episode52 大喧嘩
街の散策を終えて、夕方前にルミナの店へと戻って来た。
「二人ともお帰りなさい。どうだった?」
店に戻って来たところでルミナに出迎えられる。
「楽しかったよ」
「まあ久々に楽しめたな」
こういうのは初めてだったが、悪くはなかったな。
「あ、二人とも帰って来たんだね。お帰り!」
それに続いてミィナにも出迎えられる。
「ああ。他のメンバーは二階か?」
「そうだよ」
「そうか。…………」
「エリュ、会いづらいのは分かるけど、いつまでもそうしているわけにはいかないと思うわよ?」
昨日のことがあるのでアリナと会うのは少々気まずいが、ルミナの言う通りにいつまでも会わないわけにはいかない。
「そんな顔しないの。二人とも行くわよ」
「ああ」
そして、二人に連れられるまま二階へと向かった。
二階に向かうと、そこにはリーサと『
彼女達は五人集まってリビングで閑談している。
「あら、帰ったのね」
俺達が帰ってきたことに気付いたリーサがこちらを向いてそう言って来る。
「ああ、ちょうどな」
「今帰ったとこだよー」
そして、そのままソファーに座ろうとしたが、そのときアリナと目が合った。
「…………」
「…………」
俺とアリナの間に気まずい空気が流れる。
「えっとえっと……ひ、ひとまず、部屋に戻って休んでみてはどうですか?」
その様子を見たミリアは少し慌てながらも、その状況を何とかしようとそんな提案する。
「そうだな。行くぞ、シオン」
「あ、待ってよー!」
そして、ミリアの提案を受けて足早に自分の部屋へと向かった。
「結局、どうするか……」
現在、夕食を終えて食卓で休んでいるところだ。ルミナは少し用があると言って出掛けて行ったが、他のメンバーはリビング側で閑談している。
夕食は一応全員で集まって摂ったものの、結局アリナとは一言も話していない。
「エリュ、良いかな?」
話し掛けて来たのはミィナだった。
「どうした?」
「良いの? アリナとは話さなくて?」
「そう言われても話す機会がな……」
話しておくべきだとは思うものの、話す機会が無い。
「だったら来て。ほら、早く!」
そう言って俺の右腕を強く引っ張って来る。
「分かった。分かったからそんなに強く引っ張るな!」
抵抗しても無理矢理連れて行かれそうなので、自分の足でリビング側へと向かう。
そして、テーブルを挟んでアリナの前に立った。
「…………」
「…………」
お互いに沈黙が続く。
「ほら、何か話して」
ミィナはそう言うものの、何から話したものか……。
とりあえず、俺の方から話を切り出してみる。
「結局、あの盗賊達はどうしたんだ?」
「騎士団に引き渡したよ」
「そうか。…………」
「…………」
再び沈黙が続く。
「エリュ」
少ししたところでアリナが口を開く。
「……何だ?」
「エリュはあの場で盗賊達を殺しておくべきだったって思うの?」
何を言うのかと思ったらそんなことか。迷うことは無い。答えは一つだ。
「当然だ。逆に何故殺さなかった?」
「何故って……何もそこまでしなくても良いじゃない」
「俺はそうは思わないが?」
迷う事無く即座に言い返す。
「そんなに簡単に人の命を奪って良いものじゃないよ?」
「それは相手によるだろ」
「……それは相手によっては良いってこと?」
「ああ」
簡単に人の命を奪ってはいけないなどとは言うが、俺はそうは思わない。世の中には存在しない方が良いような奴もごまんといる。
しかも、そんな奴らが存在していて損害を被るのは、決まっていつもまともな人間ばかりだ。
でも、それはおかしなことだろう?
