episode23 ポーション

 翌朝の朝食後、ルミナと共に冒険者ギルドへとやって来た。

 ギルド内には多くの人がいて、今までギルド内を見て来た中では一番賑わっている。


 ちなみに、昨日はあの後は魔物図鑑を一通り読んだら良い時間になったので、そのまま眠りに就いた。


「とりあえず、依頼の方を見てみましょうか」

「ああ」


 ひとまず、掲示板の方へ向かい依頼を確認してみる。


「……で、どれが良いの?」

「とりあえず、Fランク向けの依頼を探してみると良いわ」

「と言うか、俺達は冒険者では無いのだが良いのか?」


 そもそも、俺達は冒険者では無いので依頼は受けられないと思うのだが、大丈夫なのだろうか。


「私の名義で受けるから大丈夫よ。形式的には私が依頼を受けて、あなた達はそれに付いて来るだけといった感じね」

「そうか。…………」

「……? どうしたの、エリュ?」

「何か納得していないようね」

「ああ」


 それは分かったのだが、そうすると問題が一つ。


「それだと実力のある者に手伝ってもらって冒険者ランクを上げようとする奴が出てきそうだが大丈夫なのか?」


 要するに、寄生して冒険者ランクを上げることができてしまうのではないかということだ。


「その場合は依頼内容やそれぞれの実力なんかを見て、ちゃんと依頼をこなしたのかどうかを評価するから大丈夫よ。その疑いがある場合には調査をすることもあるわね」

「なるほどな」


 どうやら、そこはちゃんと考えられているようだ。


「ねえ、これとこれはどう?」

「む?」


 シオンは俺とルミナが話をしている間に依頼を選んでいたらしく、掲示板から取って来た二枚の紙を見せて来た。


「近くの森のゴブリンの討伐とフォレストウルフの討伐か」


 昨日見た魔物図鑑によると、どちらもFランク冒険者でも問題無く討伐できるレベルの最弱クラスの魔物らしい。

 フォレストウルフの実物は見たことが無いが、ルミナが付いているので何の問題も無いだろう。


「その二つなら問題無さそうね。それじゃあちょっと手続きをして来るわね。その紙を渡してくれるかしら?」

「分かったよ」


 そして、シオンは依頼の書かれた紙をルミナに手渡した。

 そのまま手続きをするために三人で受付へと向かう。


「ルミナですか。今日はどうしたのですか?」


 受付に行くとそこにはエルナがいた。どうやら、今日は彼女が受付の担当らしい。


「ちょっとこの二人を街の外にね。この依頼とこの依頼良いかしら?」


 そして、ルミナは掲示板に貼ってあった二枚の紙を渡す。


「この二つの依頼ですね。分かりました」


 事務的な返答をして紙を受け取ったエルナはその紙に何かを書き込んでいく。

 そして、書き終わるとその紙を受付のカウンターの下へとしまった。


「ルミナが付いて行くのなら特に注意事項などは必要無さそうですね。それでは行ってらっしゃいませ」


 どうやら、これで依頼を受ける手続きが終わったようだ。


「さて、行きましょうか」

「ああ」

「うん」


 そして、冒険者ギルドを出て馬車を借りてから街の外へと向かった。






 街の外に出ると、そこには相変わらず長閑のどかな草原が広がっていた。

 今日も雲一つない快晴だが、少々風が強い。


「それにしても、今日も快晴か。この辺りは晴れやすいのか?」


 これで一昨日、昨日に引き続いて三日連続の快晴だ。

 これがたまたまなのか気候のせいなのかは分からないので、ワイバスに長く住んでいるルミナに聞いてみる。


「ええ、そうよ。この辺りは滅多に雨は降らないわね」


 どうやら、この辺りは晴れやすい気候のようだ。


「ここから目的地までは十分も掛からないぐらいか?」

「そうね。馬車ならそのぐらいね。すぐそこだし走った方が早いけど、あなた達が付いて来られるかどうか分からなかったから」

「む……これでもボク達運動能力には自信があるよ」

「そういうことではないと思うのだが……」


 確かに、シオンの言う通り運動能力は高い方だとは思うが、馬車で行くよりも走った方が早いとなれば、どう考えても魔力強化をしているので、そういう問題では無いだろう。


「そう言えば、渡そうと思って忘れていたから今渡しておくわね」


 そう言ってルミナが渡して来たのは緑色の液体の入った小瓶だった。


「これはポーションか?」

「ええ、そうよ。今回は必要になることは無いとは思うけど、念のため渡しておくわね」


 確かに、ルミナがいるので使う機会は無さそうだが、念を入れるに越したことはないだろう。


「ルミナさん、ポーションってどんな感じの物なの?」

「そう言えば、ポーションの説明はしていなかったわね」


 この世界では当たり前のように存在している物だが、転生前の世界には存在していなかった物だ。

 大体どのような物か予想はつくが、一応聞いておいた方が良いだろう。


