第29話 豊胸の魔道具
「やあ、グレコ。偶然だな」
冒険者ギルドで仕事を終え、パーティメンバーと別れたグレコのもとに、カイが現れました。
しかし、カイがグレコのところに現れる場合、偶然ということはあり得ません。探魂の首飾りの魔法で、グレコの居場所はカイに筒抜けなのですから、狙ってきているに違いないのです。
しかも、赤字の話が出ないので、モンスター狩りではない。
となると、新規開発の話でしょうか。
秋になって肌寒いからか、カイはマントを羽織っていました。
「おう、カイか。どうしたんだ、買い物か?」
「うん、まあ、そんなところだ・・・ところでグレコはもう暇?」
「ああ」
「じゃあ、食事につきあってよ」
そういうとカイは、グレコの手をひいて街を歩き始めました。なんだか妙に積極的です。
いつもより小洒落たレストランに入ったカイとグレコは、テーブルに向かい合わせになり、カイは羽織っていたマントを脱いで椅子に腰掛けました。
そのとき・・・たゆん。
グレコはいつもと違うボリューム感に気づいて、目がそこに釘付けになりました。
カイのいつもならすっきりしたお胸が、今日は、サラのそれを上回るほどのサイズに膨らんでいるのです。
「カイ! ・・・いったいどうしたんだ?」
「うーん? なんのことかなぁ?」
そう言って、カイはテーブルに両肘をつき、上目遣いにグレコを見つめます。
「なんのって、その、そのサイズがいつもと違うじゃないか!」
「嬉しいか?」
「うん、嬉しい・・・いや、嬉しいとかじゃない。今度はどういう魔道具を作ったんだ!」
「ふふ、变化の魔法というのがあるだろう。本来は敵に变化して警戒をかいくぐったりする、見た目を欺く魔法だが・・・それを胸部のサイズを变化させることだけに特化させた術式を開発した。おかげで、効果時間も伸びてな。私が威力倍増すると、ほぼ24時間豊胸しっぱなしという、とびぬけた性能の魔道具が完成したのだ」
「なんでそんなものを作ろうと・・・」
「店に来たとき、おまえがサラの胸をチラ見するからいけないのだ。キモいと言っていたぞ」
「言っていたのか!?」
「いや、まあ、直接言ってはいないが、キモいと思うぞ。相手は12歳だということを忘れるな」
「うぐっ」
「そこで、かわいい従業員を変態の視線から守るために、私が身代わりになろうと、この豊胸の首飾りを開発したのだ。そんな事情で、サラがいる店でお披露目することはできなかったから、街中で声をかけたというわけだ」
「変態・・・身代わり・・・」
「ちなみに見た目だけではなくて、ちゃんと触ることもできる。触ってみるか?」
「えっ、いいのか?」
「いいわけないだろうが、変態め」
「うぐっ・・・簡単なトラップにひっかかった」
「で、どうなのだ。24時間毎日豊胸化していてほしいか、グレコ?」
そこでグレコは思い悩みました。たしかにたわわなお胸には視線は自然に吸い寄せられます。しかし、24時間そうであってほしいわけではありません。とくに、触れるという段になったら、あまり大きすぎるよりも、収まりが良いサイズのほうが男性的にはしっくりくる場合も多いのです。とりあえず、グレコはそういう性癖の持ち主でした。
「いや、24時間はやめてくれ。サラの胸は見ないように自制心を振り絞る」
「・・・そうか・・・なるべく多く振り絞ることだな」
食事が運ばれてきて、二人はそれを口に運び始めました。
「まあ、今日は思う存分チラ見するがよいわ。そのために变化してきたのだからな。变化の魔法で作った借り物の胸などいくら見られても恥ずかしくもないからな」
「あ、ありがとう?」
食事が終わる頃、グレコはぽつりと言いました。
「やっぱりカイはいつものままがいいよ・・・」
「グレコ・・・」
「でも、たまに变化の首飾りも使ってくれると嬉しいです」
「この変態め」
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