episode90 盗賊団の殲滅

 部屋の様子を確認し終えたところで、早速、準備を始める。


「それは何なの?」


 アーチェが俺が取り出した物を興味深そうに見ながら聞いて来る。


「これは魔力起動式の手榴弾だ」

「手榴弾?」

「ああ。術式を起動すると一定時間後に火魔法の術式が発動して爆発するという仕組みだ」


 そう、これは魔力を用いた手榴弾だ。試しに作ってみたら簡単に作れたので、適当に二十個ほど作っておいたのだ。単純な術式なので簡単に作ることができるしな。


「これを一斉に投げ込んで先制攻撃を仕掛ける。そして、爆発と同時に突入する。それで良いな?」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、四つの手榴弾を同時に起動して、それらを爆発直前に部屋に投げ込んだ。


「ぎゃーー!」

「何だ何だ!?」


 投げ込んだ手榴弾が爆発を起こして、至近距離で直撃した盗賊を消し飛ばした。

 さらに、周囲の盗賊達も突然の出来事に対応できずに混乱している。

 そして、すかさず三人でそこに突入した。


「はっ……」

「えいっ!」

「行くよ!」


 俺達は近くにいる盗賊を手当たり次第に短剣で斬っていく。

 刀を使っても良いのだが、今回は様々な状況に対応しやすい短剣をメインに使うことにする。


(マイア達は……大丈夫そうだな)


 二人の様子を見てみるが、短剣と魔法銃で次々と盗賊達を片付けていた。

 見たところ、マイアとアーチェの実力はDランク以上Cランク未満といった印象だ。


「おい! 武器を持っていない奴は早く取って来い!」


 ここで部屋の奥の中央あたりにいた剣を持った男が全体に指示を出した。


「分かりやした!」


 その指示を受けて武器を持っていない盗賊達が武器を取りに部屋を出て行く。

 どうやら、この男が盗賊団のリーダーのようだ。


(さて、この中で比較的実力が高いのはどいつだ?)


 実力が高い者は俺が相手した方が良いので、近くにいる盗賊を適当に斬り払いながら比較的実力が高い者を探す。


(やはり、この中ではリーダーと思われる男が一番強そうだな)


 動きや魔力の流れから察するに、リーダーと思われる男がこの中では一番強そうな感じがした。

 俺はマイア達から意識を外さないようにしつつ、その男に接近する。


「させるかよ! ……ぐわっ!」


 取り巻きが跳び掛かって来るが、俺はそれを軽く斬り捨てる。

 そして、そのままその男に斬り掛かった。


「その程度の攻撃なんざ効くかよ!」


 しかし、その攻撃はあっさりと防がれてしまった。


「喰らいな!」


 さらに、後方から他の盗賊が攻撃を仕掛けて来る。


「……不意打ちのつもりか?」

「ぐわっ!」


 それを後方に氷魔法を放って迎撃する。見えていなくとも音や魔力で分かるので、この程度のことは簡単だ。


「死ねっ!」


 俺が後ろの盗賊に構ったのをチャンスと見たのか、男はそこで素早く斬り掛かって来た。


 だが、俺はこの男から意識は外していないので、この程度であれば簡単に対応できる。

 俺は男の放った斬撃を短剣で軽く受け流す。


「……遅い」


 そして、今度はこちらが斬撃を返す。


「チッ……」


 両手に持った短剣で攻撃を仕掛けるが、盗賊の男は俺の攻撃を全て捌いていく。


(Cランククラスといったところか)


 こちらはまだ様子見程度で本気を出していないが、これに余裕を持って対応できているようなので、男の実力はCランククラスはあると見て良さそうだった。


(さて、マイア達は大丈夫か?)


