episode14 冒険者

 しばらく歩くとちょうど昼頃に冒険者ギルドに着いた。

 中に入ると、昨日訪れたときとは違って空席は少なく、皆食事をしているようだった。


「昨日と違って割と人がいるね」

「昨日は夕方前だったからな。時間的に食事に来る者はいないだろうし」

「まあここは食事がメインの場所では無いけどね」

「それもそうか」


 ルミナの言う通り、ここは依頼を受けるための場所なので、食事がメインの場所では無いだろう。


 と、そんな話をしていると、受付嬢の一人がこちらへ歩いて来て話し掛けて来た。


「ルミナさんに皆さんも今日はどうしたのですか?」


 話し掛けて来たのはミーシャだった。

 昨日はエルナが受付をしていたのだが、その姿は見当たらない。

 どうやら、今日はミーシャが担当のようだ。


「ちょっと演習場を使わせてもらおうと思ってね。後ついでに昼食も」

「そうだったのですね。どちらを先にしますか?」

「昼食の方をお願い」

「分かりました。では、こちらへどうぞ」


 そして、ミーシャに空いている席に案内された。


「注文が決まったら呼んでくださいね」


 そう言うと、ミーシャは受付の方へと戻って行った。


「何でも好きなのを注文して良いわよ」

「良いのか?」

「ええ。好きなだけどうぞ」


 好きなだけと言われても、遠慮無く沢山注文したりするのは気が引ける。


(ここはやはり安い物を適当に……)


 と、そう思っていたところでシオンが口を開く。


「じゃあこれとこれと……あとこれも!」


 おい、待て。いくつ注文しているんだ。

 しかも、高い物ばかりを選んでいるのに加えてデザート付きだ。


「……シオン」

「何かな、エリュ?」

「お前は遠慮というものを知らないのか?」

「でも、ルミナさんは好きなだけ注文して良いって言ったよね?」

「そういうことではなくてだな……」


 俺は右手を頭に当てながらため息をつく。

 ここまでしてもらっているので、今更その程度のことは気にするまでも無いかもしれないが、流石にシオンは遠慮が無さすぎるだろう。

 今までのルミナの様子を見るに、本当に気にする必要は無さそうだが、やはりそのあたりは気にしてしまう。


「本当に気にしなくて良いのだけど」

「そうだな……ではこれで」


 俺は無難に適当な物を一つ選ぶ。


「ミィナとリーサは決まった?」

「あたしはこれとこれ」

「私はこれで」


 どうやら、全員の注文が決まったようだ。


「ミーシャ、良いかしら?」

「はーい。今行きまーす」


 ルミナに呼ばれると、ミーシャはすぐに注文を取りにやって来た。


「ご注文はお決まりですか?」

「ええ」


 そのままルミナが代表して全員の注文を伝える。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 そして、注文を取ったミーシャは厨房があると思われる扉の先へと消えて行った。


「ここは食事もできるのか」

「一応ね。飲食店ではないから豪勢な料理は無いけど、食事を摂るには十分よ」


 確かに、メニューを見ると比較的調理に手間の掛からない料理が多かったな。


「それにしても、依頼を受けるための場所ではあるが、こういうところもあるんだな」

「基本的には待ち合わせ場所だけど、一応食事もできるって感じね」

「待ち合わせ?」

「パーティメンバーと待ち合わせするときとか臨時パーティを組むときとかね」

「なるほどな」


 と、納得したような返答をしてしまったが、そう言えば冒険者というものを詳しくは知らないな。

 出掛ける前に聞いたときは職員に聞いた方が良いと言われたが、待ち時間の間は暇なので、この間に聞いてみるのが良さそうだ。


「ルミナさん、冒険者はというのはどんな感じのものなんだ?」

「そうね……ちょうど暇だしその話をしましょうかね」

「ああ。頼む」


 そして、ルミナは冒険者についての説明を始めた。


「冒険者は冒険者ギルドに届いた依頼をこなすのが仕事で、その報酬で生計を立てているわ」

「らしいな。魔物討伐をすることが多いと聞いたが」

「そうね。確かに、魔物討伐がメインになることが多いわね」


 やはり、聞いていた通り魔物討伐がメインになるようだ。


「そう言えば、パーティとはどんな感じのものなんだ?」


 大体どんなものなのかは想像できるが、一応これも聞いてみる。


「一緒に依頼をこなす人の集まりって感じね。魔物討伐を一人で行うのは危険だから基本的には複数人で行うわ。大体四、五人ぐらいのことが多いわね」

「そうか」


 どうやら、おおよそ想像通りのもののようだ。


「基本的にパーティは特定のメンバーと組むわ。ちなみに、臨時パーティというのはその依頼をこなすために臨時に組んだパーティのことよ。少人数で活動している人や難易度の高い依頼をこなすときに組むわね」

