episode32 リーサの実力?

 三人が椅子に座って観戦に入ったところで、リーサの方を向いて構える。

 リーサもこちらに向かって構えていて、いつでも戦闘に入れる状態だ。


「ねえねえ、どっちが勝つと思う?」


 シオンが開戦を待ちながら一緒に観戦している二人に尋ねる。


「そうね……エリュの方が戦闘のセンスはあると思うけど、リーサの方が魔力のコントロールに慣れているしリーサが勝つと思うわ。それに、多少の実戦経験もあるしね」

「確か、リーサは元冒険者なんだっけ」

「ええ、そうよ」


 そう言えば、リーサは一年にも満たない期間ではあったが、冒険者だったと言っていたな。

 なので、多少の実戦経験はあるのだろう。


「でも、何で冒険者を辞めちゃったの?」

「あの性格のせいで色々と合わなかったのよ。ソロで活動していたから臨時パーティを組むことが多かったみたいだけど、その度によく問題を起こしていたらしいわ」


 確かに、あの性格だからな……。その状況は容易に想像できる。


「それで、エルナから何とかならないか相談されてね。うちで雇うことにしたのよ」

「そうだったんだ。それは分かったけど、パーティを組んでくれる人を探して正式なパーティは組むというのはダメだったの?」


 シオンの言う通り、臨時パーティで問題を起こすのなら正式にパーティを組めば良いだけの話だ。

 そう思ったのだが……。


「組んでくれる人がいなかったらしいわ」

「あー……」


 それを聞いたシオンはリーサに向けて憐みの目を向ける。


「ちょっと! 殴り飛ばすわよ!」


 向けられた視線を返すようにシオンの方を向いて言い放つ。


「でも、多分エリュよりボクの方が強いよ?」

「……後でシオンも殴り飛ばす」


 リーサは悪態をつきながら正面を向き直す。

 しかし、そこにエリュの姿は無かった。


「がっ!?」


 直後、リーサは右側から頭部に衝撃を受ける。

 そして、そのまま吹き飛ばされて壁に打ち付けられた。


「ちょっと! いきなり殴り付けて来るなんてどういうことよ!」


 もちろん、その一撃を放ったのは俺だ。目を離した隙に音も無く接近して、左手で殴り付けたのだ。


「相手から目を離す方が悪い」


 自ら隙を晒してきたのでその隙を突いただけだ。わざわざ今が好機だと教えるかのように隙を見せるのが悪い。


「……殴り飛ばす!」


 そう言うとリーサはこちらに一気に接近して来た。

 魔力強化によって身体能力が強化されているので、何かに打ち出されるかのような初速で接近して来る。


「はあっ!」


 そして、そのまま右手で殴り付けて来た。


 だが、そんな単調な攻撃に当たってやるつもりは無い。

 確かに速度あるが、見切れないほどではない。俺は左足を一歩分ほど左に出してから右腕を構えて攻撃に備える。


 そして、右足を引いて半回転しながら右腕で滑らせるように攻撃を受け流して後ろを取りつつ、そのままの流れで右腕を引いて攻撃態勢に移った。

 続けて、左足で踏み込んで攻撃が当たる距離まで接近して、右手でリーサの後頭部を殴り付けた。


「っ!?」


 攻撃を受け流されて態勢の整っていないリーサはその攻撃を避けることはできなかった。

 しかし、そこまでダメージは大きくない。魔力強化によって全身を強化しているのと、リーサの方が魔力のコントロールの精度が良い分、防御力が高いからだ。


 だが、俺の攻撃はまだ終わらない。リーサの後ろ髪を掴んで引っ張り、態勢を崩したところに足払いを掛ける。

 そして、転倒したところでその場で軽く跳び上がって、空中で左に一回転して勢いをつけて右手で顔面を殴り付けた。


「ぐっ……」


 流石にこれは効いたらしく、その表情が少し歪んだ。

 さらに、そのまま馬乗りになって左手で首を締め付けながら押さえて、右手で顔面を殴り付ける。


 だが、数回殴り付けたところで攻撃を受け止められてしまった。受け止められた右手は押し込もうとしても動かない。

 素の腕力はこちらの方が上のはずだが、リーサの方が魔力のコントロールの精度が良いので、魔力強化をした状態だとリーサの方が力は強くなる。

 そして、首を絞め付けている俺の左腕を掴んで引き剥がして来た。


(これ以上拘束し続けるのは無理だな)


