episode29 店の手伝いを……
それからほどなくしてルミナの店に着いた。店が開いているところは初めて見たが、そこそこ客はいるようだ。
「そろそろ昼食の時間だね」
「そうだな」
確かに、シオンの言う通り昼食を摂るのにちょうど良い時間だ。
「そうね。ちょうどお昼だし、一人が店番をして他のみんなは食事を摂っていると思うわ。私が店番をして来るから、二人は二階で昼食を摂って来ると良いわ」
「分かった」
「分かったよ」
「裏口は開けておいたから二人はそっちから入ってね」
そう言い残すと、ルミナは正面から店に入って行った。
「さて、俺達は言われた通り裏口から行くか」
そして、ルミナが店に入ったのを確認したところで裏口に向けて歩を進める。
「うーん……そうだね」
だが、俺の一言に対してシオンは何かを考えているような素振りをしながら返答して来た。
何か気になることでもあるのだろうか。少々気になるので聞いてみることにする。
「どうした?」
「裏口を開けておいたって言ってたけど、鍵なんて掛けたっけ?」
「む?」
言われてみれば、出掛ける際に鍵を掛けるようなことはしていなかった。
俺達が出て行った後にミィナかリーサが鍵を掛けたものだと思われるが、思い返してみるとそれ以前の問題があることに気が付いた。
「……そもそも、鍵自体が無くないか?」
ちょうど扉の前に着いたので改めて扉を見てみるが、鍵を掛ける以前に扉には鍵自体が見当たらない。
「みたいだね。と言うことは、やっぱり……」
「ああ。魔法で鍵を掛けているのだろうな」
物理的に鍵を掛けることができないので、魔法で鍵を掛けていると考えて良さそうだった。
それは良いのだが……。
「ただ、それらしき刻印術式も見当たらないがな」
扉を隅々まで見てみるが、それらしき刻印術式は見当たらない。
扉ではなく他のところに仕掛けがあるのだろうか。考えてみるも答えは出ない。
「後でルミナさんに聞いてみよっか」
「そうだな」
ルミナに聞けば分かることなので、そうするのが一番良さそうだ。
「じゃあ早くお昼にしよっか!」
「ああ」
そして、店に入ったところで昼食を摂りに二階へと向かった。
二階へ向かうと、リーサ以外のメンバーが昼食を摂っているところだった。
リーサはここにはいないようなので、今は彼女が店番をしているようだ。
「あ! 二人ともお帰り! 思ったよりも早かったね」
台所にいたミィナがこちらに来て出迎える。
「ああ。討伐対象がすぐに見つかったからな」
「そうだったんだね。お昼はもう済ませた?」
「いや、まだだ」
「じゃあ二人の分もすぐに用意するね」
ミィナはそう言って足早に台所へと戻って行く。
「ルミナさんが今から店番をするらしいので、リーサの分も頼む」
「じゃあ三人分だね。すぐに用意するから待っててね」
そう言うと、棚から小皿と深い皿を取り出して、鍋の中身を深い皿に
どうやら、昼食はパンとスープのようだ。
そして、準備ができたところで席の空いているところに配膳していく。
「配膳ぐらいなら言ってくれれば手伝った……む?」
と、そのとき階段の方から何者かが上がってくる足音がした。
階段の方を振り向いて確認すると、店番を交代したリーサが二階に上がって来たところだった。
「リーサの分も用意できてるよ。三人とも座って」
「ああ」
「うん」
「分かったわ」
ミィナに促されるままそれぞれの食卓に着く。
「それじゃあ……」
「「「いただきます」」」
そして、俺達とリーサも食事に加わった。
「それで、何の依頼を受けたの?」
ミィナが今日の依頼に関してのことを聞いて来る。
「ゴブリンの討伐依頼とフォレストウルフの討伐依頼だ」
「そうなんだ。依頼の方は大丈夫だったの?」
「特に問題は無かったな」
フォレストウルフは簡単に片付いたし、ゴブリンは数が多いだけだったからな。特に問題は無かった。
「まあゴブリンやフォレストウルフぐらい誰でも倒せるし、それはそうでしょうね」
リーサがそう言って話に加わって来る。
「リーサは意地悪言わないの! それで、怪我とかは無かった?」
「大丈夫だったよ。無駄に数が多いだけだったしね」
シオンが少し得意気になりながら言う。
「無駄に数が多いだけだったって言うけど、何体ぐらいいたの?」
「フォレストウルフは四体だけだったけど、ゴブリンは八十体いたね」
「そんなにいたの!?」
その数は予想外だったのか、ミィナは驚いて声を上げる。
「もしかして、ゴブリンリーダーがいたの?」
ここでアリナがそう言って話に入って来る。
「ああ。二体いたな」
「その規模の割にはゴブリンリーダーは少なかったんだね」
「そうらしいな」
ルミナもあの規模だと二体から四体と言っていたしな。二体というのは少ない方なのだろう。
「初めての依頼だって言っていたけど、それを無傷で倒せたんだ」
「まあそういうことになるな」
気にしていなかったが、言われてみればそういうことになるな。
「ふーん……思っていたよりはやるのね。
リーサが認めたくないと言わんばかりに後半の「思っていたよりは」の部分を強調して言った。
何もわざわざそういう言い方をしなくても……。まあ今更そんなことは気にしないが。
「と言うか、二人はその格好で討伐に行ったの?」
「そうだが……それがどうかしたのか?」
ルミナにも特に何も言われなかったが、何か問題でもあるのだろうか。
「防具はちゃんと装備した方が良いよ? 防具無しは危ないしね」
「確かに、それはそうなのだが……」
