episode49 盗賊の暗殺

「そろそろ頃合いか」


 それからしばらくすると、日が落ちて辺りはすっかり暗くなっていた。そろそろ動いても良い頃だろう。


「シオン、そろそろ行くぞ」

「分かったよ」


 日が落ちたところで、早速、準備を進める。


「私達は適当に見させてもらうわね。あなた達の邪魔はしないから安心して」

「ああ」


 そして、準備を終えたところでこの空間を出た。






 あの空間を出たところで、今一度観測所跡の様子を確認する。

 見張りは相変わらず三人で、明かりは必要最低限しか使っていない。闇に紛れて行動するには都合が良さそうだ。


「それで、どうする?」


 シオンが今回の方針を聞いて来る。


「そうだな……まずは内部に潜入するぞ」

「見張りはどうするの?」

「見張りは放っておく。見張りを殺るとすぐにバレそうだからな」


 流石に見張りがいなくなると分かるだろうからな。交代の時間になれば確実にバレる。

 なので、見張りは放置して潜入だ。

 もちろん、邪魔になったら片付けるが。


 ただ、潜入するに当たって問題が一つ。


「エリサと連れとやらはどうする?」


 俺達だけで潜入するのであれば問題無いが、エリサとその連れが付いて来るとなれば話は別だ。


「私達は大丈夫よ。あなた達のように本業じゃないけど、彼ら相手なら適当な魔法で姿を消すだけで良さそうだし大丈夫よ」

「……本業? 何のことだ?」


 何の話だろうか。聞き返してみる。


「それで隠しているつもり?」

「何をだ?」

「……普段から足音を一切立てない上に気配も消しているし、それぐらいは分かるわよ」

「…………」


 俺達は普段から気配を消して極力音を出さないように活動していたので、俺達にとってはそれが「普通」になっていたが、言われてみれば普通は足音を立てて歩くし、気配を消したりもしないな。


「意外と抜けているところもあるのね」


 意外な一面もあるのね、と笑みを浮かべながら言う。


「そんなことより、魔法で姿を消すとは言ってもどんな感じなんだ?」


 このままだとこのことで色々と言われそうなので、すぐに話題を変える。


「こんな感じよ」


 そう言うと、どこからともなく発生した黒い霧のような物がエリサを包み、そのまま景色に溶けるように姿が消えてしまった。


「確かに、これなら見つかることは無いだろうな。シオン、行くぞ」

「うん」


 そして、見張りに見付からないように慎重に観測所跡へと近付いた。






「とりあえず、潜入成功だね」

「そうだな」


 ひとまず、見張りに見付かることなく内部に潜入することができた。

 見張りは三人しかいなかったので、潜入自体は簡単だった。


「それで、どうするの?」

「まずは様子を探るぞ」

「分かったよ」


 早速、聞き耳を立てて周囲の様子を探ることにする。

 事前の調査によると、この建物は地下付きの二階建てだ。

 まずは一階の様子から探ってみる。

 だが、特に物音や足音も無く何かがいるような気配も無いので、一階には誰もいないらしい。


 次に二階の様子を探ってみる。

 足音から察するに、二階にいるのは見張りの三人だけのようだ。距離的には割と近い位置にいるようなので、話し声も聞き取れそうだ。

 早速、その辺りの音を拾うのに集中して話し声を聞き取る。


「やっぱ見張りは暇だなー。早く交代の時間にならねえかなー」

「交代の時間は二時間後だぞ」


 どうやら、交代の時間はまだ先らしい。一

 階には誰もいないので、これなら今殺ってしまっても見付からないかもしれないが、定期的に報告をしていたりするとそのときにバレてしまうので、止めておいた方が良いだろう。


「今日まで何も起こったことが無いしな。見張りなんて要らないんじゃないか?」

「だよなー」


 いや、どう考えても見張りは要るだろ……。

 まあ結局俺達の侵入を許しているので、その見張りも意味は無かったがな。


 そもそも、拠点の規模に対して見張りの人数が少ないというのが問題だ。

 これだと侵入者に気付けないのも当然と言える。


(二階の様子を探るのはこれまで良いか)


 見張りの会話から何か情報は出て来るかもしれないが、そもそも情報が出て来るかも分からないし、出て来たとしても大した情報は出て来なさそうなので、二階の様子を探るのはこれまで良いだろう。


