episode22 錬成魔法の才能
――ミリアが回復魔法を掛けに行こうとしたところで転んじゃってね。それで、回復魔法を掛けに行った本人が回復魔法が必要になるっていう……」
「そのことは忘れて下さい!」
「相変わらず仲が良いのね」
現在、夕食を終えて皆で談笑しているところだ。
あの後は短剣を追加で四本作製した。これで合計六本となり、俺とシオンとで各三本ずつになった。
ひとまず、これだけあれば大丈夫だろう。
「シオン、これを」
ここで五本持っている内の二本をシオンに渡す。
「あ、作ってくれたんだ」
「まあな。シオンは錬成魔法は向いて無さそうだったしな」
「むぅ……言わなくても良いじゃん!」
「悪い悪い」
「まあいっか。どれどれ……」
短剣を渡されたシオンは鞘から抜いてその出来を確認する。
「これならちゃんと使えそうだね」
どうやら、その完成度に満足してくれたようだ。
「それ、エリュが作ったの?」
と、ここでその短剣を見たミィナがそんなことを聞いて来る。
「ああ」
「本当に?」
さらに、そう言ってリーサも話に入って来る。
「……見てみるか?」
「うん、見せて」
「見せてみなさい」
そして、ミィナとリーサに俺が作った短剣を渡した。
短剣を受け取った二人は短剣を鞘から抜いて、その状態を細かく見て確認する。
「意外に良くできているわね」
そして、短剣の出来栄えを確認したリーサが珍しく褒めるようなことを言って来た。
「まあ魔鉄を変形させるだけだし、大したことはないけど」
しかし、珍しく褒めたかと思ったところで、そう一言付け足して来た。
やっぱり、リーサはリーサだった。
「一応、製錬からしたのだが?」
インゴットから作ったと思っているようだが、製錬からしているのでそこは訂正しておく。
「エリュ、嘘を吐くのは良くないわね。初めてでこんなに純粋な魔鉄が作れるわけないもの」
「そうだよ。見栄を張りたいからって嘘は良くないよ」
「いや、本当のことなのだが」
リーサだけでなくミィナにまで言われてしまう。
そう言われても本当のことなのだが……。
確かに、製錬は難易度が高かったが、そこまで言われるようなことなのだろうか。
「私がシオンに渡しておいた一本以外は全部エリュが作った物よ」
「そうなの!?」
それを聞いたミィナが驚いた様子で声を上げる。
どうやら、ルミナの一言でようやく信用されたようだ。
「そんなに驚くようなことなのか?」
「普通は初めてで製錬まではできないわね」
「そうなのか」
「そうですよ! あたしはこのレベルの製錬ができるようになるまで二か月は掛かりましたよ!」
俺は初めてでもできてしまったが、ミィナはこれができるようになるまで二か月も掛かったらしい。
どうやら、初めてでできるというのは余程のことのようだ。
「それはミィナにセンスが無さすぎるからでしょ」
相変わらずの刺すような言い方でリーサは言い放つ。
「もう……それは自分でも分かってるけど言わなくても良いじゃない!」
「そう言っているリーサはどうだったんだ?」
参考程度にリーサにも聞いてみる。
「私は一か月も掛からずにできるようになったわ」
それでも一か月近くは掛かったのか。
「ルミナさん、これぐらいが普通なのか?」
色々と聞いてみたは良いものの、その基準が分からないのでルミナに聞いてみる。
「そうね。大体そんなものよ」
どうやら、このぐらいが普通なようだ。
「じゃあボクにセンスが無かったわけじゃなかったんだね」
「そういうことらしいな」
「エリュは筋が良いし、このままうちで働いてくれると助かるわね」
「そうだな。前向きに考えさせてもらう」
どのようにして収入を得るかは重要課題だったが、これで何とかなりそうだ。
「ボクは?」
「シオンは……今後次第ね」
「えー……」
「当然、錬成魔法も使えないのに雇うわけにはいかないだろ」
錬成魔法で作った魔法道具を売る店なのに、錬成魔法が使えないというのは論外だろう。
「エリュまでひどーい」
そう言われても当たり前のことを言っただけだと思うのだが……。
「ところで、みんなは明日の予定とかはある?」
話は変わって、ルミナが全員に明日の予定を聞いて来る。
「私達は特に無いよ」
リーダーであるアリナが代表して答える。
ティータイム前にも言っていたが『
「俺達も特に無いな」
「だね。だけど……」
「どうかしたのか?」
俺は特に何も無いが、シオンは何か予定でもあるのだろうか。
「これの試し切りはしておきたいかな」
そして、短剣を片手で器用にくるくると回しながらそう言った。
「あー……確かにな」
この武器で魔物相手にどの程度通用するのかを知っておきたいし、何より魔物が相手の戦闘にも慣れておきたい。