「なるほどな」


 基本的にはメンバーは固定だが、メンバーが足りない場合には臨時にパーティを組むといった感じか。


「ルミナさんもパーティを組んでいたのか?」

「ええ。エルナと二人でパーティを組んでいたわ」

「そうなのか。意外だな」


 と言うことは、エルナも元冒険者ということか。


「そう言えば、細身の剣を持っていたが……」

「ええ。冒険者だったときに使っていたものよ」


 俺が言い切る前にルミナが質問に答える。


「二人と言うことは臨時パーティを組むことが多かったのか?」

「いえ。二人だけで依頼をこなしていたわ」


 どうやら、二人だけで活動していたらしい。


「二人だけで大丈夫だったのか?」


 普通は四、五人ぐらいでパーティを組むらしいが、そんな少人数で大丈夫なのだろうか。

 魔物討伐となれば危険な仕事のはずなのだが。


「ええ。こう見えてもそれなりに戦えるから」

「そうなのか」

「それなりどころか、かなりの実力者だったそうですよ」


 そう言ったのは料理を持ったミーシャだった。

 どうやら、注文した料理が出来上がったらしい。

 他の職員も一緒に料理を持って来ている。


「確か、パーティ名は『月夜の双璧ルナティアレゾナンス』でしたっけ。私は当時ギルド職員ではなかったので、詳しいことは知らないのですが」

「ふふっ、知りたければ話してあげましょうか?」

「時間のあるときに是非お願いします! あ、これご注文の品です」


 そして、テーブルの上に料理が並べられた。

 だが、何故か料理は一人分多く、全部で六人分あった。


「あら、一人分多いわね」

「折角なので私も一緒にと思ったのですが、ダメでしたか?」

「もちろん構わないけど、仕事の方は大丈夫?」

「ちょうどお昼休みなので大丈夫ですよ」


 そう言うと、ミーシャは空いていた席に座った。

 昨日は一緒に買い物をしていたようだが、やはりだいぶ仲が良いらしい。


「それじゃあいただきましょうか」


 そして、ルミナのその一声と共に全員で食事を始めた。


「ミーシャももうすっかり仕事に慣れたみたいね」

「これでも働き始めて三年以上になりますからね。えへへ」


 ミーシャが少し照れながら答える。


「最初の頃とは大違いだよねー」

「そうね。最初に会ったときなんて、何も無いところで躓いて飲み物を掛けて来たしね」

「もう……そのことは忘れてください!」


 ミーシャはそのことが気に障ったらしく、尻尾を立てながら声を上げた。


「リーサ!」


 続いてミィナも声を上げる。リーサは相変わらず少々口が悪いな。


「あのときのことはもう良いじゃない。私が氷魔法で防いで事なきを得たのだから」


 どうやら、それはルミナが防いで事なきを得たらしい。

 氷魔法ということは、飲み物を凍らせるか氷で壁か何かを作って防いだのだろう。


「……飲み物と一緒に私は体を半分ぐらい凍らされましたけどね」


 それは事なきを得たと言えるのだろうか……。


「あのときは咄嗟とっさだったから調節がきかなかったのよ。ごめんね」

「いえ、元はと言えば、私が飲み物をこぼしそうになったのが悪いので……」


 ミーシャは気落ち気味にそう言うと、尻尾と耳がしょぼんと垂れ下がった。

 何と言うか、相変わらず心情が分かりやすいな。


「ほら、ミーシャが落ち込んじゃったじゃない! リーサ、謝って!」

「別に私は一言事実を言っただけよ。ミーシャが勝手に落ち込んだだけじゃない」


 リーサは反省していないようで、ミィナに対して目線を外しながら答えた。


「リーサ、口には気を付けないと、ただでさえ少ない友人がいなくなるわよ?」


 続けてルミナが諭すように言う。


「む……大丈夫よ……多分」


 そう言いながら、リーサはミーシャとミィナの方を見る。


「…………」


 ミーシャはリーサの方を横目で見つつも無言だ。


「ふん……」


 ミィナは目線が合ったところで小声でそう言って外方そっぽを向いた。どうやら、怒っているようだ。


「えっと……」

「「…………」」


 リーサが二人の様子を確認するが、二人は無言のままだ。


「……悪かったわね」


 そして、少し目線を外しながら擦れるような小さな声で言った。


「口には気を付けてよね」

「別に怒ってはいませんので大丈夫ですよ」


 どうやら、無事に仲直りはできたようだ。


「できれば、もう少し口の悪さは直して欲しいけどね」


 ミィナはそう一言付け足す。確かに、少しぐらいは直して欲しいところだ。


「とりあえず、丸く収まったみたいね」

「そのようだな」


 どうやら、無事にこの話は収まったようだ。


「そう言えば、今日は演習場を利用するそうですが、何をするのですか?」


 話題は変わって、この後の話になる。

 今は昼食を摂っているが、それはあくまでついでだ。

 何をするかまでは聞いていないが、メインの目的は演習場だ。


「ちょっとこの二人に魔法を教えてあげようと思ってね」


 どうやら、演習場に行くのは魔法を教えるためだったようだ。

 魔法のことはできるだけ早く知っておきたかったので、早速教えてくれるというのはありがたい。


「そう言えば、演習場はどこなんだ?」


 冒険者ギルドに演習場があることは分かったが、その場所までは聞いていない。


「裏手側にありますよ。こちらから見てカウンターの左側の扉の先です」


 ミーシャが職員らしく丁寧に説明する。


「それじゃあ早く食事を終えて行きましょうか」

「ああ」


 そして、早々に食事を終えて演習場へと向かった。

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