第67話 首都に旅行2
翌朝、カイはグレコが寝ている間に、さっさと湯浴みを済ませてしまったようです。風呂場からカイが出てきて、グレコはやっと目を覚ましました。昨晩、話題もなかったグレコは酒を飲みすぎていたようです。さっそく、『自動浄化の首飾り』を身に着けて、二日酔いを飛ばします。
「エロール殿開発の『乾燥筒』も備え付けてあったぞ。便利なものだな」
「へ、へぇ・・・じゃあ、俺も風呂入ろうかな」
(まあ、カイが浸かったお湯に浸かるというだけでも、ちょっぴり興奮しないでもない・・・ちょっと飲んでみちゃったり)
「ああ、だが、風呂のお湯をすするなよ、変態」
「ギクッ!」
身支度を整え、宿の朝食をとった二人の元に、エロールの店から使いのものがやってきました。
「ご案内に遣わされて参りました。カイ様、どうぞこちらへ」
小型の馬車が用意されています。カイとグレコは、馬車に乗り込みました。
「ほう、この揺れの少なさ。『浮遊の魔道具』を導入済みか」
「さすが、ご存知でしたか。小売店でおすすめされて装着したのですが、本当に快適になりました」
「うむ、開発したかいがあったというものだ」
「えっ、『浮遊の魔道具』を開発したのは、カイ様だったのですか? なるほど、これはエロール様がご執心なさるわけだ」
(ご執心?)
グレコは一抹の不安を感じましたが、そうこうするうちに、エロールの工房に到着しました。
「大きいな。私の工房の20倍はあるか」
そこにエロールが迎えに現れました。
「これはカイさん。それにグレコ殿。よくいらっしゃいました。どうぞ応接間へ」
応接は調度品も立派で、会社の懐具合がよく知れるものでした。
「早速ながら、工房をご案内しましょう。その方が、カイさんはお喜びでしょう」
「わかっていらっしゃる。よろしく頼む」
工房に案内されたカイは、感嘆の声を上げました。
「おお、高精度の術式刻印機がこんなにたくさん・・・それに、あれは、研究用に使われるという、精密三次元刻印機『D3-7700型』ではないか?」
「ほう、さすがご存知でしたか。そう、当工房は量産には高精度型、研究開発用に、D3を導入しているのです」
「なんと羨ましい・・・」
「D3に触ってみますか?」
「よ、よいのですか?」
「ええ、カイさんなら、ほとんど勘で動かせるでしょう。なんなら、魔法石もお使いください」
それから、ひとしきりD3を触ると、カイは早速『炎の杖』用の魔法石を刻印してしまいました。
「・・・素晴らしい・・・精密ダイヤルとスピードダイヤルの併用によって通常の術式刻印機の半分の時間で、ミスの心配なく刻印できる・・・全く1台欲しいものだ」
「いったい、いくらぐらいするもの何だ?」
かやの外におかれていたグレコが聞いてみました。エロールが応えます。
「だいたい、200万Gぐらいですかね」
「な! 200万?」
「田舎の零細魔道具屋のうちには、到底手の届かない代物さ」
「そこで、カイさんにご提案があるのですが・・・当社の客員研究員として、ここで働いてみる気はありませんか?」
「といいますと?」
「私は、カイさんの類まれなる魔道具製作の技術に惚れ込んでいるのですよ。当工房の設備や資材を自由に使って、自由に研究をなさるといい。それで開発したものは、当工房とカイさんの工房、両方の開発品として販売するのです」
「それは魅力的な提案だが・・・」
「私もそう遠くないうちに、跡取りを作れと、親がうるさく言うというのもありましてね」
(こいつ、カイを自分のものにする気か? 研究員としてだけじゃなく、女としても?)
グレコの闘争心に火がつきました。
「待て! 200万Gぐらい、俺だって用立てられる。最新式の術式刻印機が使いたいぐらいのことで、カイにいちいち店を空けさせていられるか。あそこは、カイが両親から受け継いだ大事な場所なんだ」
「グ、グレコ・・・」
「ふむ、グレコ殿の噂は冒険者ギルドから聞いていますよ。ドラゴンスレイヤー、デーモンスレイヤー、そしてバンパイア・ハンターの称号を持つ、腕利きの戦士だと。しかし、200万Gは大金だ。いくら、トップ・レベルの冒険者の稼ぎでも、そう簡単に用意できる額ではないのでは?」
エロールが不敵な笑みを絶やさずに、グレコに告げます。
「アルドウェンを倒す・・・」
「な、グレコ。それは第10層の迷宮の主、最強の大魔法使いではないか。危険すぎる」
「面白い。カイさんのために命を張るというわけですね。しかし、いつまでも返事を待ってはいられません。1ヶ月で決着をつけようではないですか」
「いいだろう、望むところだ」
こうして、頭に血がのぼったグレコは、迷宮の主を倒す賭けを、恋敵と交わしてしまったのです。
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