「ポーションというのは錬成魔法で作成した魔力の込められた薬品のことよ。様々な種類の物があって飲用したり振り掛けたりすることでその効果を発揮するわ」

「そうか」


 どうやら、おおよそ予想通りの物のようだ。


「ちなみに、今渡したのは治癒ポーションよ。患部に振り掛けて使うわ」

「これはどの程度の効果があるんだ?」

「最初に錬成魔法を見せたときに作ったのと同じ物よ」


 と言うことは、効果の低い物ということか。


「でも、効果が低くても沢山あれば大丈夫かな?」

「沢山あれば安心というわけではないわ。そう言えば、治癒力というものを説明していなかったわね」

「治癒力?」


 聞いたことのない単語に対してそのことを聞き返す。


「治癒力というのは傷を治す能力といったところかしら。治癒ポーションを使ったり回復魔法を受けたりして一気に傷を治すと治癒力を消耗するわ。そして、治癒力が低下した状態だと傷が治りにくくなるわ。具体的に言うと、同じ治癒ポーションを使っても傷の治りが悪くなったりするわね」


 つまり、回復をすると段々回復力が下がっていくといった感じか。

 それで治癒ポーションが沢山あっても安心できるわけではないと言ったのか。


「治癒力は回復しないのか?」

「治癒力は時間が経てば自然と回復するわ」

「そうか」


 それならそこまで重く考えるような問題では無さそうだな。


「ポーションって他の種類の物もあったよね?」

「ええ、色々とあるわ。まだ到着まで時間はあるし、説明しましょうか?」

「うん! お願い!」

「分かったわ」


 そして、ルミナは空間魔法でポーションを取り出して、各種ポーションについての説明を始めた。


「用途によって様々な物があるけど、とりあえず汎用的な物で中でもよく使われる物を説明するわね」

「ああ、頼む」

「まず、これが魔力回復ポーションよ」


 そう言って左端にある青色のポーションを指差す。


「その名の通りに魔力を回復するポーションで、飲用して使うわ。短時間で連続使用したりすると効果が低下するから気を付けてね」

「治癒力が低下するのと同じ感じか?」

「うーん……原理は違うのだけど、とりあえず今はそういうものだということにしておいて」

「分かった」


 できれば原理も説明して欲しかったが、そこまで時間があるわけでは無いので、時間があるときに説明してもらえば良いだろう。


「隣にあるのが魔力増幅ポーションよ」


 こちらも青色のポーションで、先程説明された魔力回復ポーションとあまり変わらないように見える。


「魔法の補助用の物でこれも飲用して使うわ」

「と言うことは、魔法使いには必須といった感じか?」

「そうでもないわよ。あくまで魔法を行使する際の基礎魔力圧縮による魔力増幅工程を補助するもので、それが完璧にできるのであれば必要無いわ」

「ええっと……?」


 ここでまたしても知らない単語が出て来る。

 一応、単語から何と無くでその意味は分からなくもないが……。


「魔法についてもう少し学べば分かると思うから、その説明は省くわね」

「そうか……」

「そう気にしなくても、割と基礎的な内容だからすぐに分かるようになるわよ」


 まあ今すぐに必要な情報では無いので、ルミナの言う通りに後で学べば良いだろう。


「そして、そのさらに隣にあるのが解毒ポーションよ」


 今度は緑色のポーションで、同じ緑色の治癒ポーションと比べると濃い色をしていた。


「どんな毒でも治せるの?」

「これは汎用的な物で色々な毒を治せるけど、何でも治せるというわけではないわ。強力な毒だと専用の物を作る必要があるわね」


 どうやら、汎用的に使える物ではあるが、万能というわけではないようだ。


「とりあえず、知っておきたい汎用的なポーションに関してはこんなところかしらね。用途に応じた専用のポーションは種類が多い上に使う機会も限られるから説明を省くわね」

「案外少ないんだな」


 紹介されたのは四種類だけで、思っていたよりも少ない。


「そうね。汎用的なポーションの中でもあなた達が使いそうな物を選んだからこんなものね。治癒ポーションと解毒ポーションが一緒になったものや、治癒ポーションと魔力回復ポーションが一緒になった物なんかもあるけど価格帯的にね」

「なるほどな」


 まあ今はこのぐらいにしておいて、他のポーションのことはそのうち知っていけば良いだろう。


「とりあえず、これらのポーションも渡しておくわね」


 そう言って先程説明したポーションを全て渡して来る。


「さて、今から何かするには少々半端な時間ね」

「そうだな」


 ルミナの言う通り到着までは後数分で、何かするにしては中途半端な時間だ。


「とりあえず、降りる準備だけしてゆっくりしていると良いわ」

「分かった」

「分かったよ」


 そして、渡されたポーションをポーチにしまって、目的地に到着するのを待った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る