episode30 防具選び
「えーっと……つまり、増幅術式による作用が……」
「そこは魔法陣自体の構成術式による魔力集約作用によるものではないか?」
「あ、そっか。と言うことは……」
店の営業が終わるまで待つことになったが、何もせずに待つわけにもいかないので、自分達の部屋に戻って魔法の勉強をしていた。
そのおかげで魔法のことも少しは分かって来た。
「……む?」
と、そのとき部屋の扉がコンコンと二回ノックされた。
「二人とも終わったわよ」
部屋に入って来たのはルミナだった。
どうやら、夜になって今日の店の営業が終わったらしい。
「分かった。シオン、行くぞ」
「うん」
とりあえず、読んでいたページに栞を挟んで、読んでいた本を片付ける。
「相変わらず勉強熱心なのね」
「まあな」
魔法は優先して学んでおきたいからな。
何せ、転生前の世界には無かったものなので、分からないことが多い。
「それじゃあ行きましょうか」
「ああ」
そして、自分達に合う防具を探すべく倉庫へと向かった。
向かったのは一階の倉庫だった。地下の倉庫は錬成用の素材がメインらしいからな。防具のような商品になるものは一階の倉庫にあるのだろう。
「防具はこの一帯に纏めておいたわ。自分に合うものを探してみて」
どうやら、わざわざ俺達に合いそうな物を集めておいてくれたらしい。
目の前にある五つの箱には防具が種類別に分けて入れられていて、それぞれ頭用、胴用、腕用、脚用、足用のようだ。
「分かった」
「分かったよ」
まずは足用の防具を手に取って確認する。金属製の物は重量や動きやすさの観点から論外なので、革製の物を探す。
「エリュ、これはどう?」
そう言ってシオンが渡して来たのは薄いブラウン色のブーツだった。
見たところ、普通のブーツのように見えるが……。
「結構軽いな。それに、中には金属が入っているのか?」
触って確認してみたところ、中には何かの金属が入れられているようだった。
また、金属が入っている割にはだいぶ軽い。普通のブーツと変わらないぐらいだ。
「そうよ。見た目の割にかなり丈夫よ。それに、特殊な刻印術式の効果によって履いているとさらに軽くなるわよ」
「そうなのか?」
普通のブーツと変わらないぐらいの重量とは言え、動きづらいことに変わりないので、候補から外そうかとも思っていたが、さらに軽くなるというのであれば話は別だ。
「ええ。試しに履いてみる?」
「良いのか?」
「ええ、良いわよ」
ルミナに許可をもらったので、早速試しに履いてみる。
すると、まるで重量が無いかのように軽くなった。
しかも、見た目に反して動きを阻害しないので、これはかなり良さそうだ。
「本当に軽いな」
「そうでしょう? 結構高い物だから、中々の性能よ」
確かに、性能は良いがこう見えて高価な物らしい。
「ボクにも履かせてよ」
「ああ」
試し終わったところで、ブーツを脱いでシオンに渡す。
「ところで、これはいくらぐらいするんだ?」
高価とは言っていたが、いくらぐらいするのだろうか。参考までに聞いてみる。
「二千万セルトよ」
……桁がおかしかったような気がするが聞き間違いだろうか。もう一度聞いてみる。
「……二千万と言ったように聞こえたのだが合っているか?」
「それで合っているわよ。稀少な魔法鉱石に加えて、革も魔力伝導率の良い魔物素材を使っているから、どうしても高くなるのよ」
どうやら、聞き間違いではなかったようだ。
「このブーツ凄く動きやすいよ!」
そんな俺の様子を気に留めることも無くシオンが声を上げる。
「……シオン」
「何かな、エリュ?」
シオンはにこやかな顔をしながらそう聞いて来る。
これは確実に今から俺が言おうとしていることを分かった上で聞いて来ているな……。
「今すぐそのブーツを脱いで元の位置に戻してくれ」
「えー……これかなり良い感じだから折角なら……」
「もらえるわけがないだろう!」
シオンが言い切る前に答えを言い放つ。
「しょうがないなー」
シオンはそう言って渋々ブーツを脱いで元の位置に戻した。
「もっと安価な物は無いのか? 数千から数万セルトぐらいの物が良いのだが」
「あるわよ」
それを聞いたルミナはそれぞれの箱の中から防具をいくつか選んで取り出した。
「意外と少ないな」
そうして選ばれた防具は数えられそうなほど少なかった。
「一応、うちは高品質な性能の良い物がメインだから、低価格帯の物は少ないのよ」
「そうだったのか」
どうやら、ルミナの店は高価格帯の商品がメインの店だったらしい。
「まあこの中から探してみるしかないか」
高価格帯の物には手が出ないので、この中から自分達に合う物を探すことにした。
重量のある金属製のものは取り除き、軽い革製のものを選んでいく。
「こんなところか」
とりあえず、良さげな物を選定したので、ここから実際に装備して確認してみることにした。
まず、ブーツ状の足用の防具を装備して使用感を確認してみる。
「やはり、動きづらいな」
装備して使用感を確認してみるが、思った通り動きづらかった。
まあ先程の防具がブーツ状の防具だったのにも関わらず、動きを阻害していなかった方がおかしいと言えばそうなのだが。先程の防具がいかに高性能だったのかがよく分かる。
そして、他の足用の防具も確認してみるが、俺達に合いそうな物は無かった。
「結局、足用の防具に良さそうな物は無かったね」
「そうだな。だが、脚用の防具で何とかできるだろうし大丈夫なのではないか? ……多分」
足は普通の靴でも脚用の防具を装備していれば防御力は十分だろう。
足用の防具を装備するに越したことは無いが、機動力が下がるのは避けたいしな。
