episode21 初めての錬成魔法

 早速、受け取った魔鉄鉱石を釜の中に入れる。

 それは良いのだが……。


「それで、加熱するための魔法陣はどうやって起動するんだ?」


 錬成魔法のやり方は学んだが、この魔法陣の起動方法は聞いていない。


「そう言えば、それは教えていなかったわね。この術式で起動できるわ」


 ルミナがそう言うと、目の前の空中に文字が出現した。

 どうやら、これが起動用の術式のようだ。


 早速、この術式を使って魔法陣を起動する。

 すると、魔法陣から火が出て加熱され始めた。


「ここに魔力を流せば良いんだな?」

「ええ、そうよ。やってみて」

「ああ」


 俺は集中して、釜の中に魔力を流す。


「魔鉄鉱石のあたりに集中してみて」

「分かった」


 言われた通りに魔鉄鉱石のあたりに集中する。


「違いが分かるかしら?」

「何と無く魔力の流れが所々違う気がするが……よく分からないな」


 そう言われても、いまいち違いが分からない。


「何と無くでも魔力の流れの違いに気付けているだけでも十分よ。魔鉄鉱石に一気に魔力を流して砕いてみて」

「分かった」


 言われた通りに魔鉄鉱石に一気に魔力を流す。

 すると、魔力を流した直後に鉱石がバラバラに砕けた。


「できたみたいね」

「ああ、おかげさまでな」


 とりあえず、これで第一段階は終了だ。


「次は魔鉄のみを集めて魔鉄の塊を作ってみて。インゴットの形じゃなくても良いわ」

「魔力をコントロールして集めていけば良いんだったよな?」

「そうよ」


 ルミナによると魔力を流すと成分ごとの違いが分かるらしい。

 そして、魔力をコントロールして成分ごとに分けていくと言うが……。


「目的の物質のみを集めると言っても、どれが魔鉄なんだ?」


 魔力をコントロールして分けていくとは言っても、そのためにはどれが魔鉄なのかを判別しなければならない。


「釜の中全体に魔力を流してみて。魔力の流れの違いで物質を判別できるわ。今回の場合は一番魔力の流れが良いものが目的である魔鉄よ」

「分かった」


 ひとまず、言われた通りに釜の中全体に魔力を流して、魔力の流れの違いを判別するためにその一点に集中する。

 すると、魔力の流れが良いものがあるのが分かった。

 恐らく、これが魔鉄なのだろう。


 そして、そのまま魔力をコントロールして何とか一つに集めようとする。


(意外と難しいな……)


