第53話 幼馴染のケン2
「あんたなんか大嫌い +5」
6匹の角うさぎがグレコを取り囲んで、牙を向きます。前歯はかなり尖そうで、犬と同じくらいの強さと言いますが、攻撃性が高いだけにあなどれません。
しかし、飛びかかる角うさぎを、剣と盾でいなして、グレコは指示を飛ばします。
「ケン、俺に注意を向けて飛びかかろうと身構えたうさぎを狙え! 攻撃モーションに入ったうさぎは、急には止められないので、良い的になる!」
しかし、ケンは、入り乱れるモンスターとグレコの立ち回りの輪の中に入ることができず、その外から、ミスリルソードを手に持って、呆然と立ち尽くすだけです。
(残り一匹まで減らすか)
グレコは、カシムの剣を閃かせて、あっという間に5匹を片付けました。
「残り一匹だ! なんとかしてみろ!」
「は、はい!」
最後の角うさぎにケンはじりじりと近づきました。グレコは、角うさぎに軽く牽制を放って注意を引き、背後からにじり寄るケンに角うさぎの意識が向かないようにします。
「えーい!!!」
ケンが両手で振りかぶり、角うさぎに向けて振り下ろしたミスリルソードは、しかし、その脇の地面に突き刺さりました。角うさぎがケンに気づいて威嚇の声をあげます。
その瞬間、足のステップを併用した得意の突きで、グレコは最後の角うさぎを貫いて、その動きを止めました。あえて急所は外しています。
「ケン、とどめをさしてみろ。ミスリルソードなら、首を一刀両断できる」
「あ、あああ・・・」
ケンは、再びミスリルソードを構えましたが、その体は震えています。なかなか、角うさぎに剣を振り下ろそうとはしません。
「・・・もういい」
グレコはそう言うと、カシムの剣を一閃し、角うさぎの首をはねました。
「カイ、ケンくんの点数は?」
「0点だ」
カイの容赦のない採点がくだされます。
「とのことだ。冒険者はあきらめろ」
ケンは、がっくりとうなだれていましたが、その言葉に口答えはしませんでした。
後日、魔道具屋でサラがカイとグレコにお礼を言っていました。
「ありがとうございました。ケンも冒険者の世界に対して、あきらめがついたみたいです」
グレコが心配そうに尋ねます。
「よかったのか?」
「はい、幼馴染に危険な目にあってほしくはないので」
「そうか、で、ケンくんとは別れるのか?」
「えっ? そんなことありませんよ。私は虫も殺せない優しいケンが好きなんです」
「あ、そうなの? じゃあ、結果はやる前からわかっていたと」
「はい、実は・・・」
「いやあ、幼い少年の夢と恋を奪ったかと思って気に病んでいたんだ、安心したよ」
「ケンには花職人とか、ステンドグラス職人とか、ちょっとアートっぽい仕事が向いていると思うんですよね」
「うーん、かもしれないな」
「きっときれいな花やガラスを作ると思いますよ」
「それにしても、サラちゃんの本命は一体誰なんだ?」
「え? 一妻多夫で行こうと思ってるんですが」
「な、なんだとぉ~! そんなのありなのか?」
「はい、だって異世界ですから」
「うわ、また正体不明の『異世界』って単語きた!」
カイがぼそっと言いました。
「グレコには、一夫多妻は許さんからな。たとえ異世界であろうとも・・・」
「ひぃぃ・・・」
サラのボーイフレンドたちへの愛は空よりも広く、カイのグレコへの愛は地下室の手錠のように拘束的なのでした・・・
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