 これ以上拘束することはできなさそうなので、掴まれた腕を振り解いて距離を取って仕切り直す。

 そして、リーサは鼻血を出しながらも素早く立ち上がってすぐに構えを取った。


「これは想定外ね。リーサが一方的に勝つものだと思っていたけど、認識を改める必要がありそうね」


 ルミナが意外そうな様子で言う。開戦前もリーサが勝つと予想していたので、この展開は想定外だったのだろう。


「エリュは戦闘能力は高いって言ってたけど、こんなに強かったんだね」


 ミィナも俺がここまで強いとは思っていなかったのか、感心気味にそう言った。


「そうね。エリュの方が素の戦闘能力が高いというのもあるけど、魔力のコントロールの精度が上がっているのが大きいわね。錬成魔法のおかげかしら?」


 そう、錬成魔法での経験により魔力のコントロールの精度が上がっているのだ。

 ルミナが初めに言っていた通り、錬成魔法で重要になるのは魔力のコントロールだ。

 なので、錬成魔法をしているだけで自然と魔力のコントロールの練習になる。

 そして、それが魔力のコントロールの精度の上昇に繋がったのだ。


「それは良いけどさ……流石に容赦が無さすぎると言うか、酷すぎない?」

「そうね……一応リーサも女の子なのに顔面をあんなに殴り付けるなんてね……」

「何故、俺が悪いみたいになっているんだ」


 戦闘になればそんなことは関係無いと思うが。


「ところで、何で魔力のコントロールの精度が良いほど魔力強化の効果も上がるの?」


 シオンが何気無くルミナにそんなことを尋ねる。

 言われてみれば、その原理までは聞いていないな。


「ええ、そうよ。魔力のコントロールの精度が悪いと魔力を纏う際に無駄が生じるのよ。上手く魔力を纏められなかったり、纏められていても魔力が漏れ出ていたりね」

「そうなんだ」


 どうやら、魔力を纏ってみてもどこか纏まらないような気がしたのは気のせいでは無かったらしい。

 と、そんな話を聞いていたところで、前方からリーサが近付いて来た。


「余所見するなんて随分余裕みたいね!」


 リーサが好機だと思ったのか一気に接近して来る。

 だが、俺も油断していたわけではない。三人の話を聞きつつも、リーサの方から注意は逸らしてはいないからな。


 リーサは食卓にあった椅子を左手で振りかぶって、ギリギリ当たる距離で振り下ろして来るが、俺はそれを軽く身を反らしてギリギリで回避する。

 続けて、今度は右手で殴り掛かって来るが、それを右方向に避けると同時に振り下ろされた椅子に右足を掛ける。

 そして、その椅子を踏み台にして跳躍し、空中で前方に半回転してした。


「くっ……」


 そのままリーサの方に狙いをつけて跳び掛かろうとするが、その前にこちらを向いて距離を取られてしまった。

 この位置からだと狙えないので、仕方無くそのまま床に着地する。


「油断しているとでも思ったか?」

「…………」


 リーサは俺の問い掛けに対して無言のまま武器として持った椅子を後方に構える。

 その椅子は先程床に叩き付けられた際に後脚の二本が折れていて、折れた脚はリーサのすぐ前方に転がっていた。


 また、ここまでの戦闘で慎重になっているらしく、向こうから仕掛けて来る気は無さそうだった。

 なので、今度はこちらから動くことにした。

 俺はどのような動きにも対応できるようにゆっくりと歩いて近付く。


「はあっ!」

「ふっ……」


 そして、向こうの間合いに入ったところで椅子で薙ぎ払って来た。

 俺はそれを伏せるようにして回避して、その際に床に転がっている折れた椅子の足を拾う。