 次に地下の様子を探ってみるが、場所的にここからだと分かりづらいので、地下への階段近くへ移動する。

 そして、階段近くへ移動したところで聞き耳を立てて探ってみると、地下からは多くの足音や話し声が聞こえた。

 やはり、盗賊達は地下にいるようだ。

 早速、階段近くにいる二人の話を聞き取ってみる。


「それにしても楽な仕事だよな。こんなにも簡単にこれだけの物が手に入るしな」

「だよな。明日もサクっと稼ぐか」


 ひとまず、階段近くにいるのはこの二人だけのようだ。


「シオン」

「何?」

「まずは階段近くにいる二人を殺るぞ」

「分かったよ」


 周囲には他に誰もいないようなので、今なら誰にも気付かれずに片付けることができるだろう。

 早速、階段をゆっくりと下りて殺害対象ターゲットに近付く。


(いたな)


 階段を下りたところで、前方に殺害対象ターゲットがいるのが確認できた。

 二人はこちらに背を向けて話し込んでいる。

 そして、すぐさま短剣を鞘から抜いてシオンと一緒に音を立てずに駆け寄り、二人同時に喉を掻き切った。


「息ぴったりだね、エリュ」

「……気付かれる前に死体を隠すぞ」

「分かったよ」


 このままでは見付かってしまうので、すぐに死体を隠すことにする。

 ここからなら一階に置いておけば良いだろう。死体を担ぎ上げて一階へと向かう。


 そして、そのまま一階の目立たない場所へと死体を隠した。


「この調子で片付けていくぞ」

「うん」


 死体を隠したところで再び地下へと向かう。

 もちろん、周囲の様子を探りながら見付からないようにだ。


「それで、ここからはどうするの?」


 シオンが今後の方針を聞いて来る。


「そうだな……」


 ここで改めて聞き耳を立てて周囲の様子を探る。

 すると、盗賊達は奥にある一番広い部屋に集まっていることが分かった。


 だが、全員ではない。そこをメインに集まっているだけで、何人かは別の場所にいる。


「奥の一番広い部屋をメインに集まっているようだな。とりあえず、そこからはぐれている奴を狙うぞ」

「分かったよ」


 そして、方針が決まったところで本格的な盗賊討伐を始めた。






「それで、誰から狙っていくの?」

「とりあえず、ここから近い順だな」


 ここは近い順に片付けて数を減らし、最後に残った一番広い部屋に集まっている盗賊達を倒すのが良いだろう。


「分かったよ。じゃあまずはそこの部屋からだね」

「ああ」


 早速、ここから一番近い部屋にいる三人の盗賊の様子を見てみる。

 短剣の刀身に反射させて部屋の中を確認すると、三人が円になって会話をしていた。

 ひとまず、その会話の内容を聞き取ってみる。


「明日の予定だったよな?」

「ああ。明日は良いカモがそこの街道を通るらしいからな」


 呑気なことに、相変わらずこちらに気付いていないようだ。

 この隙に仕留めたいところだが、二人はこちらを向いているのでそう簡単にはいかない。

 別にこのままでも倒すことはできるだろうが、声を出されて他の盗賊達に気付かれてしまう可能性がある。


(何か良い方法は……ふむ、これが良さそうだな)


 ここで俺は足元にあった二センチメートルほどの大きさの瓦礫を拾い上げる。

 そして、シオンに目配せすると小さく頷いた。

 どうやら、俺の意図を察してくれたらしい。


 俺は盗賊達がこちらの方向から目線を外した一瞬の隙に、その瓦礫を部屋の奥に向けて投げ入れる。

 すると、投げ入れた瓦礫は部屋の奥の壁に当たって音を立てた。


「何だ?」


 その音で盗賊達が一斉にその方向を振り向く。


(今だな)