 だが、これが中々うまく行かない。ルミナは簡単にやってのけていたが、これが意外と難しい。

 魔鉄だけを集めたいのだが、他の物質も混ざりそうになってしまう。

 なので、他の物質が混ざらないように慎重に錬成を進めていく。


「結構時間が掛かってるね」

「初めてだからこんなものよ。私は慣れているから」


 そして、しばらくしたところで何とか製錬が終わった。 


「ふう……終わったぞ」

「確認させてもらうわね」


 完成したところでルミナが釜に魔力を流して、その出来を確認する。


「バッチリね。不純物の混じっていない純粋な魔鉄ができてるわ」


 どうやら、製錬自体は無事にできていたようだ。


「時間は掛かったがな」


 製錬はできたものの、だいぶ時間が掛かってしまった。

 ルミナは十秒も掛からずに終わらせていたが、俺は数分も掛かってしまった。


「初めてなんだし、製錬が成功しただけでも上出来よ」

「そうなのか?」

「ええ。初めてだと不純物が混じって失敗することが多いわね」


 どうやら、お世辞で言っているわけでは無かったようだ。


「次はそれを変形させて短剣の柄を作ってみて。変形させるだけだからそんなに難しくは無いはずよ」

「分かった」


 そして、火ばさみで魔鉄を取り除いた後の鉱石を取り除こうとした。

 だが、ついそこで手が止まってしまう。


「どうかしたの?」


 シオンが俺の様子に気付いて話し掛けて来る。


「いや、魔鉄以外をそのままにしていたのでどうしようかと思ってな」


 鉱石を砕いて魔鉄を製錬したのは良いが、魔鉄以外の物はそのままだ。

 つまり、他の物はバラバラになったまま釜の底に沈んでいる。


「それなら一度製錬した魔鉄を取り出してから他の物を固めると良いわ」

「それが良さそうだな」


 確かに、それなら混じる心配をしなくて良いので楽そうだ。

 俺は提案通り火ばさみで一度魔鉄を取り除き、魔力を込めて残った物を一つに纏めた。


 先程とは違い分ける必要も無く、ただ固めるだけなので簡単にできた。


 そして、固めた鉱石を取り除いてから、一度取り出していた魔鉄を再び釜に入れた。


「これでやっと柄を作れるな」

「そうね。ぱぱっと作っちゃって」


 準備ができたところで、投入した魔鉄に魔力を流して変形させていく。

 変形させるだけで製錬よりも遥かに簡単だったので、三十秒も掛からずに錬成は終わった。


「少し形がいびつだな……」


 だが、できたは良いものの、少々いびつな形になってしまった。

 これだと使うのにも影響が出て来るだろう。

 ざっくりとした形に変形させることは簡単だが、精密に作るのは難しいのでうまく行かなかった。


「鍛造して形を整えれば良いだけだから問題無いわ。これが刀身を作る分の魔鉄よ」


 ここでルミナは空間魔法で取り出した魔鉄のインゴットを渡して来る。


「鉱石から製錬しなくて良いのか?」


 一応、練習なのでそこからやっておいた方が良いとは思うのだが、しなくても良いのだろうか。


「鉱石はまだまだあるから、時間があるときに練習すれば良いわ。あなたの方が終わったらシオンの方も見ないといけないしね」

「それもそうか」


 確かに、練習は時間のあるときにすれば良いだろうからな。今回はこのまま渡されたインゴットを使うことにした。


「さて、やるか」


 早速、受け取ったインゴットを釜に入れて錬成を始める。

 こちらも先程と同様に変形させるだけなので、大して時間は掛からなかった。


「できたみたいね」

「ああ。次は鍛造だな」

「じゃあ金床のあるところに行こっか」

「ああ」


 そして、鍛造をすべく金床のある場所へと向かった。


「それで、この魔法陣はどうすれば起動できるんだ?」


 金床には魔法陣が描かれているが、この魔法陣の起動方法はまだ聞いていない。


「この術式で起動できるわ」


 ルミナがそう言うと目の前の空中に術式を記した文字が出現した。


「分かった」


 早速、短剣の刀身を金床の上に置いて、その術式を使って魔法陣を起動する。

 すると、刀身が加熱されて赤熱し始めた。


「鍛造する物に魔力を込めながらそのハンマーで叩いて鍛造していくわ」

「分かった」


 言われた通りに赤熱した刀身に魔力を込めて、その状態を維持しながらハンマーを振り下ろす。

 魔力を込めた状態を維持しながら作業しなければならないので気が抜けない。魔力の維持を解かないように気を配りながらハンマーを振り下ろし、形を整えながら刃を鋭くしていく。


