第21話 ドラゴン退治3
カイとグレコは善戦していたものの、ついにそのときが来てしまいました。
アイスドラゴンが大きく息を吸い込んだのです。これは吹雪のブレスを放つ予兆でした。ドラゴンのブレスを浴びせられたら、グレコはともかく、カイの命はありません。
「ブレスが来る! カイすぐさま逃げろ、転移の魔導具を使うんだ」
しかし、カイはいつもの無表情のまま、言い返しました。
「言っただろう、対策を準備してきたと!」
そして、左手に持っていた杖をかざしました。
「鉄化の杖!」
カイが使ったのは、全身を鋼鉄と化して、あらゆる攻撃を無効化する鉄化の魔法。
カイだけでなく、グレコの体も鋼鉄と化します。
そこにアイスドラゴンの吹雪のブレスが浴びせかけられましたが、鋼鉄となった二人にはなんのダメージもありません。
約5秒ほどで、アイスドラゴンはブレスを吐き終わりました。
問題は、この後です。このまま鉄化が継続すれば、やられないまでも膠着状態が続いてしまいます。
しかし・・・
(鉄化 解除)
ブレスが終了するのを見計らって、カイが解除を念じると、その瞬間に鉄化の魔法が解けたのです。
「今だ、グレコ! 炎の後から腹を狙え!」
一瞬戸惑ったグレコでしたが、すぐさま頭を切り替えて剣を構えて突撃の準備をします。
「よしきた!」
「炎の杖 +10」
カイは炎の杖を、これまでにないフルパワーで、面食らっていたアイスドラゴンの鼻面に叩きつけました。
巨大な火炎球に顔面を焼かれ、思わず、アイスドラゴンは前足を上げて立ち上がり、身を震わせます。
そこに、グレコが盾を投げ捨て、両手持ちにしたミスリルソードを水平に構えて突撃しました。それはアイスドラゴンの腹部に中程まで突き刺さり、グレコはさらにそれを押し込んで、腹部を裂いていきました。
アイスドラゴンの絶叫が響き渡り、グレコが剣を抜いて退避すると、アイスドラゴンはどうと地面に前のめりに倒れました。
「勝ったのか?」
「勝ったな。完全勝利と言えよう」
グレコは剣を投げ捨ててカイに走りより抱きしめました。
「よかった、カイ。吹雪のブレスがきたときはもうだめかと思ったぜ」
「対策してきたと言っただろう」
「鉄化の魔法か。どうして先に言っておいてくれなかったんだ?」
「もともと鉄化の魔法のアイデアはグレコが出したものだからな。グレコのために作った鉄化の指輪以外には使わないつもりだったのだ。それを使ってしまったから言い出しにくかったのだ。今回は、本来、一定時間で解除される鉄化の効果を、思念操作で任意のタイミングで解除できるように術式をすこしいじっただけだ」
「鉄化の魔法を任意のタイミングで解除か。考えていなかったな。これは、ブレスや魔法などに対しては、現状で最高の防御方法になるんじゃないか?」
「いや、複数の敵から魔法をかけられたら、起動と解除のタイミングがうまくとれないだろう。今回、ドラゴンが1体だけだったからよかったのだよ」
「そうだな、もうこんな危ない橋を渡るのはまっぴらだ」
「ところで、グレコ。いつまで私を抱きしめているつもりだ。ちょっと苦しいのだが」
「えっ? おおっと、ついうっかり!」
グレコは慌ててカイの体から手を離しました。
「まあ、今日は良い。グレコも素晴らしい活躍だった。大枚はたいて買った名剣がなければとどめは刺せなかっただろうしな」
「なんだ、気づいてたのか・・・」
「あれだけピカピカしてたら、素人でも気づく」
カイは転送印でアイスドラゴンを冒険者ギルドへと送りました。
「急いで帰ろう。報奨金を受け取って支払いに行かなければ」
「俺もこれで、一応はドラゴンスレイヤーってことになる。冒険者ランクも上がるだろうなぁ」
山頂の峠には、早めの夕暮れが訪れ、カイとグレコは、転移の魔道具を使って、急ぎ街へと戻ったのでした。
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