一台の飛空船が飛行しているのが確認できた。
「アデュークが付けておいた目印もあるから間違い無さそうだね」
「そうだな。ひとまず、奴らの様子を確認するぞ」
「うん」
まずは敵の様子を探るために、このまま上空から望遠鏡で様子を見てみることにした。
甲板にいるのは三人で、見たところ近接タイプのようだ。甲板にいるのはこの三人だけなので、他のメンバーは中にいるようだ。
「アーミラ、他の敵の位置に見当を付けられないか?」
「普通に操縦室と休憩室にいるんじゃない?」
「俺は飛空船に乗ったことが無いのでな。その場所を教えてくれるか?」
もちろん、俺達は飛空船に乗ったことが無いので、その構造には詳しくない。
なので、ここはアーミラに聞いてみることにする。
「操縦室は船の先端付近で、休憩室はその近くだね。船によってその面積は変わるけど、船の前の方は人がいる場所で、後ろの方は荷物とか浮遊機構なんかがある場所だね」
「そうか」
つまり、敵は前の方にいるということか。
「それで、どうするの?」
「まずは先制攻撃で甲板にいる三人を仕留める。闇魔法で姿を消した状態で降下して先制攻撃を仕掛けるぞ」
「分かったよ」
「では、少し場所を調整するぞ。キーラ、もう少し前に行ってくれ」
「キィッ!」
そして、落下するとちょうど飛空船の上に着地できるように位置を調整する。
「このあたりが良さそうだな。キーラは上空で待機していてくれ」
「キィッ!」
「さて、二人とも準備は良いか?」
「うん」
「大丈夫だよ」
「では、行くぞ」
そして、闇魔法で姿を隠してから飛空船に向かって飛び降りた。
飛び降りたところで俺とシオンは刀を抜刀して構え、さらに落下の勢いを弱めるための風魔法を準備する。アーミラは爪を装備して魔法を準備する。
「アタシが最初に行くからそれに続いて」
「分かった」
「分かったよ」
「じゃあ行くよ!」
そして、アーミラの合図と共に一斉に仕掛けた。
アーミラの目が妖しく赤く光ったかと思うと、彼女の周囲に十個ほどの魔法陣が現れて、そこから何十本もの赤い鎖が放たれた。
彼女には魔力を使って自身の血を操る能力があるので、恐らくこれは自身の血で作った鎖だろう。
「ぐわっ!? 何だ!?」
そして、その鎖で甲板にいた三人の敵を拘束した。
「斬る……」
「えいっ!」
拘束されて動けなくなった敵を俺とシオンは刀で、アーミラは爪で斬り裂く。
「がっ……」
暗殺者達は拘束されていたので、その攻撃を防ぐことができずにあっさりと斬り伏せられた。
「次に行くよ!」
「ああ!」
「うんっ!」
今の音で気付かれた可能性があるので、状況を把握される前に片付けることにする。
「アタシが仕掛けるから、それに続いて!」
「分かった」
「分かったよ」
アーミラが何十個もの魔法陣が展開して、そこから先程の物と同じ鎖を放つ。
先程とは魔法陣の数が全然違うので、鎖の数も先程とは比べ物にならないぐらい多い。
そして、彼女の放った鎖は甲板を貫いて船の内部を攻撃した。
「ぐわーーっ!?」
「何だ何だ!?」
突然の襲撃で船の内部は混乱する。
「それじゃあ行くよ!」
そして、その間に甲板を割って船の内部に入った。
「まともに動けそうにないな……」
船の内部はアーミラの放った鎖が張り巡らされていて、あまり自由に動くことができない状態になっていた。
「まだまだ行くよ!」
内部に入った直後、アーミラは目の前に魔法陣を展開した。
すると、魔法陣から闇魔法による黒い針のようなものが飛び出して、船の前半分にある壁を全て破壊した。ついでに何人かの暗殺者も仕留めている。
「見えてるこれで全員だよ」
「分かった」
どうやら、敵は今視界に映っているこれで全員らしい。
(思っていたよりも多いな)
俺達を狙っているのは精鋭メンバーのはずなのでそんなに数は多くないと思っていたのだが、そんな予想に反して敵は全部で三十人近くいた。
(……む? あいつは確か……)
だが、そのメンバーの中に見覚えのある人物がいた。
そう、最初に俺達を襲撃して来た人物だ。襲撃メンバーからは外されたはずなのだが、何故か彼らはここにいた。
(いや、もしかすると例の暗殺者集団のメンバーはここにいるのが全員か?)
