episode34 同行
俺達は明かりとなる物を用意するために一度店に戻って来た。
裏口の扉を開けたところでルミナが出迎えて来る。
「あら、どうしたの? 何か問題でもあった?」
ルミナが何があったのかを聞いて来る。
「いや、そういうことでは無い。明かりとなる物が必要なので用意して欲しいのだが良いか?」
俺はここに来た目的である明かりの用意を頼む。
「ケイヴバットの討伐依頼かしら?」
「確かにそうだが、よく分かったな」
ただ明かりが必要ということしか言ってないのに、よく分かったな。
「Fランクの依頼で明かりが必要なのはそれぐらいしかないから」
「なるほどな」
それですぐに分かったのか。言われてみれば、Fランクの依頼で洞窟に行くような依頼はこれだけだったな。
「それじゃあこっちに来て」
そして、そのまま一階の倉庫に案内される。
「確か、このあたりに……あったわ」
そう言って取り出したのはカンテラのような物だった。
だが、通常のカンテラとは違って、火で明かりを灯すのではなく、中に入っている何かの結晶が輝いて光ることで辺りを照らすようだった。
「これは?」
「魔法灯よ。中に結晶が入っているのが分かるかしら?」
中身がよく見えるように俺達の目の前に掲げる。
「それは分かるが、この結晶は何なんだ?」
「これは輝結晶と呼ばれる、魔力を流すと光を放つ特性を持つ鉱石を素材にして作った結晶よ。魔力を流すと光り輝いて辺りを照らしてくれるわ」
どうやら、魔力を使った明かりのようだ。
「輝結晶をそのまま使ったんじゃダメなの?」
「輝結晶の放つ光は弱いから、それだと明かりとしては使えないのよ。だから、輝結晶をベースにして錬成魔法で明かりとして使える物を作るのよ」
「そうなんだ」
輝結晶の実物を見たことが無いので、どの程度の光を放つ物なのかは分からないが、そのままだと使い物にならないらしい。
それはそうとして、同じようなものをどこかで見たことがあるような気がする。
こちらに来てからのことを思い返して、どこで見たのかを思い出す。
「どうしたのエリュ?」
「いや、どこかで見たことがある気がしてな」
確かに、どこかで見た記憶があるのだが……。
と、そこまで考えたところで思い出した。
「もしかしてだが、街灯にも同じ物が使われているのか?」
「よく気付いたわね。そうよ。この街の街灯にはこれと同じ物が使われているわ」
やはり、気のせいではなかったようだ。
「ところで、これってどうやって使うの?」
そう言えば、魔法灯の使い方をまだ聞いていなかったな。
「魔力を流すと起動状態になって点灯するわ。そして、もう一度魔力を流すと停止するわ」
「分かったよ」
使い方は簡単なので、問題無く使えそうだ。
「用事は以上かしら?」
「ああ。それではそろそろ行かせてもらう」
「ええ。気を付けてね」
そして、ルミナに見送られて街の門へと向かった。
店を出た後は寄り道することなく、冒険者ギルド付近までやって来た。
「森までは馬車を借りて行くの? それとも歩きで行くの?」
「歩きで行く」
馬車を借りるのにもお金が掛かるからな。
そもそも、普通は十分程度で行けるような場所に行くために馬車を借りることは無い。
「分かったよ。それじゃあ行こっか」
「ああ」
そして、門に向けて歩を進めようとしたが、そのとき冒険者ギルドから誰かが出て来た。
「あら、まだ行っていなかったのね」
冒険者ギルドから出て来たのはエリサだった。
「ああ。ちょっと必要な物を取りに行っていてな」
「そう。…………」
エリサは一言そう言うと何かを考えるような素振りを見せる。
「どうした?」
何を考えているのだろうか。考えても答えは出て来ないので、とりあえず聞いてみることにする。
「これから依頼で街の外に行くのよね?」
エリサが確認するように聞いて来る。
「そうだが、それがどうした?」
「私も付いて行って良いかしら?」
何を考えているのかと思ったら、エリサも俺達に付いて行きたいということだった。
「別に構わないぞ」
目的は不明だが、害意は無さそうなので許可することにした。
「それじゃあ行きましょうか」
そう言うと、エリサは足早に門の方へと向かった。
「ボク達も行こっか」
「ああ」
