episode53 喧嘩の決着

 アリナが一気に接近して右手で殴り掛かって来るが、それを受け流して後ろを取る。

 そして、そのまま右足で回し蹴りを放つが、あっさりと右腕で防がれてしまった。

 それどころか、アリナは後ろ蹴りで反撃して来る。


「ぐっ……」


 俺は突き飛ばされて壁に激突する。


(……思ったよりもダメージが入っていないようだな)


 アリナの様子を見たところ、動きに鈍った様子は無く、思ったよりもダメージが入っていないようだった。

 頭部に集中的に魔力を込めて防御していたのだろうが、ここまでダメージが通らないとはな。


「……む?」


 と、ここでちょうど足下に俺の刀が落ちているのが確認できた。

 視線を左に移すと、武器立てが倒れていて、俺達の使っている武器が床に転がっていた。


「余所見するなんて、随分余裕があるみたいだね!」


 前方に視線を戻すと、こちらに跳び掛かって来ようとしているところだった。

 すぐに刀を手に取り、タイミングを合わせて鞘に入れたまま横一文字に斬撃を放つ。


「うわっ!?」


 攻撃を受けたアリナは吹き飛ばされて、壁を突き破って一つ奥の部屋に飛ばされた。

 すかさず鞘から刀を抜くと同時にそこに一気に接近して追撃を仕掛ける。


 だが、そこでアリナは床に落ちていた大剣で薙ぎ払って来た。

 俺は咄嗟に跳躍してそれを躱して、天井に刀を突き刺して天井に張り付く。


 この部屋は『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーの部屋だ。

 なので、ここには当然アリナの装備品も置いてある。


「そっちが使うんだったら、こっちも使っても良いよね?」

「ああ、当然……だ!」


 俺は天井に刺した刀を抜いて真っ直ぐに刀を振り下ろす。

 しかし、その攻撃は大剣であっさりと受け止められてしまう。


 だが、その程度は想定内だ。そこからすぐに足払いを掛ける。

 しかし、ここで想定外のことが起こった。


「む……」


 想定外のこととは、足払いを掛けてもびくともしなかったことだ。


「その程度じゃ効かないよ!」


 そう言って腹に蹴りを入れて弾き飛ばして、直後に再び大剣で薙ぎ払って来た。


「……っと」


 それをバックステップで躱しつつ俺の部屋にまで下がって距離を取る。


「っえええぇぇーーぃ!」


 アリナはすぐに追撃を仕掛けて来る。

 だが、その様子を見るに、こちらに攻撃して来るつもりは無いようだ。

 そして、何をして来るのかと思ったら、大剣の刃の部分ではなく側面の部分で壁を叩いて破壊して来た。


「……行くよ。ええぃ!」


 そして、遮る物が無くなったところで、大剣を振り回して攻撃を仕掛けて来る。


「っ!」


 その攻撃を確実に一発ずつ受け流して躱していく。

 隙を見て攻撃を仕掛けたいところだが、向こうの方がリーチが長いので迂闊に攻められない。


(さて、どう隙を突くか……)


 このままだと防戦一方なので何とか反撃したいところだが、中々こちらの間合いに入らせてくれない。

 しかし、その状態はすぐに終わった。


 それは何気無い一撃だった。アリナが放ったのは少し高めの横薙ぎの斬撃だ。

 だが、俺はそれを見逃さない。前傾姿勢で突っ込むことでその斬撃を躱しながら接近する。


 この流れでこのまま攻撃を仕掛けたいところだが、ここで直接アリナを狙っても簡単に避けられてしまうだろう。

 実際、バックステップで距離を取ろうとしているしな。

 なので、すぐ左にあるベッドに置かれている枕を左手で掴んで、そのまま前方に向かって投げた。


 そして、右手に持った刀で右下から左上に斬り上げてその枕を斬る。

 すると、そこからアリナの顔に目掛けて羽毛が飛び出した。


「うわっ!?」


 すると、一瞬ではあるが怯んで隙ができた。その隙を突いて刀を両手で構えて左上から斜めに斬撃を放つ。


「うぐっ……!?」


 その一撃はクリーンヒットして上腹部のあたりに傷を付けた。

 さらに、返しの斬撃でもう一撃を狙ったが、それは避けられてしまった。


(反応が早いな)