 一番注意を向けるべきはマイア達だ。確実にローハイトまで護衛する必要があるからな。

 ここでもう一度二人の様子を見てみる。


「えいっ!」

「せいっ!」

「がっ……」

「ぐわっ……」


 二人は順調に盗賊達を倒している。この調子なら問題無さそうだ。


(……戻って来たようだな)


 廊下の方からする足音から察するに、武器を取りに行っていた盗賊達が戻って来たようだった。

 ここで俺は隙を見て左手に持った短剣を手放して、手榴弾を廊下の方に投げる。


「今、加勢し……ぐわああぁぁーー!」

「ぎゃぁぁーー!」


 至近距離で爆発に直撃した盗賊達が爆ぜて消し飛ぶ。


(数が多いな……)


 だが、敵の数が多いので、手榴弾だけでは片付けられない。

 まあ俺が本気を出せばすぐに全て片付くのだが、できる限り実力は隠しておきたいので、それは最終手段だ。


(あれも使ってみるか)


 折角の機会なので、別の物も試してみることにした。


「二人とも部屋の外まで下がれ!」


 すぐにマイア達に下がるように指示を飛ばす。


「はいっ!」

「おっけー」


 二人は俺の指示を受けてすぐに部屋の外まで退いた。


 そして、二人が部屋を出たことを確認したところで、ある物を取り出した。

 それを一つは部屋の中央付近へ、残りの二つは盗賊達が入って来ている二つの出入り口に向かってそれぞれ一つずつ投げる。


「何だこれは!?」

「また爆発するぞ! 離れろ!」


 俺が投げた物が手榴弾だと思ったのか、盗賊達はその物体から距離を取ろうとした。

 盗賊達は先程から俺が投げている物と見た目が同じだったので、これらを手榴弾だと思ったのだろう。

 盗賊達が思っているように、これは確かに手榴弾だ。

 だが、これはただの手榴弾では無い。盗賊達が一歩分の距離を取った直後、その物体から強烈な光が放たれた。


「うわっ!? 何だ!?」

「ぎゃぁーー!? 目がぁーー!?」


 そう、これは閃光手榴弾だ。原理は普通の手榴弾と同じで、術式を光魔法のものに置き換えただけの単純な仕組みだ。

 閃光手榴弾に注意が向いていたので直接光を見てしまった者も多く、盗賊達は大混乱だ。


(効果抜群だな)


