第26話 アルバイト募集2
採用面接の日時がやってきました。
カイのお店に時間10分前にきちんとやってきて、商談用のテーブルにちょこんと腰掛けた少女は、ブラウンの髪を背中のあたりで軽くまとめて、同じくブラウンの瞳がくりくりと愛らしい好感のもてる様子でした。
服装は、一般的な町娘が着ているシャツとスカートでしたが・・・驚くべきことに、12歳とは思えないサイズをしていたのです。
お胸が。
シャツの内側でたゆたゆと揺れるお胸は、12歳の幼女の外見に似つかわしくないものでした。カイのそれを上回っているのです。
カイとグレコは、目をパチクリさせながら、少女を眺めていました。
「サラです。今日は、採用面接、よろしくお願いします」
礼儀正しく挨拶をしたサラに、カイが逆に気圧されつつ、基本的な事項を聞き取っていきます。
胸のプレッシャーに負けて口が開かない・・・あるいは開いたままになっているカイに代わって、グレコが面接を進めます。
「え、えー・・・どこでこの求人を見つけたのかな?」
「冒険者ギルドの仕事募集の掲示板です!」
「冒険者ギルドなんかに出入りしているのかい? 君みたいな小さい子が?」
「12歳はもう子供ではありません。薬草採取の依頼ぐらいはこなしたこともあるんですよ。それに、私は冒険者さんたちにあこがれていまして。自分が冒険者になりたいってわけじゃないんですが、日夜危険と隣り合わせの中を生き抜く人たちの背中って、なんだかかっこいいじゃないですか?」
「おお、それがわかるか! そう、冒険者は隣り合わせの灰と青春を生きる、自由な存在なんだ!」
さっそく、グレコが意気投合しかけています。まったく役に立たない面接官です。
「しかし、その、言ってはなんだが、この店は冒険者ギルドと違って多様な客がやってくる。君にはそれらの客の接客を頼まねばならん。例えば、この透明化の魔道具は、浮気調査に重宝するもので、うちの売れ筋商品だが、そんなものを販売できる自信はあるのかね?」
頼りないグレコに、自分ががんばらねばとカイが圧迫面接をはじめました。できれば、その少女としては大きすぎる胸も圧迫してやろうという気迫です。
「はい、ボーイフレンドが5人いるので、そういう系の話には慣れています」
「!!!」
「!!!」
カイとグレコが、再び二人であんぐり口を開けてしまいました。
「ご、ご、5人とは?」
「えーと、幼馴染のケン、少し年上のジョージ、弟みたいなマイケル、喧嘩相手みたいなピーターに、守ってあげたいエミルの5人ですね」
「・・・」
「・・・」
グレコがごほんと咳払いをして、言いました。
「ちょっと店主のカイと二人で話がありますので、しばらくここでお待ち下さい」
なぜか、12歳の少女に丁寧語になっているグレコは、カイを引っ張って工房の奥まで連れていきました。
「カイ、あの子、俺達よりうわてだぞ! すごい人材だ! 接客のプロになれる才能を秘めている!」
「しかし、私には、あの幼女にしては大きすぎるお胸が気に入らん・・・だいたいグレコ、おまえはさっきからなんだ! ちらちら、ちらちらと、12歳の胸を盗み見るような真似をして、大の男が恥ずかしいとは思わないのか!」
「うぐっ・・・それは本能的なもので・・・」
「私の胸と、あの女の胸と、どっちがいいのだ、言ってみろ! 今言ってみろ!」
「いや、そういう比べる問題じゃないっていうか、落ち着いてね、カイ?」
「とにかく、彼女は不採用にする。あとは質疑応答を形式的にやって終わりだ」
そうして、カイとグレコは商談用テーブルに戻ってきました。
「えー、ごほん、では、最後にそちらからの質問はありますか?」
グレコが聞くと、サラは答えました。
「はい、では、カイさんとグレコさんはご夫婦なんですか?」
「えっ、いや、そんなことはない。カイと俺はただの幼馴染で、夫婦とか以前に恋人だとかそんなわけでもない!」
あわてて否定するグレコの隣で、カイが無表情のまま言いました。
「そういうふうに見えてしまうのかしら?」
「はい、それはもう、これ以上はないくらいにお似合いに見えてしまいました」
カイは少しうつむくと、小さく、しかし、はっきりと言いました。
「・・・採用」
「えっ?」
「サラちゃん、あなたを採用よ! 明日からでもよろしく頼むわ! 一緒にこの魔道具屋を盛り上げていきましょう!」
「はい! よろしくお願いします!」
サラは満面の笑顔を浮かべて喜びました。
(結果オーライ、なのか?)
グレコは、がっちりと手を握り合うカイとサラの二人を眺めながら、ため息をつきましたとさ。
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