 やはり、Cランク冒険者とだけあって、戦闘能力は中々のもののようだ。


「いったいなぁ……」


 アリナはそう言って左手で傷口を押さえる。

 そこそこ深く入ったので、多少ではあるがダメージが入っているようだ。

 当然、このチャンスを逃す俺ではない。すぐにそこに接近して連続で素早く斬撃を放つ。


「はっ!」

「ええい!」


 そして、そのままお互いに近距離で斬撃を打ち合う。

 地力ではアリナの方が上なのだろうが、先程のダメージでほんの僅かにではあるが動きが鈍っているのと、こちらが刀なのに対して向こうは大剣なので、近距離での打ち合いになれば素早く取り回せるこちらの方が有利だ。

 俺は確実に攻撃を当てて行って、着実にアリナの身体に傷を付けていく。


「くっ……」


 ここでアリナは不利を悟ったのか、バックステップで距離を取って仕切り直そうとして来た。

 俺はそれを阻止しようと、すぐに接近して再び接近戦に持ち込もうとする。


 だが、アリナはバックステップと同時に大剣を後ろに引いて、既に攻撃態勢に移っていた。

 そのまま大剣を横薙ぎに振って迎撃して来る。


「……っと」


 俺は咄嗟にそれを刀で受けて防ぐが、踏ん張りが利かずに吹き飛ばされてしまった。

 俺はそのまま扉を突き破って廊下に叩き出される。

 そこに今度はアリナが大剣を振りかぶって接近して来る。


「ええい!」

「っ!」


 勢い良く振り下ろして来た大剣を右手側に飛び出して回避する。

 すると、直前まで自分のいた場所で何かが爆発したかのような音がして、それと共にそこから通り抜けるような風が吹いた。


 大剣が振り下ろされた場所を見ると、床が砕けて穴が空いて一階の店舗部分が顔を覗かせていた。


(かなりの威力だな……)


 思えばレッサーワイバーンと戦ったときは簡単に首を切断していた。

 なので、この程度は当然と言えば当然か。


「…………」

「…………」


 狭い廊下でお互いに武器を構えて睨み合う。


(ここならちょうど良いか)


 廊下ならば狭いので、大剣は壁に引っ掛かって使いづらいだろう。開けた場所よりかは優位に戦える。

 そう思ったのだが……。


「せいっ!」

「おわっと!?」


 横薙ぎに放たれた一撃は壁に引っ掛かることは無かった。何故なら、壁ごと切断して来たからだ。

 そのまま身の丈以上の大剣を軽々と振り回して襲い掛かって来る。


「くっ……」


 このままだと廊下の奥まで押し込まれてしまうので、左の部屋の扉を蹴破って部屋に飛び込んだ。

 そして、部屋の出入り口を見て様子を窺う。


「むぅ、面倒だなぁ……こうなったら……」


 そう言って何をするのかと思ったら、その場で大剣を大きく後方に引いた。

 そして、そのままの状態で何もせずに待機している。

 だが、当然何もしていないわけではないだろう。下手に近付くのは危険なので、ひとまずこの場から観察してみる。


(魔力を溜めている?)


 本当にそうなのかは分からないが、何と無くそんな感じがする。魔力が大剣に集約しているような感じだ。

 問題はその上でどうするかだが……。


(……む?)


 と、そんなことを考えていると、魔力が集約していくような感じがしなくなっていた。

 どうやら、魔力を溜め終わったらしい。


「っえええぇぇぃぃーーー!」


 そして、その直後にアリナはその場で回転斬りを放った。


「っ!」


 俺は危険を察知してすぐに伏せる。

 すると、衝撃波のようなものだと思われるもので個室の壁が全て破壊された。

 放たれたのは魔力の斬撃だった。そう、アリナは魔力の斬撃を飛ばしたのだ。


「これで少しはやりやすくなったかな?」


 そう言うと、アリナはまだ状況を把握し切れていない俺に向かって跳び掛かって来た。


「っ!」


 そのまま斬り掛かって来たのを横っ飛びで躱しつつ距離を取る。


(このまま後手に回っても不利になるだけか)


