episode13 買い物

 ほどなくして三人の準備が終わって、全員の準備が整ったところで店を出発した。

 今は街の中心方向に向かって進んでいるところだ。

 昨日同様、雲一つない快晴で陽光が眩しい。


「今日はいつもより賑やかだね」


 ミィナが機嫌良く歩きながらそんなことを言う。


「ミーシャとエルナさんと一緒に出掛けることもあるし、そんなに変わらないでしょ」

「もう……リーサの意地悪ー!」


 この二人は仲が良いのか悪いのかよく分からないな。


「ところで、店の方は大丈夫なのか?」


 全員で出掛けているので、店の方は無人だが大丈夫なのだろうか。


「店は二、三日に一回ぐらいしか開けていないわ。今日は休みよ」


 どうやら、店は数日に一回しか開けていないらしい。

 まあ三人で毎日店を開けるのは難しいだろうからな。

 営業日が空いてしまうのも仕方が無いだろう。


「何か欲しい物はある?」

「とりあえず、替えの服は欲しいな」


 まず、最低限の物として替えの服は欲しい。

 と言うか、最低限それさえあれば大丈夫そうだ。


「そう言えば、必要な物を聞く前に歩き始めたが大丈夫だったのか?」


 店を出た後は目的地も決めずに歩き始めたが大丈夫だったのだろうか。

 引き返すことになると面倒なのだが……。


「門付近の店は街の出入りが多い冒険者向けの店ばかりよ。生活用品なんかが売っている店は街の中心付近のエリアにあるわ」

「なるほどな」


 どうやら、その心配は不要だったようだ。

 まあ一般人は街の外には用が無いので、門の付近には行かないだろうからな。

 言われてみれば、門の付近の店は冒険者向けの店ばかりだったし、一般人向けの店がアクセスしやすい中心付近にあるのも当然か。


「じゃあまずは服屋さんだね。早く行こ!」


 ミィナはそう言って勢い良く駆け出す。


「あ、待ってよ!」


 シオンもそれに続く。


「全く……ミィナははしゃぎ過ぎよ」

「若い子は元気で良いわね。私達も急ぎましょうか」

「そうだな」


 そして、二人に続くように駆け足で目的地へと向かった。






「ふぅ……着いたね」


 ミィナが膝に手を付いて、軽く息を切らしながら言う。


「何で一番に駆けて行った本人が一番疲れているのよ」


 リーサの言う通りに先陣を切ったミィナが一番疲れていた。

 と言うより、息を切らしているのはミィナだけだった。


「元気なのは良いけど、まだ若いんだからもう少し頑張りなさい」


 そう言っているルミナは疲れた様子は一切無く、かなり余裕そうだ。


「あたしは冒険者だった二人とは違うんだから」

「私は冒険者としては一年も活動していないのだけど。ミィナの体力が無さすぎるだけよ」


 リーサはそう言うが、ここまで走ってきてみた感じからすると、ミィナの体力が無いというわけではなさそうだった。

 それよりも、今気になることを言っていた。


「リーサとルミナさんは冒険者だったのか?」

「一応ね」

「ええ、そうよ」


 どうやら、二人は元冒険者だったようだ。

 冒険者は街の外に出て魔物の討伐をするので、それなりに体力は付けていたのだろう。


「それにしても、エリュさんとシオンさんは余裕そうだね。特にエリュさん」

「……何故、俺を強調したんだ」

「エリュさんは何と無くインドア派みたいな感じがするし」

「そうね」

「確かにね」

「だね」

「おい」


 何で満場一致なんだ。それもシオンも含めて。


「こう見えても、そこそこ鍛えてはいたのだが」

「そうなんだ」


 転生に際して身体を作り直したのでそんなことは関係無いと思うかもしれないが、マキナは転生直前の身体能力を基準に身体を創ったようなので、無関係というわけではない。

 そのおかげでこの世界に来てからも何の違和感もなく活動できている。


「それと、少し話は変わるが俺達のことは呼び捨てで呼んでくれ」


 敬称付けで呼ばれるのは呼ばれ慣れていないせいなのか、何だかしっくりと来ない。

