第31話 攻防
「あっ」
ユウトが思わず声をもらす。その声の空気の震えが届くより早く、騎士はすでに動き出していた。
一瞬の思考も挟まない。まるで腕が自律したように自然な動きで右手でロングソードを引き抜き振りかぶった。
ユウトはその動きをただ見ている事しかできない。振り上げた騎士の剣がひるがえり後は振り下ろすだけとなった瞬間、初めて騎士の殺意が発せられる。その殺意を感じとりやっとユウトの身体は動き出した。
すでに剣先は弧を描きだしている。
とれる行動は絶望的に少ない。かわすには遅すぎた。
ユウトは腰の魔剣に手を伸ばし掴む。
騎士の剣の軌道を予測、そのライン上対角に光の刃を展開。
光の刃に実体はない。受け止め防御することはかなわず、できるのは超高温で焼き切ることのみ。
ユウトは力を込める。
どこまでも細く、どこまでも熱く、刃を展開せよと。
剣の刃と光の糸がついに触れる。
剣の速度はそのままに剣先だけが焼き切れた。だがその剣先は勢いそのまま首元へ飛びかかる。
重さ、切れ味は未知数。触れればただでは済まない。
その時ユウトの首に這う黒い毛の塊。
それは頬から首筋にかぶさり光沢を放った。
黒いものに触れた剣先は傷も付けずに弾かれた。
騎士の初手は不発に終わる。
しかし騎士は臆さない。剣はその斬撃の成否にかかわらず、すでに二撃目へと移行していた。
剣先を落とされようといまだ剣としての機能は果たせる。
焼き切れた剣の鋭利な切り口がユウトを捕えようとした瞬間、軌道がそれる。
ユウトの後方から伸びる槍が騎士の身体を押し込んでいる。
わき腹に触れるすんでのところで剣は届かない。
騎士は体制を崩す。その隙はユウトが反撃を行うのに十分な間だった。
相手の高い実力をユウトはこの数手で感じ取っている。手加減はできない。
剣先を切り落とした刃そのままに騎士へ向かって振り放つ。
その時ユウトは確かに見た。波紋。あるはずのない水面の壁から波の輪が広がり騎士が歪んで見える。波紋の発生する中心は騎士の盾だった。
光の刃が波紋に触れる。すると刃は波紋に誘われ波打ち曲がった。
そして波紋はさらに早く大きく震え出し、空気の壁がユウトを押し飛ばす。その威力はユウトの後方で槍の突きを放ったレナまでおよんだ。
ユウトは異変に気付いて一瞬身構えたおかげか飛ばされつつも体制を維持する。しかしレナは無理をして槍を押し込んだせいか自身の体勢をうまく立て直せないでいた。ユウトは咄嗟にレナと床との間に自身を滑り込ませ衝撃を緩和させる。セブルも全身を目一杯膨らませクッションになりようやく二人は静止した。
仰向けで床に横たわった二人だったがレナは素早く立ち上がり槍を構える。レナがすぐに立ち上がったおかげでユウトの視界は開けた。レナの残り香に頭がくらっとしたが目の前の脅威へと全力で意識を振り向ける。この騎士の戦闘能力なら今の隙に攻撃を見逃すはずはなかった。
しかし騎士は動いていない。構えた盾はそのままに何か動揺しているようにユウトには見えた。先ほどまでの殺気は感じられない。
「ソレは何だ?魔物なのか?」
騎士はレナに問う。吹き飛ばされた距離分、騎士は声を張り上げた。
瞬間の攻防の過程から騎士はまったくの想定外な推論が導き出されたのだろうとユウトは考える。
「魔物じゃない。彼の名はユウトだ。討伐遠征で保護されたゴブリンの姿にされた人。
あたしのチョーカーは今、ユウトに着けられている。使用権限はギルドマスターガラルド」
騎士はグッと黙り込む。瞳を閉じ眉間にしわをよせ苦悶の表情をした。そして自然な表情になり瞳を開けると構えを解く。剣先が切り落とされたロングソードを鞘に戻した。
「信用しよう。僕は調査騎士団所属ディゼル=ストラード・・・非礼を詫びる」
そう言うとディゼルは首を前に倒す。レナはその様子に驚いていた。
「騎士が詫びるなんて・・・」
ささやくような独り言をユウトは聞き取る。レナも構えを解いてふぅと息を吐いて脱力した。
「あたしの未熟さから起こったこと。この件はなかったことにしてもらいたい」
レナはユウトの方を向きそういうことでいいか、と尋ねる。ユウトはうなずいた。
そこへ数人の兵士が城壁の屋上へ集まってくるのがユウトにはわかる。金属のこすれる音、足音が聞き取れた。ユウトはフードをかぶり顔を隠す。
鎧を身に着けた兵士が集まり出す。殺気はない。おそらく騎士が使った盾の不思議な能力の発動音を聞きつけたか魔剣の光できづいたのだろうとユウトは思った。
集まった兵士たちは状況が分からずあたふたしてユウトたち三人から距離をとっている。その兵士達をかき分け周りの兵士とは違う装備の男が急いでディゼルに近づいた。
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