episode48 盗賊の討伐依頼

 翌朝、俺達は普段より早めに冒険者ギルドにやって来ていた。

 ギルド内に入ったところで、早速、掲示板を見て例の依頼が無いかを確認してみる。


「あの依頼は……あった!」


 シオンが例の依頼を見付けて手に取る。


「受注条件を満たしていないみたいだな」


 そのまま内容を確認してみるが、この依頼の受注条件はDランクを半数以上含む最低Eランクのパーティということだった。

 俺達はEランクで二人だけなので、条件を満たしていない。


「どうする?」

「どうすると言われてもだな……」


 受注条件を満たしていない以上どうしようもない。

 緑風の紡ぐ空ブリズドアイビーのメンバーに加わってもらうという方法もあるが、俺達の都合に合わせてもらうわけにもいかないしな。


「やはり、来ましたね」


 エルナが俺達が来ることを知っていたかのような口振りで言う。

 そして、そのままこちらに歩いて来た。


「その依頼はあなた達だけでは受けられませんよ」

「そのようだな」


 エルナの言う通りにこの依頼は受けられない。

 なので、仕方無く他の依頼を探す。


「その依頼を受けないのですか?」


 だが、そこで彼女はそんな質問をして来た。


「そう言われても、依頼を受けられないと言ったのはそちらなのだが?」


 依頼を受けられないと言って来たのは彼女の方だ。言っていることが矛盾している。


「ええ、あなた達だけでは受けられませんね。あなた達に用がある人が来ていますよ」


 そう言われて席の方を見てみると、そこにはエリサがいた。


「やっと来たわね」


 エリサはそう言って席から立ってこちらにやって来る。


「あ、エリサ。居たんだ」


 俺達のことを待っていたらしいが、真っ先に掲示板の方に向かったので気付かなかったな。


「それで、エリサが依頼と何の関係があるんだ?」

「今回の依頼に彼女を同行させます」


 どうやら、エリサが依頼に同行してくれるらしい。


「それは良いのだが、それでも人数が足りなくないか?」


 エリサを入れても三人で、条件であるDランク以上が半数以上というのを満たしてしていない。


「受注条件というのはあくまで基準なので、受注条件を満たしていなくても依頼をこなすことが十分可能であると判断された場合は、依頼を受注することができます。まあそれで受注が許可されることは稀ですが」

