第66話 首都に旅行

「グレコさん、例の一件依頼、カイさんのデレ・ポイントだだ下がりです」


 カイがいない魔道具屋で、グレコとサラの秘密会議が行われていました。


「これは仲直りの機会を積極的に作らないと、このままジ・エンドです」


「そ、それは困る・・・」


「だいたい、グレコさんがへたれだからいけないんですよ!」


 12歳に説教を食らうグレコですが、言い返す言葉もありません。相手は5人のボーイフレンドを持つ恋愛マスターなのです。


「旅行です・・・」


「えっ?」


「二人きりの旅行で良い雰囲気を作って、仲直りするんですよ! あわよくば、そのまま決めてきちゃってください!」


「旅行ってどこへ・・・」


「首都の大手小売店から店主のカイさんにもお目通りをと打診が来ています。一度、首都に行ったことのあるグレコさんは、案内役の名目でカイさんの首都への出張旅行に同伴するのです」


「な、なるほど」


「段取りは私がしておきます!」


「よろしくお願いします!」


 こうして、カイとグレコは首都に出張することになりました。


「・・・気が進まないな。営業的な社交辞令は苦手なのだ」


「まあ、そういうな。バンパイア退治のときに知り合ったアルハイムもカイに会いたいと言っていたしな」


 そうして、グレコは転移魔法でカイを首都に案内したのでした。


 さて、場所は変わって冒険者ギルド。


「あなたがカイさんですか?! 拙僧、アルハイムと申します。グレコ殿にはバンパイア退治で世話になりました。また、カイさんの魔道具にも命を救われました。感謝してもしきれません。今日は、私が首都をご案内しますよ。小売店との会食が夜からとのことですから、それまで私が観光名所などご案内しましょう」


 こうして、カイとグレコは、アルハイムの案内で首都の名所を観光しました。カイも嬉しそうにしています。グレコは内心、胸をなでおろしました。


(ここまでは順調だな)


「ありがとう、アルハイム。また会いに来るよ」


「いつでも、グレコ殿。カイさんもお元気で。我が教会で力になれることがあれば、何なりとご相談ください」


「ありがとう、アルハイム殿」


 夕方になって、アルハイムと別れたカイとグレコは、小売店へと向かいます。


「おお、いらっしゃいませ、グレコ様。そして、そちらが、魔道具屋の店主のカイ様ですね。若い女性だとは聞いていましたが、これまたお美しい」


「そんな、美しいなどと・・・田舎でしがない魔道具屋を経営しているカイと申す。営業担当のサラがいつもお世話になっている」


「今日は、会食の予約を、おすすめのレストランでとっていたのですが・・・実は申し訳ないことに、急な来客がありまして・・・当店にとっては、これまた重要なお客様なのです・・・大変失礼ながら、同席を許していただくことはできないものでしょうか?」


「重要な人物、ですか?」


「はい、その方も魔道具屋なのです。エロール様とおっしゃいまして、当店の最大手の仕入先の経営者様なのですよ。本人も魔道具を開発する魔道具師でございます」


「それは興味深い。私も話ができれば光栄だ。同席を喜んで許可しますよ」


「感謝いたします」


(あれ? なんか外野が一人増えた?)


 明らかに高級なレストランに迎えられたカイとグレコ。テーブルにつき、しばらくすると、エロール氏がやってきました。


「皆様、おまたせしてすいません。また、急な同席を許していただき、カイ殿にはお礼を申し上げる」


 エロールは、爽やかに長い銀髪を揺らし、痩身で気品と清潔感のある若い男でした。


「こちらこそ、はじめまして。エロール殿。大手魔道具店の経営者と聞いて、もっと年長者だと想像していたのですが、こんなにお若い方だったのだな」


「二代目なのですよ。父が体調を崩して、早くに店を受け継ぐことになってしまいましてね」


 食事中の会話のメインは、カイとエロールの魔道具開発の話題になりました。


「ほう、グレコ殿のバンパイア退治では、『自動浄化の首飾り』が活躍したと。装着者の状態異常を検出する術式については話を聞いたことがあったが、そこまで高精度に起動するものは聞いたことがない。ほとんど、カイさんの新発明と言ってもよろしいのでは?」


「いや、それより、エロール殿が開発した髪を乾かす魔道具『乾燥筒』とおっしゃったか・・・私も魔道具にヒートウェイブの魔法はよく応用しているが、髪を早く乾かすというニーズに思い当たらなかった。やはり首都で生活している方は文化レベルが違う」


(なんか盛り上がってるな・・・)


 会話に参加できずに、黙々と食事を続けるグレコは、ちょっと焦りを感じていました。


「カイさん、よろしければ、明日にでも、当社の工房を見学していかれませんか?」


「よろしいのか? それは願ってもない! 大いに勉強させていただきたい所存だ」


(なんか予定外の話になってる! 明日はカイと二人きりで買い物でもと思ってたのに・・・)


 さて、宴もたけなわのうちにお開きになり、小売店の店主に礼を述べつつ、カイとグレコは宿に向かいました。


「ああ、魔導トイレと魔導風呂を導入済みの宿から選んだんだが、あいにく部屋がダブルしか空いてなくてさ・・・よかったかな?」


「ん? 別にかまわんぞ」


 カイはなんだか上の空です。


 宿にチェックインすると、最新設備でリニューアルオープンしたばかりの部屋はなかなか素敵なものでした。この部屋を借りるために、グレコは結構な金額をはたいたのでした。


「カイ、先に風呂にでも・・・」


「いや、私はもう寝る。明日、早朝からエロール殿の工房の見学があるから、よく寝ておかなければな。出発前に朝、身だしなみも含めて湯浴みをすることにしよう」


「そ・・・そうですか・・・あ、ベッドは・・・」


「私が使うから、グレコはソファでよろしく」


(予定くるったぁ~あと、まだ機嫌直ってない~)


 はてさて、カイとグレコの首都出張、続きはどうなりますことやら。

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