episode91 ローハイトへ!

 洞穴を出発して、二日目の昼にアインセルの街に着いた。

 道中は何度か魔物の襲撃があったぐらいで、特に大きなことは起こらなかった。


「それで、取引してくれる人は宿にいるんだよね?」

「ああ」


 取引してくれる人というのは、もちろんアデュークのことだ。

 アデュークにはこの街の宿で待機してもらっているからな。まずはそこに向かうことにする。


「では、行くぞ」

「はい」

「うん」


 そして、そのままエリサに指定された宿に向かった。






 宿に着いたところで、アデュークが泊まっている部屋へと向かった。


「この部屋だよね?」

「ああ」


 エリサに指定された部屋はこの部屋だ。

 ひとまず、部屋の扉をノックしてみる。


「来たか」


 すると、それを受けて部屋からアデュークが出て来た。


「この人が取引してくれるっていう人?」

「ああ、そうだ」

「とりあえず、中に入ってくれ」


 そして、アデュークに案内されたところで部屋に入った。


(他には誰もいないようだな)


 部屋は一般的な一人部屋で、部屋には他には誰もいなかった。

 どうやら、エリサとアーミラは別の部屋に泊まっているようだ。


「買い取って欲しい物を出してくれ」

「ああ」


 言われた通りに俺とシオンが空間魔法で収納しておいた買い取りに出す予定の物を取り出す。


「これで全部か?」

「ああ」

「査定は夜になる前には終わらせておく。夜になったらまた来てくれ」

「分かった。では、行くぞ」


 そして、アデュークに買い取りに出す物を渡したところで、部屋を出た。


「夜になったらこの宿に集合、それまでは各自自由ということで良いか?」

「良いですよ」

「良いよー」

「では、解散するぞ」


 そして、一時解散となったところで、マイア達は宿を出て行った。


「ボク達はどうする?」

「ひとまず、エリサに会いに行く」


 俺達の方は特にすることは無いが、何にせよまずはエリサに会ってからだ。何か指示があるかもしれないからな。


「……呼んだかしら?」

「……む?」


 隣の部屋から現れたのはエリサだった。

 どうやら、エリサ達は隣の部屋を取っていたようだ。


「ああ。この街でするべきことはあるか?」

「特に無いわね」

「そうか。それはそうと、例の盗賊団のことで一つ気になることがあったのだが良いか?」

「何かしら?」

「これを見てくれるか?」


 盗賊団の拠点にあった、ある一枚の資料をエリサに見せる。


「これは……取引の内容のようね」

「ああ、そうだ。盗賊団が取引していた物の内容だ。それで、見て欲しいのはこのあたりだ」


 そして、資料のある部分を指差す。


「その取引相手のことが気になるのかしら?」

「ああ」


 俺が気になったのはその取引相手だ。

 そこにはソドマニア家と書かれていた。取引相手は名前から察するに、貴族のようだった。


「あなたの思っている通り貴族よ」

「やはり、そうか」

「と言うか、ソドマニア家のことを知らないのかしら?」

「有名なのか?」


 そう言われても、俺達はこの国に来るのは初めてなので、この国の貴族のことはよく知らない。


「ええ。この国に住んでいる人なら知らない人の方が少ないと思うわ」

「そこまで有名なのか……」


 何者なのかは知らないが、どうやらかなりの有名人らしい。


「話を戻すけど、上流階級の者がそういうところと繋がりがあるというのは良くあることよ」

「そうなのか?」

「ええ。犯罪組織と繋がっていたり、専属の暗殺者を雇っていたりなんかは普通にあるわね」

「そうなのか」


 裏で動くにはそういうところと繋がっていた方が都合が良いということか。


「聞きたいことはそれだけかしら?」

「ああ」

「私達はこの部屋にいるから何かあったら連絡すると良いわ」

「分かった」


 そして、それだけ言い残すと、エリサは部屋に戻って行った。


「それで、どうする?」

「この街ですることも無いしな。適当に街をぶらつくか」

「分かったよ」


 そして、その後はのんびりと街をぶらついて夜になるのを待った。






「そろそろ時間だな」

「だね」


 窓の外を見ると、すっかり日は落ちていて、辺りはだいぶ暗くなっていた。俺達は先にアデュークの部屋に来てマイア達が来るのを待っている。


「お邪魔しまーす」

「入るよー」


 と、俺達が外の眺めを見ていたところで、マイア達が部屋に入って来た。


「来たか。とりあえず、全員そこに座ると良い」

「ああ」

「うん」

「分かりました」

「分かったよ」