 普通は何が起こるかも分からないような物を投げられたら、そこに注意を向けざるを得ないだろう。俺でもそうするしな。

 だが、もちろんこれを見てしまうと光を直接見ることになるので、被害は大きくなる。

 最早、初見殺しと言っても過言では無いだろう。


「……斬る」

「がっ……」


 混乱していたのはリーダーの男も例外ではなかった。

 俺はその一瞬の隙を見逃さずに盗賊団のリーダーの男の首を刎ねる。


「リーダーが殺られたぞ!」

「何が起こっている!?」

「こうなったら逃げ……ぎゃぁーー!」


 閃光手榴弾に加えてリーダーが殺られたことで混乱が広がり、そこには統率という概念が無くなっていた。


「一気に片付けるぞ」

「はいっ!」

「おっけい!」


 烏合の衆と化した盗賊団など最早、敵ではない。逃がさないように注意しながら、一人ずつ確実に片付けていく。

 そして、気付けば残りは数人だけになっていた。


「あとはこいつらだけか」


 俺は部屋の隅にいる残った盗賊達にゆっくりと近付く。


「ま、待ってくれ」


 一人の盗賊が右手を前に出しながら後退ずさる。


「……何だ?」


 聞く必要の無い話だろうが、一応話を聞いてみる。


「何が欲しい? 見逃せば好きな物を……」


 案の定聞くまでも無い話だった。即座にその男の首を刎ねる。


「待て、許してくれ!」

「お前達はそれで許したことがあるのか?」

「…………」


 男はそこで口を噤んだ。

 もうこいつらと話すことは何も無い。俺はそのまま短剣で残った盗賊達の首を刎ねる。


「見張りも加勢していたようだし、これで終わりだな」


 見張りも加勢していたことは足音で確認済みだ。

 なので、これで盗賊団は全滅だ。


「そうだね」

「とりあえず、こいつらの武器をもらっちゃおうか」


 そう言うと、アーチェは盗賊達の武器を回収し始めた。


「武器の回収は後にして宝物庫を探さないか?」


 この砦のどこかに奪った物を集めている宝物庫があるはずなので、まずはそれを探しておきたい。


「それもそうだね。それじゃあ手分けして探そっか。あたしは三階を探してみるね」

「その必要は無いと思うぞ? あるとしたら一階だろうからな」

「そうなの?」

「ああ。わざわざ上に運び込むのは面倒だろう?」


 宝物庫はあるとしたら一階だ。奪った物をわざわざ上の階に運び込むのは面倒だからな。普通に考えれば宝物庫は一階のはずだ。


「まあ一階を探索しても見付からなかったら、二階以降も探索するぞ。俺はシオンに連絡をしてから探索を始める。二人は先に探索していてくれ」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、シオンとエリサに連絡をしてから砦の探索を始めた。






 一階を探索すると、宝物庫らしき部屋はすぐに見付かった。


「ここが宝物庫かな?」

「だろうな」


 恐らく、元々は倉庫だったのだろう。その部屋は他とは違って両開きの扉で、鍵まで掛かっていた。

 盗賊達が宝物庫以外に鍵を掛ける理由も無いので、ここが宝物庫と見て間違い無いだろう。


「それで、鍵はどうするの?」

「鍵ならここにある」


 拾っておいた鍵を取り出して二人に見せる。


「……どこで見付けたの?」

「リーダーの持ち物を探ったら出て来た」


 こういう鍵は普通に考えればリーダーが持っているだろうからな。

 そう思ってリーダーの持ち物を探ってみたら案の定鍵を持っていたので、それを持って来ておいたのだ。


「では、開けるぞ」


 そして、その鍵を使って扉を開けた。


「お、結構あるじゃん!」

「思ったよりも貯め込んでるな」


 宝物庫には宝石類や骨董品だと思われる物などがあった。

 俺にはどの程度の価値がある物なのかは分からないが、価値があることは確かなはずだ。


「……む? この紙は何だ?」


 それとは別に気になった物が一つ。

 俺が気になった物は机の中に入っていた紙だ。ひとまず、その内容に目を通してみる。


「これは……取引の記録のようだな」


 確認すると、それは闇商人との取引の記録だった。

 どうやら、盗賊達は奪った物を売って換金していたらしい。


「奴隷に取引もしていたみたいですね」


 盗賊達は物だけでなく奴隷も取引していたようだった。


(なるほどな。それで俺達もターゲットになったのか)


 盗賊団が俺達をターゲットにした理由が謎だったが、俺達を奴隷として売り飛ばそうとしていたというのであれば納得だ。

 でなければ、一見高価な物を持っているように見えない俺達をターゲットにするはずが無いからな。


「それで、どうする? 運び出すのはシオンが来てからにして、砦内の探索をするか?」

「そうだね。それじゃあ砦内の探索をしよっか」

「ああ」


 今からこれらの物を運び出す必要は無いので、先に砦内の探索をすることにした。






 それから一時間も掛からずに砦内の探索は終わった。


「意外と集まったね」

「そうだな」


 探索で見付けた物は全て宝物庫に集めたが、砦内を探索すると、かなりの量の物が集まった。

 百人近くの盗賊が住んでいたので食料や武器がかなりあり、個人で持っている小銭を集めたら、それなりの額になった。


「……来たようだな」


 外に注意を向けると、馬車の音がした。時間的にも頃合いなので、シオンと見て間違い無いだろう。


「俺はシオンを迎えに行って来る。整理でもしながら少し待っていてくれ」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、宝物庫に二人を残してシオンを迎えに外に向かった。






