episode47 盗賊に関しての情報収集
「二人ともおはよう」
「……む?」
目を覚ますと、そこにはルミナがいた。基本的には自分達で起きているので起こされることはあまり無いのだが、今日は珍しくルミナが起こしに来ていた。
「昨日はどうだった?」
ルミナが昨日のことを聞いて来る。
昨日は帰って来たのが夜遅くだったので、夕食を摂って風呂に入った後はそのまま眠りに就いた。
なので、昨日はあまり話をしていない。
「色々と参考にはなったな」
パーティでの連携の取れた戦闘は中々良かったので、参考にできる点は色々とあった。
わざわざ観戦するだけの価値はあったと言えるだろう。
「そう。それは良かったわ」
「それで、何の用だ?」
わざわざ起こしに来たということは何か用があるということだろう。昨日のことを聞くために起こしに来たわけではないだろうしな。
「今日は忙しくて朝食を用意できていないから、適当に冷蔵庫にある物を食べるか外で食べるかでもしてくれる?」
用件は朝食を自分達で摂ってくれということだった。
「この時間から忙しいとは珍しいな。何かあったのか?」
まだ店の開店時間までには時間があるし、普段は必要な物は前日までに用意しているので、この時間から忙しくしていることは珍しい。
何か問題でも起こったのだろうか。ひとまず、理由を聞いてみる。
「追加の注文が入ってね。それを用意するのに忙しいから、今日は食事は各々で何とかしてくれる?」
どうやら、急遽追加の注文が入ったとのことらしい。
「騎士団からの注文か?」
個人での追加注文であればこんなに忙しくはならないので、国からの注文と見て間違い無いだろう。
何の話かと言うと、ルミナの店は国からの信頼度も高く、この国の騎士団で使う装備品やポーション類などの注文を受けているので、定期的にそれらを納品しているのだ。
「ええ、そうよ。察しが良くて助かるわ」
思った通り、国からの注文だったようだ。
国からの注文はある程度量は決まっているのだが、消耗した分だけ補充する形での注文になるので毎回量にはばらつきがある。今回は注文量が多かったのだろう。
「それとこれを渡しておくわね」
そう言って金貨三枚、三万セルトを渡して来る。
「これは?」
「食事代よ。外食するときに使ってね」
一食当たり一人五千セルトか。多めに渡しているのだろうが、少々多すぎないだろうか。
まあ余った分は返せば良いだけなので、問題無いか。
「と言うことで、私は地下にいるわね」
そして、ルミナはそう言い残すと、部屋を出て行った。
「聞いていたか、シオン?」
「うん、聞いてたよ。それで、冷蔵庫にある適当な物で済ますの? それとも外に食べに行くの?」
「外食のつもりだ。少し用もあるしな」
用というのは昨日遭遇した盗賊達のことだ。
そのことで少し情報収集をしておきたいからな。外で情報を集めてみることにする。
「では、さっさと準備するぞ」
「分かったよ」
そして、出掛ける準備をして目的地へと向かった。
やって来たのは街の門の近くにある酒場だ。この酒場はこの街に入ってから一番近いところにある酒場で、冒険者や外から来た者達がよく利用する酒場だ。
なので、外のことに関して、特に街の周辺のことに関しての情報が集まりやすい。
「いらっしゃいませ。お二人でよろしいですか?」
店に入ったところで女性店員が出迎える。
「ああ」
「それではこちらへどうぞ」
そして、端の方にある二人用の席に案内された。
ひとまず、メニューを手に取って目を通す。
「決まったか?」
「うん」
注文が決まったところで、店員を呼んで適当に注文する。
「さて、ここに来た目的は……」
「例の盗賊についての情報を集めることだよね」
「ああ」
ここに来た目的は昨日遭遇した盗賊についての情報を集めることだ。
ただ、どちらかと言えば朝食を摂る方がメインの目的ではある。
と言うのも、冒険者ギルドに行けばそこに情報が集まっている可能性が高いからだ。
だが、そこでは聞けないような情報もあるかもしれないので、一応ここでも情報収集をしてみる。
「……で、ボクはどうすれば良い?」
「シオンは静かにしていてくれればそれで良い」
俺が聞き耳を立てて周りの話を聞くだけなので、シオンは特にすることが無い。
「えー……それだと暇じゃん」
軽く頬を膨らませて不満そうに言う。
「それぐらいは我慢してくれ」
「むぅ……しょうがないなー」
渋々ではあるが了承してくれたようだ。
シオンが静かになったところで、早速聞き耳を立てて周りの会話を聞き取る。
まずは一番近くにいた冒険者と思われる男性二人、女性二人の四人組の会話を聞き取ってみる。
「やっぱり食事はこっちで摂った方が良いな」
「冒険者ギルドだとメニューが少ないしね」
「そもそも、冒険者ギルドは食事がメインの場所じゃないしな」
「ここは近いし良いよね」
ただの雑談でここからは何の情報も得られそうにない。
なので、他のところから話を聞いてみる。
次に行商人と思われる二人組の話を聞いてみる。
「ここでは予定通りレッサーワイバーンの素材を仕入れて……」
「そして、これはノースレイヴで売った方が高値で……」
どうやら、商売に関しての話をしているようだ。ここからも目的の情報は得られそうにない。
(やはり、そう簡単に目的の情報は得られないな)