 普段なら受けに回って隙を窺って攻撃を叩き込むのだが、それはあくまでも短剣を使っているときだ。

 今回は刀を使っているので、普段とは違う戦い方をすることにする。


 ひとまず、防戦一方では仕方が無いので、今度はこちらから跳び掛かって斬り掛かる。


「……斬る」

「効かないよ!」


 先端を掠めるように放ったその攻撃は防がれたが、問題は無い。そのまま通り抜けて距離を取り、再び跳び掛かって斬り掛かる。

 そして、そのまま一撃離脱による攻撃を何度も繰り返す。


「そっちがそのつもりなら、こっちもそうさせてもらうよ!」


 アリナはそう言うと、先程俺がしたように一撃離脱の攻撃を仕掛けて来た。

 そして、そこからルミナの店の二階を跳び回りながらの斬り合いが始まった。


「はっ!」

「ええぃ!」


 刃を交える度に火花が散り、それと同時に近くにある物が斬られる。

 クローゼットが斬られてそれと同時に斬られた服が宙を舞い、机やタンスが斬られて引き出しに入っていた物がぶちまけられ、布団ごとベッドが斬られて羽毛が舞う。


 そして、気付けば二階にあった物はあっという間に瓦礫と化していた。

 ミィナとリーサの部屋にあった机の引き出しから飛び出した小物も、ルミナの部屋にあった高級そうな家具も、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーの誰かの私物と思われる高級そうなドレスも、今や無残な姿になっている。


「中々やるね」

「それはこちらのセリフだ!」


 ここで二人同時に飛び出してぶつかり合い、鍔迫り合いの状態になる。

 だが、単純な力比べであればアリナの方が上だ。少しずつこちらが押されていく。


(このままだと確実に押し負けるな)


