第27話 きのこ鑑定の魔道具
「グレコ、先日、化けきのこ狩りに行ったときだが、道すがら、普通のきのこも採っていったじゃないか?」
「ああ、そうだったな」
「しかし、それに食べられないものがかなり混ざっていてな。あまつさえ、毒きのこまで混入している始末。やはり、素人にはきのこ狩りは難易度が高いと言える」
「そうだな、毎年、自分で採ってきたきのこを食べて中毒事故を起こす事例は後を絶たないからな」
「そこで、その問題を解決する魔道具を開発してみた」
「ふむふむ」
「先日、お前のところの盗っ人女の罠透視の首飾りを作ってやっただろう」
「・・・おい、言い方、言い方。彼女の名前はラシャだ」
「他にもそういう鑑定・鑑別系の魔法というのはあって、例えば、未知のモンスターの正体を看破る魔法というのもある。例えば、豚のような格好をしていて、ぱっと見ると豚人間としかわからない。オークだと思ったら、実はボス・オークでパーティが大ピンチということもある。早急に敵の正体・実力を特定するのは戦闘における生き残りにも大きく影響してくるものだ」
「ああ、うちのパーティの僧侶のザザもときどき使うよ」
「うむ、あれは魔法術式に加えて、鑑別対象の知識もいる。あくまで、鑑別対象に対する知識を持っている者が魔法を使えば鑑別が成功するという魔法だ。
今回作ったきのこ鑑別の魔道具は、使う人が事前にきのこ狩り名人などにきのこの鑑別方法を一度習っておく必要がある。そうすれば、それ以降は、魔法で深層心理の記憶からきのこの特徴を検索して、鑑別ができるというわけだ。
まあ言い換えれば、一度読んだ辞典を忘れずに必ず思い出せるという感じだな」
「情報自体を魔法石に書き込むことはできないのか?」
「それだと、辞典みたいな情報を書き込む手間がかかりすぎて、刻印スペースも作業の手間も追いつかないよ。知識・情報の部分は、術者本人の記憶を利用するのがベターなのだ」
「なるほどな」
「で、このきのこ鑑別の魔道具を、きのこ狩りシーズンに売り出す季節商品としてラインナップしたいと思ってな、ネーミングを考えているのだ」
「きたか、ネーミング問題!」
「グレコはなにかアイデアはあるか?」
「『きのこ・ファインダー』、とかはどうかな?」
「ファインダーだと、見つけるもの、だろう? これは見つけたあとの鑑別、アイデンティファイに使うのだから少し違わないか?」
「じゃあ、『きのこ・アイデンティファイ』」
「長い、それに語呂が悪い」
「じゃあ、カイもアイデアをだせよ」
「『きのこ鑑別 きのこっち』、とか・・・」
「意外とかわいい感じの出た! でも、もうひとつインパクトに欠けるな」
そこに、工房で魔法石への術式刻印作業を練習していたサラが顔を出しました。
「はい! 『きのこ鑑別 ぼっきのこ!』 がいいと思います!」
「!!!?」
「なぜかわからないが、インパクトはある?!」
「キャッチコピーと商品説明もつけましょう。<これさえあれば食べられないきのこが丸わかり> <食べられないきのこも麻痺茸なんかは、あれやこれや・・・むふふな使い方ができますよ>」
(この娘、この店の客層にアピールする方向性をすでにつかんでやがる)
グレコは、サラの成長性に空恐ろしいものを感じました。
「よし、『きのこ鑑別 ぼっきのこ!』の量産と売り込みは全面的にサラにまかせよう」
「わーい、がんばります~」
グレコは、12歳の少女が悪い道にそまっていくことを懸念して、素直に喜べないのでした。
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