#after


 路面電車が現れるかをひたすら待っている。路線を挟んだ向こうがに、色んな形や色をした仮面をつけた人々が立っているに、誰も話すこともなく静まり返っている。


 時を刻んでいく。息を飲んだ。眩い輝く光と共に、お菓子箱のような路面電車がハロンズ駅のホームに出現した。先頭には、カボチャのジャック・オ・ランタンが笑っている。煌びやかに輝きを放って、ルナは心が引かれていく。シュシュと汽笛ような音を響かせ、動き出した。

 目の前に来た路面電車が、甘そうに見えてくる。どこからお菓子を出しているかは分からないくらいに、あらゆる方向から飛び出してくる。甘い香りを漂わせながら、お菓子はルナの元に向かって飛んでくる。路面電車と規制線の間に落ちることもなく。ゆっくりと規制線を通過して、チョコレート・クッキー・マシュマロなどのお菓子たちが、ルナの元に撒い降りる。夢中でカゴにお菓子を詰め込んでいた。

 路面電車が動くと共に、ルナたちも移動していく。誰の声も聞こえてこないし、誰ともぶつかることもないので、お菓子をカゴに入れることに、ルナは夢中になってしまっていた。

どのくらいの時間が過ぎたのかさえ分からないが、次の駅であるウィンズ駅のホームに、路面電車は入って行く。出発した時と同じように、汽笛のような音を響かせてホームぴったりに停まった。そして、光と共に路面電車は消えていく。

呆気に取られていると、周囲は人だらけだった。

「ルナ、向こうに歩こう」

ミルの声が聞こえてきて、現実に引き戻された。周囲は確認すると、その場を段々と移動し始めていた。その流れに乗って、出発地点のハロンズ駅に方向に歩き出す。前を歩いてる人にぶつかってしまった。すみませんと謝るも、これだけの人が周りにいたことに、全く気づかなかった。

「やっぱり、去年もそうだったけど、こんなに人が居ったっけってなるよね」

なんで、お菓子を受け取っているときには、本当に誰ともぶつかることもなかったのだろうか。不思議な時間を過ごせた気がする。

段々と混み合いが減り始めていく。

「あの時間は、線路内は歩けないんだけど、今は線路内を歩く人が増えてきたね」

ミルが、路面電車が走行していた線路の方向を見ていていた。確かに、路面電車が走行していたら、歩けないから入らないのは当然だけど、でもあの時、誰も規制線内に入っていた人はいなかったはず。これもすべて、ランタンの魔法なのだろうか。 それに仮面をつけなければ、路面電車を確認することも、お菓子を確認することもできないとされている。


ハロンズ駅に着いて、ルナは別れる際に

「どれくらいお菓子を取れたか、また大学で教えて合おうよ」

ミルはルナの顔を見て少し笑って

「みんな、同じ量しか受け取れないらしいよ」

「そうなんだ」

どこか腑に落ちないけど、あまりにも知らないことが多すぎ、頭が混乱していきそうだったので、それ以上は何も聞かなかった。ミルは、あまりすべてを知ろうとし過ぎると疲れるから、また徐々に知っていけばいいよと言ってくれて、その場を別れて家に帰ることになった。


ミルと別れて、家路に付くと、パパがおかえりと迎えてくれた。

「カゴの中身を、ここに出して」

ママの声が聞こえてきた。

「うん」

カゴからお菓子を出そうと、容器のある所に行くと、テーブルに同じ大きさの容器が2つ並んでいた。1つは空っぽで、もう1つには大量のお菓子が入っていた。

「そっちはママが取った分よ」

「こんなに取ったんだ」

カゴから空っぽの容器に、お菓子を入れていく。入れ終わると、ママが取った分と同じような量のお菓子が出てきた。ミルが言った通りだった。

 ルナはその場を立ち尽くしていると

「こっちに座りなさい」とパパに言われて、椅子に座った。パパはルナに言葉をかみ砕いて説明してくれた。


3つの”かそう”が重なり合わされた状態で起きる。

1つ目の『仮装』、仮面を被らないといけない。

2つ目の『仮想』、仮想現実の元で行われる。

3つ目の『過走』、車両が停止すべき位置から行き過ぎてはいけない。

 電車が駅の出発地点も、到着地点も、駅ホームに車両が停止すべき位置に停まった状態で、出現される。前も後も、越えることはない。

 年齢もハロウィン当日を越えて20歳になる者には資格がないとされているので、なので、10月31日生まれは参加資格を得れない。ただし、0時0秒ちょうどに生まれていれば、可能だ。

 お菓子の量も、1031グラムと定められている。それ以上のお菓子をカゴに入れられない。


夕方、玄関にノックが聞こえる。出ると子どもたち

「 トリック・オア・トリート」


路面電車から撒い降りてきた1031グラムのお菓子たちは、昨夜に眠らされて子どもたちの元に、渡っていく。

路面電車はきっと、大人を子どものころを思い出させるために、行ってるのではないのかと思えてきた。これはランタンからの贈り物かもしない。いつも渡すだけの大人たちを夢中させてくれた。








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お菓子な時間を 一色 サラ @Saku89make

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