 外に出ると、正面の入り口前にシオンが乗った馬車が停められていた。


「そっちはうまく行った?」

「ああ。運ぶ物は宝物庫に集めてある。そこまで来てくれるか?」

「分かったよ」


 シオンと合流したところで、馬車に乗ったまま宝物庫に戻る。

 この砦は倉庫に荷物を運ぶことを前提に造られているようなので、馬車のままでも宝物庫にまで行くことができる。


「おー! 結構あるね」

「まずは空間魔法で可能な限り収納するぞ」

「うん」


 シオンも合流したところで、早速、荷物を収納していくことにした。


「食料類は優先度が低いので後回しだ。価値がありそうな物を優先してくれ」


 もちろん、優先して持って行くのは価値のある物だ。食料類などの価値の低い物は積み込むスペースが無いようであれば置いて行って、エリサ達に回収してもらう予定だ。


「分かったよ」


 まずは俺とシオンが空間魔法で荷物を収納していく。

 空間魔法による収納はすぐに終わって、割と早い段階で収納量の限界が来た。


「こんなところか。残りは荷台に積み込むぞ」


 空間魔法での収納はこれが限界なので、残りは荷台に積み込むことにする。


「分かったよ」

「はい」

「うん」


 そして、全員で手作業で荷台に荷物を積み込んでいく。


「と言うか、シオンって御者もできたんだね」

「うん。あまり得意じゃないけどね」


 もちろん、これは嘘だ。得意かどうか以前にシオンは御者をしたこと自体が一度も無い。

 だが、襲撃の後に二人に御者を任せた理由が必要なので、そういうことにしておいてくれと事前に伝えておいたのだ。


 そうなると、シオンはどうやってここまで来たのかということになるが、それは単にアデュークに御者をしてもらっただけだ。


「何とか全部持って行けたな」

「だね」


 何とか全ての荷物を持って行くことができた。

 荷台には荷物がいっぱいに詰め込まれた状態で、もうこれ以上は入りそうにない。


「さて、一旦洞穴まで戻るぞ」

「はーい」

「分かりました」

「分かったよ」


 荷物は全て積み込み終わったので、もうここに用は無い。

 そして、用が済んだところで、馬車に乗って洞穴まで戻った。






 洞穴に戻ったところで、盗賊団の拠点で手に入れた物を全て取り出した。

 もちろん、荷物を取り出したのは分け前をどうするかを決めるためだ。


「それで、どうする?」

「そう言われても、価値が分からないからね……」


 現金はそのまま分ければ良いだけなので問題無いのだが、問題は宝石類や骨董品類だった。

 何とかして分けたいところなのだが、価値が分からないので分けられないのだ。


「換金してから分けるというのが良いとは思うのだが……」

「問題はどこで換金するかだよね」


 理想は全て換金してから分けることだが、問題はどこで換金するかだ。俺達にはその当てが無い。


「……少し待ってくれるか?」

「何か良い案でもあるの?」

「ああ。もしかしたら何とかなるかもしれない。少し待っていてくれ」


 俺達には当てが無いが、エリサ達であれば何か当てがあるかもしれない。

 ひとまず、エリサに連絡を取ってみる。


「今良いか?」

「ええ、良いわよ。何の用かしら?」


 そして、エリサにこれまでの経緯を説明して、その上で換金するところの当てが無いかを聞いてみる。


「そうね……レグレットまで行けば換金する当てはあるわ」

「レグレットか……遠いな」


 ここからレグレットまで行くには遠すぎる。二つほど国を跨ぐ必要があるしな。


「でも、一つ手はあるわね」

「何だ?」

「私達がそれらを買い取れば良いのよ」

「なるほどな」


 確かに、エリサ達に買い取ってもらえれば話は早い。


「それは良いのだが、価値は分かるのか?」


 問題はこれらの物の価値が分かるのかどうかだ。価値が分からなければ買い取りができない。


「そういう物はアデュークが詳しいから大丈夫よ」

「そうなのか?」

「ええ。とりあえず、アインセルで話をするということで良いかしら?」

「ああ」


 そして、方針が決まったところで、通信を切った。


「どうだった?」

「とりあえず、アインセルで話をすることになった」

「買い取ってもらえるってこと?」

「ああ。とりあえず、これらは片付けておくぞ」


 ひとまず、これらの物は今は必要無いので片付けておく。


「見張りをする順番はどうする?」

「ボクはいつでも良いよ」

「私もいつでも良いですよ」

「あたしも同じく」

「そうか。ならシオンとマイアが先、俺とアーチェが後で良いか?」

「良いよー」

「良いですよ」

「それで良いよ」

「分かった。では、俺は休ませてもらう」


 そして、話が付いたところで、テントに戻って眠りに就いた。

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