episode31 新しい武器
「これをこうして……こんなものか」
完成した武器を見て回して、不備が無いかを確認する。
「問題無さそうだな。それにしても、この程度の物を作るのに二日も掛かるとはな……」
ルミナから刻印術式に関しての本を受け取った翌日は武器を作るために地下に籠っていたが、結局その日の内に完成させることができなかった。
そして、今日の夜まで掛かってようやく完成した。
「さて、そろそろ行くとするか」
そして、武器が完成したところで、完成した武器を持って二階へと向かった。
「今日は静かだなー……」
ミィナが食卓でクルミのような木の実を口に入れながら呟くように言う。
二日前は賑やかだったが、『
なので、二日前と比べるとだいぶ食卓は静かになっていた。
「明日には帰ってくるみたいだし、また賑やかになるわよ」
ルミナが紅茶を注ぎながら答える。
「それにしても、エリュまだかなー」
「刻印術式の付与は簡単じゃないし、昨日今日ではできないと思うよ」
「だよねー……」
シオンが落胆気味に少し声を落とす。
「と言うか、シオンはエリュと一緒に地下に行かなくて良かったの?」
「うん。ボクは錬成魔法はあまり向いてないみたいだから、エリュに任せれば良いかなって」
「うーん……一回しか試してないんだし、まだ向いてるかどうかは分からないと思うけど……」
実際のところはセンスが無いわけではないのだが、シオンはエリュの天才的な才能を前に完全にやる気を無くしていた。
「それにしても、エリュは昨日に続いて今日もまた地下にずっと籠っていたわね」
リーサが何故か不満そうにしながら言う。
「そうだね。……何でリーサは不満そうなの?」
「別に。アトリエの一角を占拠されて邪魔だなと思っていただけよ」
本人が居ないのを良いことに
「邪魔で悪かったな」
二階に上がろうとしたところで会話が聞こえて来たので、聞こえるようにそう言いつつ二階に上がる。
「相変わらず無駄に耳は良いのね」
俺が二階に上がって来たところで、腕を組んでこちらを向いてそう言って来る。
「無駄に、は余計だ」
食卓にいるリーサの目の前にまで行って、見下ろしながら言う。
「何よ? やる気?」
だが、それが気に障ったのか、リーサは椅子から立ち上がってこちらを睨んで来た。
「二人とも喧嘩しないの!」
ここでミィナがそう言って間に入って止めに来る。
「…………」
そして、止められたリーサは食卓に座り直して、こちらを睨みながら紅茶に口を付けた。
「二人とも仲良くしなさい。それで、休憩しに来たの? それとも、今日はもう終わり?」
話の流れを変えるようにルミナが聞いて来る。
「とりあえず、今日はここまでにしておく。武器はもうできたからな」
「あら、もうできたの? 思っていたよりも早かったわね。見せてみて」
「ああ」
そして、完成した武器をルミナに渡した。
「作ったのは剣と刀と……これは何かしら?」
武器を受け取ったルミナはその中の一つの武器を興味深そうに見て回す。
興味深そうに見ている武器というのは銃のことだ。この世界には存在していなかった武器なので、物珍しいのだろう。
「これがこの前言っていた銃という物かしら?」
「ああ、そうだ」
「あ! 銃も作ったんだ。見せて見せてー」
ルミナに渡した銃をシオンが取り上げて見て回す。
しかし、何か気になることがあったのか、銃を見て首を傾げた。
「うーん……でも、これ普通の銃じゃないような……」
「ああ、そうだ。よく気付いたな」
シオンの言う通り、この銃は普通の銃ではない。
「あら、そうなの? 私はまず普通の銃という物を知らないから、そこから説明してくれると助かるわ」
この世界には銃が存在していないらしいので、当然ルミナ達は普通の銃すらどのような物なのかを知らない。
なので、まずはそこから説明した方が良いだろう。
「普通の銃は火薬を使って金属の弾を撃ち出して攻撃する武器だが、この銃は魔力そのものを弾丸にして射出する。名付けるなら魔法銃といったところだな」
そう、これは魔力そのものを弾丸にして撃ち出す魔法銃で、引き金を引くと使用者の魔力そのものを弾丸にして発射するという単純な仕組みだ。
使用者の魔力を弾丸にするので、もちろんリロードは必要無い。
なので、普通の銃よりもだいぶ使い勝手が良い。
「なるほどね」
それを聞いてルミナが納得した様子で頷く。
「あたしにも見せてもらって良い?」
どうやら、ミィナも興味があるらしく、魔法銃を見せて欲しいと言って来た。
「ああ、構わないぞ。シオン、ミィナに渡してくれるか?」
「うん」
そして、魔法銃を受け取ったミィナは興味津々な様子で見て回している。
「それにしても、普通の銃にはしなかったんだね」
「ああ」
普通の銃だと銃本体だけでなく弾も作らないといけないからな。少々手間が掛かる。
……と言うのは建前で、本当のところは銃の詳しい構造を知らないので、作れるかどうかが怪しかったので止めておいただけだ。
だが、それだけが理由で魔法銃にしたわけではない。単純に転生前の世界には存在しなかった魔法というものが存在しているので、折角なら魔法を使った物を作ってみたかったというのが魔法銃にした理由だ。
「まあ火薬で金属の弾を撃ち出す程度だと強力な魔物には効かないでしょうし、魔法銃にしたのは良かったと思うわ」