初めから分かっていたことではあったが、目的の情報は中々得られそうにない。
「お待たせしました」
と、ここで注文していた料理が運ばれて来た。注文した料理が次々とテーブルに並べられていく。
「とりあえず、先に食べちゃおっか」
「それもそうだな」
このまま情報収集を続けても良いが、話を聞き取るのにもだいぶ集中力を割くので、食事を摂りながら聞き取るのは難しい。
なので、ひとまず朝食を先に摂ってしまうことにした。
「大した情報は出て来ないな」
「だね」
朝食を摂り終えて飲み物を飲みながら話を聞いているが、大した情報は出て来ない。
今のところ分かったのは、規模が三十人から五十人ほどであること、実力者はいないこと、そして襲撃地点近くに拠点があると思われることだ。
「もう切り上げる?」
「そうだな」
これ以上情報収集しても大した情報は出て来そうに無いので、ここで切上げることにした。
結局、大した情報は得られなかったが、冒険者ギルドで聞けば情報は集まるだろう。
それに、昨日の戦闘の様子を見た感じだと、盗賊達は統率力が低い上に個々の戦闘能力も大したことは無い。一言で言ってしまうと弱い。
なので、殲滅するのは難しくないだろう。
「ところでエリュ、普通に話を聞いたんじゃダメだったの?」
「…………」
言われてみればそれもそうだな。
転生前は直接話すわけにはいかないので、こうして盗み聞きをするということしかしていなかった。
なので、そんな簡単なことにも気付けなかった。
「……エリュー?」
「……店員さん、会計を頼む」
話を変えるように店員を呼ぶ。店員は呼ぶとすぐにやって来た。
「合計二千五百六十セルトになります」
「これで」
二千五百六十セルトちょうどを渡す。
「二千五百六十セルトちょうどですね。ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
「ああ。行くぞ、シオン」
「あ、待ってよ!」
今更話を聞くのも何なので、このまま冒険者ギルドへと向かうことにした。
そして、その店員に見送られて足早に酒場を後にした。
冒険者ギルドは朝のラッシュが終わって、あまり人がいない状態だった。
ひとまず、当初の目的を果たすために受付に行ってみる。
「あ、エリュさんにシオンさん! 今日も依頼ですか?」
受付に行くとそこにはミーシャがいた。
なので、彼女に話を聞いてみることにする。
「いや、今日は依頼を受けに来たわけではない。聞きたいことがあってな」
「聞きたいことですか?」
ミーシャが首を少し傾けながら言う。それと連動するように耳と尻尾も同じ方向に少しだけ動く。
「ああ。ワイバスとライカスを繋ぐ街道で出没しているという盗賊に関してのことを聞きたくてな」
「そのことですか。分かりました。ちょっと待ってくださいね」
そう言うと、ミーシャは後方の棚から一枚の紙を取り出した。
恐らく、この紙に例の盗賊に関しての情報が纏められているのだろう。
そして、一通り目を通したところで盗賊に関しての情報を話し始めた。
「被害報告は五件で最初の報告は十二日前ですね。盗賊団の規模は三十人から五十人だと思われます。実力者はいないと見て間違い無いようです」
ひとまず、ここまではほとんどが既に知っていることだな。
一応、被害報告の件数は新情報だが、あまり必要の無い情報だ。
「被害報告のあった場所から近くに拠点があると思われ、観測所跡を拠点にしていると思われます」
近くに拠点があると思われるという話は聞いていたが、具体的な場所の情報は初耳だ。それは良いのだが……。
「観測所跡?」
観測所跡というのは聞いたことが無いな。
その名の通り、かつて観測所だったものなのだろうが、そもそも観測所というものがどのようなものなのかを知らない。
「はい。記録によると三百年以上前から使われていないそうで、今はもう完全な廃墟になっています」
「そもそも、観測所とは何なんだ?」
「観測所というのは国の各地に点在している施設で、魔物の動向の観測をしている施設です。魔物の大量発生や強力な魔物が現れた際にすぐに発見できるように備えています」
何を観測する施設なのかと思ったら、どうやら魔物を観測するための施設のようだ。
「それで、その観測所跡はどこにあるんだ?」
肝心な観測所跡の場所をまだ聞いていないので聞いてみる。
「観測所跡はこの辺りですね」
ミーシャはそう言って地図を広げて、その場所を指で指し示す。
「街道を少し外れた辺りか」
指し示されたのは街道を少し東に外れた辺りだった。盗賊達が来たのも東側からだったので、ここが拠点である可能性は高いだろう。
「もしかして、盗賊の討伐に向かうつもりですか?」
「まあな」
もちろん、そのつもりだ。そのために情報収集をしているからな。
「そうですか。もう国から依頼が来ていて明日には依頼として貼り出されると思いますので、依頼を受けるのであれば明日の朝に来てください」
どうやら、もう国からの正式な討伐依頼が来ているらしい。
「分かった。行くぞ、シオン」
「うん」
情報はこれだけあれば十分だろう。
なので、今日のところはもう店に戻って明日に備えることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます