episode42 レッサーワイバーン
晴れ渡る青空の下、二人の人物が馬車に乗って近付いて来ていた。
「メイルーンとの合流地点はもう少し先か」
御者台にいる男性が地図を見ながら言う。
「寝るのにゃ~。ふにゃー」
そして、荷台にいる狼の耳と尻尾を持った女性は猫のように丸くなりながらくつろいでいた。
「アーニャは辺りの警戒をしていて欲しいのだが」
男性がその女性、アーニャに向けて指示を出す。
「レイモンも一緒に寝るにゃ~」
だが、アーニャは話を聞いた様子も無くその男性、レイモンに対して答えた。
「馬を操る者がいなくなるのだが……」
ため息をつきながらそう言うが、これもいつものことかと切り換えて前を向いた。
だが、そのときアーニャの倒れていた耳が何かを感じ取ったかのようにピンと立った。
そして、起き上がってある方角を見つめる。
「どうしたんだ?」
その様子を不思議に思ったレイモンが何事なのか尋ねる。
「急ぐのにゃ」
だが、アーニャはそれに対してただ一言そう言うと、御者台にいたレイモンを担ぎ上げた。
「ちょっと待……」
レイモンはすぐに止めようとしたが、アーニャは一切気に留めること無く彼を担いだまま跳躍した。
一跳びで五十メートル以上もの距離がある跳躍で、どんどん進んで行く。
そして、その向かう先は――
「グルルァァーー!」
レッサーワイバーンが跳び上がって大きく右翼を振りかぶる。
そして、そのまま勢い良くその翼を叩き付けて来るのを、それぞれ左右に分かれて跳んで回避した。
それは良いのだが、翼が叩き付けられた地面の岩が割れてその破片が辺りに飛び散り、その破片が俺の顔に向かって飛んで来た。
「っ……と」
その破片を防ごうと手を顔の前に出す。
「グアアァァーーー!」
だが、レッサーワイバーンはその隙を見逃すつもりは無いと言わんばかりに俺の方を向いて、そのまま大きく口を開いた。
すると、その直後にそこから火球が飛び出して来た。
「うおっと!?」
それを倒れ込むように伏せて何とかギリギリで回避した。
間一髪での回避だったので、その火球からかなりの熱量が肌に伝わって来る。
そして、外れた火球はそのまま真っ直ぐと飛んで行き、後方の地面に着弾して爆発を起こした。
かなりの威力なので直撃すればただでは済まなそうだ。
「ったく危ない……なっ!?」
だが、レッサーワイバーンの攻撃はまだ終わっていない。そのまま続けて火球を撃ち込んで来る。
このまま倒れ込んでいては危険なので、すぐに起き上がって態勢を立て直した。
「グルァ!」
俺に向かって何発も火球を撃って来るが、一発でも直撃すれば致命傷になりかねないので、それらを一発ずつ確実に避けていく。
このままだと埒が明かないが、俺の方に集中しているので後方ががら空きだ。
そこにシオンが後方から音もなく跳び掛かって、首筋に向かって斬撃を放つ。
「む……」
しかし、その攻撃では硬い首の皮膚を傷付けることはできず、短剣が折れてしまった。
「グルァッ!」
レッサーワイバーンはシオンを一瞥すると、そのまま空中にいるシオンを打ち上げるように翼で弾き飛ばした。
さらに、シオンの方を向いて大きく口を開く。
「っ! シオン!」
開いた口の角度から見るに、着地点を狙って火球で追撃するつもりなのだろう。
だが、そうはさせない。すぐに眼を狙って短剣を投擲する。
その攻撃は気付かれて翼で防がれてしまったが、その際に僅かに角度がずれて火球は外れた。
そのままシオンに注意を向けさせないために残った一本の短剣を鞘から抜いて一気に接近する。
とりあえず、何とか火球の直撃は免れたが、様子を見たところシオンは無事では無さそうだ。
地面を砕くほどの威力を出せる翼で殴られたので、最悪肋骨が折れている可能性もある。
無事だと良いのだが、今は確認している暇は無い。
「グラッ!」
俺が近付いて来たことに気付いたレッサーワイバーンは翼を振りかぶって叩き付けて来る。
(やはり、攻撃は単調だな)
相変わらずの単調な攻撃だ。左手に持った短剣を口に咥えて、空いた左手で鞘に入ったままの剣を地面に突き立てることで無理矢理失速させて停止する。
間合いに入る寸前で止まったので、レッサーワイバーンの一撃は俺のすぐ目の前に炸裂した。
直後に剣を手放して翼の下をくぐるようにして抜け、それと同時に口に咥えている短剣を左手に装備し直す。
そして、一度刀で斬った傷口に短剣で攻撃を加えた。
「グルルギャァァーー!」
どうやら、かなり効いているようだ。俺はそのまま傷口を狙って攻撃を加え続ける。
だが、レッサーワイバーンも無抵抗ではない。
翼を地面の表面を掬い取るかのように振って、俺を吹き飛ばそうとして来る。
「っと……」
それをレッサーワイバーンの股の下を滑り込んで抜けて、後ろを取りつつ攻撃を躱す。
そして、短剣を地面に突き刺してブレーキを掛けてすぐに起き上がりつつ反転、振り向き様に傷口を攻撃できるように構える。
だが、レッサーワイバーンは振り向かずにそのまま後ろ蹴りをして来た。
「っ……!」
咄嗟に両手に持った短剣でその攻撃を受ける。
「ぐっ……」
俺はそのまま吹き飛ばされて地面を跳ねる。
そして、四、五回跳ねたところで何とか止まった。
「大丈夫、エリュ!?」
すぐ隣にはちょうどシオンがいた。大事が無かったかを聞いて来る。
「ああ、何とかな」
魔力を集約させて魔力強化をしたからな。胸の辺りを蹴られたが、肋骨は折れていなさそうだ。少々痛むが、問題は無い。
「シオンの方こそ大丈夫か?」
シオンは翼に打たれて吹き飛ばされていたが大丈夫だったのだろうか。聞ける内に聞いておく。
「ボクは大丈夫だよ。それより、その短剣は大丈夫なの?」
「む?」
シオンに言われて装備している短剣を見ると
「短剣の方は無事ではないな。一本渡してくれるか?」
「分かったよ。はい」
そう言ってシオンは短剣を一本渡して来る。
そして、俺はそれと交換するように
「助かる。さて、あの剣と短剣を回収したいところだが……」
レッサーワイバーンの元に剣と短剣があるので何とか回収したいところだ。
だが、そう思ったところでレッサーワイバーンが突き刺さっている剣と落ちている短剣をじっと見始めた。
「グルッ!」
そして、それらに向かって翼を叩き付けると、それらの武器の刀身がバラバラに砕け散ってしまった。
「……壊されちゃったね」
「そうだな」
これで残っている武器は剣一本に刀一本、魔法銃二丁に短剣は不備の無い物が二本と
少しずつダメージは与えられているが、こちらも確実に消耗して来ている。
(長期戦はあまり得策ではないな)
戦闘が長引くといつかは削り切られてしまうだろう。
なので、その前に決着を着けなければならない。
だが、このまま地道にダメージを与え続ける方法だと確実に時間が掛かってしまう。
一気に決めてしまいたいところだが、首に攻撃が通るかは怪しいし、胸部は硬い鱗に覆われているので正面から心臓を狙うのも難しい。
「シオン、ちょっと良いか?」
「何?」
短期決戦に持ち込めてかつ確実に行ける方法はこれしかない。シオンに方針を伝える。
「分かったよ。それじゃあ行くよ!」
「ああ」
結局、隙を突いて攻撃を叩き込むことに変わりは無いので、これまで通り二手に分かれて攻撃を仕掛ける。俺は右から、シオンは左から仕掛ける。
「グルァッ!」
接近を阻止しようと何発も火球を飛ばして来るが、それを必要最小限の動きで躱して接近する。
回避重視で守りに入っていてはジリ貧になるので、ここは強気に攻める。
ひとまず、今のところは順調に接近できているが、問題は俺の方に注意を向けていることだ。
俺が攻撃する予定なので、できればシオンの方に注意を向けて欲しいのだが……。
「こっちだよ!」
ここでシオンが注意を引くように声を上げて短剣を投擲する。
「グルッ!」
レッサーワイバーンはシオンの方を一瞥してその短剣を翼で弾くと、すぐに俺の方に視線を戻す。
どうやら、俺から注意を外す気は無いらしい。
そして、レッサーワイバーンは俺が近付いたタイミングに合わせて右翼を引いて、そのまま薙ぎ払って来た。
俺はそれを間合いに入るギリギリで止まって回避する。いや、したつもりだった。
確かに、間合いに入る直前で止まったはずだったのだが、その一撃は俺の胸の辺りを
そして、攻撃を受けた俺はそのまま吹き飛ばされる。
「っ!?」
確かに、俺は攻撃範囲に入る直前の位置で止まった。
だが、レッサーワイバーンは攻撃を放つ直前に飛び出すようにして少し前に出ることで、攻撃範囲を少し伸ばしていたのだ。
「エリュ!?」
俺のことが気になったのか、シオンは一瞬俺の方を振り向く。
「何をしている! 敵から注意を逸らすな!」
こちらに注意を向けたシオンをすぐに注意する。
「おわっと!?」
シオンはレッサーワイバーンの攻撃を体を逸らして回避し、そのまま素早く距離を取ってこちらにやって来た。
「エリュ、大丈夫!?」
そして、心配そうな様子で声を掛けて来る。
「まあ何とかな」
「でも、結構血が出てるよ」
先端を少し
錬成魔法で作った服は簡単に切り裂かれて、攻撃を受けた箇所が軽く抉られていた。
「これぐらいなら大丈夫だろう」
ポーチから治癒ポーションを取り出して傷口に振り掛ける。
すると、少しではあるが傷が塞がり始めた。
「これで大丈夫だな」
「もう大丈夫なの?」
「ああ。と言うより、向こうは待ってくれる気は無さそうだしな。行くぞ」
当然、敵は待ってはくれない。レッサーワイバーンはこちらを向いて威嚇するように大きく口を開いている。
ポーションの効果を確認したところで、すぐに先程と同じように二手に分かれて攻撃を仕掛けた。
「グルラァァ!」
先程と同じように右翼を引いてそのまま薙ぎ払って来るが、俺に同じ手は通用しない。
同じように間合いに入る前にブレーキを掛けて止まるが、今度は前に飛び出して来る分も計算に入れて早めに止まる。
すると、すぐ目の前でレッサーワイバーンの攻撃は空を切った。
それと同時に刀を地面を滑らせるようにして投げてシオンに渡す。
俺の方に注意を向けているので、ここはシオンがメインアタッカーになった方が良いだろう。
俺はそのままレッサーワイバーンの注意を引き付ける。
「こっちだ。掛かって来い」
今度は攻撃を受けないように慎重に立ち回る。
左翼での薙ぎ払いをバックステップで躱し、その勢いのままに放って来たテールスイングを右手を地面に着くようにして屈んで躱す。
さらに、そのまま左翼で叩き付けて来たのを大きく後方に跳んで回避した。
「グルァッ!?」
俺が最後の攻撃を回避したその瞬間、レッサーワイバーンの左側の脇の辺りが斬り裂かれた。
もちろん、攻撃を放ったのはシオンだ。俺は攻撃を躱しつつもシオンが攻撃しやすいように誘導していたのだ。
そして、攻撃を一発叩き込んだシオンはそのままこちらにやって来る。
「上手く行ったね」
「ああ」
レッサーワイバーンの胸部の前方は硬い鱗に覆われているが、その側面や後方はそうではない。
首の部分のように硬質化しているわけでもないので、この位置になら攻撃を通すことができる。
さらに、この位置は心臓に近い部分なので、この部分を傷付けておくことによって肋骨の隙間を通して心臓を狙うことも可能となる。
(レッサーワイバーンの解体を見ておいて良かったな)
何故レッサーワイバーンのことについてこんなに詳しいのかと言うと、以前にレッサーワイバーンの解体を見ていたからだ。
そのおかげでレッサーワイバーンの身体の構造はしっかりと理解している。
「グルルァァーー!」
何度も攻撃を受けて、レッサーワイバーンはだいぶ怒っているようだ。
「次で終わらせるぞ」
「うん!」
後は心臓を狙って攻撃するだけだ。どちらかが引き付けてもう片方が狙えば良い。
これまで通り二手に分かれて攻撃を仕掛ける。俺は左から、シオンは右からだ。
とりあえず、レッサーワイバーンの様子を見てみるが、どちらからも注意を外していないようだった。
どのような動きにも対応できるように気を付けながらそのまま接近する。
そして、俺達が近付いたところでレッサーワイバーンは両翼を振り上げた。
今までに無い動作で次の動きが予想しにくいので、少しだけ距離を取って備える。
そして、何をして来るのかと思ったら、頭を振り下ろすように下げて大きく口を開いて来た。
「グルルルォォォォーーーー!」
そこから放たれたのは火球ではなく咆哮だった。鼓膜を破壊されそうなほどの強烈な爆音がすぐ目の前に炸裂する。
「っ!?」
「ぐ……!?」
頭の中を直接揺さぶるかのような爆音で俺達は完全に怯んで動けなくなってしまう。
そして、そこに右翼での薙ぎ払いが炸裂する。
「がっ……!?」
「うわっ!」
咆哮で怯んでいた俺達は防御行動や魔力強化による身体能力の強化すらできなかった。
まともに攻撃を受けてしまった俺は吹き飛ばされて崖に叩き付けられる。
そして、そこから剥がれ落ちるように崩れて自由落下を始めた。
攻撃が直撃した左腕と左側の肋骨は確実に折れている。いや、それどころか砕けているだろう。
俺の右側にいたシオンは俺がクッションになって吹き飛ばされるだけで済んだようだ。
「エリュっ!」
シオンが声を上げて警告して来るが、俺がそのことに気付いたときには遅すぎた。
見ると、レッサーワイバーンがすぐ横にまで接近して来ていて、俺を打ち上げるように翼を振り上げていた。
もう回避は間に合わない。俺はそのままその一撃を受けて、腹部への激痛と骨が砕ける音と共に血を吐きながら上空に打ち上げられる。
「……ぁ……っ」
飛びそうになる意識を何とか保つ。
どうやら、地上二十メートル近くまで飛ばされているらしい。
魔力強化による防御が間に合ったので致命傷で済んでいるが、間に合っていなければ衝撃で内臓も破壊されて命は無かったかもしれない。
他のことも確認しておきたいところだが、意識を保つだけで精一杯でそれも難しい。
と、そんなことを考えていると頂点に達したらしく、そこから自由落下を始めた。
ここで下を見ると落下地点にはレッサーワイバーンが待ち構えていた。
だが、俺にはどうしようもない。せめて、魔法でも撃ち込んでやりたいところだが、今の俺にはそれもできない。
そして、何もできないまま大きく口を開いたレッサーワイバーンに向けて落下した。
「エリュっ!」
そのとき、シオンがレッサーワイバーンに向けて飛び込んだのが見えた。
俺はそのまま地上に叩き付けられる。
「ぐっ……ああぁぁーーっ!」
ボロボロの身体で地上二十メートル近い高さから落下して叩き付けられたので、全身に激痛が走った。
魔力強化で全身を強化していたので死にはしなかったが、強烈な痛みで意識が飛びそうになる。
だが、ここで意識を失えば終わりだ。何とか意識を保つ。
「……?」
そのとき、頬に何かの液体が滴り落ちてきたのが分かった。
そこに右手を当ててそれが何なのかを確認すると、それは血だった。そのまま血が滴り落ちてきた方を確認する。
「大丈……夫……? エリュ……っ……」
血が滴り落ちてきた方を確認すると、そこにはレッサーワイバーンに噛み付かれているシオンがいた。
身体の横から噛み付かれていて、その鋭い牙が少しずつ身体に食い込んでいる。
「……シオン?」
「えへへ……大丈夫……だった? ……うぐっ!」
シオンの身体にさらに牙が食い込む。
「シオン!」
こうしてはいられない。すぐに何とかしようとするが、短剣は最初に翼で殴られた際に落としてしまったのでもう手元に武器が無い。
仕方が無いので短剣の鞘に手を掛ける。
だが、そのときレッサーワイバーンの足の裏が視界に映った。
「オオォォッ!」
そして、そのまま俺を踏み付けて来た。
「がああぁぁーーーっ!!」
全身にこれまでに経験したことが無いほどのとてつもない痛みが走る。
だが、ここで意識を失うわけにはいかない。ここで意識を失えば全てが終わるので、飛びそうになる意識を意地で保つ。
しかし、足で押さえ付けられているので俺はもう動けない。魔力強化で全身を強化しているにも関わらず全く動けない。
動こうとする度に全身に強烈な痛みが走るだけだ。
(どうする? どうすれば良いんだ?)
考えてみるが答えは出ない。
俺は完全に動きを封じられていて、シオンは噛み付かれていてあまり身動きが取れない。
そして、シオンには今も少しずつ牙が食い込んで入っていて、噛み千切られるのも時間の問題だ。
もう完全に詰んでいるように思える。
「っっえぇぇーーーい!」
と、そのときシオンが声を上げて短剣を手に取り、そのままレッサーワイバーンの眼を突き刺した。
「ギィャァァーーー!!!」
眼を突き刺されたレッサーワイバーンは大きな悲鳴を上げた。それと同時に俺達の拘束も解かれる。
そして、拘束を解かれたシオンがそのまま落下して来た。
「シオン……大丈夫……か?」
あまり動かない体を何とか動かしてシオンの方を向いて尋ねる。
「ボクは……大丈夫……だよ」
シオンは大量の血を流しながらそう答える。どう見ても大丈夫では無いな。
それはそうと、拘束を解かれたので何とかしたいところだが、中々体が動かない。
やはり、かなりダメージが大きいらしい。
「あ……やっぱり大丈夫じゃ……無いかも」
シオンが
「シオン……?」
「ごめんね……エリュ……」
そう言うと、シオンはゆっくりとその目を閉じた。
「シオン? ……シオン!」
「…………」
呼び掛けてみるも、シオンは何も答えない。すぐに痛む体を動かしてシオンの様子を確認する。
(まだ脈はあるな)
脈はあるのでまだ生きているようだ。
「グルルァァーーー!」
そこに態勢を立て直したレッサーワイバーン襲い掛かって来る。
だが、そうはさせない。激痛が走るのも気に留めずシオンの持っていた刀を拾い上げて立ち上がり、シオンを庇うように立ちはだかる。
「……グルァ?」
その様子を不思議に思ったのか、レッサーワイバーンは首を
「シオン、大丈夫だ。俺が守ってやる」
全身にとてつもない痛みが走るが、そんなことは関係無い。
左腕は使い物にならないので右手で刀を持ち、そのまま刀を振って鞘を飛ばす。
そして、この世界に来てからまだ一度も向けることの無かった、
「グルッ!?」
ここまで優位に立っていたはずのレッサーワイバーンが
「ここで……終わるつもりは……無いからな……。悪いが……ここで死んでもらう」
「グルルァァァーーー!」
俺の一言に呼応するように叫び声を上げて襲い掛かって来る。
それに対して、こちらは刀に魔力を込めて一文字に斬撃を放つ。
それはほぼ完璧な魔力強化だった。
俺の放った一撃はレッサーワイバーンの首を斬り裂き、その一撃で頭は斬り飛ばされた。
「……終わった……か」
ここで魔力許容量を超えて魔力を込められた刀が耐えられなくなって砕け散る。
「っ……」
そして、全てを出し切った俺はそのまま力尽きて倒れ込んだ。
「…………」
もう体が動かない。激痛も走る。声も出ない。視界が霞む。
ここで終わるつもりは無い。そう言ったし、実際そのつもりも無いが、残念ながらそうもいきそうにない。
(悪いな、シオン……)
動かない体を何とか動かしてシオンの手を優しく握る。
すると、失いそうになる意識の中でその温もりが伝わって来た。
だが、そのときだった。すぐ近くに何かが勢い良く着地するような大きな音がしたのは。
「着いたにゃ!」
着地して来た何者かがそう言った。
だが、視界が霞んでその姿までははっきりとは分からない。
見たところ、もう一人誰かがいるようだ。
「全く……いきなり跳んでどうした……む?」
ここでそのもう一人の人物が俺達のことに気付いたらしい。その人物がこちらに駆け寄って来る。
「大丈夫か?」
「…………」
その人物が安否を聞いて来るが、俺達には返答するほどの力すら残っていない。意識を保つだけで精一杯だ。
そして、ついにそこで俺の意識は途切れた。
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