episode6 冒険者ギルド

 門を抜けると、そこには石造りの街並みが広がっていた。

 道には街灯もあり、しっかりと整備されている。

 流石はこの国の首都といったところか。


「中世の街並みって感じだねー」

「そうだな。想像以上だ」

「大きな建物もあるね」


 見ると、右手側には大きな建物があった。

 見たところ、三つの建物が繋がっているように見える。


 地図を開いて確認してみると、そこには冒険者ギルドと書かれていた。

 どうやら、これが聞いていた冒険者ギルドというものらしい。


「これが聞いていた冒険者ギルドか。随分と大きい建物だな」

「だねー。でも、一つの建物というより三つの建物が一つになってる見えるけど」

「多分それぞれ別々の建物だが中で直通になっているのではないか? ここからだと分かりにくいな。正面まで行ってみるか」

「そうだね」


 ひとまず、建物の正面まで移動して、建物を確認してみることにした。

 俺達はそのまま建物の正面にまで移動する。


 まず、真ん中の建物はメインとなる本部だと思われた。

 左の建物は等間隔で窓があり、それぞれ個別の部屋になっているようだった。

 推測にはなるが、恐らくこれは宿泊施設だろう。

 そして、右の建物は倉庫のように見える。


「右の倉庫らしき建物は魔物素材の保管用といったところか」

「解体もしてるって言ってたし、解体所も兼ねてるのかもね」


 確かに、そんなことも言っていたな。

 倉庫兼解体所であれば、魔物を解体してそのまま保管できるので合理的だ。


「それで、これからどうする?」

「そうだな……とりあえず、街を見て回るか」

「だね」


 何かするにしても、まずは街のことは知っておきたい。

 最低でも主要な施設のことぐらいは把握しておきたいところだ。


 そして、そんなことを考えながら出発しようとしたそのとき、建物の中から誰かが出て来た。


 別に人が出入りすること自体はごく普通なことなので、通常なら特に気に留めることも無いだろう。

 しかし、その容姿がそうはさせなかった。


 建物の中から出て来たのは一人の女性だった。

 パンツスーツのきちんとした制服を着ているので、恐らく冒険者ギルドの職員だろう。

 十八歳前後と思われる女性で、黄色い髪色のセミロングヘアに琥珀色の瞳をしている。


 だが、気になったのはそんなことではない。

 気になったのは頭の上には狐のような耳が付いていて、さらに背中側の腰の少し下あたりには尻尾が付いていたことだ。


 と、ここで彼女は凝視されているのに気付いたらしく、こちらに声を掛けて来た。


「あのー……私に何かご用でしょうか?」


 その女性はそう言いながらこちらに近付いて来る。


「特に何かというわけではないのだが……」


 そう言いつつもう一度耳や尻尾をよく見てみるが、やはり尻尾や耳は装飾品などではなく、身体に直接付いているようだった。


「もしかして、獣人ビーストを見るのは初めてですか?」


 俺が耳や尻尾に目線を向けていたことに気付いたらしく、俺に対してそんな質問をして来た。


「ああ」


 どうやら、彼女のような者は獣人ビーストと言うらしい。


「と言うことは、ちょうど今街に来たところですか?」

「まあそういうことだ」


 その質問から察するに、この街では獣人ビーストは珍しいものではないようだ。


「ところで、何か用事があって外に出て来たのではないのか?」

「ええ。ちょっと話を聞きたい方がいて探しに出て来たのです。黒髪でダークブラウンの瞳の人物なのですが……」


 と、そこまで言ったところで言葉が途切れ、俺達のことを見つめて来た。


「っていたー!?」


 ここで女性は耳と尻尾をぴんと立てながら声を上げた。

 どうやら、探していた人物というのは俺達のことだったらしい。


「ええと……俺達に何か用か?」

「はい。昨日森に依頼を受けに行った冒険者が帰って来なかったのですが、そのことで話を聞きたくて」


 森の入り口付近で亡くなっていた冒険者について話を聞きたいらしい。


「なるほどな。分かった」

「立ち話も何ですので、中にどうぞ」


 そして、そのまま建物の中に案内された。


 両開きの大きめの扉を開けて中に入ると、そこは酒場のような場所だった。

 ただ、席は空席が目立ちあまり人は多くない。


 正面にはカウンターがあり、受付嬢と思われる女性が立っている。

 入り口のすぐ左手には扉があり、宿泊施設と直通になっていた。

 そして、左側の壁には掲示板がありたくさんの紙が貼られていた。

 恐らく、依頼内容が書かれた紙だろう。

 また、右側には倉庫と直通の扉があり、魔物の買い取りをした後直接ギルドに来られるようになっている。


 と、ギルド内の様子を見ていたところで先程の女性が口を開く。


「話の方は奥でお聞きしますのでこちらへどうぞ」


