episode71 仲直り
模擬戦を終えたところで、俺達は店へと戻った。今は全員で二階のリビングに集まっているところだ。
「ルミナさん、強いね」
あの後はシオンも模擬戦をしたが、結局俺と同じで手も足も出なかった。
ルミナが戦闘するところを今まで見たことが無かったので、その実力は分かっていなかったが、今回の模擬戦でその一端を見ることができた。
まあかなり一方的な内容だったので、その一端すら見れていなかった可能性もあるが。
「これでも元冒険者だから、このぐらいは当然よ。まあこのぐらいならその内あなた達にもできるようになるわ」
「だと良いのだがな」
ルミナは大したことが無さそうにそうに言っているが、そう簡単にできるようになるとは思えない。
「それにしても、今日は賑やかだねー」
ミィナがソファーに深く座ってくつろぎながら言う。
「そうね。今日は『
「そう言えば、『
「ええ、そうよ。『
思った通り、『
「そうか。…………」
「そんなに不安そうにしなくても大丈夫よ。私も一緒に話をしてあげるわ」
「……助かる」
いつまでもこの問題を先送りにしておくわけにはいかないからな。今回で仲直りしておくべきだろう。
「ところで、私達に頼みたいことがあったのではなくて?」
エリサが思い出したようにルミナに尋ねる。
そう言えば、何か用があると言っていたな。
「ええ、そうよ。レグレットに行くって言っていたけど、どの街に行く予定なの?」
「首都であるリグノートに行く予定よ」
今回エリサ達が向かうのは貴族達の思惑が交錯する街、リグノートだ。
もちろん、目的は情勢の調査だ。直接現地に行かなければ分からないこともあるからな。
「それだったら色々と調べておいて欲しいことがあるのだけど良いかしら?」
「そうね……それは内容次第かしらね」
「調査して欲しい内容は資料として纏めておいたわ。こんな感じよ。報酬も出すわ」
ルミナはそう言ってエリサに資料を渡す。
「早速、確認してみるわね」
資料を渡されたエリサは資料に目を落として内容を確認する。
そして、しばらくしたところで資料を読み終えたらしく、目線を正面に戻した。
「分かったわ。調査の依頼を受けるわ」
「それは助かるわ。それじゃあ報酬の話をしましょうか」
「報酬は別に必要無いわ。何かと世話になっているしね」
「そう? 分かったわ」
無報酬で良いのかと聞きたいところだが、それは彼女が決めることなので、俺が口を出すようなことではないだろう。
「ところで、どのぐらいリグノートにいる予定なんだ?」
エリサ達の行き先については聞いていたが、期間についてはまだ聞いていなかったのでここで聞いておくことにする。
「一週間から二週間ぐらいかしらね。調査の進行具合で前後するわ」
「そうか」
つまり、十日前後といったところか。
「ところで、今日泊まる部屋はどうしたら良いかしら?」
話は変わって、エリサ達が泊まる部屋についての話になる。
そう言えば、その話はまだしていなかったな。
「空き部屋を適当に使うと良いわ」
「分かったわ」
「それじゃあアタシとエリサは一緒の部屋で、アデュークは一人で良いよね?」
「ええ」
「ああ」
エリサ達の部屋割はすぐに決まった。
「他に何か話はあるかしら?」
「「「…………」」」
ルミナが全員に聞くが、返答する者はいなかった。
「無いみたいね。それじゃあ各自で入浴を済ませてから休むと良いわ」
「了解っ! ルミナ、アタシが最初に入っても良いかな?」
「ええ、良いわよ。それは良いんだけど、折角だしみんなで一緒に入らない?」
ここでルミナが全員で風呂に入ることを提案して来る。
「あたしはそれで良いよ。リーサはどう?」
「仕方が無いから一緒に入ってあげるわ」
ミィナとリーサは提案を受けるつもりのようだ。
「アタシもそれで良いよ」
「ボクも一緒に入るよ!」
アーミラとシオンもそれに乗り気だ。
「私は遠慮しておくわ」
だが、エリサだけはルミナの誘いを断った。
「えー……エリサも一緒に入ろうよー」
シオンがエリサの腕を掴んで引っ張るが、彼女はすぐにそれを振り払った。
「もう一度言うけど、私は遠慮しておくわ」
「……もしかして、角を見られたくないの?」
「……角?」
何の話だろうか。エリサに角なんて物は……。
(む? 待てよ)
と、そこまで考えたところであることに気付いた。
(そう言えば、エリサのフードの下を見たことが無いな)
そう、エリサのフードの下がどうなっているのかを一度も見たことが無いのだ。
一か月近く共に暮らしていたので一度ぐらいは見たことがあるのではないかと思うかもしれないが、彼女は常に全身を覆うフード付きの黒い外套を着ているので、その下がどうなっているのかは一度も見たことが無い。
なので、角があったとしても気付かない。
