第54話 同棲
「カイ、俺、冒険者になることにした」
まだ16歳のグレコは、当時、14歳だったカイのもとを訪れて宣言しました。
その頃、両親を12歳でなくしたカイは、すでに2年の修業を経て、立派な魔道具屋になっており、グレコは出遅れた形になっていました。
「冒険者なんて、危険な仕事じゃないか。グレコに向いているとは思えない」
「いや、訓練所では戦士の素質ありと言われたよ」
「・・・」
カイは、あまり喜んでいない様子でした。
「冒険者として名を上げれば、普通の職業とは比較にならない高収入だし、カイを養うこともできるから・・・」
「私は養ってもらう必要などない。魔道具屋で生計をたてられる。むしろ野垂れ死にしそうになったグレコを、私が養うことになりかねん」
「それだと、どっちにしろ、どちらかが相手を養うんじゃないか?」
「・・・」
「そのうち、俺がトップ・レベルの冒険者と呼ばれるようになったら、一緒に暮らそうよ」
そんなやり取りをしたのが4年ほど前。
しかし、駆け出し冒険者となったグレコは、伸び悩みました。いくつかのパーティを転々とするも、実力不足で首になったり、パーティが全滅して命からがら逃げ帰ったりしました。
戦士の才能があると言われたものの、極端に体躯に恵まれていたわけでもないグレコは、どちらかというとスピードを信条とし、小型の盾の活用と、ある種捨て身の突き攻撃を磨いて、弱点を補っていました。
グレコが冒険者としてなんとか形になってきたのは、ベリアル隊に拾われてから。あれから、2年が経ちました。
「トップ・レベルにはなったとは思うんだが・・・カイはあのときの俺の言葉を覚えているだろうか・・・時間が経ちすぎたかな・・・」
『メッセージの水晶板』を分け合ってから、毎日連絡を取り、これまた毎日と言っていいほど、店に寄ったり、食事を共にしたりしているのですが、どうにもけじめがつけられないというか、いっそ一緒に暮らそうと言い出せないグレコなのです。
もし言い出したら、カイがどんな返事をするか・・・ドラゴンや悪魔を倒せる戦士だというのに、それがまだ恐ろしいのでした。
さて、魔道具屋では、カイとサラが雑談をしながら仕事をしています。
「はあ、グレコさんはいつ同棲のことを言い出すんですかね?」
「ど、同棲って。サラ、そんな大人な話を12歳が言うものじゃない」
「何言ってるんですか。ほとんど毎日会ってるくせに。もういっそ、一緒に暮らした方が面倒がないですよ」
「それは・・・トップ・レベルの冒険者になったら一緒に暮らそうとグレコが昔言ってたけど、言い出さないってことは、まだ、自分で納得が言ってないんじゃないかな?」
「いや、単にへたれなだけだと思いますけどね・・・カイさんは、もし同棲を切り出されたらどうするつもりですか?」
「いや、それはその・・・うん」
「うん、って・・・煮え切らないなぁ」
「とにかく、グレコのさらなるレベルアップで、誰がどう見てもトップ・レベルだと自他共に認めるようになれば、迷いなく誘ってくるはずなのだ」
「自分からはいけないカイさんもへたれですよね、自他ともの『他』の方は主にカイさんなんですから、はあ・・・」
「私の魔道具でもっとグレコを強くするのだ。そうしたら、きっと・・・」
「まあ、それが開発のモチベーションになるならいいんですけど」
カイとグレコの二人は、優柔不断につき、見ている周りはやきもきしますね。
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