「それもそうだね。それじゃあ脚用の防具を見てみよっか」
そう言うと、シオンは脚用の防具を装備して使用感を確かめ始めた。
「エリュは試してみないの?」
動かない俺の様子を見たシオンが、不思議そうにしながらそんなことを聞いて来る。
「俺は他の種類の防具を試してみる。シオンはそのまま脚用の防具を試していてくれ」
「分かったよ」
とりあえず、俺は胴用の防具を試してみることにした。
適当な薄手の革鎧を選んで装備して、使用感を確かめる。
「うーむ……これもダメか」
試してみるも、やはり動きを阻害してしまう。
鎧である以上仕方が無いのだが、戦闘スタイルの関係上可能な限り機動力は確保したい。
「エリュの方は良いのあった?」
シオンの方は試し終わったらしい。
その様子から察するに良さそうな物は無かったようだ。
「残念ながら無かったな」
やはり、安価な物だと条件に合致するものは中々見付からない。
「服とほとんど変わらないレベルの物があれば良いのだが……」
だが、それだと防御力に問題があるだろう。
結局のところ、防御力と機動力を両立させるのは難しそうだ。
「うーん……」
と、ここでシオンが何かを考える素振りを見せる。
そして、少ししたところで考えが纏まったのか口を開いた。
「ルミナさんのその服って冒険者時代に使ってた物なんだよね?」
「そうよ」
「その服は防具として役に立ってたの?」
見たところ、金属などは仕込まれていないようなので、防具としてはあまり役に立たないように思える。
そう思ったのだが……。
「ええ。こう見えても下手な鎧より防御性能は高いわよ」
「そうなのか?」
ルミナはそう言うものの、見た目からは全くそうは思えない。
一枚の布である服が鎧よりも防御力が高いというのは普通に考えればあり得ないことだ。
「何なら試してみる?」
そして、あまり信じていない様子の俺達を見たルミナがそう提案して来た。
「と言うと?」
「その短剣で斬ってみて」
どう試すのかと思ったら、かなり直接的な方法だった。
「……大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ。遠慮無く思いっ切り斬ってみて」
そうは言ってもどうしても遠慮してしまう。怪我をさせてしまう可能性があると考えるとどうしてもな……。
と、そんなことを考えていたところで、シオンが口を開いた。
「じゃあボクがやってみるけど良い?」
「ああ」
躊躇していたところでシオンが立候補したので出番を譲る。
「それじゃあ行くよ? えいっ!」
そして、シオンが遠慮無く全力で一文字に斬撃を放った。
だが、服には傷一つ付かなかった上に攻撃を受けたルミナも平気そうだ。
「ほんとだ。全然効いて無いみたいだね」
「そうでしょう? 魔法に対する耐性だけでなく、衝撃吸収による物理的な攻撃に対する耐性もあるから、このぐらいは平気よ」
これでノーダメージなのか。言っていた通り、かなり優秀な防具のようだ。
と、それを聞いたシオンがとんでもないことを言い出した。
「じゃあ突きでも大丈夫?」
優秀な防具だということが分かったからといって、何故更に試そうとしているんだ。
そもそも、性能を確かめるためにしたことなので、そこまでする必要は無い。
「ええ。もちろん大丈夫よ。……試してみる?」
だが、ルミナは迷うことなく承諾した。
「うん!」
そして、腹のあたりに突きを放つが、短剣は突き刺さること無くピタっと止まった。
先程と同様に攻撃を受けたルミナは平気そうだ。
「……満足したか?」
「うん!」
どうやら、これで満足したらしい。
「それで、結局防具はどうするの?」
合う防具を探していろいろ試したが、結局まだどれにするかは決まっていない。
「そうだな……ルミナさん、その服みたいに刻印術式の刻まれた防御性能のある服は無いのか?」
「あるにはあるけど高いわよ?」
「だよな……」
安価で防御性能のある服があれば話が早かったのだが、残念ながら高価な物しか無いようだ。
「結局、あなた達に合う物は無かったみたいね」
「協力してもらったのに悪いな」
わざわざ手間を掛けさせた上に、結局合う物が無かったので少々申し訳ない。
「あなた達が自分に合う物を自分で作ってみるというのも手だけど……どうする?」
確かに、自分達に合う物が無いのなら、自分で作るというのも手だな。
「それが良さそうだな。シオンもそれで良いか?」
「良いよー」
「分かったわ。それじゃあこれを渡しておくわね」
そう言ってルミナは一冊の本を渡して来る。
「これは?」
「刻印術式についての本よ。基礎レベルのものだから最低限のものとして頑張って理解してね」
どうやら、刻印術式の基礎についての本のようだ。
そう言えば、魔法装備を作るには刻印術式の知識が必要になると言っていたな。
「じゃあエリュ、頑張ってね」
「ああ、分か……って、何故俺に丸投げしようとしているんだ」
うっかり返事しそうになったが、何故全部俺に任せようとしているんだ。
「エリュの方が上手いんだし、エリュが作れば良いじゃん!」
「いや、自分の分ぐらいは自分で作れよ」
「えー……」
シオンが不貞腐れ気味に答える。これは自分には錬成魔法が上手くできなかったので拗ねているな……。
「とりあえず、今日のところは部屋に戻ってその本を読んでみると良いわ」
「分かった。シオン、行くぞ」
「うん」
そして、防具選びを切り上げて自分達の部屋へと向かった。
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