では、何故シオンはフードの下がどうなっているのかを知っているのかと言うと、彼女と一緒に風呂に入ったことがあったからだ。
「賑やかなのが性に合わないだけよ。私は部屋で待っているわ」
そして、エリサはそれだけ言い残して部屋に行ってしまった。
「行っちゃったね」
「まあ無理に誘うことも無いわ。私達だけで行きましょう?」
「分かったよ」
そして、エリサを除いた女性メンバーは風呂へと向かった。
「さて、部屋に戻るか」
ここにいても仕方が無いので、ひとまず部屋に戻って待つことにした。
そして、他のメンバー全員が入浴を終えたところで最後に俺が入浴して、その後はそのまま眠りに就いた。
翌朝、エリサ達は予定通りにリグノートへと向かった。
俺達は店に残って、今は昼食を摂り終えてリビングでくつろいでいるところだ。
「……そろそろか」
そろそろだ。そろそろ彼女達が帰って来るはずだ。
と、そんなことを思っていたそのとき、裏口から何者かが入って来た。
「ただいまー」
「帰ったよー」
「ただいま」
「今帰りました」
裏口から店に入って来たのは『
正確に言うと、レーネリアは『
「四人ともお帰りなさい」
それをルミナが出迎えたようだ。
そのまましばらく立ち話をしていたが、それが終わったところで二階へと上がって来る。
「みんな、お帰りー」
シオンが階段の前でそれを迎える。
「あれ? シオンじゃん。久し振りー」
ステアが軽い感じで挨拶する。
「帰っていたんですね。お久し振りです」
ミリアもシオンに挨拶を返す。
「一か月振りですね。ご機嫌いかがでしたか?」
レーネリアが丁寧に挨拶して来る。相変わらずの丁寧な口調や仕草だが、貴族の娘なのでそういうことも教え込まれたのだろう。
「…………」
『
「ひとまず、座って休んだらどう? 紅茶でも用意するわよ」
「……そうだね」
そう言うと、アリナは俺の左側にあるソファーに腰掛けた。
それに続いて『
「それじゃあ少し待っててくれる? ……と言いたいところだけど、その前にすることがあるわね」
「……む? 何故、俺を見て……おわっ!?」
俺の方を見て何をして来るのかと思ったら、ルミナは唐突に俺のことを肩に担ぎ上げて来た。
そして、そのままアリナの隣に下ろされた。
「いつまでも仲違いしていないで、早く仲直りしなさい」
「そう言われてもだな……」
アリナの方に視線を移すが、目を合わせること無く
「アリナはいつまでも意地を張らないで、ちゃんと向き合いなさい」
「…………」
ルミナにそう言われたところで、アリナはゆっくりとこちらを向いて目線を合わせて来た。
「えっと……何か色々とごめんね」
「……ああ。こちらも少々やり過ぎだったな。悪い」
互いに一言謝罪の言葉を述べる。
「これでもう仲直りはできたわね。それじゃあ紅茶を用意してくるから、ちょっと待っててね」
そして、ルミナは今度こそ紅茶を用意しにキッチンへと向かった。
「それにしても、いつの間に帰って来てたの?」
ステアがテーブルを跳び越えて、そのまま俺の隣に勢い良く座りながら聞いて来る。
「ステア、行儀が悪いですよ」
それを見たレーネリアがすぐに注意する。
「別に他には誰もいないし良いじゃん」
だが、本人は全く気に留めていないようだった。
「ステア、誰にも見られていないからってそういうのは良くないよ」
「むぅ……分かったよ。今度から気を付ける」
アリナにも注意されて、ようやく反省したようだ。
……そう思ったのだが……。
「……でも、そう言って直った
「それは……気のせいだって!」
「はぁ……」
そして、アリナは小さくため息をついた。
恐らく、いつもこんな感じなのだろう。
ステアの様子を見てみるが、見たところ反省していなさそうだ。
「アリナも苦労しているようだな」
「そうなんだよね……」
リーダーである以上メンバーを纏める必要があるからな。自由奔放なメンバーがいると苦労するのだろう。
「それで、いつ帰って来てたの?」
ステアが改めて聞いて来る。
「昨日だ」
「と言うことは、エリサも来てたの?」
「ああ。今朝出発したがな」
「ふーん……そうなんだ」
そして、最後にそれだけ言うと、元居た席に戻って行った。
「できたわよ」
と、ここで人数分の紅茶が用意できたらしく、ルミナが紅茶を持って戻って来た。
「六人分しかないようだが?」
だが、用意された紅茶は六人分しかなかった。
「私はまだすることがあるから、私の分は必要無いわ。それじゃあ私は地下にいるわね」
そして、それだけ言い残すと、階段を下りて地下へと行ってしまった。
「行っちゃったね」
「そうだな。……とりあえず、紅茶を飲むか」
「だね」
そして、その後は紅茶を飲みながらのんびりと午後の時間を過ごした。
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