 その隙にシオンと同時に音を立てずに飛び出して接近した。

 そして、攻撃範囲に入る直前に足音を立てる。


「今度は何……」


 そして、振り返ったところに短剣を喉に突き立てた。

 仕留めたところで、そのまま音を立てないようにゆっくりと死体を下ろす。


 そう、わざわざ音を立てたのはこちらを振り向かせるためだ。

 向こう側を向かれていると喉を狙いにくいからな。

 そこで、敢えて音を立てることでうまく三人同時にこちらを振り向かせたのだ。


「うまくいったね」

「ああ。とりあえず、そこのタンスに死体を隠すぞ」

「うん」


 壊れたタンスではあるが死体を隠すのに使うのであれば問題無いだろう。すぐにそのタンスに死体を隠そうとした。

 だが、そのときこちらに盗賊達と思われる足音が近付いて来た。


「エリュ」

「分かっている。急げ」


 足音から察するに人数は二人だ。

 まだ距離はあるが、その足音はこちらに向かって来ているので、急いで死体を片付ける。


「それで、死体は片付けたけど、どうする?」


 距離はまだあるものの部屋の前の廊下にいるようなので、今から部屋を出ることはできない。

 かと言って、隠れようにもこの狭い部屋ではすぐに見付かってしまう。

 物音で気付かれたとは思えないので通過するだけかもしれないが、そう都合良く行くとも限らない。


「そこの瓦礫の山の裏に隠れるぞ。だが、その前にだ」


 タンスの反対側に瓦礫の山があるので、ひとまずそこに隠れることにした。

 だが、その前にやることがある。

 まず一つは床に残った血だ。これを見られると困るので拭き取っておきたいが、血を拭き取るのに良さそうな物が無い。


「シオン、悪いがちょっと借りるぞ」


 シオンの防具であるカーディガンコートの中に下から両手を前側と後ろ側にそれぞれ入れて、その内側に着ている服を破いて脱がす。

 そして、その破いた服で血を拭き取った。

 俺の着ている服やコートはルミナが錬成魔法で作った物なので、そう簡単に引き裂くことはできない。

 シオンの羽織っているカーディガンコートも同様にルミナが錬成魔法で作った物だが、その内側に着ている服は普通の服だ。

 なので、これであれば問題無く引き裂くことができる。


「エリュ!?」

「静かに」


 完全に拭き取ることはできないので、まだ血の跡は残っているが、部屋は薄暗くて見えづらいので問題無いだろう。

 次に死体の入ったタンスの扉を少しだけ開けて、わずかに足の先が見えるようにした。


 だが、パッと見では何なのかが分からないぐらいにしておく。

 何なのかが一発で分かってしまっては意味が無いからな。


「隠れるぞ」

「うん」


 準備ができたところで瓦礫の山の裏に隠れる。

 すると、その直後に二人の盗賊がこの部屋へと到着した。


「この部屋から何か音がしたような気がしたが……誰もいないな」

「誰もいないし気のせいじゃないのか?」

「確かに、何か聞こえた気がしたが……ん?」


 ここで盗賊はタンスに何かがあることに気付いたようだ。


「タンスに何か無いか?」


 二人はタンスに歩いて近付く。

 そして、タンスの取っ手に手を掛けたその瞬間に俺達は瓦礫の裏から飛び出して、盗賊達の頭を斬り飛ばした。


「何とか片付いたな」

「だね」


 わざわざタンスを開けておいたのはそちらに注意を向けるためだ。

 どこか別の場所に注意を向けて、死角から不意打ちを仕掛ける。気付かれずに倒すには単純ながらも有効な方法だ。


「それでエリュ、ボクの服はどうしてくれるの?」

「それは後で着替えれば良いだろう」


 防御力的には問題無いしな。盗賊の討伐が終わってから着替えれば良いだけの話だ。


「ちゃんと責任取ってよね!」


 だが、シオンはそう言って上の服を脱ごうとする。


「待て」


 それをすぐさま手を掴んで阻止する。


「どうしたの、エリュ?」

「今はそういうことは止めておいて欲しいのだが」


 と言うより、隙あらばそういうことをしようとすること自体を止めて欲しい。普段から割とこういうところがあるからな。


「今は、ってことは後でなら良いってことだね。分かったよ。後の楽しみに取っておくね」

「そういう意味では無いのだが」


 絶対わざとやっているよな……。

 そう思うものの、今は言い合っている場合ではないので、後で言うことにする。


「っ! 静かに」


 と、そのとき廊下の方から足音が聞こえた。

 それも、歩いて来ているのではない。明らかにこの部屋に向けて駆け寄って来ている。

 すぐにそこに集中して、会話から何か分からないか聞き取ってみる。


「あれはまさか……」

「おい! あそこに転がっているのって……」


 その会話を聞いて廊下の方を見てみると、斬り飛ばされた頭部が部屋を飛び出して廊下に転がっていた。

 そう言えば、斬り飛ばした頭部をどこに落ちたかも確認せずに放置していたな。

 そして、それを今見られてしまったらしい。


「シオン、行くぞ」

「分かったよ」


 バレてしまった以上隠れて動く必要も無い。

 俺達はすぐさま勢い良く部屋を飛び出して、その盗賊達に攻撃を仕掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る