「そうだったのか」


 依頼を受けるにあたって、受注条件を絶対に満たしていなければならないというわけではなかったようだ。

 それはそうとして、だ。


「エリサは冒険者では無いが、それは大丈夫なのか?」


 冒険者でも無いのに手伝ってもらうわけにはいかないだろう。


「そこはもう話を付けたから大丈夫よ」


 どうやら、俺達が来る前に話を付けていたようだ。


「それじゃあ早速行きましょうか」

「ああ」


 そして、受注の手続きを済ませて目的地へと向かった。






「あっという間に着いたな」

「だね」


 街を出た後はミストグリフォンに乗って目的地まで移動した。

 空を飛ぶので地形も関係無く一直線に来られた上に、馬車とは比べ物にならない速度なので、一時間ちょっとで目的地に到着した。


「これでもあなた達は慣れていないでしょうから、遅めに飛行したわよ」

「そんなに速いのか?」


 これでも遅めに飛んでいたらしい。馬車で八時間近く掛かる距離を一時間ちょっとで移動できる時点で十分速いと思うのだが。


「出そうと思えばこの三倍はスピードを出せたわよ」


 この三倍ということは二十分ちょっとで着くのか。もう馬車が話にならないレベルだな。


「それで、早速討伐に行くの?」


 昨日の場所に着いたところでエリサが方針を聞いて来る。


「観測所跡に行くことに変わりは無いが、まずは拠点と思われる観測所跡の様子を見てみる。本当にそこが拠点であると確定したわけでは無いからな」


 拠点の情報に関しては推測で、直接確認したわけでは無いそうなので、まずはその確認からだ。


「昨日、私達が確認したから、観測所跡が拠点であることは間違い無いわよ」

「そうなのか?」

「ええ。昨日、あなた達が来る前に見付けていたわ」


 どうやら、昨日の時点で盗賊達の拠点は見付けていたらしい。

 それはそうとして、ここで気になることが一つ。


「そう言えば、昨日いた連れは今日は来ていないのか?」


 昨日はずっと視線を感じたが、今日はどこからも視線を感じない。

 昨日いた連れはいないのだろうか。少し聞いてみる。


「彼女なら先に観測所跡近くで待っているわ」


 どうやら、今日も彼女はいるらしい。


「見ているだけで邪魔はしないから大丈夫よ」


 別にそういう問題では無いのだが、まあそのことは別に良いだろう。


「それはそうと、観測所跡の場所が分かっているのなら案内してくれると助かるのだが良いか?」

「ええ、良いわよ。こっちよ。付いて来て」


 そして、エリサに案内されて観測所跡へと向かった。






「この先よ」


 森の中を少し進んだところで、エリサに制止させられた。

 どうやら、この先に観測所跡があるらしい。

 早速、望遠鏡を取り出して様子を確認してみる。


「ボクにも見せて」

「ああ」


 ここで俺は望遠鏡をもう一つ取り出して、それをシオンに渡す。

 そして、二人で観測所跡の様子を確認する。


 観測所跡はそこそこ広いが、所々が崩れていていかにも廃墟といった感じだった。

 だが、雨風を凌ぐことぐらいはできそうだ。


 また、調べたところ地下もあるとのことだったので、拠点として使うことは十分可能だろう。

 そして、周囲の様子を確認すると、二、三人ほどの見張りがいた。観測所跡の周りを歩き回って周囲を警戒している。


「見張りはいるが、問題は無いな」


 この広さに対してこの人数であれば、簡単に監視の目を掻い潜ることができる。

 と言うより、この程度であれば見張りはいないも同然だ。


「だね。それで、どうするの? 早速、仕掛ける?」

「いや、仕掛けるのはまだだ。仕掛けるのは人数が減ってからか、日が落ちてからだな」


 昨日、襲撃して来たのは十七人だったが、盗賊団は全員で三十人から五十人とのことだったので、常に全員で行動しているわけではないようだった。

 なので、別れて行動しているところを狙うのが良いだろう。

 それか、日が落ちて辺りが暗くなってから、暗闇に乗じて行動するかだ。


「まあどちらにせよ待ちだな」


 今は時間帯的に全員が集まっている可能性が高いので、様子を見ながら待つしかないだろう。


「分かったよ。それで、どの辺りから様子を見る?」

「そうだな……」


 俺は辺りを見回して、良さげな場所を探す。

 向こうからは見づらく、こちらから見やすい場所が良いのだが……。


 と、良さげな場所を探していたところでエリサが声を掛けて来た。


「それならここで待つと良いわ」


 エリサがそう言って前方に手をかざすと、突然目の前の


「これは何なんだ?」

「これは空間魔法で作り出した別次元の空間よ。この中に入って待つと良いわ」


 そう言ってその裂け目の中に入って行く。


「とりあえず、入ってみよっか」

「そうだな」


 そして、エリサに続いて裂け目の中に入った。






 裂け目の中に入ると、そこにはリビングのような一部屋が広がっていた。

 ソファーやベッド、食卓などの色々な家具が置かれていて、快適に過ごすことができそうだ。


「こんな空間が広がっているとはな」

「だねー」


 空間魔法はこんなこともできるのか、と軽く感動を覚える。


「飲み物でも用意するから、適当なところに座ると良いわ」

「ああ」

「分かったよ」


 突っ立っていても仕方が無いので、言われるがままに食卓の席に座る。

 そして、そのまま待っていると紅茶が用意された。


「ありがとー」

「いただこう」


 ひとまず、用意された紅茶に口を付ける。


「先に待っているという連れはどうしたんだ?」


 観測所跡の近くで先に待っているという連れが見当たらないが、どこにいるのだろうか。少し聞いてみる。


「彼女なら別の場所で待っているわ」

「そうか」


 どうやら、ここにはいないらしい。相変わらず一切姿を見せないな。


「ところで、外の様子はどうなっているんだ?」


 入って来た裂け目は今は閉じられているので、この空間内からだと外の様子を確認できない。


「今のところは変わり無いわね」


 そう言うと、目の前に外の景色を映した映像が空中に投影された。


「外の様子も見られるのか」

「おー! すごーい! これどうなってるの?」

「その説明は面倒だから省くわね。見ての通り、周りの様子はこの空間内からでも確認できるわ。とりあえず、観測所跡の方向は映したままにしておくわね」


 これなら監視するのにちょうど良さそうだ。

 それはそうと、気になっていたことが一つ。


「外からは分からないのか?」


 気になっていたこととは、この空間の存在を外から認識することが可能なのかということだ。


「視認することはできないわね」

「視認できないということは、他に確認する方法があるということか?」

「ええ、あるわよ。魔力の流れを見たりすれば分かるわ」


 魔力の流れとやらがどんなものなのかは分からないが、外部からでもこの空間の存在を確認する方法はあるらしい。


「盗賊達に気付かれる可能性は?」

「まともに魔法を使える人がいないみたいだし、その可能性は無いと思うわ」

「そうか、分かった」


 それなら安心して監視できるな。


「シオン、交代で監視するぞ」

「分かったよ。それで、どっちから監視を始める?」

「俺は別にどちらでも構わないぞ」


 俺はどちらでも良いのでシオンに任せる。


「それじゃあエリュからで良い?」

「ああ、分かった」


 そして、方針が決まったところで盗賊達の監視を始めた。






「何も起きないねー」

「そうだな」


 もう日が傾き始めているが、朝からずっと交代で三人前後が見張りをしているだけで、特に何も変わったことは無い。


「この様子だと日が落ちるまで待つことになりそうだな」

「だねー」


 暇そうなシオンがソファーのもたれにもたれ掛かりながら言う。


「何も進展していないようね」

「まあそうだな」


 出て来る様子も無いので、こうなれば日が落ちるまで待ちだな。


「早いけど、夕食にする? 夕食と言っても保存食しか無いけど」


 ここでエリサが早めの夕食を提案して来る。


「そうさせてもらう。シオンもそれで良いか?」

「うん。それで良いよー」

「分かったわ。食卓の上に適当置いておくから、好きに食べて」

「ああ、分かった」


 そして、早めの夕食を摂って、日が落ちるのを待った。

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