episode5 街の門にて

 門の前まで来たところで、俺達は商人と別れた。

 別れたところで目の前に広がる壁を見上げる。


「改めて近くで見てみると……」

「かなりの大きさだね」


 高さは二十メートルほどだろうか。長さはここからだとどこまで続いているかは確認できない。

 また、門は壁のちょうど半分ほどの高さで十メートルほどある。

 そして、門の前には鎧を着こんだ兵士らしき人物が二人いた。

 今は先程の商人と話をしているようだ。


「流石は国内一の人口、面積を誇るだけあるな」

「だねー。街全体を取り囲んでるって言ってたっけ」

「らしいな。よくこんなの作ったよな」


 これだけの大きさの壁を作ることは容易ではない。

 やはり、魔法を使って作ったのだろうか。


「さっきの商人さん、街に入っていくみたいだよ」


 と、そうこうしている内に話が終ったらしく、先程の商人が街の中に入って行った。


「話は終わったみたいだな。行くか」

「うん」


 俺達の順番が回って来たところで、門に向かって歩みを進める。

 すると、門の前にいた兵士に呼び止められた。


「身分証となるものはあるか?」


 身分証となる物は当然持っていない。

 誤魔化しても仕方無いのでここは正直に答える。


「いや、無い」

「そうか。どこから来たんだ?」


(どこから、か)


 先程の商人には村から来たとは言ったが、その際に詳細なことは聞かれなかった。

 だが、こちらでは詳細なことを聞かれる可能性が高い。村の名前ぐらいは聞かれるだろう。


 しかし、こちらはそれすら答えることができない。

 かと言って、異世界から来ましたと言うわけにもいかない。


「近くの村から来た」

「そうか。では、こちらへ」


 兵士はそう言うと、詰所のような場所へ案内しようとして来る。

 特別怪しい行動は取っていないので別に捕まるわけではないだろう。

 言われるがまま詰所のような場所へと向かう。


「こっちだ」


 そう言われて案内された部屋は机と椅子だけが置かれた部屋だった。

 何と言うか、いかにも取調室といった感じの部屋だ。


「少し待っていてくれ」


 そして、そう言い残して兵士はどこかへ向かった。

 俺とシオンの二人だけが部屋に残される。


「……とりあえず、座るか」

「だね」


 このまま突っ立っていても仕方無いので、とりあえず椅子に座る。


「ねえエリュ、大丈夫かな……」

「だと良いのだが」


 特別怪しい行動は取っていないはずなので、捕まる理由は思い浮かばない。

 恐らく、ここに連れて来たのは詳しく話を聞くためだろう。


 だが、俺達から詳細に話せることなど無い。

 話をすれば、村から来たということが嘘だということはすぐにバレるだろう。

 そうなれば、不審な人物として拘束される可能性が高い。


 と、そんなことを考えていると先程の兵士が戻って来た。


「待たせたな」


 そう言って戻って来た兵士は何かを持っていた。

 確認すると、それは水晶球のような物で、その台座は何かの装置のようにも見える。


「今から魔力紋を採る」

「魔力紋?」

「ああ。一人一人魔力特性は違うからな。それで個人を特定できる。とりあえず、これで仮の身分証となるものを発行するので、この水晶球に手をかざしてくれ」


 首を傾げていると、兵士がそのことについて答えてくれた。


「分かった」


 とりあえず、言われるがままに水晶球に手をかざしてみる。

 すると、体の中を何かが流れるかのような感覚がした。

 恐らく、魔力紋とやらを採っているのだろう。


 そして、少しするとその感覚は無くなった。


「もう離して良いぞ」


 そう言われたところで、その装置から手を離す。


「そう言えば、聞いていなかったな。二人とも名前は?」

「俺はエリュ」

「ボクはシオンだよー」

「エリュさんにシオンさんだな。では、シオンさんも魔力紋の測定の方を」

「うん」


 今度はシオンが装置に手をかざす。

 そして、少しすると装置から手を離した。

 どうやら、計測が終わったらしい。


 だが、何故か兵士は測定結果が記載されていると思われる紙を見て、首を傾げていた。


「悪いんだが、もう一度測定してくれるか?」


 測定がうまくいかなかったのか、もう一度測定するよう言われる。

 ひとまず、言われた通りにもう一度測定を行う。


 そして、ちょうど二度目の測定が終わったところで、一人の兵士が部屋に入って来た。


「どうした? まだ終わってないのか?」

「再測定をしていてな。ちょっとこの二人の測定結果を見てくれるか?」


 そう言って部屋に入って来た兵士に紙を渡す。


「魔力紋が全く同じ?」

「そうなんです」


 どうやら、測定結果が全く同じだったらしい。

 この様子からすると別人の魔力紋が一致するということは無いようだ。

 兵士は紙に一通り目を通すと紙から目線を外し、俺とシオンを交互に見て来る。


 そして、少し何かを考えた後、口を開いた。


「もしかして双子か?」


 そう言うと、もう一人の兵士もこちらを見て来た。


「確かに、髪の色も瞳の色も同じだし二人ともどことなく似ているな。だが、それがどうかしたのか?」

「双子だと極々稀にだが同じ魔力紋になることがあるらしい。本当に稀なことらしいし、俺も初めて見たが」


 やはり、思った通り別人の魔力紋が一致するということは普通は無いらしい。


「一応聞くが、お前たちは双子か?」


 そして、兵士は双子かどうかを尋ねて来た。

 双子というわけではないが、まあこうなれば答えは一つだ。


「そうだ」

「ふむ、分かった。……そう言えば聞き忘れていたが、名前をフルネームで言ってくれるか?」


 フルネームか。そう言えば、そのことは考えていなかったな。

 まあ適当に名乗ったので問題無いだろう。


「エリュ・イリオスだ」

「シオン・イリオスだよー」


 シオンも俺に合わせて答える。


「分かった。……これを」


 そう言うと、兵士はこちらへ二枚のカードを渡して来た。

 確認してみると、カードにはそれぞれの名前が書かれていた。


「それが身分証となる物だ。仮の物なのでこの街でしか使えない。再発行には手数料が掛かるから失くすなよ」

「分かった」

「それとあと一つ、これを持っていくと良い」


 兵士はそう言って一枚の折り畳まれた紙を渡して来る。


「これは?」

「この街の地図だ。この街は初めてだろう」


 この街のことはあまり分かっていないので、街の地図は助かる。

 とりあえず、迷子にはならずに済みそうだ。


「ありがとー」

「世話になったな。それではそろそろ行かせてもらう」


 そして、仮の身分証の発行が終わったところで、街に足を踏み入れた。

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