第18話 暖房の魔道具

「今年も少し冷えてきたなぁ」


 グレコが両手をさすりながら言いました。赤字補てんのモンスター狩りの帰り道です。


「実はその問題を解決する魔道具を開発中でな。ちょっと工房で見ていかないか?」


 カイに誘われて、グレコはカイの魔道具屋に寄ることにしました。


「魔法を使えば火を起こすのはお手の物ではある。暖炉で薪を燃やすのも趣があってよいものだが、やはり薪の準備は面倒だし、煙突のない家や部屋もあるだろう。各部屋ごとに暖房器具を置きたいとは思わないか?」


「それはそうだな。俺が暮らしている安アパートだって、自室に暖炉はないよ。火鉢をおいて寒さをしのいでる。火事や呼吸中毒が怖いけどな」


「うむ、その火鉢の代わりになり、より安全な魔道具を開発しているのだ」


 カイは、試作品の魔道具を持ってきました。50cm四方で奥行きは20cmほどの大きさで、全体は木、一方の表面には金網が貼ってあります。


「内部には魔法石が入っている。封入された魔法はヒートウェイブの弱体化版だ。火炎を直接起こす魔法は引火の危険があるからな。熱波を出すヒートウェイブにしたんだ」


「へえ、起動できるの?」


「やってみようか。 ヒートウェイブ」


 そうすると、魔道具からじんわりと温かい空気が流れてきました。


「熱さの調整もできるぞ。ヒートウェイブ 強」


 すると、秋口には熱すぎるぐらいの熱波が発しました。


「うん、こいつはいい。火事の心配がないというのは安心だし、燃料も魔法石だから、一定時間おきに繰り返し使えるものな」


「実はタイマー機能もあるんだ。 ヒートウェイブ 中 20分。 指定時間で起動が止まる。正直、力作だ。この冬は、この魔道具の販売で一儲けしようと思っている」


 グレコは久々にカイがまともなものを作ったものだと感心しました。なにせカイの店の売れ筋は浮気調査用の透明化のポーションなどなのですから。


「実はさらに、すごいものもあるんだ。発生した熱波を部屋の外に逃さないことで、ヒートウェイブを弱いパワーでより長時間使い、快適さを保てる」


「どんな魔法だ?」


「ドラゴン対策などで、吹雪や炎のブレスから身を守る魔法を応用した。部屋全体に熱遮断の見えないスクリーンを張って断熱するのだ。これで、ヒートウェイブで発生させた温風が部屋の中に閉じ込められて、より快適だ。しかもすごいのは、透明な魔法のスクリーンだから、窓を開けても部屋の中の暖かい空気が外に逃げないということだ。冬でも快適に窓を開けて外を眺められるのだぞ」


「そいつは画期的だな」


「ただ、さすがに部屋全体を熱遮断する魔道具はそれなりにパワーがいるから、お高めだがな。どこまでを断熱範囲にするか決めるために部屋に魔法陣の施工が必要だし、庶民が手を出せるようになるのは、まだ先かな」


 とりあえず、グレコはヒートウェイブの魔道具をこの冬に1台注文することを約束し、カイのお店を後にしたのでした。

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