 ひとまず、全員で輪を作るようにして座る。


「査定は終わっている。これが代金だ」


 そして、アデュークが二つに分けて代金を渡して来た。

 どのぐらいの金額なのかは分からないが、袋にはいっぱいに硬貨が詰め込まれている。


「結構あるね」


 シオンがそう言って袋の中を覗き込む。


「全部で二千万セルトだ。一千万セルトずつに分けてある」

「一千万セルト!?」


 額を聞いたマイアが驚き声を上げる。


「かなりの額だな」

「そうだな。一介の盗賊団がここまで貯め込んでいるとは思っていなかったぞ」


 まさかそこまでの金額になるとはな。思わぬ収入だ。


「……エリュ、この人にを言ったの?」


 アデュークのその一言を聞いたマイアがそっと俺に耳打ちして来る。

 「そのこと」というのは、もちろんこれらが盗賊団の持っていた品だったということだろう。


「ああ。だが、問題は無い。それを了承の上で取引をしている」


 当然、こちらの事情は分かっているので、問題は無い。


「ところで、渡した資料の件はどうだったんだ?」

「資料?」


 アーチェが首を傾げながら聞いて来る。


「ああ。盗賊団の取引内容の資料だ」


 そう、例の盗賊団の取引内容の資料を渡して調べておいてもらったのだ。

 まあ調べてくれたのはエリサなのだがな。


「そのことか。それならおおよその調べはついている」

「そうか。聞いても良いか?」

「構わないぞ。どうやら、この貴族は盗賊団を使って武器を集めていたらしい」

「武器を?」

「ああ。この貴族は武器のコレクターだからな」

「なるほどな」


 言われてみれば、この貴族との取引内容は武器のみだったな。


「さて、他に用はあるか?」

「俺からは特に無いな。マイア達は何かあるか?」

「無いですよ」

「無いよー」

「そうか。では、行くとするか」


 そして、話が終わったところで、各自部屋に戻った。






 翌日、マイア達と共に馬車に乗ってローハイトに向けて出発した。

 今のところ特に何も起きていないが、気になっていることが一つ。


「どうした、アーチェ?」


 気になっていることというのは、アーチェが先程からずっとそわそわしていることだ。少々気になるので聞いてみることにする。


「いや、こんな大金持ったこと無かったから……」

「なるほどな」


 確かに、一千万セルトはそれなりの大金だからな。一般人である彼女達がそれだけの金額のお金を持ったことが無いのも当然と言える。


「ところで、武器類を全部もらっちゃったけど良いの?」

「まあ世話になったからな。礼だと思って受け取ってくれ」


 武器類に関しては礼と言って全部マイア達にあげてしまった。こちらとしてはその方が都合が良いしな。


「それはそうと、少し話があるのですが良いですか?」

「何だ?」

「魔法銃や手榴弾などの予備は無いのですか? あるのであれば買いたいのですが」


 マイアの話というのは魔法銃や手榴弾を買いたいという申し出だった。


「別に構わないぞ。作ることもできるしな」


 予備と言うほどあるわけではないが、また作れば良いだけだしな。今ここで売ってしまっても問題無い。


「作れば良いって……もしかして、エリュは錬成魔法を使えるのですか?」

「ああ、使えるぞ」

「と言うことは、武器なんかも作れるのですか?」

「ああ、作れるぞ」

「…………」


 俺がそう言ったところでマイアは無言で何かを考え始めた。

 そして、少ししたところで、口を開く。


「あの、武器を作って欲しいのですが、良いですかね?」

「それは構わないが、何を作って欲しいんだ?」

「それは……ローハイトの街に着いてから決めたので良いですかね?」

「ああ、それで構わないぞ」


 恐らく、拠点に戻って相談してから決めたいのだろう。こちらとしてはそれでも問題無いので快諾する。


「とりあえず、今俺達が持っているハンドガン型の魔法銃と手榴弾だけでも買うか?」

「良いのですか?」

「ああ。今使っている魔法銃はそろそろ買い換えようと思っていたからな。問題無い」


 今使っているハンドガン型の魔法銃は性能が低いので、そろそろ性能が良い物に買い換えようと思っていたところだ。

 なので、この魔法銃に関しては二人に売ってしまっても問題無い。


「では、それだけでも買わせてもらいますね」

「分かった」


 そして、魔法銃と手榴弾を渡して、代金を受け取った。


「ねえ、その短剣とかはどうなの? 結構良さそうな物に見えるけど」


 ここでアーチェが俺の持っている短剣を見ながら、そんなことを聞いて来る。

 どうやら、この短剣が気になっているようだ。