 このままでは押し切られてしまうので、魔力を集約させて一気に力を入れる。

 すると、それに合わせて向こうも魔力を集約させて力を込めた。


 だが、その動きはこちらの狙い通りの動きだ。俺はそれに合わせて左足を軸にして右足を引き、それと同時に受け流すようにして鍔迫り合いの状態を外す。


「うわっと!?」


 力を込めた瞬間に外されたアリナはその勢いでよろめいた。

 さらに、それと同時に後ろも取れたので圧倒的にこちらの方が優位だ。

 俺は隙だらけのアリナに向かって魔力を込めて横薙ぎの斬撃を放つ。


「くっ……」


 しかし、その斬撃は伏せて避けられてしまった。ギリギリでの回避だったので赤い後ろ髪がごっそりと斬られて散り散りになる。

 だが、ここで攻撃を終えるつもりは無い。斬撃を放った勢いのまま一回転して、そのままの流れで叩き付けるように刀を振り下ろそうとした。


「っ!?」


 だが、そうはいかなかった。何故なら、一回転してアリナの方を向いた瞬間に伏せた状態のまま俺の軸足を蹴って来たからだ。

 それによってバランスを崩してよろめき、前方に倒れそうになる。


 しかし、この状態からでも攻撃を当てるぐらいはできる。そのままがら空きの背中に向かって刀を突き刺す。


「せえぇぃ!」


 だが、そう簡単に攻撃を通させてはくれない。アリナはこちらを振り向きながら右手で大剣を振り抜いて来た。


「ぐっ……」

「がっ……」


 その結果、相打ちとなった。俺は大剣での一撃を脇腹に受けて吹き飛ばされて、壁に激突する。


「ったいな……」


 俺は攻撃を受けた右の脇腹を左手で押さえながら立ち上がる。


「それはこっちのセリフだよ」


 アリナも俺と同じように攻撃を受けた右の脇腹を左手で押さえながら立ち上がった。

 背中を突き刺すつもりで放った一撃は狙いが少し外れて脇腹に当たっていたようだ。

 ひとまず、仕切り直しとなったので刀を構え直す。

 そして、アリナも大剣を構え直してくるのかと思ったら、ここで予想外の行動をして来た。


「危なっ!?」


 予想外のこととは大剣を投擲して来たことだ。

 予想外の行動で反応が遅れたが、それを何とか刀で弾いて防ぐ。


 だが、それで終わりではなかった。アリナは大剣を投擲すると同時に剣を持ってこちらに駆け寄って来ていて、すぐ目の前にまで迫って来ていた。

 装備している剣は普段からアリナが使っている剣だった。

 どうやら、ちょうど足下に落ちていたのを拾ったらしい。


「遅いよ!」


 そして、そのまま振り上げた剣を斜めに振り下ろして来る。


「っ!」


 何とか反応してその初撃は防いだ。


 だが、防げたのは初撃だけだった。反応が遅れていたので、そのまま流れるように放たれた返しの一撃までは防ぐことができなかった。


「ぐっ……」

「まだまだ行くよ!」


 さらに、畳みかけるように高速で斬撃を叩き込んで来る。最初の反応が遅れたのもあり、こちらは完全に後手に回ってしまっている。

 だが、押されているのは最初の反応が遅れたということだけが理由ではない。


(……速いな)


 後手に回っている最大の理由は単純に攻撃速度が速いことだ。大剣を使っていたときとは打って変わって、速度で攻めて来ている。


(仕切り直した方が良さそうだな)


 このままだと押し切られるのも時間の問題だ。

 なので、ここは一度距離を取って仕切り直した方が良いだろう。

 俺は隙を見てバックステップで距離を取る。


「させないよ!」


 しかし、それと同時にアリナは距離を詰めて来る。

 どうやら、向こうはこのまま押し切るつもりのようだ。


「ぐっ……がっ……」


 攻撃を防いではいるが全てを防ぎ切ることはできず、一つ、また一つと切り傷が刻まれて、その度に鮮血が噴き出す。


(ダメだ。速すぎる)


 完全に人間が出すことのできる速度の限界を超えている。

 一応、見切れないほどではないが、体の方が追い付かない。

 やはり、魔力強化の精度の違いが大きいようだ。


「あ……」


 ここでついに刀が弾き飛ばされてしまった。これで攻撃を防ぐことができるものが無くなった。

 そこに容赦なく斬撃が浴びせられて体中を斬り刻まれる。

 そして、最後にとどめと言わんばかりに剣を振りかぶって、勢い良く振り下ろして来た。


「がああぁぁーーっ!」


 その一撃を受けて力なく後方に倒れ込む。


「……これで終わりだね」


 アリナが空いている左手で俺の首を押さえつけながらそう言って来る。


「……不本意ながら、な」


 流石にもうこれ以上は戦えないので、素直に白旗を上げる。

 結局、最後は実力で押し切られてしまった。

 やはり、パーティのリーダーを務めているというだけあって、それなりの実力はあるようだ。こちらは殺る気で戦っていなかったとは言え、この世界においては俺もまだまだということか。


