第65話 魔導風呂

「リフォームされた店舗のお披露目だって?」


「うむ、リフォーム代を稼ぐのに、グレコも協力してくれたからな。一番にテストさせてやろうと思ってな」


「今回はすごいですよ! グレコさん、楽しんでくださいね。いっそ、行くところまで行っちゃってください!」


 サラが何やら不思議なことを言っています。


「は? まあ、期待しているよ・・・」


「店舗をリフォームしたと言っても、見えるところではないのだ。我々は一応接客業であるからして、身だしなみには気を使わねばならない。常に衛生的で清潔であるために、風呂を新設したのだ」


「そうか、中世の風呂は共同浴場だったが、いかがわしい行為が横行してそれも廃れたという・・・そういえば、ザザが覗きの罪で3日間の強制労働を食らっていたな・・・居宅に風呂があるのは貴族ぐらいのものだから、贅沢なことだな」


「相変わらず中世というのがいつのことかはわからんが、たしかに贅沢なリフォームだ。これはサラへのご褒美も兼ねている。接客のメインとなるサラも当然、出社後に使うのだ」


「で、原理はやっぱり、魔道具で?」


「そうだ。金属製の人が入れる風呂桶を設置して、水が循環するパイプを接続してもらった。パイプの部分自体は、風呂桶の外にある。このパイプ部分を、これも金属の囲いで密閉して、内部をヒートウェイブの魔法で熱するのだ。すると、パイプと風呂桶の間で熱水が循環するという仕組みだ。風呂に入ったまま追い焚きもできる」


「それはすごい!」


「ちなみに、排水は魔導トイレ同様、魔法で転移させて処理するから、下水道要らずだ。壁と床、天井だけタイルと漆喰で防水してある。上水は幸い近くに井戸があるので、さしあたり、手汲みだがな」


「なんなら、俺が水汲んでやるよ」


「ふん、まあ今日はもう用意してあるのだ。さあ、グレコ、風呂に入るがよい!」


「おおお~、ありがとうございます!」


 さて、グレコは案内された風呂場で、服を脱いで湯船に浸かりました。


「おおー、極楽だぁ」


 グレコはひとしきり風呂に浸かり、体も温まってきました。


「そういえば、体を洗いたいな。石鹸は・・・ないか。おーい、カイ、石鹸とかない?」


「おや、うっかりしておったわ。今持っていってやる」


 そして、石鹸を手に持ったカイが現れました。水に濡れてもいい薄い肌着姿で。


「ぶっ! カ、カイその格好はいったい?」


「たまには労をねぎらってやろうというのだ。洗い場の椅子に座って背中をこっちにむけろ」


 カイは真っ赤になって横を向いています。


 グレコはどきどきしながら、言われたとおりにしました。


 すると、石鹸を泡立てた布で、カイがたどたどしくグレコの背中をこすりました。


(なんだ、これは・・・いったい何が起こっているんだ?)


 グレコの頭は混乱状態です。


「頭も洗ってやろう」


 カイは桶でグレコの頭にお湯をかけ、石鹸を泡立てて、洗ってやります。


「なんだ、この感じ・・・」


 グレコはなんだか考えるのをやめる方向性になってきていました。泡が目に入って前も見えません。


「・・・前は・・・っと。なんだかんだ胸板が厚いのだな」


「!!!」


 カイが、グレコの胸に後ろから手を回し、その胸を石鹸がついた手でなでつけていきます。

 肌着一枚越しに、カイの胸がグレコの背中に当たりました。濡れた肌着は肌に貼り付いて、その感触をそのままグレコに伝えてきます。


 そこでついにグレコのショートダガーが、ロングソードへとアップグレードしてしまいました。


「カイ、店にはサラちゃんもいるんだ。これ以上は、やばい」


「これはサラの作戦なんだ。お風呂でいっちゃえ大作戦だそうだ」


「おーい、どういう12歳だ!」


「豊胸の魔道具を使ったほうがよかったか?」


「そういうことじゃなーい! レーティング、レーティング的にまずい! これが中世で共同風呂が廃れた原因だから! 異世界ものでもリアリティを忘れない、本作の作風的にもまずい! 作者は書く前に中世ヨーロッパの風呂の歴史とか調べてるんだから!」


「また、『異世界』とか変なことを言って・・・作者って誰? ヨーロッパってどこ?」


「だめだ、だめだ~。俺は出る!」


 グレコは桶を奪い取り、頭からお湯をかぶって視界を確保すると、脱兎のごとく風呂場から逃げ出しました。


 しばらくして、服を来たグレコとカイは、工房の端と端で背中を向けあっていました。


「グレコさん・・・今日という日ほど、グレコさんをへたれだと思った日はありませんよ・・・」


 サラが冷たい声で言いました。


「ゆ、勇気を振り絞ったのに・・・」


「そうですよね、カイさん! 本当にかわいそうに・・・グレコさん、もう死んでください」


「うわぁ~、ちっくしょう~、俺だってレーティングさえなければ、なければ・・・」


 こうして、お風呂でいっちゃえ大作戦は失敗に終わりましたが、風呂の魔道具『魔導風呂』のテストは大成功。サラの手によって、貴族宅や、花街などに売りさばかれることになったのでした。

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