精鋭メンバーがこれだけ多いとは思えないし、組織の規模から考えるとこれで全員という可能性が高い。その理由は分からないが、精鋭メンバーだけでなくメンバー全員で行動しているようだ。
だが、それならかなり都合が良い。ここで組織を殲滅させられるからな。
「おい、こいつらは依頼されていた奴らじゃねえのか?」
ここで暗殺者集団のメンバーの一人が俺達が何者であるのかに気が付いた。
「
「しかも、全員いるときに来てくれるなんて、ついてるわね」
思った通り、組織のメンバーはこれで全員のようだ。
「それは良いが、あの女は誰だ? あいつは知らねえぞ?」
あの女というのは、もちろんアーミラのことだ。彼らは彼女のことは知らないので、それも当然の反応だろう。
「誰だかは知らんが、我らに仇為すのなら始末するのみだ」
「と言うか、あいつ背中に何か付いてないか?」
と、ここでメンバーの一人が彼女の背中に翼があることに気が付いた。
街中では翼を隠すためのケープを着けているのだが、今はそれを着けていない。
なので、普通に翼が見えている。
「……
どうやら、彼らはアーミラを生け捕りにするつもりらしい。
まあその余裕があるのかどうかは知らないがな。
「じゃあアタシは適当に暴れておくね」
「ああ。一応言っておくが、気を付けろよ」
「分かってるよ」
そして、アーミラは真っ直ぐと敵に突っ込んで行った。……自身で張り巡らせた鎖を無視して。
(……大丈夫か?)
このまま突っ込むと自身の鎖に引っ掛かってしまうが、アーミラはそんなことを一切気に留めることなく、そのまま突っ込んで行った。
だが、ここで予想だにしないようなことが起こった。
何と、アーミラが鎖に触れたかと思うと、そのまま鎖をすり抜けたのだ。
(いや、すり抜けたわけでは無いようだな)
その様子をよく観察してみると、どうやら鎖をすり抜けたというわけでは無く、触れた部分のみを吸収して通過した後に再生成しているようだった。
「それじゃあ行くよ!」
そして、アーミラはそのまま次々と敵を薙ぎ倒していく。
張り巡らされた鎖によって行動が大きく制限されている暗殺者集団に対して、アーミラはこの中を自由に動き回ることができる。
加えて、元々の実力差もあるので一方的な展開になっている。
「こんな鎖……おらっ!」
暗殺者の男が鎖を斬ろうと剣を振り下ろすが、鎖は斬れなかった。
(鎖は意外に丈夫なようだな)
恐らく、この鎖は魔力に応じて強度が増すのだろう。
なので、メンバーの中でも実力の低いこの男には斬ることができなかった。
「ならこれで……おわっ!?」
暗殺者の男は鎖を飛び越えようとして鎖に手を掛けたが、その瞬間に鎖が溶けるようにして崩れてしまった。アーミラの血は自身の意思でいつでもその形を自在に変えることができるので、こういった芸当も可能だ。
そして、鎖に体重を乗せようとしていた暗殺者の男はそのままバランスを崩して倒れた。
「……撃つ」
俺はそこをすかさず魔法弓で攻撃する。
「がっ……」
俺の放った矢は男の頭部を正確に捉えて貫いた。
(……アーミラ一人で全て片付きそうだな)
俺達が魔法弓で援護はしているが、アーミラだけで全て片付きそうな勢いだ。それほどまでにこの戦いは圧倒的だった。
アーミラは船内を高速で跳び回りながら装備した爪や刃状に変形させた血で敵を斬り裂き、範囲の狭い火力に特化した魔法で敵を消し飛ばしていく。それを俺達は魔法弓で援護して補助する。
そして、その圧倒的な力で蹂躙していき、気付けば全てが片付いていた。
「終わったな」
「だね」
「まあ楽勝だね」
アーミラがそう言って右手を前方にかざすと、張り巡らせていた鎖がその右手に吸い込まれていった。
結局、ほとんどアーミラが片付けてしまったので、俺達の出番はほとんど無かった。俺達のしたことと言えば後方からの援護ぐらいだが、それすら必要無かったように思える。
「ところで、船の操縦はしなくても大丈夫なの?」
シオンが誰もいなくなった操縦室を見ながらアーミラにそんなことを尋ねる。
確かに、操縦者も含めて敵は殲滅してしまったので、もう船を操縦する者がいない。
なので、今は誰も船の操縦をしていない状態だ。
「多分、自動操縦になってると思うから、大丈夫だと思うよ」
「そうなの?」
「うん。普段は自動操縦にしておいて、何かあったときは手動に切り替えるっていうのが普通だから」
「そうなんだ」
どうやら、船は自動操縦になっているので、操縦する必要は無いらしい。
「アーミラ、念のため自動操縦になっているのかどうかを確認してくれるか?」
「分かったよ」
飛空船に乗ったことが無い俺達では分からないので、ここはアーミラに任せることにする。
「うん、船はちゃんと自動操縦になってるよ」
「そうか。手動での操縦はできるか?」
「うーん……アタシはやったことが無いから、できるかどうかは分からないかな」
「そうか」
つまり、手動での操縦のやり方を知っている者はここにはいないということか。
「でも、エリサなら操縦できるよ」
「エリサか……」
そう言われても、本人がここにいないのではどうしようもない。
「とりあえず、エリサに操縦のやり方を聞いてみて、それでダメならエリサを連れて来る。それで良いか?」
「ボクはそれで良いよ」
「アタシも」
「分かった。では、俺はエリサに連絡して操縦のやり方を聞いておくので、二人は着陸するのに良さそうな場所を探しておいてくれ」
「おっけー」
「分かったよ」
そして、方針が決まったところで、それぞれ行動に移った。
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