 さらに、リーサは薙ぎ払った勢いそのままに一回転して、振りかぶった椅子を叩き付けるようにして振り下ろして来た。


「よっと……」


 俺はそれを転がって回避して、すぐに起き上がる。


「あー! リーサが椅子壊したー!」


 叩き付けられた椅子は背の部分を残してバラバラになって壊れていた。


「ちょっと黙ってて!」


 ミィナが騒ぎ立てるように声を上げるが、リーサはそれを即座に一蹴する。

 再び距離が空いたので仕切り直しだが、武器としていた椅子は壊れたのでもう無い。

 とりあえず、いつでも動けるように構えて向こうの出方を窺う。


 こちらとしては膠着状態が続く方が都合が良いのだが……。


「休憩したくなったか?」


 ひとまず、適当に会話をして時間稼ぎを試みる。


「別に。こっちのことを気にしてくるなんて随分と余裕そうね」


 まあ実際余裕だしな。ここまで戦ってみた感じからすると、リーサは戦闘経験があると言っても、近接系ではなく遠距離系のようなので、近接戦闘ではこちらに分がある。


「まあこちらの方が有利ではあるからな。冒険者としての活動経験があるとは言っても、活動期間は一年にも満たなかった上に遠距離系だろう? 見た感じ魔法使い系か?」

「さあね」


 質問をしてみるも、そう言ってはぐらかして来る。

 まあ答えることにはデメリットしかないので当然の反応だろう。

 場合によっては情報は最大の武器になるからな。その情報をわざわざ自分から漏らすようなことはしないだろう。

 なので、こちらから話をしてみることにする。


「冒険者を辞めてこの店の店員になったらしいが、魔法道具店である以上、錬成魔法が使えることは必須条件だろう。ルミナさんも錬成魔法が使えないのに雇うようなことはしていないはずだ。知っての通り、錬成魔法は魔力のコントロールが重要になる。つまり、リーサは魔力のコントロールには慣れていたということだ。そして、冒険者として活動していたのは一年にも満たない短期間にも拘らず、魔力のコントロールに慣れていたということは魔法使い系である可能性が高いということだ。違うか?」

「…………」


 リーサは無言だが、その様子を見るにどうやら図星のようだ。


「それで、どうする? まだ続けるか? 俺が勝つと思うが?」

「……甘く見られたものね!」


 そう言うと、リーサは壊れた椅子の背を投げ付けると同時に一気に接近して来た。

 ひとまず、投げ付けられた椅子の背を左手に持った椅子の脚で弾く。

 そして、そのまま蹴りも交えて連続攻撃を仕掛けて来るが、両手に持った椅子の脚で全て弾いていく。


「――そこだ」


 俺は隙を突いて右手に持った椅子の脚で左下から右上に切り上げるようにして魔力を込めた一撃を放った。

 その一撃はリーサの服を斬り裂いて、皮膚にも軽く切り傷を付ける。


「っ!? ……その椅子の脚……」

「今頃気付いたか」


 先程時間を稼いでいたのはこれを作るためだった。俺はリーサに両手に持った椅子の脚を見せる。

 四角かった椅子の脚の先端は切り出し刀のような形状になっていた。


 そう、俺が錬成魔法で変形させたのだ。通常、錬成魔法の術式は目的に応じて適切な術式を組み合わせる必要がある上に、術式の内容も複雑で非常に難易度が高いので、複数の魔法陣が必要になる。

 だが、錬成魔法と呼ばれているものの中でも形を変形させるだけのものは最も簡単で、道具や複雑な魔法陣が無くてもできる。


 もちろん、その場合だと補助用の術式が無いので消費魔力が大きくなったり、変形させることが難しい含有魔力が多く硬いものだと、そもそも変形させることができなかったりするが、今回は魔力の宿っていないただの木なので問題無く変形させられた。

