第52話 幼馴染のケン

「実はグレコさんに頼みがあるんです」


「どうした、サラちゃん」


「私のボーイフレンドの一人の幼馴染のケンなんですけど・・・他のボーイフレンドたちと違って、家柄が良いとか、コネがあるとか、そういうのが何もないんですよ。私の幼馴染なんで当然なんですけど」


(いや、君の商魂と人脈は一般人レベルじゃないんだがな)


「それで、私に気に入られようと思って、私が憧れている冒険者になろうと考えているんです。でも、私、冒険者は憧れであって、恋人が実際に冒険者になってほしいわけじゃないんですよ。グレコさんやベリアル隊の皆さんのような腕利きならまだしも、そこまでいけずに、ほとんど野垂れ死にする冒険者は少なくないじゃないですか?」


「まあなあ、明日をもしれない家業だってのは確かだ。俺も今こうしてトップ・パーティなんて言われているが、駆け出しのときは、仕事はないわ、あっても苦労ばかりで身入りは少ない、辛い生活をしていたよ」


「だから、そのへんをケンにわからせて、冒険者になるのを思いとどまらせてほしいんです」


「でも、本人がなりたがっていて、それしかサラちゃんに近づく道がないなら、止まらないだろう?」


(あれ、なんか自分のことみたいな・・・)


「じゃあ、せめて、ケンが冒険者として大成できそうか、グレコさんに見極めてもらえませんか? グレコさんがOKを出したら、私も応援しますし、ダメだと言われたら諦めるように約束させます」


「うーん、人の人生を決定づける役割は荷が重いが・・・サラちゃんの頼みだからやるしかないかな。ケンくんの希望の職種は何なの?」


「戦士だそうです」


(ああ、とくに目立った才能のない男子は戦士しか選べないんだよ、実際・・・俺もそうだったなぁ)


「わかった。じゃあ、一度、モンスター狩りに同行させて、センスがあるか見るということで。カイにも協力してもらおう」


「あ、カイさんには、もうお願いしてあります」


「さすが根回しが早い。早速、次の週末にでも狩りに行くか」


 さて、カイとグレコ、それにケンは草原地帯に来ていました。


「よろしくお願いしまっす! グレコ先輩! ドラゴンスレイヤー兼デーモンスレイヤーのこの街最強の戦士、グレコ先輩にご指導いただけて嬉しいっす!」


 黒髪を短く刈り上げた、一文字の眉毛が特徴的な少年、ケンはあらためて挨拶しました。


「カイさんも、サラからお噂はかねがね伺ってるっす! 美人で最強の魔道具使いだとか!」


「え、美人?・・・ちょっと、グレコ、この子いい子じゃない」


「おまえ、少年少女からのお世辞に弱すぎるぞ」


「よし、ケンくん。今日は、冒険者の戦いを見せてやると同時に、君に対するテストでもある。俺が才能なしと判断したら、冒険者になる道はきっぱり諦めて、他の道でサラちゃんにアピールする方法を考えるんだ、わかったね」


「覚悟は出来てるっす!」


「今日の獲物は、『角うさぎ』だ。まあ、普通のうさぎが凶暴化して、頭にちょっとした角が生えているだけのモンスターだ。戦闘力は、犬と対して変わらない。君には、俺が昔愛用して、アイスドラゴンを倒したミスリルソードを貸してやる。まだ、体格的に盾と併用して片手持ちはできないだろうから、両手で使うといい」


 グレコは、ミスリルソードをケンに鞘ごと渡し、まだ腰に下げるのは無理なので、背中にくくりつけてやりました。


「カイの魔道具でモンスターの攻撃を俺に集中させるから、君はすきができた角うさぎを背後から切るんだ。わかったな」


「わ、わかりました・・・」


「あと、カイが俺に対して、あんたなんか大嫌いとか言うが、あれはただの呪文であって、それ以上に意味はない。くれぐれも勘違いしないように」


「え? は、はい・・・」


 こうして、ケンの冒険者才能テストをかねた角うさぎ退治が始まったのでした。

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