episode28 初めての依頼を終えて
水浴びを終えて馬車に戻った俺達はそのまま帰路へとついていた。
依頼は意外と早く終わったので、まだ午後にもなっていない。
「実際に依頼をこなしてみてどうだった?」
ルミナに初めての依頼の感想を聞かれる。
「そうだな……簡単な依頼だったというのもあったが、意外とあっさり終わった、と言ったところだな」
「シオンはどうだった?」
「少しぐらいは何かあるかと思ったけど、結局、何事も無くて楽勝だったね」
シオンも大体同じような感想のようだ。
「とりあえず、今回の戦闘の様子を見た感じだと、戦闘面に関しては中々素質がありそうね。ただ、少し慎重すぎるところはあったわね。あなた達の実力なら最初から群れに突っ込んで行った方が早かったと思うわ」
「だが、それは結果論だろう? 俺達にとっては初めての依頼だったわけだし、慎重を期すに越したことはないと思うが?」
確かに、結果から言うとそうなのかもしれない。
だが、初めての依頼だったので慎重を期すに越したことはないだろう。
「ええ、そうね」
「そうねって……」
あっさりと掌を返したな。
「ここで良い気になっていたりしたらどうしようかと思ったけど、二人が無謀なことはしなさそうで安心したわ」
どうやら、俺達のことを軽く試していたらしい。
「エリュは慎重だからね」
自分で言うのも何だが、シオンの言う通り俺はかなり慎重な方だ。
「そうみたいね」
ルミナもそれに納得している様子だ。
「それはそうとして、二人は他の武器は使わないの?」
「他の武器?」
「ええ。魔物相手だと他の武器の方が向いているから、他に使える武器があるならそっちを使った方が良いわ」
「なるほどな」
確かに、魔物が相手であれば他のリーチの長い武器や攻撃力の高い武器を使った方が良いだろう。
短剣はむしろ魔物相手には不向きな武器とも言える。
「それで他に使える武器はある?」
そう言われても、これが一番使い慣れているからな……。
「そうだな……他の武器で使ったことがあるのは刀と銃ぐらいだな」
メインの武器はナイフやドスなどの短刀類だったが、一応この二つならば使ったことはある。
「剣じゃなくて刀なのね」
「ああ」
剣は持っていなかったからな。使ったことがあるのは刀だけだ。
「それは良いのだけど、銃という武器は聞いたことが無いわね」
どうやら、この世界には銃が存在していないようだ。
魔法道具店の店主で様々な武器を扱っているルミナがそう言っているので、違い無いだろう。
「そうか。であれば、使うとしたら刀だな」
銃が無いのであれば必然的に刀一択になるな。
「うーん……」
「どうしたんだシオン?」
だが、俺の決定に対してシオンはどこか納得していない様子だった。
「違う武器も試してみない?」
違う武器か。刀や銃を使ったことがあると言っても使い慣れているわけでは無いので、この際に違う武器を使ってみるというのも良いかもしれない。
「それも良さそうだな」
ちょうど良い機会なので、他の武器も試してみることにした。
「決まったみたいね」
「ああ」
「それはそうとして、二人とも冒険者としてやっていけるぐらいの素質はあると思うから、冒険者になるというのも良さそうね」
「そうか?」
「ええ。魔力強化ができるようになれば、良い線は行くと思うわ」
そう言えば、最低限のこととして魔力強化は習得ができないと厳しいと言っていたな。
「それで、その魔力強化をうまくなれる方法とか無いの?」
「それに関しては練習して慣れていくしかないわね」
どうやら、都合の良い近道は無く、そう簡単に行くようなものではないようだ。
「今回はあまり魔力強化を使っていなかったようだけど、練習の意味も含めて普段から使っていくと良いわ」
「それもそうだな」
確かに、安全に倒せる魔物を相手に実戦で練習していくのが一番良さそうだ。
「さて、そろそろ街に着くから準備しておいてね」
そう言われて前方を見てみると街を囲む壁が見えていた。
「分かった」
「分かったよ」
そして、今後の方針を考えながら街に到着するのを馬車で揺られながら待った。
街に到着したところで、依頼の報告をしに冒険者ギルドへと向かった。