 本当は短剣の形にしたかったが、そこまでしようとすると時間が掛かるので、この形で妥協した。


「ちょっと加工させてもらった……む?」


 と、そのとき先程使った椅子の脚に罅が入ったと思うと、パキパキと音を立ててその罅が全体に広がっていき、最後はバラバラに砕け散ってしまった。


「魔力許容量をオーバーしたのね。まあただの木だし、それだけ魔力を込めれば当然こうなるわね」


 そう言えば、魔力を込めすぎると壊れることがあると言っていたな。

 仕方が無いので左手に持っていた物を右手に持ち替えて構える。

 そして、すぐさまリーサに接近して攻撃を仕掛けた。


 先程は受けに回ったが、今度はこちらから攻める。

 俺は右手に持った加工した椅子の脚に魔力を込めすぎないように注意しながら斬撃を放つ。

 リーサは流れるように途切れることなく放たれる斬撃を腕で受けて防いでいるが、全ては防ぎ切れない。防ぎ切れなかった斬撃がリーサを襲う。

 しかし、その斬撃はリーサの着ているローブ風の服を切り裂くだけで、皮膚に傷が付かなかった。


 どうやら、この程度の魔力強化だと、向こうの魔力強化による防御を貫けないらしい。

 だが、これ以上魔力を込めると魔力許容量をオーバーして壊れてしまう。


(わざわざ作ったが、作った意味は無さそうだな……)


