第19話 ドラゴン退治

「グレコ、大変だ! 大赤字で至急資金が必要だ。狩りにいかないといけない!」


「いつもよりも、ひときわひどい慌てようだな。いったいどれだけの開発を失敗したんだ」


「違うのだ。高額な製品を受注して製作したのだが、依頼主が受け取り・支払いに来ないのだ。前金をもらっておくべきだったが、油断した。その分がまるまる赤字になって、連鎖倒産みたいなことになりかねない状況なのだ」


「それはピンチだな。早速、冒険者ギルドに行くか」


 カイとグレコは、張り出されている依頼を物色しましたが、今回の赤字を補填できるような金額だと、オークやコボルトなどの小物退治の案件では追いつきません。


「やるしかない・・・ドラゴンをやるしかない・・・」


 カイがちょっとひきつった顔でぶつぶつ言い出しました。


「このアイスドラゴン討伐か? 無謀すぎるぜ。俺たちは二人だけだし、カイは魔道具の力で攻撃力はすごいけど、肉体的には一般人だ。物理攻撃は俺が嫌われ者の指輪でひきつけるとしても、ブレス攻撃がまずい。俺たち冒険者は、転がり回ったり、走ったり飛んだりで、ブレスの効果範囲をはずしてダメージを軽減する訓練をしているが、一般人のカイは、そんな動きはできないだろう。アイスドラゴンの吹雪のブレス一発で死んでしまうぞ」


「しかし、店を潰すわけにはいかんのだ! 猶予は5日間ある。2日でブレス対策の魔道具を製作して、残りの2日でアイスドラゴンを倒す!」


「たった2日で作れるのか?」


「アイデアはある。大丈夫なはずだ。突貫作業だが、徹夜してでも作る!」


 そうして、カイは、工房に走って帰っていきました。


 工房に帰ったカイはぶつぶつ言っていました。


「これまで作った術式の仕組みを組み合わせれば・・・新規の技術開発をしなくても・・・要するに任意のタイミングで解除できる術式だけ追加すれば・・・ブレスには予兆と溜めがあるから起動は通常速度でいい・・・」


 一方、グレコは武器屋で剣をメンテナンスしてもらっていました。


「やっぱり無謀だと思うんだよな・・・いざとなれば、カイのために俺が一人でも・・・なあ、親父さん、俺の剣で、アイスドラゴンを倒せるかな」


 武器屋の親父は、いつもはぶっきらぼうですが、アイスドラゴンと戦うというグレコの話を聞いて、真面目に答えました。


「ちょっと厳しいだろうなぁ。悪くない剣だが、普通の鋼だろう。ドラゴン相手だと、魔法剣ぐらい使わないと一人では到底なぁ」


「魔法剣売ってるかい?」


「うちに売っている最上級品は、このミスリルソードまでだ。魔法が付与された魔法剣は売ってない。ミスリルソードなら、鱗は貫けなくても、弱点の目や腹ならダメージを与えられるだろうよ。盾もミスリルにしないとな」


「それ、一揃い買ったらいくらになる? 盾はバックラータイプで」


「8万Gかな」


 最近、ソニック・ディアーを仕留めたりして、財布が潤っていたグレコでしたが、8万Gを払うと、また貯金なしの生活に逆戻りでした。しかし、グレコは迷うことなく言いました。


「親父、今すぐミスリルの剣と盾を売ってくれ。金はすぐ持ってくる」

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