対人戦闘とは勝手が違うだろうしな。
「この辺りにいたレッサーワイバーンが討伐された今なら比較的安全だし、悪くは無いな」
「でしょ? じゃあ明日街の外で試し切りする?」
確かに、今がちょうど良いタイミングではあるが懸念材料がある。
「そうしたいところだが、魔物についての情報が無さすぎるからな……」
この辺りの魔物は危険度が低いらしいが、できる限り不安要素は排除しておきたい。
なので、魔物に関する詳しい情報が欲しいところだ。
「図書館でいろいろ調べてからにする?」
「そうしたいところだが、入館料が必要だからな……」
この街の図書館は入館料が必要だが、未だにお金を持っていない。
なので、残念ながら図書館で情報収集をすることはできない。
「魔物の図鑑ぐらいならここにあるわよ」
「そうなのか?」
「ええ。そこの本棚にあるわ」
ルミナはそう言って本棚の方を手で指し示す。
そう言えば、あの本棚の本はまだ調べていなかったな。
「と言うか、下手な図書館よりもこの店にある本の方が詳しい物があるわよ」
さらに、リーサがそう一言付け足して来る。
「そうなの?」
「ルミナさんはトップクラスの錬成魔法の使い手だし、詳しい本はたくさん持っているわ」
「そうなのか?」
トップクラスの錬成魔法の使い手という話は初めて聞いたな。
ひとまず、本当なのかどうかルミナに確かめてみる。
「ええ、そうよ。一応これでも店主だしね」
「一応どころじゃないですよ。指名で依頼が来ることもありますし」
「そうなんだ」
魔法道具店の店主をしているぐらいなので、それなりの錬成魔法の使い手だとは思っていたが、まさかトップクラスの実力があるとは思っていなかったな。
「それはそうとして、とりあえず街の外に出るのはもう少し情報収集をしてからだな」
「分かったよ」
せめて、この街の周辺で遭遇する可能性のある魔物のことぐらいは最低限のこととして把握しておきたい。
と、そんなことを考えていたところでルミナがある提案をして来た。
「街の外なら私が付いて行くわよ」
どうやら、ルミナが街の外に付いて来てくれるらしい。
「良いのか?」
「ええ、構わないわよ」
その申し出は非常にありがたい。俺達だけだと不安要素が多いからな。
「店の方は大丈夫なのか?」
ただでさえ店員が少ないのに、ルミナまで抜けると店を回すのが大変になりそうだが、そこは大丈夫なのだろうか。
「店ならミィナとリーサの二人だけでも回せるから大丈夫よ。それに、一日中抜けるわけじゃないしね」
「これでもあたしたちは五年ぐらいは働いてるからね。それぐらいなら大丈夫だよ」
「私達が店番をして『
「そうだよ。私達が荷物は運ぶから……って、ええっ!?」
アリナが途中まで言いかけたところで声を上げる。
「どうせ暇なんだし、それぐらいは良いでしょ?」
「それぐらいは手伝うけど……三人も良い?」
「良いよー」
「良いですよ」
「もちろん、手伝いますよ」
三人は迷うことなく快諾する。
「それは助かるわ。それじゃあお願いね」
「はい! 力仕事なら任せてください!」
そう言っているアリナは大剣を使っているので、確かに力仕事もできそうだが、他の三人は少々怪しいところだ。
だが、まあ店の荷物を運ぶぐらいなら問題無いだろう。
「住まわせてあげているんだし、店にいる間は手伝ってもらうわよ」
「ちょっと、リーサ!」
何と言うか、リーサは相変わらずだな……。
「そもそも、何でお前の店じゃないのに偉ぶっているんだ……」
「何よ」
俺の言ったことが気に食わなかったのか、リーサがそう言ってこちらを睨んで来る。
「何と言うか、口が悪いんじゃなくて性格が悪いんじゃないかと思って……痛たた!?」
と、俺が言い切る前にリーサが俺の頭を掴んで来た。それも思いっ切り。
「ちょっ……待て! 痛い! 頭が割れる!」
何とか抜け出そうとリーサの腕を掴んで外そうとするが、全然外れそうに無い。
どうやら、魔力強化をして身体能力を強化しているらしい。
「それで、私が何て?」
リーサは俺の目線に高さを合わせて、威圧するように言って来る。
「やはり、リーサは性格が悪いなと……ぐふっ……ぁ……!?」
そして、今度は腹に膝蹴りをして来た。
それは人間に出せるとは思えないほどのとてつもない威力で、意識が飛びそうなほどだった。
頭を掴まれているので、髪を引っ張られて吹き飛ばされることはなかったが、頭を支点にして振り子のように浮き上がった。
そして、そのまま崩れ落ちて、髪を掴まれてぶら下がった状態になった。
「リーサ、離しなさい。やりすぎよ」
ルミナのその一言でリーサは手を離した。俺はそのまま崩れるように床に倒れ込む。
「エリュ、大丈夫!?」