「そろそろ裏返して良いと思うわよ」

「分かった」


 ルミナの言う通りに火ばさみで裏返して、さらに鍛造を続ける。


「そろそろ良さそうね。仕上げに両面を数回叩いて終わりにしましょうか」

「ああ」


 そして、仕上げに両面を数回叩いてから水に入れて冷却して鍛造を終えた。


「何とかできたな」


 ルミナより少々時間は掛かったが無事に鍛造が終わった。

 火ばさみで完成した刀身を持ち上げて見て回して確認するが、とりあえず武器として十分に機能する程度の完成度には仕上がっているようだった。


「上出来じゃない。初めてとは思えない出来ね」


 完成した刀身を見たルミナが褒めるように言う。


「それじゃあ柄の方も鍛造して形を整えてね」


 そう言えば、柄の鍛造がまだ残っていたな。

 ルミナは錬成だけで形を整えられたのでそれ以上の加工は必要無かったが、俺の作った柄は形を整える必要がある。


「そう言えば、そうだったな。さっさと終わらせるか」


 短剣の柄を金床の上に置いて、先程と同じように鍛造を進める。

 変形させすぎて失敗しないように、ハンマーで軽く叩きながら少しずつ形を整えていく。


「こんなものか」


 形が整ったところで水に入れて冷却する。


「できたみたいね」

「ああ」

「後は柄と刀身を繋ぎ合わせるだけだね」

「そうだな」


 シオンの言う通り完成まであと一歩だ。

 そして、短剣を完成させるべく先程の釜のある場所まで戻った。


「次で完成だな」

「そうね。繋ぎ合わせるだけだから簡単にできるはずよ。ぱぱっと完成させちゃって」

「ああ」


 柄と刀身を釜の中に入れて魔力を流して二つを繋ぎ合わせる。

 ルミナの言う通りに繋ぎ合わせるだけなので簡単にできた。


「できたぞ」


 そして、完成した短剣を火ばさみで掴んで持ち上げた。


「おー! すごーい!」

「完璧じゃない。初めてでここまでできるとは思っていなかったわ」


 ルミナもそう言って称賛する。


「後は使いやすいようにグリップを付けると良いわ」

「ああ」

「さて、次はシオンね。やり方は分かってるわね?」


 ルミナはシオンに確認するようにそう聞きながら魔鉄鉱石を渡す。


「やり方は二回も見たしもうバッチリだよ」


 そして、やる気満々な様子で魔鉄鉱石を釜に入れて錬成を始めた。


「まずは魔力を一気に流して鉱石を砕けば良いんだよね?」

「ええ、そうよ」


 シオンは釜に手をかざして魔力を流す。

 すると、すぐに鉱石が砕けてバラバラになった。


「できたよ」

「そのまま魔鉄のみを集めてみて」

「うん!」


 そのまま集中した様子で魔力を流し続ける。


「一番魔力の流れが良いもの……一番魔力の流れが良いもの……」

「……大丈夫か?」


 少々時間が掛かっているようだが、これはもしかして……。


「……どれ?」


 思った通り、判別がついていないようだった。


「それは頑張ってくれとしか言いようがないな」

「えー……ルミナさん、何とかならない?」

「残念ながら何とかならないわね」

「むー……」


 これに関しては感覚的なところが大きいからな。こればかりは本人に頑張ってもらう他無い。


「もう少し頑張ってみたらどうだ?」

「分かったよ」


 そして、錬成を再開する。

 ……したのだが……。


「分かんない!」


 そう言って魔力を流すのをやめてしまった。

 結局、うまく判別できなかったようだ。


「今日はもうこのぐらいにしておく?」

「うん」


 どうやら、今日のところはもう諦めたようだ。


「シオンはさっき私が作ったものを使うと良いわ」


 そう言ってルミナは自分が作った短剣をシオンに渡す。


「ありがと」

「それで、グリップと鞘はどうすれば良い?」

「それも錬成魔法で作ると良いわ。これがグリップ用のゴムと鞘用の革よ」


 そう言ってゴムとなめし革と大きめのはさみを渡して来る。


「ゴムと革は作らなくて良いのか?」

「鉱石とはやり方が違うから今回は良いわ。錬成魔法で変形させて作ってね」

「分かった」

「それと、革はさっき渡したはさみで最適な大きさに切ってから使うと良いわ」

「分かったよ」


 そして、ゴムとなめし皮を加工してグリップと鞘を作った。

 それぞれ自分の分を作ったが、変形させるだけなのでシオンにも問題無く作ることができた。


「できたよー」

「二人ともできたみたいね。それで、この後はどうするの?」

「俺はこのままもう少し続ける。後何本かは作っておきたいからな」


 できれば三本ぐらいは作っておきたい。壊れてしまったときの予備は欲しいのと、一本だけだと投げナイフのようには使えないからな。


「シオンはどうする?」

「ボクはもう戻っておくよ」

「分かったわ。ここに素材は置いておくわね」


 そう言うと、魔鉄鉱石とゴムとなめし皮を取り出して、近くにあった机の上に置いた。


「製錬がきちんとできているかは確認するから、製錬した魔鉄は見せに来てね。私はこのままここで作業してるから」

「分かった」

「それじゃあボクは二階に戻っておくね」


 シオンはそれだけ言い残すと、階段を駆け上がって行った。


「さて、作業に入るとするか」


 そして、追加で短剣を作るべく作業へと入った。

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