 歳もさほど離れていないので、尚更そう感じる。


「良いの? 多分あたしの方が年下だと思うけど。と言うか、そう言えば聞いてなかったけど、二人は何歳なの?」


 言われてみれば、年齢については全く触れていなかったな。


「十八だ。敬称付けで呼ばれるのは慣れていないし、呼び捨てで呼んでくれ」


 実際はもう十歳ぐらいは上だが、この身体はそのぐらいの年齢だと思われるのでそういうことにしておく。

 とは言え、普通の生活を送っていたわけではないので案外精神的にもそのぐらいだったりするが。


「じゃあそうさせてもらうね、エリュ、シオン」

「ああ」

「うん」


 やはり、こちらの方がしっくりと来るな。


「ところで、三人は何歳なんだ?」

「あら女性に年齢を聞くのは失礼ではなくて?」


 この際なのでついでに聞いておこうと思ったのだが、ルミナにそんなことを言われてしまった。

 別にそういうつもりで聞いたわけではなかったのだが……。


 確かに、ルミナに聞くのはそうかもしれないが、他の二人はどう見ても十代だし、別に良いと思うのだが。


「俺が聞きたかったのはミィナとリーサの方なのだが?」

「でも、三人はって言ったわよね? 私の年齢もついでに聞こうとしていたわよね?」

「そこまで考えが及ばなかったというか……」

「全く……デリカシーが無いんだから」


 そう言われると返す言葉も無い。


「まあ良いわ。ミィナ、リーサ、良いかしら?」

「うん、良いよ。あたしは十五、リーサは十八だよ」


 そして、ミィナがあっさりと二人の年齢を答える。

 やはり、二人は見た目通りの年齢だったようだ。


「ちょっと! 勝手に人の年齢を言わないでよ!」


 だが、ここでリーサがミィナに対して不満を露わにしながら声を上げた。


「でも、ちゃんと言うつもりだったんでしょ?」

「それはそうだけど、自分で言うのと人に言われるのでは違うのよ」


 リーサはそう言いながらミィナの頭を掴んで締め上げる。


「あ、ちょっと待っ……痛い! 痛いから! 分かったからー!」


 そして、そう言われたところで、リーサは手を離した。


「仲が良いんだな」

「ふふっ、そうね。さて、話はこのぐらいにして、そろそろ目的である買い物をしましょうか」

「そうだな」


 少々話し込んでしまったが、もうそろそろ良いだろう。

 ここに来た本来の目的である買い物へと移ることにした。


「そうだね。シオン、行こう!」


 ミィナは先程頭を締め上げられていたことなどまるで無かったかのように、元気な声を上げる。


「うん!」


 そう言うと、シオンはミィナと一緒に店の中に入って行った。


「全く……元気だけは有り余ってるんだから」

「元気なことは良いことでしょう? リーサだってまだ若いのだから、あれぐらい元気があっても良いのに」

「私は別に」

「まあ良いわ。リーサはシオンの方に付いてくれるかしら? 私はエリュの方に付くわ」

「分かったわ」


 そう答えると、リーサは先に店の中に入った二人を追い掛けて行った。


「別に俺は一人でも良いのだが」

「まあそう硬いことは言わずに行きましょう」


 そして、ルミナに連れられるまま店の中へと入った。






「シオンの方は……まだのようだな」


 現在、俺は買い物が終わって、店の前のベンチにルミナと共に腰掛けている。

 シオン達の方はまだ買い物中らしく、まだ戻って来ていない。


「女の子は時間が掛かるものなのよ。のんびりと待ちましょう」


 確かに、そんな印象はあるが、やはり実際時間が掛かるらしい。


「ところで、他に必要な物はある?」

「そうだな……」


 今のところは替えの服さえあれば問題無さそうだが……。


「街の外に行くときのために武器は欲しいところだな」


 この世界には魔物が存在しているからな。

 街の中は壁で囲まれていて安全なようだが、街の外に出る機会が無いとは言えないので、そのときに備えて武器は欲しい。


