第63話 魔法の瓶

「グレコは、ダンジョン探索中の水分補給はどうしているのだ?」


「ああ、水筒を持っていっているよ。革製のやつ」


「実は、それに代わる、ハイグレードな水筒を魔道具として開発してな」


「ほう、どんなのだ?」


「金属製なのだ。鍛冶屋に頼んで、金属製の瓶筒を作ってもらった。蓋はコルクだが、筒に埋め込んだ魔法石の『くくりの魔法』でしっかり固定できるようになっていて、ちょっとやそっと降ったぐらいで外れることはない。『緩め』と命じると蓋がとれて、蓋をつけて『くくれ』と命じるとがっちり固定されるのだ」


「なるほど」


「そして、ここからがすごいところなのだが、例の『断熱の魔法』を筒全体にかけて、中に入れた飲み物の温度を保持するのだ。水筒ぐらいの大きさの断熱なら、小さくて弱い魔法石でも対応できる。12時間は温度を一定に保つのだ」


「おお、それはすごい。ダンジョン内で温かいお茶が飲めるということか?」


「そのとおりだ。夏場は逆に、冷やした飲み物を冷たいままに保つこともできるぞ」


「それは普及が期待できるな。ネーミングはどうするつもりだ?」


「うん、『魔法瓶』でいいかなと」


「どこかで聞いたことのあるようなネーミングだが、そのものずばり魔法の瓶だしな。なんだかとても文句をつけたいのだが、文句をつける具体的な理由が見つからないな」


「魔法瓶が、革の水筒を駆逐していく未来が目に浮かぶようだ」


「うん、どんぴしゃすぎたせいか、あまりに早くオチがついて、文字数が不足しているぞ」


「文字数とは何のことかわからないが、なにか他に話した方がいいかな」


「まあ、こういう日もあるか」


「じゃあ、今度、魔法瓶にお茶を淹れてピクニックにでも行こうか」


「いいね」


 魔法瓶は、魔法を使った瓶というだけでなく、二人の距離を近づける魔法にもなってくれそうです。


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