「あ……ああ、何とか……な……」
何とか無事だが意識が飛ぶかと思ったぞ……。
魔力強化をしていたとは言え、ここまでの力が出せるとは思わなかったな。
振り解こうとした際にリーサの腕を触ったが、触ってみた感じからすると特別鍛えられてはいないようだったので、魔力強化だけでこれだけの力を出していたようだった。
どうやら、魔力強化はかなりの効果があるらしい。
ルミナは冒険者時代にはレッサーワイバーンを蹴り倒していたらしいしな。
「あの……回復魔法を掛けましょうか?」
ミリアが屈み込んで心配そうに話し掛けて来る。
まだ少々痛むが、折れてはいないので回復魔法を使うほどでは無いだろう。気持ちだけありがたく受け取っておく。
「いや、大丈夫だ」
目線を床に移しながら答える。
「どうかしたのですか?」
俺のその行動が不可解だったのか不思議そうにしながら聞いて来る。
どうかしたのかと言われても、顔のすぐ前で屈み込まれるとスカートの中の白いものが丸見えなのだが。
「ミリア、スカート」
そのことに気付いたアリナがミリアに注意する。
「スカート? ……きゃっ!」
注意されてそのことに気が付いたミリアは小さく悲鳴を上げて、スカートを押さえながらササっと離れていく。
「……見ました?」
ミリアが何がとは言わないが、見たのかどうかを聞いて来る。
「できるだけ見ないようにはした」
「見ているじゃないですか!」
そう言われても、見たのではなく見えたのだが。不可抗力だったと言いたい。
「それにしても、本当に大丈夫?」
そう言ってルミナが心配そうにしながら俺に近寄って来る。
そして、蹴られた辺りを触って状態を確認して来た。
「とりあえず、エリュは少し休めば大丈夫そうね」
「ああ」
まだ痛みはあるが、少し休めば問題無い。明日になれば大丈夫だろう。
「さて、そろそろ私達は明日の店の方の準備をしてくるわね。とりあえず、みんなはのんびりしていると良いわ」
「分かったよ」
「分かりました」
シオンとアリナがそれぞれ返答する。
「ミィナは先に準備をしておいてくれる?」
「分かりました」
そして、ミィナはそう答えると階段を下りて行った。
「それじゃあ私も……」
「待ちなさい」
リーサもミィナに続いて行こうとするが、そこをルミナに止められる。
「リーサはちょっと話をしましょうか」
「……特に話したいことは無いのだけれど?」
「あなたには無くても私にはあるわ。こっちに来なさい」
そう言うと、ルミナはリーサを連れて階段を下りて行った。
「ボク達はどうする?」
「とりあえず、図鑑を探して部屋で読んでみるか」
「だね」
そして、起き上がって立ち上がろうとしたが、そこで少しふらついてしまった。
どうやら、思っていたよりもダメージが大きかったらしい。
「大丈夫!?」
シオンが心配そうにしながら声を上げる。
「……できれば肩を貸してくれると助かる」
「ボクで良ければいくらでも貸すよ!」
俺はシオンに肩を貸してもらって立ち上がる。
そして、そのまま図鑑を探すために本棚に向かおうとしたが、そこでアリナが声を掛けて来た。
「図鑑なら私達が探すよ」
どうやら、図鑑を探してくれるらしい。
「良いのか?」
「それぐらいなら任せて。ふらついている人にさせるわけにはいかないしね。三人とも良い?」
「良いよー」
「構いませんよ」
ステアとレーネリアが即答する。
だが、ミリアは黙ったままだった。
「ミリアは?」
無言のままで返答の無いミリアに対して聞き直す。
「その状態の人にさせるわけにはいきませんからね。良いですよ」
そう言ってミリアも了承するが、その声色は心
どうやら、先程俺に見られてしまったことを気にしているようだ。
「ミリアはいつまでも気にしないの! そもそも、ミリアの不注意が原因なんだからね」
「分かっていますけど……うぅ……」
随分と気にしている様子だが、そこまで気にすることなのだろうか。男である俺には分からない。
「それじゃあ早く探しちゃおっか。エリュはソファーに座って待ってて」
「ああ。頼んだ」
俺はシオンと『
「さて、図鑑はどれかな?」
アリナがそう言いながら本棚に向けた視線を動かして、目的である図鑑を探す。
「これかな?」
シオンはそう言って一冊の本を手に取ると、パラパラとページをめくって軽く中身を確認していく。
「それが図鑑みたいだね」
どうやら、図鑑が見付かったようだ。あっという間に見付かったので、結果から言うと五人で探す必要も無かったな。
「それじゃあ部屋に行こっか」
「ああ」
そして、図鑑を持って自分達の部屋へと向かった。
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