「武器なら私が作るわよ。他に何かある?」


 そう言えば、武器は錬成魔法で作れるのか。

 であれば、わざわざ買う必要は無さそうだな。


「他にか……特に思い付かないな」

「そう。必要な物ができたら言ってね」

「ああ。そうさせてもらう」


 最低限必要な物は揃ったので、必要な物ができたときにまた言うことにする。


「何か聞きたいことは無い? この街に来たばかりだから、知らないことも多いでしょう? 私に答えられることなら答えるわよ」

「そうだな……」


 聞きたいことと言われればいくらでもあるが、ここはやはり優先度の高いことを聞くのが良いだろう。


「何か良い感じの仕事は無いか? とりあえず、収入源が欲しい」


 ひとまず、これは最優先事項だ。

 今はルミナに面倒を見てもらっているが、いつまでもそういうわけにはいかないからな。

 この街に詳しい彼女なら何か良い仕事を知っているかもしれないので、そのことを聞いてみることにする。


「戦闘に自信があるのなら冒険者になるのが手っ取り早いけど、魔法をまだ使えないとなるとね……」


 そう言ってルミナは少し黙り込む。

 やはり、魔法が使えないと厳しいのだろうか。


 と、俺がそんなことを思っていると、少し考えた後にルミナは口を開いた。


「そうね……私の店で働いてみるというのはどうかしら?」

「だが、俺は錬成魔法は使えないぞ?」


 ルミナの店は魔法道具店だからな。錬成魔法が使えることは必須条件だろう。


「初めから何でもできる人なんていないわ。これから使えるようになれば良いのよ」

「まあそれもそうか」

「どうするのかはあなたの自由よ。シオンと相談して決めると良いわ」

「ああ。そうさせてもらう」


 ついでに魔法についてのことも学べそうなので、前向きに検討したいところだ。


「……む?」


 と、そんな会話をしていたところで、シオン達が店から出て来た。


「終わったようだな」

「ええ。待たせたわね」

「お待たせしました。ルミナさん、これ」


 そう言ってミィナは持っていた荷物をルミナに渡す。


「ええ。預かっておくわ」


 ルミナがそう言うと荷物の下に魔法陣が出現して、一瞬にしてそれらの荷物は掻き消えた。

 改めて見ても、空間魔法は便利だな。


「本当にその魔法は便利だな」

「そうでしょう? 適性が低くてもこの魔法だけは覚えておきたいわね」


 確かに、これだけ便利なのであれば適性を度外視してでも覚えておきたいところだ。


「そう言えば、魔法は適性が低くても問題無く使えるのか?」


 俺達はどの魔法にも適性があるのであまり関係の無い話かもしれないが、知識としては知っておきたいので少し聞いてみる。


「極端なほど低くない限りは使えるわよ。もちろん、適性のある人と比べると色々と効率は悪くなるけど」

「なるほどな」


 どうやら、問題無く使うことができるようだ。


「それで、この後はどうします?」


 話題は変わって、この後のことになる。


「そうね……昼食には早いし中途半端な時間ね」


 ルミナの言う通り、何をするにしても少々中途半端な時間だ。


「帰って昼食にするのが良さそうだな」


 今からだと、帰ればちょうど正午ぐらいになる。

 なので、ここは帰って昼食にするというのが最善だろう。


「そうするのがちょうど良さそうだけど、ちょっと冒険者ギルドに行きましょうか」

「何か用があるのか?」


 ルミナは元冒険者らしいが、そのあたりで何か用があるのだろうか。


「ちょっとね。じゃあ行きましょうか」


 そう言ってルミナは詳しいことを言わずに歩き始める。


「あ、待ってよー!」


 すぐにその後をミィナが追い掛ける。


「俺達も行くか」

「だね」

「そうね」


 そして、俺達も二人の後を追って冒険者ギルドへと向かった。

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