そして、エリサに続いて街の門へと向かった。
「ところで、何の依頼を受けたの?」
街の外に出て歩き始めたところで、エリサが何の依頼を受けたのかを聞いて来る。
「フォレストウルフの討伐依頼とケイヴバットの翼の納品依頼だ」
「と言うことは、森が目的地ね」
「ああ」
今回のターゲットはフォレストウルフとケイヴバットだ。ケイヴバットは洞窟にいるが、その洞窟は森の中にある。
なので、目的地はいつもの森だ。
「それで、ケイヴバットの討伐に必要だから、わざわざ魔法灯を取りに行っていたのね」
「そういうことだ」
理解が早くて助かるな。
「ところで、その武器は何なのかしら?」
エリサが気にしているのは魔法銃だった。
やはり、見たことの無い武器なので気になるのだろう。
「これは魔法銃と言ってな。魔力を弾丸にして撃ち出す銃だ」
俺は簡潔に武器についての説明をする。
「ちょっと見させてもらっても良いかしら?」
「ああ」
特に断る理由も無いので渡して見せる。
魔法銃を渡されたエリサは興味深そうにそれを見て回す。
「変わった武器ね。これはあなたが作ったの?」
「ああ。そうだ」
「ふぅん……」
そう言うと、さらに詳しく魔法銃を見て回す。
「そうね……これだと威力不足でしょうけど、フォレストウルフやケイヴバットを相手にする程度なら十分かしらね」
魔力を撃ち出すだけの簡単な仕組みだからな。
本当はもっと効率良く魔力を変換したり、威力を高めたりしたいところだったが、今の俺の技量だと複雑な刻印術式を組み込むことはできなかった。
「まあそのうち改良していくつもりだ」
「そうすると良いわ」
そして、エリサはそう言いながら俺に魔法銃を返した。
「何で微妙に上から目線なんだ……」
言い方が上から目線な気がするのは気のせいだろうか。
「流石に私でもこれより良い物は作れるわよ」
「錬成魔法を使えるのか?」
「ええ。一応ね」
どうやら、エリサも錬成魔法が使えるらしい。
それはそうとして、だ。
「ルミナに依頼をしているようだが、自分でできるのならルミナに頼む必要はあるのか?」
錬成魔法を使えるのであれば自分で作れば良いと思うのだが、何か不都合でもあるのだろうか。
「錬成魔法を使えると言っても、私は専門じゃないわ。簡単な物なら自分で作るけど、難易度の高い物は彼女に頼んでいるわ」
「なるほどな」
ルミナは錬成魔法のトップクラスの使い手らしいしな。錬成魔法のことは彼女に任せるのが良いのだろう。
「さて、話はこのぐらいにして早く森に行きましょうか」
「それもそうだな」
確かに、少々話し込み過ぎたので、そろそろ目的である依頼をこなしに森に急ぐことにした。
「走って行くけど大丈夫かしら?」
「ああ。シオンもそれで良いな?」
「うん」
この程度の距離であれば余裕だ。問題無い。
「それじゃあ行くわよ」
そう言うと、エリサは人間には出せるとは思えないような物凄い速度で駆けて行った。
そして、あっという間にその姿が豆粒のように小さくなってしまった。
「「…………」」
あまりの速度に言葉を失ってしまう。
「……ねえ、エリュ、どうする?」
「そう言われてもだな……」
今から追い掛けても追い付くのはまず無理だろう。目的地は決まっているので、先に到着して待ってくれているかもしれないが……。
と、そこまで考えたところで、エリサが相変わらずの物凄い速度でこちらに戻って来た。
「何しているのよ」
「いや、速すぎて付いて行けそうに無いのだが?」
こんな速度で走られると付いて行くのは無理だ。
「これぐらいは普通よ」
これが普通って……。普通の基準がおかしいと思うのは俺だけだろうか。それとも、彼女の言う通りこの世界ではこのぐらいが普通なのだろうか。
どちらにせよ俺達について行けるような速度ではない。
「できれば速度を落としてくれると助かるのだが……」
とりあえず、俺達でも付いて行けるように速度を落とすように頼んでみる。
「仕方が無いわね。あなた達に合わせてあげるから走って行くわよ」
「ああ」
「分かったよ」
そして、今度こそ全員で森に向かって駆け出した。
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