普通の銃だと効果が薄いどころか効かないのか……。
ルミナの言う"強力な魔物"というのがどの程度を想定したものなのかは分からないが、もっと強力な武器を用意する必要がありそうだな。
「それにしても、簡単なものとは言え、もう刻印術式を組み込むことができるようになったのね」
「まあな」
それこそ本当に簡単なものだけだがな。
「それに、魔力付与もできているわね」
「魔力付与?」
その単語を知らなかったらしいシオンが首を傾げながら聞き返す。
そう言えば、一昨日の夜に刻印術式に関しての本を読んだが、シオンは興味が無かったのかその本は読まなかったからな。魔力付与のことを知らないのだろう。
「魔力付与というのは装備に魔力を注入して定着させることで、その装備に魔力を付与して強化することよ。これをするかどうかで性能が全然違うから、魔法装備を作る上では必須になるわ」
「そうなんだ」
ルミナの丁寧な説明で理解したようだ。
「と言うか、シオンは一昨日に渡した本は読まなかったの?」
「うん。錬成魔法のことはエリュに任せれば良いかなって」
興味が無くて読まなかったものだと思っていたが、どうやら俺に丸投げしただけだったらしい。
「確かに、一昨日に渡した本は錬成魔法向けのものだけど、刻印術式の基礎についても書かれているから、その部分だけでも読んでおいた方が良いわよ」
ルミナの言う通り、錬成魔法向けの本ではあったが、刻印術式の基礎ぐらいは書かれてあった。
なので、最低限のものとして、そこだけ読ませておくのは良いかもしれないな。
「そういうことだ。と言うことで、ちゃんと読んでおけよ」
俺はルミナから渡されていた本をシオンに渡す。
「えー……こういうのはエリュの方が得意でしょ」
「だからと言って、学習しなくて良い理由にはならないぞ?」
「えー……」
先程よりも更に不満そうな低い声で言う。
「それぐらいは最低限のこととして学んでおけ。分かったな?」
「はーい……」
渋々ではあるが何とか承諾してくれた。
俺はあの本は全て読んだが、刻印術式に関しての記載は基礎的な内容だったので、それぐらいは学ばせておいた方が良いだろう。
「それにしても、もうここまでできるようになっているとはね」
ルミナが感心した様子で言う。
「あたしがここまでできるようになるまでどれぐらい掛かったんだっけ……。自信無くすかも……」
ミィナは少々落ち込み気味のようだ。
「まあ錬成魔法を始めたばかりの割にはまあまあの出来じゃないの?」
リーサは何が何でも認めたくないらしい。
「それじゃあ試してみるか?」
そう言いながら先程渡した物とは別に持っている自分用の魔法銃をリーサに向ける。
「何? やる気?」
そう言って紅茶を飲みながらこちらを睨んで来る。
「試し撃ちに付き合ってくれる気になったみたいだな」
それを聞いたリーサは紅茶のカップを乱暴に置き、食卓を勢い良くバンと叩いて立ち上がった。
乱暴に置かれたところに勢い良く食卓が叩かれたので、紅茶のカップはひっくり返って中身の紅茶が全て零れた。
「ちょっと! 二人とも何やってるの!」
先程と同様にミィナが間に入って止めに来る。
「邪魔よ!
「うわっ!」
しかし、ミィナはリーサに突き飛ばされてしまった。そのまま尻餅を着いて、壁に後頭部をぶつける。
「痛たた……ちょっと、何するの!」
ミィナは後頭部をさすりながら、リーサに対して声を上げる。
「これは私とエリュの問題よ! 邪魔しないで!」
「そうだな。ミィナは危ないから少し離れていてくれるか?」
「…………」
俺のその一言でミィナは無言で離れて行った。
「さて、邪魔がいなくなったところで早速っ……!」
ミィナが離れたところで、リーサが俺に掴み掛かって来る。
「っ!」
俺はそれを左手で打ち払ってバックステップで一旦距離を取る。
そして、それと同時に武器に手を掛けるが、そこでルミナが俺とリーサの間に素早く入って止めて来た。
「待ちなさい」
恐らく、喧嘩を止めに入ったのだろう。そう思ったのだが……。
「武器を使うのは危ないから許可できないわ。武器を渡しなさい」
どうやら、喧嘩自体を止める気は無いらしい。
「分かった」
言われた通りに持っている武器を全てルミナに渡す。
そして、武器を渡されたルミナはそれらを空間魔法で全て収納すると、食卓の椅子を一つ持って行き、廊下の扉の前に置いてそこに座った。
どうやら、そこから観戦するつもりのようだ。
「あ! ボクも!」
そう言うと、シオンは食卓から二つの椅子を取って来てルミナの横に並べた。
そして、そのままルミナの隣に座った。
「ミィナはこっちだよ」
そう言って隣の椅子の座の部分をトントンと叩いてミィナに座るよう促す。
「…………」
シオンに促されたミィナはそのまま無言で椅子に座った。
しかし、どこか不安そうな様子だった。
「大丈夫よ。危なくなったら私が止めるから」
その様子を見てルミナが
「そうじゃなくて、あまり喧嘩は良くないというか……」
「ぶつかり合うこともあるでしょうし、こうなることもあるのよ」
「そういうものなのかな……」
「そういうものなのよ」
そして、三人が椅子に座ったのを確認したところで、リーサと向き合って対峙した。
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