第64話 影との戦い

「グレコ、モンスター狩りに行きたい」


「また赤字が出たのか?」


「いや、今回は、近々予定している大型投資の資金を準備したいがためだ。実は、店舗のリフォームを考えていてな。それから、サラが首都に出張して大手小売店に魔道具を卸す契約を取ってきたので、量産体制を更に強化せねばならないのだ。工房を借りて、刻印機も複数台導入しなくてはならないので、投資費用がかさむ予定だ」


「へえ、サラちゃん、すごいじゃないか。首都での商談まとめたんだね」


「えへへ、グレコさんの印象がよかったんですよ~。バンパイア・ハンターの紹介だって言ったら、待遇が激変しました。なんと、『時計』の魔道具、ひとつ譲ってくれました。『メッセージの水晶板』のお返しにって」


「それはよかった。俺も首都で名を上げたかいがあったというものだ。あと、リフォームっていうのは何をするんだ」


「それはできあがるまでの秘密だ」


「ふーん、まあいいや。それで今回の獲物は何を狙うんだ」


「最近、魔法石の鉱山に出没したシャドウを狙おうと思っている」


「なんだって! あれは超危険案件だ。シャドウは、実態のないアンデッド・モンスターで、物理攻撃がほぼ効かない。おまけに、即死魔法を連発してくる。あの案件では、挑戦した中堅パーティが即死魔法で壊滅してから、誰も手を付けていないんだ」


「しかし、そのおかげで、報酬額が40万Gまで膨れ上がっている。鉱山も商売あがったりだから、早期解決を望んでいるからな」


「うーむ、アンデッドを倒す『解呪』の呪法が使える僧侶のザザでも連れて行くか?」


「ザザさんなら、自分は酒と女にまみれた破戒僧だから、解呪の成功率が思いっきり低いって自慢していましたよ」


「そうだった・・・何の自慢にもならないけどな」


「心配ない。アンデッド1体を確実に消滅させる破邪の魔法がある。それが使える『破邪の杖』を用意しておいた。即死魔法も、事前に『魔法反射の杖』で跳ね返すようにしておけば、こちらの守りは万全だ。シャドウには跳ね返った即死魔法は効かないが、破邪の魔法で一体ずつ着実に倒していけば、必ず勝てる」


「そういうことか・・・しかし、俺達の戦い方って、敵の攻撃を予想して、魔道具で対策してから立ち向かうから、基本、ピンチになったりしないよな。読者の大半は、ハラハラドキドキのバトルを求めているだろうに、これだから読者数が伸びないんじゃないか?」


「読者? 何のことだかわからないな?」


「いや、こっちのことだ。じゃあ、シャドウをやっつけに行くか」


 カイとグレコは、冒険者ギルドで依頼を受注して、魔法石の鉱山へと向かいました。


「素早さの杖 +5、魔法反射の杖」


「物理攻撃はないから、かけるのはこれだけか」


「グレコは、これでシャドウを攻撃してくれ。『破邪の杖』だ。私は後衛で、万が一魔法反射の効果時間が切れた場合に備えて、魔法反射の杖を準備しておく」


「わかった」


 魔法石を掘る鉱山を、鉱山夫が描いてくれた地図に従って進むと、ひときわ瘴気が濃い場所にたどり着きました。


「これは出るな」


 と、グレコがつぶやいた瞬間、空間から黒い霧のようなもやが発生して、カイたちを取り囲みました。シャドウです。その数は10体にも及びます。


「現れたぞ! 作戦通りに!」


「『破邪の杖』」


 素早さがアップしたグレコは早速『破邪の杖』を使うと、シャドウのうち一体が、塵となって地面に落ちました。


 しかし、残るシャドウは、即死の魔法をカイとグレコめがけて連発してきます。ですがこれは、魔法反射にはばまれて、カイたちには届きません。


「『破邪の杖』・・・なんだこのルーチンワーク・・・」


 そうして、数分後、現れたシャドウのすべてが塵と化していました。


 転送印でギルドに送る遺体もないので、カイは周辺を探索しています。


「あった、汚染された魔法石の塊だ」


「汚染された?」


「うむ、ときに鉱山の中で、瘴気がひときわ濃いところで、魔法石が瘴気を蓄積して汚染されるのだ。それがシャドウを呼び寄せていたに違いない。これを処分すれば、もうシャドウは出現しないだろう」


 人間の頭部大の黒い水晶のような魔法石を、カイは指差します。


「じゃあ、グレコ、掘り出してくれ。つるはしは借りてきた。別に粉々にしてもいいぞ」


「へーい」


 そうして、粉々にした汚染された黒い魔法石を回収して、鉱山を出て、依頼は達成です。


 後日、グレコはカイに聞いてみました。


「あの、汚染された魔法石はどうやって処分したんだ?」


「ああ、破邪の結界を教会で張ってもらった箱に入れて保管しているよ」


「えっ、大丈夫なのか? 魔道具屋にシャドウが出たりしないだろうな」


「粉々にしてあるし、箱には厳重に鍵をかけているから、大丈夫だよ」


「捨てたほうがいいと思うんだけどなぁ」


「いや、これが意外と使いようがあるのだ。汚染された魔法石を付与された武器防具・アクセサリーなどは呪いの効果が発現して、一度装着すると身から離せなくなるのだ。その際に使う量は微々たる量でよいのだがな。うちの客で、恋人や配偶者に送るアクセサリーに呪いをかけたい層が一定数いるのは、サラのマーケティングで以前からわかっていた」


「まさか、装備品やアクセサリーを呪い化するサービスを始める気か?」


「いやいやまさか。そういうニーズがある客に、小分けして売るだけさ。アクセサリーへの呪い魔法石の埋め込みは、武具屋や彫金細工屋に、客本人から依頼してもらう。うちは手を汚さない」


「まっさきに疑われると思うぞ、この店は・・・」


 最近、魔導トイレとか魔導かまどとか、クリーンな商品を開発していたので忘れかけていましたが、カイの魔道具屋のメインの顧客層は、店主同様、ちょっと病んでいるのを、グレコは思い出しましたとさ。

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