確かに、アリナの言う通り防具は装備した方が良いのだろう。
「うーん……でも、あまり動きを阻害するものは付けたくないんだよね」
だが、シオンの言う通りにできるだけ動きを阻害する物を装備したくはない。
と言うのも、俺達は軽い動きで敵の攻撃を躱して、隙を突いて仕留めるといった感じの戦闘スタイルだからだ。
「それなら、ステアが装備している物みたいに軽い物にしてみたらどう?」
「そうは言ってもだな……」
防具である以上はある程度の重量はあるだろう。
だが、防具を装備しないというのは確かに危険だ。
できるなら、動きを阻害しないほどに軽い上で防御力のあるものがあれば良いのだが、そんな都合の良い物は無いだろう。
「防具なら店に色々とあるから、一度見てみたらどう?」
確かに、錬成魔法で作った魔法道具を販売している店なので、当然防具もあるだろう。
一度見てみて合うものが無いかを探してみるのが良いかもしれない。
「それもそうだな。時間のあるときに見させてもらう」
昼食が終わったらと言いたいところだったが、まだ店の営業があるので、今はやめておいた方が良さそうだった。
とりあえず、店の営業が終わってからか休日に見てみることにする。
「さて、あたしは午後の店の営業があるからもう行くね」
昼食を終えたミィナはそう言い残して階段を下りて行った。
「私ももう行くわ」
リーサもそれに続く。
「……で、ボク達はどうする?」
「そうだな……昼食が終わり次第手伝いに行くか」
世話になりっぱなしでは悪いからな。手伝えることがあるのなら手伝った方が良いだろう。
「それもそうだね。それじゃあ早く食べちゃおっか」
「ああ」
そして、早々に昼食を食べ終えて一階へと向かった。
一階に降りた後は倉庫の前を通ってレジの裏側のスペースへとやって来た。
そこに商品は置かれていないようで、あるのは色々な情報が書かれた紙ばかりだ。
「あら、二人ともどうしたの?」
机に向かって座って、紙に何かを書き込んでいたルミナが羽根ペンを置いて用件を聞いて来る。
「できることがあるなら手伝おうと思ってな。何か手伝えることは無いか?」
「そうね……特に無いわね」
何も無いって……。確かに、俺達にできることは少ないが、何も無いということはないだろう。
とりあえず、もう一度聞いてみる。
「本当に何も無いか? 荷物運びとか簡単な錬成魔法で作れる商品の作成とか」
「そうね……荷物は私が空間魔法で運べば良いし、あなた達の錬成魔法の実力だとまだ商品にする物を作らせるわけにはいかないわね」
「そうか……」
どうやら、本当に手伝えることは無いらしい。
「とりあえず、気持ちだけ受け取っておくわね」
「悪いな」
本当に世話になるだけなってるな……。いつかこの恩は返したいところだ。
「ところで、この部屋は何の部屋なの? 沢山紙があるけど?」
そう言えば、この部屋のことは聞いていなかったな。
「ここはレジ裏のスペースで、色々と記録したものを保管しているわ」
「色々って例えば?」
「見てみれば分かるわ」
そう言って、ルミナはこちらに数枚の紙を渡して来る。
「どれどれ……売り上げの記録に商品の在庫、素材の在庫か」
どうやら、店の経営に必要なことを記録した物のようだ。
そして、一通り見終わった後にルミナに紙を返した。
「他に何か用事はある?」
他の用件と言えば防具の件があるが、まだ店は営業中だ。
でも、一応聞いてみるか。
「防具を見てみたいのだが、今時間は取れるか?」
「悪いのだけど今からは無理ね。店の営業が終わった後で良いかしら?」
「ああ」
とりあえず、店の営業が終わった後でなら大丈夫なようだ。
「用件はそれで終わりかしら? ここで問答することぐらいならできるけど、聞きたいことは無い?」
「俺はこれと言って聞きたいことは無いが……シオンは何かあるか?」
俺から聞きたいことは特に無いので、シオンに質問が無いか聞いてみる。
「ボクが聞きたいことは裏口のことぐらいかな」
そう言えば、そのことがあったな。
「裏口? 何か気になることでもあったの?」
「裏口の鍵ってどうなってるの? 鍵を掛けるところが見当たらなかったけど?」
「それなら魔法で鍵を掛けているわ」
思った通り、魔法で鍵を掛けていたようだ。
「でも、それらしき刻印術式は見当たらなかったけど、どうなってるの?」
そう、問題はそこだ。普通に考えれば鍵を掛けるための刻印術式が刻まれているはずだ。
だが、あの扉にそれらしき物はどこにも無かった。
「刻印術式は刻んであるわよ。ただ、それだと見た目が悪いから、その上から板を貼り付けているのよ」
「なるほどね」
そういうことだったのか。聞いてみれば単純なことだったな。
「他に何かあるかしら?」
「特に無いよー」
シオンからももう聞きたいことは無いようだ。
「そうそう、これを渡しておくわね」
ルミナがそう言って渡して来たのは金貨一枚と大銀貨三枚だった。
「今日の依頼であなた達が稼いだ合計一万三千セルトよ」
「良いのか?」
依頼を受けたのはルミナだが、俺達が受け取ってしまっても良いのだろうか。
「ええ。遠慮無く受け取って」
「うん!」
そう言ってシオンが硬貨を受け取る。少しは遠慮というものをだな……。
「それじゃあ店の営業が終わったら呼びに行くから二階で待っててね」
「分かった。シオン、行くぞ」
「うん」
そして、賑わう店内を一瞥してから二階へと向かった。
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