第28話 とんぼ退治
「サラ、グレコと一緒にモンスター狩りに行ってくる」
「あ、デートですね。わかりました」
「違う! 赤字補てんだ!」
サラを雇ったおかげで、モンスター狩りの間も店を開けておけるようになったカイですが、逆にお出かけのたびにグレコとの関係をからかわれるようになってしまっていました。
「グレコ、モンスター狩りに行くぞ」
「はいよ~」
二人はいつものように冒険者ギルドにやってきました。
「秋のモンスターは癖が強いのが多いな・・・ドラゴンフライか・・・とんぼってことなんだが、モンスターだから、ドラゴンの名前にふさわしく炎のブレスを吐くんだよな。一匹一匹はたいしたことないんだが、群れで集まって炎を吹きまくるから・・・アイスドラゴンを倒したときみたいな鉄化作戦も使えないぞ」
「一匹あたりのブレスが弱いなら、断熱の杖で身を守って戦えばよいだろう」
「それは当然だが、俺は、これまで、カイに傷一つつけさせなかったのが誇りなんだ。魔法で治せると行っても、カイが少しでもやけどを負ったりするのは見たくない」
「ふむ・・・しかし、このドラゴンフライというモンスターは、どうしてそう炎を吐くのだ?」
「求愛行動の一種だと言われているぞ。炎を吐くのはオスだけで、メスを奪い合って、炎の強さを競い合っているらしい。ときにはお互いの炎で死んでしまうこともあるそうだ」
「そうか・・・それなら、あれがよく効きそうだ。グレコ、問題ない。普段は嫌われ者の指輪の起動でワンモーションとっているが、今日は代わりに別の魔道具を使う。それで先制してしまえば、こちらに攻撃は来ない」
「そんな方法があるのか? そこまで自信ありげに言うなら信じよう」
さて、二人はドラゴンフライが生息する高原の草むらにやってきました。
「うじゃうじゃいやがる。40匹ぐらいか。すでに炎をふいているやつもいるぞ」
見ると、体長1mぐらいの大きなとんぼが草むらの上を群れをなして飛び回り、時折空中に炎を吹き出しています。炎の大きさは、炎の杖の火炎球1つ分くらいですが、それでも一般人を焼き殺すには十分な威力だと思われました。
「補助魔法をかけておこう。 守りの杖 +5 、素早さの杖 +5 、力の杖 +5 、断熱の杖 +5」
カイは草むらに身を隠しつつ、グレコに作戦を告げました。
「いつもどおり囮として突入してくれ。ただ、たぶん、グレコが戦う必要はない。ワンモーション目でこれを使う」
カイが魔道具箱から取り出したのは、混乱の杖でした。混乱の魔法は、敵と味方の区別をできなくさせ、同士討ちをさせる魔法です。
「もともと、メスをめぐって争っているやつらだ。さぞや激しい同士討ちを演じてくれるだろう」
そして、戦闘が開始しました。
「混乱の杖 +10」
群れの数が40匹もいるので、カイの威力倍増もフルパワーです。群れ全体を混乱の魔法が色濃く包みました。
グレコが突入しようとした矢先に、もうドラゴンフライたちの同士討ちは始まっていました。
これまでは、一応、他のオスに当てないように威嚇として空中に吐いていた炎のブレスを、容赦なく他のオスに当てて攻撃を始めました。
そこからはさながら、炎の地獄絵図という感じで、40匹のドラゴンフライがお互いに戦い「生き残るのはただ一人!」とでも言わんばかりに、己の命を賭して競い合っていきました。
グレコは一応剣を構え、カイは吹雪の杖を用意していましたが、結局それは使われることはありませんでした。
最後に残った一匹も、もう飛ぶ力をなくして地面に墜落して身悶えていました。グレコがミスリルソードでとどめをさして、40匹が全滅しました。
「終わったか・・・メスをめぐるオスたちの生存競争はかくも激しいものよのう」
カイが独りごちて転送印を取り出す傍らで、グレコは、サラの5人のボーイフレンドたちのことを考えていました。
(彼らも生き残るのはただ一人なのかね・・・それとも一人も生き残れないかもな)
秋の哀愁の風が、グレコの短い金髪をなでつけていきましたとさ。
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