ギルド内は依頼をこなしに行っている冒険者がほとんどなのか、あまり人がいない。
「やっぱり、この時間帯はあまり人がいないみたいだね」
「そうね。依頼は朝に受けていくことが多いから、この時間帯はあまり人がいないわね」
やはり、この時間帯に人が少ないのはいつものことのようだ。
「さて、依頼の報告を終わらせちゃいましょうか」
「そうだな」
そして、依頼の報告のために受付に行こうとした。
だが、そのとき一人の女性に声を掛けられた。
「こんな時間にルミナがここに来るなんて珍しいわね」
話し掛けて来たのはローブを着た三十代ぐらいに見える女性だった。
金髪のロングヘアに緑色の瞳をしているが、それよりも気になることがある。
気になったこととは耳のことだ。彼女の耳は他の者とは違って長く尖った形をしているのだ。
「あら、メイルーンじゃない」
「知り合いか?」
「ええ」
どうやら、ルミナの知り合いのようだ。
「その二人は?」
その女性が俺達のことを聞いて来る。
「二人は働きに村から街に来たばかりだそうよ。今は私の店に泊めてあげているわ」
ここでルミナが俺達に目配せして来る。
「俺はエリュ。エリュ・イリオスだ」
「ボクはシオンだよ」
俺達はルミナの意図を察して軽く自己紹介をする。
「私はメイルーン・ノーツィア。見ての通り冒険者よ」
思った通り、彼女は冒険者だったようだ。まあ普通ここに来るのは冒険者ぐらいなので、簡単に予想は付いたがな。
それはそうとして、やはり耳のことが気になるので、少し見てみることにする。
「……私の顔に何か付いてる?」
だが、ここで顔を凝視されていたことに気付いたらしい。
まあ俺は顔と言うより耳を見ていたのだが。
「いや、そうではなくてだな……」
やはり、普通の人間とは違って長い耳を持っているのが気になる。
と、ここでルミナは俺がメイルーンの耳を見ていたことに気付いたらしく、そのことについての話を切り出して来た。
「そう言えば、二人はエルフを見るのは初めてだったわね」
「エルフ?」
どうやら、彼女のような者はエルフと言うらしい。
「ええ。比較的少数な種族で、長く尖った耳を持っていることが特徴よ。魔法に対して高い適性を持っていることが多いわね」
魔法に対しての高い適性、か。確かに、メイルーンのその服装は魔法使いそのものなので、彼女もエルフらしく魔法使いのようだ。
「ところで、他の二人はどうしたの?」
話は変わって彼女に関しての話になる。
察するに、他の二人というのは他のパーティメンバーのことだろう。
「アーニャとレイモンは別行動よ。今はロクレットの街にいるわ」
「ロクレット?」
「ロクレットはこの街の北にある街よ。この国の北の国境に一番近いわね」
俺の問い掛けに対してルミナが返答する。
「そうなのか」
「とりあえず、二人は地理のことをもっと勉強した方が良いわね。せめて、この国とその周辺のことぐらいは学んだ方が良いわよ」
確かに、ルミナの言う通りそれぐらいのことは学んでおいた方が良さそうだ。
「そうだな。近い内に学んでおく」
この世界に来てからは魔法のことばかりを学んでいたが、地理のことも学んでおくことにした。
「メイルーンさん、パーティメンバーと別れて行動して大丈夫なの?」
と、ここでシオンがそんな質問を投げ掛けた。
シオンの言う通り、パーティメンバーと別れて行動するのは何かと都合が悪そうだが、大丈夫なのだろうか。
「今は難易度の高い依頼を受けたりはしていないから問題無いわ。戦力的にはアーニャが一人で私とレイモンがペアになるのが良いのだけど、彼女が一人だとね……」
「何か問題があるのか?」
「彼女は物事をあまり考えずに動くというか、何も考えていないというか……まあ一人だと問題を起こしそうだからよ」
「そうなのか」
どうやら、性格的に問題があるということらしい。
「話は変わるけど、ルミナ、頼んでいた物はできた?」
と、ここで何かの作製を依頼していたらしいメイルーンが、ルミナに依頼の品が完成しているのかどうかを尋ねた。
「ええ、できているわよ。後で店に取りに来ると良いわ」
何を頼まれていたのかは分からないが、どうやら依頼の品は既に完成しているようだ。