「それなりの値段はするな。まあその袋に入っている金で買える金額では無いな」

「そんなにするの!?」


 それを聞いて驚いた様子で声を上げる。


「具体的にどのぐらいするの?」

「具体的な金額については買ってもらった物だから分からないな」

「そうなの?」

「ああ。だが、元々一千万セルトするの物を使っていたのを、より性能の良い物に買い換えたからな。一千万セルト以上することは確実だ」


 俺達も値段を聞いていないので実際の値段は知らないが、一千万セルト以上することは確実だ。ルミナも高くなると言っていたしな。


「そうなんだ」

「さて、話はそれぐらいか?」

「そうですね」

「うん」

「では、俺はのんびりと待たせてもらう」


 そして、その後はのんびりと雑談をしながらローハイトに到着するのを待った。






「着きましたよ」

「そのようだな」


 前方を見ると、街を囲む壁が見えて来ていた。間違い無い。ローハイトの街だ。

 アインセルを出て二日目の夜にローハイトに到着した。

 今回も道中は特に何事も無くここまで辿り着くことができた。


「とりあえず、降りる準備をするか」

「だね」


 そして、降りる準備をしながら到着するのを待った。






 入口の検問を何事とも無く通過して街に入った。


「それで、俺達が預かっている食料類と武器類はどうすれば良い?」


 食料類と武器類は俺達が空間魔法で収納して預かっている。

 と言うのも、マイア達にこれらの物を俺達に持っておくよう言われたからだ。

 恐らく、その理由は街の入口の検問で引っ掛かるからだろう。

 まあ武器の購入を制限しているぐらいだからな。大量の武器を持っていると確実に怪しまれてしまう。


「明日の朝一にここに来てもらっても良いですか?」


 街に入って落ち着いたところで、マイアが地図を取り出して集合場所を指定して来る。


「そこで渡せば良いのか?」

「はい」

「分かった。では、また明日会おう」


 そして、明日会う約束をしたところで、マイア達と別れた。


「……尾行する?」

「いや、今日はしなくて良い。今日は活動拠点に行くのかどうか分からないからな。尾行は明日するぞ」


 この後にマイア達がレジスタンスの活動拠点に行くとは限らない。

 と言うより、行かない可能性の方が高い。

 拠点にはあまり出入りしていると怪しまれるので、出入りは必要最小限にするはずだ。

 なので、今日は魔法道具で通信して軽く報告をするぐらいで済ませる可能性が高い。


 だが、明日は物資の搬入のためにレジスタンスの活動拠点に行くはずなので、そこで尾行をすれば良い。


「分かったよ」

「とりあえず、エリサ達と合流するぞ」

「うん」


 そして、エリサ達が泊まっている宿へと向かった。






 部屋に入ると、既にアーミラとアデュークも座って待っていて、テーブルの上には五人分の菓子と飲み物が用意されていた。

 見たところ、宿に備え付けられた物では無く持って来ておいた物のようだ。


「来たわね。とりあえず、そこに座って」

「分かった」


 ひとまず、菓子と飲み物が用意されたところに座る。


「それで、どうだったのかしら?」

「ああ」


 そして、これまでの出来事を順を追って全員に話した。


「明日ここで物資を渡すことになったのね」

「ああ、そうだ」

「ここは商業区の近くか」

「となると、拠点はどこかの店の地下かしらね」

「まあそうだろうな」


 恐らく、商品を搬入するように見せ掛けて、物資を搬入するつもりなのだろう。それならば怪しまれにくいからな。


「明日は二人を尾行して拠点を特定する」

「ええ、お願いね」

「それと、二人から武器の作成を依頼される可能性がある。ルミナさんに頼むことになる可能性もあるので、いつでも戻れるように準備しておいてくれるか?」


 ルミナに頼らなくとも高性能な物でなければ俺でも作ることができるが、錬成魔法で武器を作製するにしてもここには設備が無い。

 なので、少なくとも設備がある霧の領域の基地までは戻る必要がある。


「分かったわ。準備しておくわね」

「ああ、頼んだ」

「さて、話はこのぐらいで良いかしら?」

「そうだな」

「それじゃあ私はいつでも戻れるように準備をしておくわね。それと、この部屋は五人で取っているから、この部屋で休むと良いわ」

「分かった。シオン、俺達も準備しておくぞ」

「分かったよ」


 そして、その後はいつでも戻れるように準備をして、それが終わったところで眠りに就いた。

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