第30話 トイレの魔道具

「異世界のトイレ事情に触れることが少ない」


「いったい誰に向かって言ってるんだ?」


「グレコ、考えてもみよ。仮に急に異世界に飛ばされたとする。まあ、遠い国とかな。そうしたときに気になるのは衣食住だが、それに伴って考えなければいけないことがあるではないか。排泄だ」


「カイ、今日の前フリはなかなかセンセーショナルだな」


「古代ローマでは水洗式の公衆トイレが普及し、お尻を拭くために塩水につけた海面が備え付けられていたという。こういう異世界に行くことになれば、快適なものであろう」


「しかし、剣と魔法の世界だぜ、俺達が生きているのは」


「そうだ、我々が生きているのは剣と魔法の世界、水洗トイレはないのだ。そこを描かなければ世界観を真に描写したとは言えまい。で、どうやっているかといえば、おまるに排泄物を溜め、いっぱいになったら特定の場所に捨てに行くという、まったくもって原始的なやり方だ。お尻を拭くのにも、木の葉っぱを使ったり、砂を使ったり、不衛生極まりない」


「うん、世界観とかはわからないが、その不満はよくわかる」


「我々は、この世界のトイレ事情を変える魔道具を作らねばならない! と、ここに宣言する!」


「おおー、ぱちぱち」


「古代ローマのような灌漑工事を街中に行き渡らせるのは至難の技、トイレ自体はおまるのままであろう。だが、我々には魔法がある」


「どんな魔法で行くつもりだ?」


「うむ、オーソドックスだが、転移の魔法だ。おまるの受け皿の内部を、魔導具で起動した転移魔法で、街が指定する汚物処理場に転移させる」


「排泄物を捨てに行く手間がはぶけるなぁ。溜めておく間の悪臭もなくなるし」


「そして、お尻の洗浄は水魔法を応用する。ウォーター・ショットの魔法を100分の1程度にパワーダウンし、モンスターの体を貫通する代わりに、お尻を洗浄するぐらいの威力にするのだ。これを便座の下から発射できるように、魔法石をおまるに仕込むのだ」


「魔法の力で排泄後のお尻を洗ってくれるのか、それはいい」


「高級品には、暖房の魔導具でも使ったヒートウェイブの魔法で、お尻を乾かす機能までつけることもできる」


「今まで聞いた中でも、かなり素晴らしいアイデアだと思うぞ」


 サラが口をはさみました。


「最初は貴族などの家に売り込んで、徐々に庶民にも広まるといいですね。あるいは教会のコネで衛生観念向上を庶民に徹底させるというふれこみで、購入を半強制しましょうか?」


 グレコは思いました。


(営業センスが恐ろしい・・・)


「教会にコネがあるのか?」


「ボーイフレンドの一人のエミルは、牧師の息子ですから」


「人脈すげえな」


「ネーミングはどうしましょう」


「『魔導トイレ』とでもしようか」


「いいですね。さっそく、エミルに話をしてみますね」


 カイが開発した魔導具『魔導トイレ』のおかげで、この地域の衛生環境が改善され、その数十年後に国中を覆った疫病の被害が少なかったというのは、また別のお話・・・

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