「ところで、何か用があってギルドに来たのでは?」
「ええ、依頼の報告をね」
そう言えば、依頼の報告をしに来たんだったな。話し込んでしまって忘れるところだった。
「それじゃあ二人とも行くわよ」
「ああ」
「分かったよ」
そして、ルミナは依頼の報告のために受付へ向かう……と思いきや、解体所の方へと歩を進めた。
「あれ? 受付には行かないの?」
「ええ、魔物の買い取りが先よ。査定して買い取り金額が決まってから依頼の達成報告をして、達成報酬と買い取り分を同時に受け取るという方式になっているわ」
「なるほどな」
確かに、言われてみればその方が合理的だ。
「それじゃあ行きましょうか」
「ああ」
そして、今度こそ三人で解体所へと向かった。
解体所に行くと、昨日と同様に男性職員がいた。ちょうど何かの解体が終わったところらしく、解体したものを整理しているところだった。
「今日は魔物の買い取りかい?」
「ええ、そうよ」
ルミナはそう言って空間魔法でフォレストウルフの死体とゴブリンの右耳を取り出す。
「随分とゴブリンの耳が多いようだが……ゴブリンリーダーでもいたのか?」
「ええ」
「フォレストウルフの方は、と……ふむ、どれも状態が良いな」
男性職員は死体を見て回してそれぞれの状態をよく確認する。
そして、少ししたところで査定が終わったらしく、紙を取り出して何かを書き始めた。
「これが討伐証明証だ」
渡された紙を見ると、そこには討伐した魔物の種類や数、買い取った魔物や買い取り金額などの情報が書かれていた。
これを受付で達成報告のときに渡せば魔物を討伐した証明になり、さらに買い取り分の代金も渡してくれるのだろう。
「ありがとう。それじゃあ戻るわよ」
「もう終わりなの?」
「ええ。今回の魔物は査定する点も少ないからすぐに終わったわね」
確かに、牙と爪、毛皮の状態を見るぐらいなので、そんなに時間も掛からないだろう。
「さて、行きましょうか」
「ああ」
そして、ルミナと共にギルドの方へと戻った。
ギルドの方に戻った俺達はそのまま受付に向かっていた。
「後はこれを渡して達成報告をすれば良いんだよね?」
「そうよ。これで晴れて依頼達成ね」
「そうだな」
俺達はそんな話をしつつ、全員で受付へと向かう。
「思っていたよりも早かったですね」
受付のエルナはもっと時間が掛かると思っていたのか、意外そうな様子だ。
「ええ。今回は討伐対象がすぐに見付かったから早く終わったわ。これ、討伐証明証ね」
そう言ってルミナは先程受け取った討伐証明証を渡す。
「少々お待ちください」
エルナは事務的な返答をすると、カウンターの下から紙を取り出して何かを書き込み始めた。
そして、書き終わったところで、その紙を後方にある棚にしまって、さらにそこから硬貨を取り出した。
「ゴブリン五体の討伐依頼の通常報酬千セルトに加えて追加報酬の七千セルト、フォレストウルフ三体の討伐依頼の通常報酬千セルトに加えて、買い取り分の四千セルトで合計一万三千セルトになります」
エルナは報酬である金貨一枚と大銀貨三枚をカウンターの上に置く。
「通常の依頼の報酬以外にも報酬が出るのか」
「はい。既定の討伐数を超えると追加報酬が出ます」
どうやら、規定数以上討伐すると追加報酬が出るらしい。
今回は五体のところを八十体も倒したからな。かなりの追加報酬が出た。
「最早、追加報酬が本体みたいになっちゃってるね」
確かに、合計報酬の半分以上がゴブリンの討伐依頼の追加報酬だからな。
「そうね。今回の場合はゴブリンリーダーがいた分報酬が跳ね上がっているわね」
ルミナが付け足すように言う。ゴブリンリーダーがいると危険度が上がるので、その分追加報酬も多く設定されているのだろう。
「さて、もう帰りましょうか。店の方も見ないといけないしね」
そう言えば、今日は店の営業日だったな。
であれば、できるだけ早く戻った方が良いだろう。
「そうだな。シオン、行くぞ」
「うん」
そして、ギルドを出て足早でルミナの店へと戻ったのだった。
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