 職員の女性はそう言って俺達のことをカウンターの裏側にある、奥へと続く扉へと案内する。


 だが、扉の前まで来たところで、受付嬢の一人がこちらを向いて口を開いた。


「もう見付かったのですか?」


 話し掛けて来たのは銀髪のショートヘアに緑色の瞳をした受付嬢で、歳は三十代ぐらいだろうか。

 ただ、常に鋭い目つきであまり愛想が良くなさそうな印象だ。

 そして、他の受付嬢とは違い何故か武器を身に着けている。美しい銀色の細身の剣だ。


「探しに行こうとしたらちょうどギルドの前にいたので」

「そうですか」


 そう言うと、彼女は正面を向いて受付業務に戻った。

 見た目通りと言っては悪いが、やはり愛想は良くなさそうだ。


 それにしても、何故武器を持っているのだろうか。

 そう思うものの、考えたところで答えは出て来そうにない。


「ではお二人ともこちらへどうぞ」


 そして、獣人ビーストの職員に案内されるままにギルドの奥へと向かった。






 扉を抜けると、そこは事務室だった。

 ここでは五、六人の職員が事務作業をしている。


「こちらへどうぞ」


 俺達は部屋の隅にある仕切りで区切られた一画に案内された。

 そこは机に椅子、観葉植物が置かれているだけの場所だった。

 恐らく、軽く話を聞くための場所だろう。


「そう言えば、お二人のことを聞いていませんでしたね。私はミーシャ。冒険者ギルド職員のミーシャ・アルノアです。お二人は?」

「俺はエリュ。エリュ・イリオスだ」

「ボクはシオンだよ」

「それで、詳細の方をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 軽く自己紹介をしたところで本題に入る。


「ああ」


 そして、俺は森の入り口付近で見たことを話した。


「なるほど。分かりました」


 心しか、彼女は少し暗い顔をしているように見える。


「……こういうことは割とあるのか?」

「危険な仕事ではあるので、時折こういうことはありますね」


 そう言うと、ミーシャの獣の耳がしょぼんと垂れ下がった。

 何と言うか、すごく分かりやすいな。


「ところで、その魔物の方は大丈夫なのか? まだ、あの森に潜んでいそうだが」

「討伐依頼は出されたので、すぐに討伐されると思います。一応駆け出し冒険者さんには討伐されるまでは近付かないよう忠告はしています」


 どうやら、既に対応はしているようだ。


「それにしても依頼が出されるのが随分早いな」

「レッサーワイバーンの出没はよくあることなので」


 そう言えば、この国には多く生息していると言っていたな。


「この辺りには生息していないらしいが、生息域を出て来ることはよくあるということか?」

「そうですね。飛べる魔物は活動範囲が広く、生息域を出ることもよくありますね。Eランク以下の冒険者がレッサーワイバーンの被害に遭うケースは多いです」


 レッサーワイバーンはDランク五人前後のパーティを推奨されていたな。

 となると、Eランク以下だと対応するのは難しいだろう。


「なるほどな。活動範囲の広い魔物には気を付けた方が良さそうだな」

「そうですね。魔物に関しての情報が欲しい場合はギルドの資料室をご利用ください。……と言いたいところなのですが、ギルドの資料室は冒険者にしか利用できないんです。すいません」

「む、そうか」


 魔物に関しての情報は欲しいところだが、利用できないのであれば仕方無い。


「それとですが、今身に着けている物は、もしかして彼らの遺品ですか?」

「ああ、そうだが?」

「遺品を回収していてくれたのですね! 助かります! では、こちらで引き取りますね」

「「えっ!?」」


 その言葉にここまで喋っていなかったシオンも一緒に声を上げる。


「……? どうしました?」


 そう言いながらミーシャは首を傾げている。


 言われてみれば当然のことだ。遺品とは言え、勝手に自分の物にするのは猫糞ねこばば以外の何物でもないからな。

 とは言え、回収されると無一文になるのでそれは困る。


 だが、選択肢は一つしかなさそうだった。


「いや、何でもない。気にしないでくれ」


 俺はそう言いながら冒険者の遺品を全て渡す。


「ありがとうございます。お二人が親切な方で助かりました」


 ミーシャは獣の耳をぴんと立てて、可愛らしい純粋な笑顔をこちらに向けて来る。


((猫糞ねこばばしようとしていたなんて口が裂けても言えない……))


「ご協力ありがとうございました。それでは気を付けてお帰りください……って街に来たばかりでしたね。ええっと……ワイバスの街を楽しんで行ってくださいね」

「ああ」


 そして、用が済んだところで、俺達は冒険者ギルドを後にした。

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