 と、そんなことを考えていると階段の方から足音が聞こえて来た。

 どうやら、何者かが二階に上がって来ているらしい。すぐにそちらに注意を向ける。


「……ミィナに言われて急いで戻って来たのは良いのだけど……二人ともちょっと良いかしら?」


 現れたのはルミナだった。それに続いて他の同居人のメンバーも二階に上がって来る。

 そう言えば、観戦していたはずの他のメンバーがいつの間にかいなくなっていたな。

 全く気に留めていなかったが、どうやら途中から下の階に避難していたらしい。


「何ですか?」


 アリナが俺のことを押さえていた手を離し、ルミナの方を向いて立ち上がる。


「……何だ?」


 俺は特に痛む最後に斬られた箇所を押さえながら起き上がる。


「言いたいことは色々とあるけど、まずは治療するわね。ミリア、レリア、手伝ってもらっても良いかしら?」

「「分かりました」」


 そして、三人に回復魔法で治療を施される。


「エリュ、大丈夫!?」


 シオンが隣で屈み込んで、心配そうにしながら聞いて来る。


「まあ何とかな」

「ホントに大丈夫? 無理してない?」

「命に別状は無いから大丈夫よ」


 ルミナが心配そうにしているシオンに向けて言う。


「そうなの?」

「ええ。このぐらいなら二日もあれば十分完治するわ。アリナの方も大丈夫そうね」

「うん。私は大丈夫だよ」


 アリナはあまり傷は深くないので、大丈夫そうだ。


「とりあえず、二人ともそこに座りなさい」

「ああ」

「うん」


 言われた通りにアリナと並んでルミナの前に正座する。


「それで、二人に聞くけどこの惨状はどういうこと?」

「「………」」


 二人揃って沈黙する。周囲を確認すると、二階には最早無事に残っている物が無いレベルだった。

 この状態にした自分が言うのも何だが、かなり酷い状態だ。


「喧嘩をするなとは言わないわ。そして、その際に多少備品が壊れたりしても目を瞑るわ。でも、それにも限度というものがあるわよ?」

「はい……すいません……」


 アリナが申し訳なさそうに頭を下げながら言う。


「エリュ、聞いてる?」

「ああ、聞いている」


 ルミナの説教を適当に聞き流す。これは確実に長くなるな。


「それで、喧嘩の原因はこの前のこと?」

「うん」

「話は付いたの?」

「「…………」」


 その質問に対して何も答えることができずに押し黙る。


「……つまり、店をこれだけ滅茶苦茶にした上で何も解決していないのね」

「……うん」

「……ああ」


 そういう言い方をされると来るものがあるな……。

 そして、ここでさりげなくアリナの方に視線を移すと目が合った。


「私が勝ったのは分かってるよね?」

「ああ」

「だったら……」

「それとこれとは話が別だろ」


 アリナの言おうとしたことは分かっているので、それを打ち消すように言った。


「……まだやる?」

「そちらがそのつもりならまだやるぞ?」


 お互いに睨み合う。

 そして、数秒ほど睨み合った後、同時に相手に掴み掛かった。


「止めなさい」


 しかし、すぐにルミナに止められてしまった。


「…………」

「…………」


 再び互いに睨み合った状態になる。


「少しは話をしてみたらどう?」


 ルミナが話し合うことを薦めて来る。

 ひとまず、言われた通りに話し合ってみる。


「……言っておくが俺の意見は変わらないぞ」

「それはこっちもだよ」

「…………」

「…………」


 しかし、話し合いにすらならずにすぐに話は終わってしまった。

 まあどちらにせよこの調子だとどうせどこまで行っても平行線だ。これ以上話し合う意味は無い。


「これは時間が掛かりそうね……」


 その様子を見たルミナがため息をつきながら言った。


「大丈夫ですかね……」

「今後が心配になりますね」


 ミリアとレーネリアは不安そうだ。


「それで、どうするの? 泊まる場所が無さそうだけど?」


 ステアがソファーの残骸に腰掛けながら言う。

 確かに、この状態では泊まることはできないだろう。


「とりあえず、エルナに連絡しておくから今日は冒険者ギルドの宿に泊まって。私はある程度片付けてから行くわ」

「分かったよ。それじゃあみんな行こう」


 ステアはそう言うと足早に一階へと向かって行った。


「ちょっとステア! 勝手に行かないで!」


 アリナが止めようとするも、そのままステアは出て行ってしまった。


「……どうしますか?」


 レーネリアがリーダーであるアリナに指示を仰ぐ。


「ミリアとレリアは先に行ってて。私は後で行くから」

「分かりました。ミリア、行きましょう」

「はい」


 そして、指示を受けて二人はステアを追い掛けて行った。


「アリナも早く追いかけたらどう?」

「でも片付けが……」

「今日はもう夜だから明日で良いわよ。早く行ってらっしゃい」


 そう言ってアリナの背中を叩くようにして押す。


「痛っ! ……分かりました」


 少々納得していない様子をしながらも、三人を追い掛けてアリナも出て行った。


「ミィナとリーサも先に行っておいて」

「分かりました」

「分かったわ」


 そして、ミィナとリーサもアリナに付いて出て行った。


「あなた達も早く行くと良いわ」

「……ああ。…………」

「気を落とさないの。ほら、早く行きなさい」


 そう言って叩くようにして背中を押して来る。

 それは良いのだが……。


「おわっ!?」


 かなり強い力で叩かれたので階段まで飛ばされてしまった。

 そして、勢い余って階段から転がり落ちてしまう。


「いっったあぁぁーー!?」


 その衝撃で傷口が痛む。回復魔法で治療されたとはいえ、まだ傷は塞がり切ってはいない。巻かれた包帯に血が滲む。


「シオンもエリュと一緒に行ってらっしゃい」

「分かったよ」


 そして、シオンと一緒に冒険者ギルドへと向かった。

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