第55話 妖精退治

「次のシーズンの、討伐対象のメインは、ピクシーなんだ」


「ピクシーというと、妖精か」


「ああ、そうなんだが、モンスター化するものがいて、そいつらは、目がつり上がって赤くなり、手には短剣を持ち、あまつさえ魔法で攻撃してくる。まあ、使うのは初級魔法で、眠りの魔法と、小火炎球ぐらいのものだから、冒険者としては手強い相手ではないが、一般人のカイがいる俺たち二人パーティには、けっこうリスキーな相手だ。ファンシーな見た目と違って危ない奴だ」


「スルーして、いつものようにオークやコボルトなどの小物狩りはできないのか?」


「うーん、ドラゴンやグレーターデーモンを倒して、俺たちの冒険者ランクが上がってしまっているからな。あまり小物ばかりやると、他の駆け出し冒険者からの視線が痛い」


「ならば、魔法対策を講じるしかあるまいなぁ・・・」


「なにか良い魔道具ありそうか?」


「魔法を反射する補助魔法はあるから、それを使うとか。魔法で発生させた火炎やかまいたちであれば、そのまま術者に対して反射するんだ。あるいは、速攻で沈黙の杖を使うとか・・・」


「沈黙の杖は、嫌われ者の指輪の発動がワンモーション遅れるだろう。ピクシーは短剣も持ってる。物理攻撃がカイに向かったらこれもアウトだ。やはり、戦闘前からかけておける魔法を反射する補助魔法がいいかな」


「うむ、では、魔法反射の魔道具を開発してみるか」


 そうして、次のシーズンの赤字に向かって、ピクシー対策の魔道具開発が始まりました。赤字になってから動くのではなく、赤字を予想して動く。カイとグレコも成長したようです。赤字にならないことを考えないのがたまに傷ですが・・・


 そして、2週間ほど後。


「できたよ。『魔法反射の杖』。 魔法反射は戦闘前に1人でも複数人でもかけておける。それに、鉄化の杖で導入した、任意のタイミングで解除できる機能も搭載した。解除コールで、これも1人でも複数人でも魔法反射の効果を解除できる。グレコに回復魔法が必要になったとき、解除できないとまずいからな」


「適切な仕様だと思うよ。それで、開発にいくらかかった?」


「うん、ちょうど今月、大赤字になるくらい」


「これが本末転倒ってやつか。ピクシー狩り行きは決定だな」


 さて、数日後、カイとグレコは、冒険者ギルドで依頼を受けて、ピクシー狩りに来ていました。


「補助魔法をかける。力の杖 +5、素早さの杖 +5、守りの杖 +5、魔法反射の杖」


 これらは、カイとグレコの両方にかけました。


「戦闘開始と同時に、嫌われ者の指輪を使って、物理攻撃はグレコに集中させて、私は雷撃の杖で援護する」


「わかった」


 はてさて、花咲く草原を探索していると、ピクシーの群れが見つかりました。緑の羽根帽子に緑の服。妖精さんの格好です。大きさは人の膝丈ほどでちんまりしていますが、しかし、7人ほどで、仕留めた角うさぎを炎の魔法で焼いて、短剣で切り分けてがつがつと食べています。こころなしか犬歯も伸びていますし、目が血走っています。ファンシーさのかけらもありません。「ハイホー、ハイホー」となにか会話をしているようですが、会話の内容は人間にはわかりません。


「完璧にモンスター化しているぞ。やっつけよう。行くぜ!」


 グレコが食事中のピクシーに突入しました。


 距離が空いていたので、グレコの剣が届く前に、グレコに気づいたピクシーは小火炎球の魔法を全員一斉にグレコに浴びせかけます。


 そのとき、魔法反射の効果が発動し、火炎球は、術者であるピクシーのところに跳ね返されて戻っていき、彼らの緑の服を燃やしました。

 火炎につつまれて、地面をのたうち回る妖精たち。


「あんたなんか大嫌い! +5」


「キシャー!」


 ピクシーのうち一匹がグレコに短剣を振りかざして襲いかかります。グレコは籠手切りで、短剣を持った手首を切り飛ばして攻撃を封殺します。


「キシャー!!!」


 怒り狂うピクシーたちは、今度は敵全員に効果がある火炎魔法をカイとグレコに向けて放ってきました。先程反射されたのは失念しているようです。


 カイに襲いかかる火炎。しかし、これも反射され、逆にピクシーに襲いかかります。


 全員が炎に包まれ、炎の中で悶え苦しむピクシーの姿がかげろうに揺らめきます。


「ギギギ・・・ハイホー・・・」


 しばらくして、魔法の炎が消えると全身をくろこげにして固まったピクシーたちの遺体が地面に転がっていました。


「グレコ、私は妖精って、もっと可愛いものだと思っていたよ。子供の頃の夢が壊れたよ・・・」


「ああ、人間型のモンスターを焼き殺すと後味悪いな・・・ハイホーハイホー言ってたし」


 魔法反射の杖は大成功でしたが、なにかを失った気がするカイとグレコなのでした。

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