だから、俺はそんな奴らを殺すのだ。
別にそれが悪いことだとは思っていない。奴らは殺されるべくして殺されるのだから。
「本当に……そう思っているの?」
怒気を含んだ静かな低い声で言う。
「ああ」
俺の答えは変わらない。先程と同じ返答をする。
すると、その答えを聞いたアリナは勢い良く立ち上がった。
そして、テーブルを踏み付けて俺の前に立つとそのまま肩を掴んで来た。
勢い良く踏み付けられたテーブルは綺麗に半分に割れてしまっている。
「…………」
そのまま無言で俺の目を真っ直ぐと見て来る。
「……今回は盗賊達を捕まえたが、奴らが更生するとでも思っているのか?」
「少なくとも、私はそうなってくれるって信じているよ」
その答えを聞いて大きくため息をつく。
「奴らは更生する気など無い。牢屋から出ればまた同じことをするつもりだ」
こんなことは奴らの様子を見れば簡単に分かることだ。
「でも、そうとも限らないでしょ?」
「残念だが、世の中はそんなに良い奴ばかりではない。救いようのない奴だっていくらでもいる。例えば、今回の盗賊達とかな」
「そんなこと……」
「はっきり言おう。アリナ、お前は甘すぎる」
アリナの言うことを打ち消すように言う。
「俺から言わせてみれば、あそこで奴らを殺さない理由が無いな」
さらに畳み掛けるように言う。
「全く……折角合法的に奴らを殺せたというのに、その機会をふいにすることになるとはな」
「っ!」
「ぐっ!?」
ここでアリナが突然俺のことを殴り飛ばして来た。
突然のことで防御行動も取れなかったので、そのまま吹き飛ばされて後方の階段の手すりに頭をぶつける。
「……いきなり何をするんだ」
「…………」
だが、アリナは俺の言うことに答えること無く、黙ったままこちらに近付いて来た。
そして、俺の服を掴んで無理矢理立たせて来る。
「……エリュはあのとき私達が来なかった方が良かったって思ってるの?」
「まあ結果的にそういうことになるな」
あのとき『
「っ……」
その一言を聞いたアリナは俺を勢い良く突き放して来た。
突き飛ばされた俺は階段の手すりに叩き付けられる。
さらに、思ったよりも勢いがあったので、手すりが折れて階段の真ん中辺りに落ちてしまった。
「痛っ……何をするんだ!」
すぐに起き上がって折れた手すりを拾い上げて、魔力を込めてアリナに向けて薙ぎ払いを放つ。
「うわっ!」
その一撃でアリナは飛ばされて、そのまま勢い良く本棚にぶつかった。
ぶつかったことによってその本棚が壊れて、そこにあった本が崩れ落ちる。
「いったた……ぐっ!?」
俺は怯んだその隙に一気に近付いて、首を掴んで壁に押し付ける。
「話し合いは無駄なようだな」
これ以上話したところで平行線を辿るだけだ。俺と彼女とだと意見が合うどころか掠りすらもしないだろう。
「この……分からず屋!」
「ぐっ……」
アリナはそう声を上げると俺の首を掴み返して、そのまま隣にある本棚に叩き付けて来た。
こちらの本棚も壊れて、そこにあった本が崩れ落ちる。
「それはこちらのセリフだ!」
こちらも負けじと腹に蹴りを入れて突き飛ばす。
すると、アリナはミィナとリーサの座っていたソファーにまで突き飛ばされて、ソファーの背に尻餅を着いた。
「うわっと!」
「ちょっと! 危ないじゃない!」
そこにいた二人が咄嗟に立ち上がって避ける。
「二人とも大丈夫!?」
二人のことを心配したアリナは振り返って尋ねた。
「あたし達は大丈夫だよ。っ! アリナ、後ろ!」
ミィナのその一言でこちらを振り向いたがもう遅い。視線を外した隙に跳び上がって、こちらはもう攻撃態勢に移っている。
そして、そのまま叩き付けるようにして勢い良く殴り付けた。
魔力を込めた一撃でかなりの威力だったので、下敷きになったソファーの背がバキッと音を立てて壊れた。
だが、これで終わりではない。俺はすかさず左手で殴り付けて追撃をする。
「そんなもの……効かないよ!」
しかし、その一撃はあっさりと受け止められてしまった。
そのまま押し込もうとするが、彼女の方が魔力強化の精度が高いのに加えて、意外と鍛えられていて力があるでびくともしない。
それならばと右手で殴り掛かるが、それも簡単に受け止められてしまった。
そのまま押し合って拮抗した状態が続く。
だが、その状態はいつまでもは続かなかった。
「っええぇぃ!」
均衡を破ったのはアリナの一手だった。
アリナは俺の手を掴んだ状態の両手を引いて、それと同時に勢い良く上体を起こして頭突きをして来る。
「がっ……!」
両手を掴まれていたので防ぐことができず、軽く突き飛ばされて尻餅を着いた。
「まだ行くよ!」
だが、これで終わりではない。起き上がったアリナは俺の足を掴んで来た。
そして、そのまま振り上げて半円を描くようにして床に叩き付けて来る。
「ぐ……」
頭から叩き付けられて床に罅が入り、切った額から流れた血が滲む。
「まだまだ!」
それだけでは終わらず、アリナはそれを何度も繰り返す。
俺は叩き付けられる度に鼻血と額から流れた血があたりに飛び散る。
(どうする?)