 時間稼ぎをしてまで作ってみたが、残念ながら使えそうにない。これはもう必要無さそうだ。

 俺は加工した椅子の脚を持ったまま右手で握り拳を作って顔面を狙って殴り付ける。


 リーサはそれを手で受け止めて来るが、それと同時に俺は椅子の脚に一気に魔力を込める。

 すると、魔力許容量をオーバーした椅子の脚が砕けて、その破片がリーサの顔面に飛び散った。


「っ!?」


 それを受けたリーサは破片が目に入るのを防ごうとして目を瞑ってしまう。

 もちろん、その隙を見逃す俺ではない。すぐさま頭を掴んで引き寄せ、顔面に向けて膝蹴りを放つ。


「……ったいわね!」


 リーサはそう言って俺の腕を掴んで引き離して来る。

 そして、すぐさま距離を取ろうとして来たので、服を掴んで引っ張ってそれを阻止しようとした。


 だが、服が破けていたせいで、そこからビリビリと音を立てて服が引き裂けていき、下半分が破けて無くなってしまった。


「え? ちょっ……!?」


 リーサは困惑気味に言いながら視線を下に向けて、丸出しになったショーツを隠すように両手を当てる。


「何処を見ている」


 戦闘中は相手から目を離すなと最初に言ったはずだが。

 俺はリーサが視線を外した隙にその場で右に一回転して、勢いを付けて回し蹴りを放つ。


「がっ……」


 放った回し蹴りはリーサの頭部にクリーンヒットして、彼女は壁まで吹き飛んで行った。

 流石にこれは効いたらしく、壁にぶつかった後は崩れるように倒れていった。

 なので、ここで一気に決めることにする。


「……行くぞ」

「ぐっ……」


 俺はすぐに接近して、接敵と同時に腹に向けて一発蹴りを入れる。

 続けて、怯んだ隙に手に持った布切れを顔に向かって被せるように投げ付けて視界を奪い、近くに落ちていた椅子の残骸である脚を拾い上げる。

 そして、残っているリーサの上半分の服の後ろ側の襟元にそれを突き刺した。


 勢い良く突き立てられた椅子の脚は頭に被せた布と服を貫いて床に深く突き刺さった。これで簡単には逃げられないだろう。

 そして、そのまま馬乗りになって顔面を殴り付けていく。


「そんなもの……ぐっ……」


 リーサはそれを防ごうと手を顔の前に出すが、俺はその手を躱すように顎に向けてアッパーを放つ。

 そう、リーサは服だった布切れを被せられて視界を奪われているので、攻撃を防ぐことができないのだ。俺はそのまま闇雲に出して来る手を避けて、顔を殴りまくる。


 リーサは何とか抜け出そうとしているが、後ろの襟元を固定されているので抜け出せない。

 俺は抜け出そうとじたばたとしているところをそのまま殴り続ける。


「そろそろ諦めて負けを認めたらどうだ?」

「認めるわけ……ないでしょ!」


 リーサはそう言って先程よりも激しく暴れ始める。

 すると、服が破けた部分からどんどん裂け始めた。


「っぁああ!」


 そして、叫び声を上げると同時に無理矢理上体を起こして、そのまま俺を突き飛ばして拘束を解いて来た。


「はぁ……はぁ……」


 リーサはそのまま少しふらつきながらも何とか立ち上がる。

 どうやら、かなりダメージが入っているようだ。

 だが、問題はそんなことではない。リーサは服の後ろ側の襟元を固定されていたところを無理矢理起き上がったので、服は床に固定されたままだった。


 つまり、どういうことかと言うと……リーサは上半身が裸の状態になっているのだ。


 と、そんなことを考えていたところでミィナが俺の前に飛び出して来た。


「見たらダメだよ!」


 ミィナはそう言って俺の目に左手を当てて見えないようにして来た。

 そして、その状態のまま横方向を向けさせて、当てていた手を外した。


「ちょっとミィナ!? 何をし……て?」


 と、ここでリーサが自分の状態に気付いたらしい。羞恥で頬が赤く染まっていく。


「い……いやーーっっ!」


 そして、悲鳴を上げながら胸を隠すように手を当てた。


「……今、絶対見たよね?」


 ミィナが視線の高さを合わせて、俺の目を見ながら聞いて来る。


「さあな」


 目線を外しながらはぐらかす。


「絶対見たよね! 最っ低!」


 そう言って俺の頭をポカポカと叩いて来る。そんなことを言われてもだな……何で上を着けていないんだ。

 そう思ったが、視界の隅にブラが落ちているのが見えた。

 どうやら、着けていなかったわけではないらしい。

 よく見ると、切断されたように切れていたので、戦闘中に切れて落ちてしまったようだ。


 と、ここでルミナがリーサに近付いて様子を確認する。


「大丈夫?」


 空間魔法で取り出したバスタオルを巻き付けながら言う。


「え……ええ……大丈夫……よ」


 リーサはそう言うものの、ダメージが大きくあまり大丈夫では無さそうだ。


「無理に立っていなくても良いわよ」

「これぐらい……大丈夫よ」


 本人はそう言うものの、虚勢を張っているのは明らかだった。


「バスタオル押さえないと落ちるわよ? 私は回復魔法を掛けるから、自分で押さえておきなさい」


 そして、ルミナはリーサを椅子に座らせて治療を始めた。


「……着替えて来ても良いかしら?」

「とりあえず、治療が終わるまでは待ちなさい」

「うぅ……」


 リーサが気恥ずかしそうにしながら、今までに聞いたことの無いか弱い声を出す。

 いつもは強気だが、こんな一面もあったんだな。


「治療は終わったわよ。とりあえず、着替えて来ると良いわ」

「ええ。そうさせてもらうわ」


 治療の終わったリーサはそう言い残すと自分の部屋へと向かった。


「エリュ、ちょっと良いかしら?」


 ルミナがそう言って俺のことを呼んで来る。


「何だ?」


 とりあえず、ルミナの元へと向かう。


「何か言い訳はあるかしら?」

「……? 何がだ?」


 何の話だろうか。よく分からないので聞き返す。


「ちょっと! それ本気で言ってるの!?」


 ミィナがそう言って話が入って来る。


「か弱い女の子の顔面をこれでもかと殴り付けて、その上服まで剥ぎ取るなんて最低だよ!」

「そう言われてもだな……」


 別に俺のせいではないのだが。特別悪いことをしたわけでもないしな。

 それと、「か弱い」という点には疑問符を付けざるを得ない。


「それに何より……見たでしょ!」


 それは確かにそうなのだが……。


「でも、事故だし仕方無いだろう?」

「それでもだよ!」

「ミィナ、もう良いわ。後は私が話すから」

「……分かりました」


 ルミナのその一言でミィナは引き下がった。


「それじゃあ私の部屋まで来てもらうわよ」


 そう言うと俺の頭を掴んで引っ張って来る。


「ちょっ……痛い! 痛いから無理矢理引っ張るのは止めろ!」


 そう言ったものの、ルミナは気に留めることもなくそのまま引っ張って行く。

 そして、そのままルミナの部屋へと連れて行かれたのだった。

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