このままだと一方的な展開になるが、足を掴まれているので反撃は困難だ。
回る視界の中、周りを見て何か手が無いかを探る。
すると、手の届きそうなところに折れた手すりがあることが確認できた。
(これなら良さそうだな)
これを使えば何とか反撃できそうだった。
早速、その近くに叩き付けられたときにそれを掴む。
そして、再び叩き付けられたタイミングでその手すりで薙ぎ払った。
「……それで攻撃しているつもり?」
その攻撃は頭部に当たったものの、全く効いていなかった。
最初に手すりで攻撃したときとは違って体勢が悪く、力が入っていなかったのでそれも無理は無い。
だが、俺の狙いは直接ダメージを与えることではない。俺の狙いは隙を作ることなので問題無い。
俺は攻撃が止まったその隙に無理矢理上体を起こして、アリナの髪に掴み掛かる。
「痛たたたぁ!」
アリナはそれを受けて俺の足から手を離して俺の手を掴んで来た。
俺はそこですかさず手を離してこちらもアリナの手を掴む。
そして、足を大きく引いて勢い良くアリナの顎を蹴り上げた。
「あがっ……」
流石にこれは効いたらしく、大きく怯んでばたりと後方に倒れた。
だが、意識を失ったわけではない。今度がこちらが足を掴んで、そのままキッチン側に向かう。
「今度はこちらの番だな」
先程されたことを今度はこちらがする番だ。俺はアリナを振り上げて、半円を描くようにして食卓に叩き付ける。
すると、食卓が綺麗に半分に割れて崩れた。
続けて反対側の床に叩き付け、今度は椅子の
ここに当てれば床に叩き付けるよりダメージが大きいだろう。
「ぐっ……」
狙い通り、椅子の
そして、そのまま椅子が無くなるまで同じことを繰り返した。
(これでもまだまだか……)
これだけ叩き付けたが、そこまでダメージは入っていないようだった。
やはり、魔力強化による防御面の強化が大きいようだ。
なので、今度はハンマー投げのようにぐるぐると振り回して、キッチンのカウンターの角にぶつけた。
「がぁっ……」
見たところ、先程よりかはダメージが入っているようだった。そのまま回転し続けて何度も角にぶつける。
ぶつかる度に血が飛び散り、キッチンが少しずつ赤く染まっていく。
そして、何度もぶつけていると、カウンターの板が取れて壊れた。
一番ダメージを通せそうなところは壊れて無くなったが、そのまま回転し続けてキッチンの設備にぶつける。
ぶつける度にキッチンの設備が壊れていくが、今気にするようなことではないだろう。
冷蔵庫が壊れて食材が飛び散り、食器棚からは食器が雪崩れるように落下して割れ、オーブンは壊れて軽く爆発する。
さらに、キャビネットが壊れて調理器具や食用の食器が飛び散り、壊れたシンクからは水が溢れ、キッチンフードや洗浄機、コンロ部分も壊れて、完全にキッチンは破壊された。
だが、おかげでかなりダメージが入っているようだった。
そして、ここで一気に決めようとそのまま畳み掛けようとしたが、そのとき横から強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。
そのまま壁を突き破って物置も通り越し、俺の部屋にまで飛ばされる。
「流石にこれ以上は見過ごせませんね」
吹き飛ばして来たのはレーネリアだった。
どうやら、風魔法を使ったらしい。
「……邪魔しないでくれるか?」
「…………」
レーネリアがこれ以上は手を出させないと言わんばかりに俺の前に立ちはだかって来る。
「そうだよレリア」
だが、そこでアリナがそう言って立ち上がった。
「これは私とエリュの問題だから、手出し無用だよ」
「……分かりました」
レーネリアはあまり納得していなさそうながらも道を空けた。
「……行くよ!」
「ああ、来い!」
そして、アリナがこちらに一気に駆け寄って来て、仕切り直しとなった戦闘が再開された。
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